【2024年・令和6年度】政策動向から読み解く資金調達トレンド
2021年10月に岸田新政権が樹立され、日本の政策は大きな転換点を迎えていると考えています。そこで、岸田総理の所信表明演説や令和4年度 経済産業政策の重点やグローバルトレンドを見据えて分析していきたいと思います。
岸田総理の所信表明演説の読み解き
下記は本文や岸田文雄政策集を参照しながら、意味が変わらない程度に要約している。本文を読み解きながら考察を太字で挿入している。
喫緊かつ最優先課題である新型コロナへの対応
新型コロナで大きな影響を受ける事業者支援のため、速やかに経済対策を進める。緊急事態宣言は全面的に解除によりアフターコロナに向けて電子的なワクチン接種証明の積極的活用や予約不要の無料検査を拡大する。
また経済支援については、大きな影響を受ける事業者に対し、地域、業種を限定しない事業規模に応じた給付金を支給する。
→これは昨年度実施された持続化給付金のような売上要件を満たす事業者に対して給付を行う持続化給付金のような給付が想定されます。
また新型コロナの影響により苦しむ非正規、子育て世帯にも給付金などの支援が実行される。
→これは、新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の積み増しや特定世帯への児童手当の増額等が想定される。
「コロナ後の新しい社会の開拓」
新型コロナで、日本経済は、大きく傷つく一方で、デジタル化が急速に進むなど社会変革が起きている。科学技術の恩恵を取り込み、コロナとの共生を前提とした新しい社会を創造する必要がある。変革は地方から起こり、高齢化や過疎化など直面した社会課題を新たな技術で解決する。例えば、自動走行による介護先への送迎サービスや、配達の自動化、リモート技術を活用した働き方、農業や観光産業でのデジタル技術の活用などが想定されている。
新しい資本主義の実現
「新しい資本主義」とは日本の未来を切り拓くための新しい経済社会のビジョン。まずは、デフレからの脱却に向けて大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略の推進を行う。
→「経済をしっかり立て直します。そして、財政健全化に向けて取り組みます。」との発言から当面は財政出動を行い、コロナの影響から脱却後に財政の健全化(プライマリーバランスの黒字化)を目指していくと考えられます。
経済環境や世代、生まれた環境によって生じる格差やそれがもたらす分断によって危機が大きくなっている。新自由主義的な政策は、富めるものと、富まざるものとの深刻な分断を生んだ、といった弊害が指摘される。一方、世界では、健全な民主主義の中核である中間層を守り、気候変動などの地球規模の危機に備え、企業と政府が大胆な投資をしていく新しい時代の資本主義経済を模索する動きが始まっている。新しい資本主義とは、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」がコンセプト。
「成長と分配の好循環」
新しい資本主義を実現していく車の両輪は、成長戦略と分配戦略。成長戦略の第一の柱は、科学技術立国の実現とされている。
成長戦略1 「科学技術立国の実現」
①十兆円規模の大学ファンドを年度内に設置
学部や修士・博士課程の再編、拡充など科学技術分野の人材育成を促進するため、デジタル、グリーン、人工知能、量子、バイオ、宇宙など先端科学技術の研究開発に大胆な投資を行う世界最高水準の研究大学を形成するために10兆円規模の大学ファンドを組成。
②民間企業が行う未来への投資を全力で応援する税制
大企業や投資家向けの投資税制、企業による人的投資推進への支援。
→オープンイノベーション促進税制
国内の事業会社またはその国内CVCが、スタートアップ企業とのオープンイノベーションに向け、スタートアップ企業の新規発行株式を一定額以上取得する場合、その株式の取得価額の25%が所得控除される
→デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制
クラウド活用・サイバーセキュリティの強化など、企業のデジタル変革投資を促進するため、「つながる」デジタル環境の構築(クラウド化等)による企業変革に向けた投資について、税額控除(5%・3%)又は特別償却(30%)ができる。
→カーボンニュートラル投資促進税制
①大きな脱炭素化 効果を持つ製品の生産設備、②生産工程等の脱炭素化と付加価値向上を両立する設備の導入に対して、 最大10%の税額控除又は50%の特別償却できる
→中小企業の経営資源の集約化に資する税制
M&Aを実施した場合に、設備投資減税、雇用確保を促す税制、準備金の積立を利用できる
③スタートアップの徹底支援
上記記載のデジタル、グリーン、人工知能、量子、バイオ、宇宙などの先端技術の研究開発に大胆な投資を行う模様。オープンイノベーションへの税制優遇、政府調達を通じたスタートアップ支援(SBIR(Small Business Innovation Research)制度)など。
新しいSBIR制度のもとでは、「特定新技術補助金等」と「指定補助金等」という、2種類の補助金等が交付される。
④クリーンエネルギー戦略
2050年カーボンニュートラルの実現に向け、温暖化対策を成長につなげる。
→グリーンイノベーション基金など(詳細は、下記参照)
成長戦略2 「デジタル田園都市国家構想」
地方からデジタルの実装を進め、新たな変革を起こし、地方と都市の格差を是正する。そのため、5Gや半導体、データセンターなどのデジタルインフラ整備を進める。誰一人取り残さず、全ての方がデジタル化のメリットを享受できる社会を実現する。
デジタル田園都市国家構想に関する日本政府の動向
→都市部ではなく地方におけるデジタルインフラ(5Gインフラ、半導体工場、データセンター)の整備が加速する可能性あり?
→リモート化の促進(テレワーク、リモート教育、リモート医療)
→デジタル技術の社会実装(自動走行による介護先への送迎サービスや配達の自動化)
→スマート農林水産業の促進による若手への魅力付け、観光産業でのデジタル技術の活用
→十兆円規模の大学ファンド組成と連携に伴い、特に地方大学へのファンド組成の加速?
