
エンジェル投資家とは?
「エンジェル」と呼ばれる理由については、英国で演劇事業に資金を供給する個人を表現した言葉に由来し、1978年に、ニューハンプシャー大学 ベンチャーリサーチセンター創設者のウィリアム・ウェッテルが、創業間もないベンチャー、スタートアップ企業に投資する個人を「エンジェル」と呼んだことから、この名称が一般化したと言われています。
エンジェル投資家とは、創業直後の比較的アーリーステージのスタートアップへ出資等の資金提供を行う個人投資家のことを言います。急成長が見込まれ、IPOやM&Aが見込まれるベンチャー企業に対して投資を行い、株式(普通株、優先株)やCE(コンバーティブルエクイティ)を見返りに取得するのが一般的です。
アメリカでは俳優やスポーツ選手などの有名人セレブがエンジェル投資家としてスタートアップに投資するケースも増えています。また、日本人ではサッカー選手の本田圭佑氏などがエンジェル投資や個人でファンドを設立するなど、同様の事例も増えています。
イギリスやアメリカでは日本以上にECF(Equity Crowdfunding、株式投資型クラウドファンディング)を通じた資金調達が一般的となっています。ECF事業者がスクリーニングしたスタートアップにインターネットを通じて個人投資家がエンジェル投資を行うことができます。日本では、ファンディーノがシェア8割を誇っており、今後もECFマーケットが拡大していくフェーズにあります。
エンジェル投資家の特徴は?
創業時は資金繰りで苦労する会社も多く、金融機関から融資を受けた場合は、短期的に毎月の返済が大きな負担になってしまうと言えます。資金繰りが厳しい創業時に、返済義務がない資金を手に入れられるのは非常に大きいと言えます。
またビジネスモデルもまだ固まりきっていない段階で、経営者の資質やビジネスプランをベースに投資検討するのは難易度が高いですが、創業初期の段階で出資ができれば10倍以上のリターンを得やすいと言えます。
一方で、エンジェル投資家は、投資先の失敗・倒産という非常に高いリスクを背負うことになるため、投資先の見極めが非常に重要になると言えます。
エンジェル投資家は、自分の判断で出資を決めることができるため、投資の意思決定の時間が短いため、必要な資金をすばやく出資できることがスタートアップの起業家に取っても大きなメリットになります。
エンジェル投資家になるためには?
よりエンジェル投資が身近になる中で、どうやってエンジェル投資家になるのでしょうか?
エンジェル投資家になる個人の方には、主に2種類存在しています。1つは、元起業家でM&AでExitした起業家です。M&Aもメジャーとなり、数十億円から数百億円で売却する事例もニュースで目にする様になりました。
そうしたM&AでExitして得た資金を元手に、そうした経営ノウハウを活かしながらエンジェル投資を行う起業家も多いです。
もう1つは、個人株主からエンジェル投資をはじめるケースです。主に上場株式に投資する個人投資家は右肩あがりに増えています。(参照:東京証券取引所資料)
基本的には、上場企業のIR資料を見ながら株式投資を行い、配当かキャピタルゲインで投資した資金を増やしていく活動のことです。特にマザーズはスタートアップにとって上場しやすい市場であり、SaaSやDXなど爆発的な成長可能性がある新規性の高いビジネスに投資をするマーケットになります。
そうしたボラティリティの高い市場に投資をしている投資家がより高いリターンを目指して、上場株式で得た利益を元手に未上場株式に投資をすることで未上場のベンチャー、スタートアップが上場した時に数十倍から数百倍のリターンを得ることを目指して投資を行うケースです。
エンジェル投資家になるためには、①投資する資金、②スタートアップの見極め、③スタートアップとのネットワークの3つが必要です。①投資する資金 を得た投資家は、個人の経験やノウハウを活かして②スタートアップの見極めを行うケースがほとんどです。
スタートアップを売却してリターンを得て資金を獲得したエンジェル投資家は、スタートアップに関して見極める力が高いと言えます。
一方で、上場株式投資からエンジェル投資家を目指す場合は、上場企業ほど財務資料や成長戦略に関する資料が整っていないため、スタートアップの見極めが非常に難しいといった課題があります。エンジェル投資家側もスタートアップ側に対して、資金以外にどういったリソースやノウハウを提供できるかが重要です。
経営ノウハウやマーケティング、採用などスタートアップの起業家サイドが足りないリソースを合わせて提供できるとより起業家から選ばれるエンジェル投資家になれると思います。
エンジェル投資家のメリットは?