成長戦略3 「経済安全保障」
戦略物資の確保や技術流出の防止に向けた取組を進め、自律的な経済構造を実現。強靭なサプライチェーンを構築し、我が国の経済安全保障を推進するための法案を策定。
経済安全保障に関する日本政府の動向
国産ドローンへの切替
→政府は、各省庁などが保有している計1000機超の小型無人機(ドローン)について、原則として高いセキュリティー機能を備えた新機種に入れ替える方針。安全保障の観点から、中国製ドローンを事実上排除する狙いがある。政府の支援で開発中の国産ドローン導入を視野に、来年度以降、代替機を順次調達する。
半導体の国産化
→コロナ禍のような「非常事態」で、景気回復に伴う半導体の奪い合いが起こっている。自動車やコンピューター、通信機器、さらには太陽電池まで、半導体不足で生産が滞る事態が発生。そうした中で、台湾積体電路製造(TSMC)とソニーグループが半導体の新工場を熊本県に共同建設する計画を固めた。日本政府が最大で半分を補助する見通し。TSMCの先端微細技術を使い、自動車や産業用ロボットに欠かせない演算用半導体の生産を2024年までに開始。半導体は米中対立で供給網が混乱、経済安全保障上の重要性が高まり、工場新設により、日本は先端技術と安定した生産能力を確保する見通し。
成長戦略4 「人生百年時代の不安解消」
兼業、副業、あるいは、学びなおし、フリーランスといった多様で柔軟な働き方が拡大。どんな働き方をしてもセーフティーネットが確保され、働き方に中立的な社会保障や税制を整備し、「勤労者皆保険」の実現に向けて取り組む。人生百年時代を見据え、子供から子育て世代、お年寄りまで、全ての方が安心できる、全世代型社会保障の構築を進める。
→現在、従業員5名未満の個人事業は社会保険の適用対象となっていないが、将来的には、個人事業で働く勤労者にも社会保険が適用される?
→個人事業主やフリーランスは社会保険の適用対象となっていない が、将来的には、「勤労者」として社会保険の適用対象とされる?
分配戦略1 「働く人への分配機能の強化」
企業が長期的な視点に立って、株主だけではなく、従業員や取引先も恩恵を受けられる「三方良し」の経営を行うことが重要。非財務情報開示の充実、四半期開示の見直しなどの環境整備を進める。また下請け取引に対する監督体制を強化し、大企業と中小企業の共存共栄を目指す。また、労働分配率向上に向けて賃上げを行う企業への税制支援を強化。
分配戦略2 「中間層の拡大と少子化対策」
中間層の拡大に向け、成長の恩恵を受けられていない方々に対して国による分配機能を強化。例えば、大学卒業後の所得に応じて「出世払い」を行う仕組みを含め、教育費や住居費への支援を強化し、子育て世代を支える。保育の受け皿整備、幼保小連携の強化、学童保育制度の拡充や利用環境の整備など、子育て支援を促進。こども目線での行政の在り方を検討し、実現する。
分配戦略3 「看護、介護、保育従事者の収入増」
新型コロナや少子高齢化対応の最前線にいる人々の収入増加のため、公的価格評価検討委員会を設置し、公的価格の在り方を抜本的に見直し。
分配戦略4 「財政の単年度主義の弊害是正」
科学技術の振興、経済安全保障、重要インフラの整備などの国家課題に計画的に取り組むことに加え、地方活性化に向けた基盤づくりに積極的に投資。例えば、東日本大震災からの復興のため被災者支援、産業・生業(なりわい)の再建、福島の復興・再生に全力で取り組む。
また、農林水産業の高付加価値化と輸出力強化を進め、家族農業や中山間地農業の持つ多面的な機能を維持。新型コロナによる米価の大幅な下落に対してはは、当面の需給の安定に向けた支援を行う。
老朽化対策を含め、防災・減災、国土強靭化の強化とともに、高速道路、新幹線など、交通、物流インフラの整備も推進。
2025年大阪・関西万博に向けて地域から、IoTや人工知能などのデジタル技術を活用した未来の日本の姿を示す。
観光立国復活に向けた観光業支援、文化立国に向けた地域文化や芸術などの支援強化にも取り組む。
外交・安全保障
本記事では、言及を割愛いたします。
国内の資金調達トレンド
上記の政策動向を踏まえた国内の資金調達トレンドとしては、オープンイノベーション促進税制により大企業からスタートアップへのエクイティ投資は引き続き拡大していくと考えられる。また中小企業の事業再構築・生産性向上への支援も継続されるとみられ、事業再構築補助金やものづくり補助金の維持 or 拡大される見通し。
またリモートワークによる地方移住を促進するため、補助金が維持拡充されると考えられる。そのため、地域創生起業支援金は、維持拡大されるとみられ、地方の重要な中小企業への就業や起業をする移住者を支援する補助金である移住支援金は、最大100万円、単身者の場合は最大60万円の範囲内で、都道府県が設定する金額が引き続き給付される見込み。
https://expact.jp/shizuokakigyouhojokin/
デジタル技術の社会実装についても言及されているため、社会実装を強力に後押しするものづくり補助金(ビジネスモデル構築型)や地域・企業共生型ビジネス導入創業促進事業補助金やそれらに類似する補助金を活用することで、地方の社会課題に対してデジタル技術を用いて課題解決に導く動きは、引き続き政策として維持継続されると考えている。
まとめ
今後、新たな税制や補助金・助成金等の情報が追加されましたら随時追記させていただきます。何かのご参考にしていただければ幸いです。ご不明な点はこちらにてお問い合わせください。