エンジェル税制
メリットの1つとしてエンジェル税制が挙げられます。中小企業庁の資料によるとエンジェル税制とは、一定の要件を満たしたベンチャー企業に対して個人が投資をした年において、個人が所得税の優遇を受けることができる税制です。民法組合・投資事業有限責任組合等のいわゆるファンドを通じて個人が株式を取得した場合や株式投資型クラウドファンディング業者の電子募集取扱業務により個人が株式を取得した場合についても対象となります。
ベンチャー企業に対して、個人投資家が投資を行った場合、投資時点と売却時点のいずれの時点でも税制上の優遇措置を受けることができます。
令和2年度税制改正において、エンジェル税制の要件等が緩和されました。主な改正事項は3点です。
①個人がベンチャー企業に対して投資を行う場合の、ベンチャー企業要件が改正され、設立後5年未満の企業が優遇措置Aを利用することが可能になりました。
②ベンチャー企業が都道府県に行う申請書類の一部が削減され、定款、事業報告書、組織図、法人税確定申告書別表二、の提出が原則不要になりました。
③経済産業大臣認定制度の拡充により、認定事業者として新たに一定の要件を満たした株式投資型クラウドファンディング事業者(=少額電子募集取扱業者)が加わりました。また、優遇措置Aについても認定事業者において確認書の発行が可能となりました。
エンジェル投資家のデメリットは?
エンジェル投資家は、投資先の失敗・倒産という非常に高いリスクを背負うことになるため、初期投資の10倍以上の収益を5〜7年以内に得られるような投資案件を好む傾向にあります。
一般の上場株式に投資する個人投資家は、企業成長によるキャピタルゲインに加えて株式の配当で継続的に利益を得ることができます。
一方、エンジェル投資家は、配当ではなく企業が成長して株式上場したり、M&AされるExitのタイミングで利益を得ることができます。そのため、投資回収に、5〜7年の時間を要するため資金の流動性が低く、投資回収の可能性も低いため、余裕資金で投資を行う必要があります。
エンジェル投資家と起業家の間でトラブルが生じるケースとしては、契約書まわりがあります。
①バリュエーションやシェアなどの投資条件
②投資契約書の内容が履行されない(定例MTGの有無や情報開示)
③契約書以外の部分でも、経営に関与(口出し)される
こうしたトラブルを避けるため投資家と起業家が相互に相性を見極めて出資を受け入れるようにしましょう。
エンジェル投資の期待リターンは?
エンジェル投資家は、回収できない(元本を毀損する)といったリスクがあるため、相応のリターンを期待せざるを得ません。
一般的には、シード期で資金調達した場合、ポストバリュエーションが1億円で100万円出資をしたとします。第三者割当増資を行い、約1%の株式を得ます。仮に5億円でM&Aをした場合は、単純計算で100万円が500万円になるため、400万円がキャピタルゲインとなり、20%の税率が引かれます。
IPOの場合は、2013年から2019年に日本の新興市場(マザーズ、ジャスダック)に上場した企業の株価時価総額の中央値は、IPO直後期が83億7500万円で、直近(2021年3月30日)では95億2600万円と言われています(参照:上場後の成長の谷に関する共同研究レポート)
バリュエーション1億円で100万円投資した場合、IPO時の時価総額が100億円でその時のシェアがVCからの資金調達で希薄化しており、仮に0.1%だったとします。すると株式持分の時価総額は、1,000万円でキャピタルゲインは、900万円となり、20%の税率が引かれます。
エンジェル投資のポイントは、早期に企業の成長性を見極め、いかに安いバリエーションで入るか、加えて適切にフォローオン(追加投資)することで希薄化を極力防いでExitを目指す必要があります。
コロナ禍での超金融緩和を背景に高騰していた世界の株式市場が2022年の新年から波乱の展開となっている。アメリカのS&P500株価指数の下落やハイテク株の多いナスダック総合指数は2021年11月の最高値から14.3%下げている。アマゾンやテスラの株価は最高値からの下落率が2割を突破。
日本株も連動する形で下落し、日経平均株価は一時2万7100円台まで落ち込んだ。2021年9月の戻り高値から約12%の下落となる。中小型株のマザーズ市場は昨年秋から3割以上も下げている現状である。
こうした株式市況の中で個人投資家のリスクマネーがどこに向かっていくかは、非常に注目であると言える。
エンジェル投資家の成功率は?
『VCの教科書』によると専業で投資を行っているVCの成功確率でも下記のようになっている。
1.投資の50%は「十分に役目を果たさない」
2.投資の20〜30%は、「シングルヒット」か「ツーベースヒット」
3.投資の残り10〜20%──VCにとってのホームラン。
またベンチャービジネスの成功確率は、業界では3/1000とも言われている。1,000社のうちの僅か3社が成功を納めると言われている。そうなるとVCの成功確率よりもさらに下がり、僅か0.3%にしかならない。
つまりイノベーションというのは、正確に予測ができないと言えます。市場の変化も激しく、市場に出してみるまでニーズがあるかどうかわかりません。誰も予測できなかったコロナウィルスの蔓延によって衰退したビジネスもあれば大きく成長したビジネスも数多く存在しています。
投資を意思決定するときに重要なのは、経営者の資質やそのビジネスにどれだけ共感できるかが重要になると考えています。社会課題に対して、こうあるべきという道筋を示し、目の前の投資家を惹きつけることができる起業家にお金が集まってくるのだと思います。
エンジェル投資家の成功確率を上げるためには?
IPOを目指す場合、0.3 ~10%だとすると非常に投資の成功確率が低くなります。そこに自信の経験や市場の読み解き、市場の成長性、経営者や経営チーム、ビジネスモデルの見極めを行い、成功確率を高めていく必要があります。
その上で、IPOを目指しながらもこのビジネスならM&Aでこういった上場企業から買収オファーが来るかもしれないといったM&Aのオファーがかかるか、かからないかというのも非常に重要な視点です。M&Aにより全額ないし、一部の投資が回収できればそれを再度投資に振り向けることができます。
スタートアップの業界動向を常に注視しておくのも非常に重要です。弊社で新規事業を考える場合は、まずは国内や海外で類似のサービスが行われていないか徹底的にリサーチを行います。その上で、それぞれのビジネスモデルを比較し、参考になる部分は大いに参考にした上でどうやって差別化を図っていくか、既存事業があればどういったシナジーが見込めるか見込めないかなども含めて検討する必要があります。
弊社で運営する「スタートアップログ」は、毎日スタートアップの資金調達情報を配信しています。特に海外の資金調達したスタートアップのビジネスモデルを学ぶことで、どういったビジネスモデルが流行っているか、キャッシュポイントがどこかということを知れば、自ら事業を行ったり、投資を行ったりする際にも大きな助けになると考えています。
中々そうしたリサーチに時間を避けない投資家の皆様は、専門家に相談するのも良いかも知れません。知人、友人から出資を頼まれているが、事業の見極めができない。余剰資金の一部をスタートアップやベンチャー企業に投資したいがそうした経営者と接点がないという方は是非とも弊社にご相談いただければ幸いです。今後は、定期的に勉強会等も開催していきたいと思います。
まとめ
今回は、エンジェル投資のメリット、デメリットなどについてまとめました。興味はあるがまずは何をしたらいいかわからないという方は、まずはスタートアップ経営者との接点を作るところから始めるのはいかがでしょうか?スタートアップやベンチャー企業を支援する中で、共感するスタートアップがいれば投資に発展させるというのが良い投資方法になると考えています。