スタートアップ投資における優先株式とは?参加型・非参加型優先株式について解説!
近年、VCや事業会社におけるスタートアップ投資には、普通株式よりも、優先株式を用いることが増えています。この記事では普通株式と優先株式、また参加型・非参加型優先株式についても具体的に説明しています。
それでは、詳しく解説していきます。スタートアップ投資やM&Aに興味のある方は、ぜひご覧ください!
普通株式と種類株式
まず、優先株式を理解するためには、普通株式について知る必要があります。
普通株式
まず優先株式を理解するためには、普通株式について理解する必要があります。
普通株式には、配当等を受ける権利(自益権)と株主総会の議決権(議決権)の二つの権利が含まれており、原則として自由に譲渡する事が可能です。
- 配当を受ける権利(自益権)と株主総会での議決権を持つ
- 原則として自由に譲渡可能
種類株式
種類株式: 普通株式と異なる内容を持つ株式で、会社法108条に基づき以下の項目を変更できます。
普通株式と異なり、種類株式では以下の内容の株式を発行できます。
普通株式と異なる内容の項目は、会社法108条にて限定されています。
(1)剰余金の配当
(2)残余財産の配分
(3)議決権株式
(4)株式の譲渡制限
(5)転換請求権
(6)強制転換条項
(7)全部取得条項
(8)拒否権条項
(9)役員選解任権
上記の内容において、投資家が配当を優先的に受け取る事ができる内容を含むものを優先株式、無配の内容を含むものを劣後株式と呼びます。
種類株は上記の内容に限り、自由に何種類も組み合わせて種類株を発行する事が可能です。
例えば、金融機関などがスタートアップに投資する場合に議決権が5%を超えないようにするため、無議決権の種類株式を引き受けるケースもあります。その際は、優先株式の条項として、優先分配や種類株主総会における事前承認事項の設定などを行い、実質的に議決権を有しているに等しい契約を巻くケースもあります。
現在、スタートアップに投資する際の規制が撤廃されています。以前は、国内ファンドが海外企業への出資比率が50%未満という上限が設定されていましたが、これが撤廃されています。
また、金融庁は、銀行子会社の投資規制を緩和しています。現行の枠組みでは、「設立10年未満の中小企業」に限って100%出資が認められています。さらに、銀行法が改正され、設立から10年以内のスタートアップに対して出資する場合には、5%超の出資が認められる例外措置が拡充されます。
スタートアップにおける優先株式
国内のスタートアップ投資においても頻繁に利用されるようになってきた優先株式には、議決権に制限がかかることもあるが、会社が消滅する際の残余財産の分配を普通株よりも先んじて授受できることや、取得条項として、後日、一定の比率に基づいて普通株に転換できるコールオプションとともに、種類株主総会での拒否権・役員選任権が付与されている点などの利点がある。
- 議決権に制限がかかることがある
- 会社清算時に残余財産の分配を普通株主よりも優先して受けられる
- 後日、一定の比率で普通株に転換できるオプションがある
- 種類株主総会での拒否権や役員選任権が付与されることがある
優先株式を引き受けた投資家はエクイティファイナンス後のスタートアップに対してこれらの権利を発動し、その後の成長過程の中で生じる資金調達や買収、株式公開の際に多くのメリットを享受することができる。(参考:スタートアップのPre-Money Valuationの 決定に関する展望)
スタートアップ投資において最も使われる優先株式は、(2)残余財産の分配(残余財産優先分配権)です。これはM&Aなどで売却された際に、その売却益を優先的に受け取る事ができる権利です。
参加型・非参加型
残余財産優先分配権には、参加型・非参加型の2種類があります。
参加型優先株式:
- 会社売却時、まず優先株主に投資額が分配される
- 残りの売却益がある場合、全株主(優先株主含む)で持分比率に応じて分配
参加型優先株式では、M&Aなどの際に会社を売却した利益から、まずは優先株主に優先株主から受けた投資額をそのまま分配します。さらに分配できる売却益がまだ残っている場合には、優先株主を含む全株主が各々の持分比率に応じて分け合います。非参加型優先株式では、優先株主に投資額もしくは投資額に応じた持分を分配した後、たとえ分配できる売却益が残っている場合でも、優先株主には分配せずに普通株主のみで分け合います。
非参加型優先株式:
- 会社売却時、優先株主に投資額または投資額に応じた持分が分配される
- 残りの売却益は普通株主のみで分配(優先株主は追加分配を受けない)
日本国内において、スタートアップのようなリスクの高い投資を行う場合には、参加型の優先株にて投資家サイドが投資契約を締結するのが一般的です。
5億円のM&Aオファーの場合
例えば、投資家がポストバリュエーション10億円で、2億円出資したとします。この際、投資家の株式持分比率は20%です。その後事業が軌道に乗らず、5億円のM&Aオファーがきて、経営陣がそのオファーに応じたとします。
投資家が普通株式で出資していた場合
創業者の売却額からの取り分は4億円(5億円×80%)、投資家の手取りは1億円の配分となります。創業者は約4億円の売却益が得られる一方で、投資家は1億円の売却損が発生します。
投資家が優先株式で出資
まずは優先分配の2億円が投資家に配分されます。
その上で参加型の場合、残余分の3億円が投資家と創業者に対して、持株比率に応じて分配されます。3億円×20%=6,000万円が加わり、投資家売却費は2億6,000万円、6,000万円の売却得となります。創業者の売却費は残余分、2億4,000万円となります。1倍非参加型の場合、
出資額2億円>優先株の持分比率×株価のため優先分配されるのは2億円、その後投資家に分配される売却益はなく、売却代金から2億円が優先的に分配されるのみとなります。創業者の取り分は残余財産の3億円となります。
2倍非参加型の場合、
出資額2億円>優先株の持分比率×株価のため優先分配されるのは2億円×2倍で4億円、その後投資家に分配される売却益はなく、売却代金から4億円が優先的に分配されます。創業者の取り分は残余財産の1億円のみとなります。このように投資家はダウンラウンドでも投資資金を2倍で回収でき、創業者の取り分はわずかとなります。
優先株式のメリット
優先株式は、創業者・投資家の双方にとってメリットがあります。
創業者メリット
高いバリュエーションで資金調達が可能になるメリットがあります。
創業者にとっては、資金調達による会社の株式持分比率の希薄化(ダイリューション)が1番の懸念です。そのため、高いバリュエーションで資金調達を行うことができれば株式持分の希薄化を最小限に抑えることができます。
投資家メリット
スタートアップへの投資ハードルが下がるというメリットがあります。
これは普通株式に比べ、残余財産の分配において有利な条件となっているためです。
特に、ダウンラウンドにおけるM&Aにも応じやすいという利点があります。スタートアップ投資は一般的にリスクが高く、IPOによるEXITを目指していることから、非参加型はリスクとリターンが見合わず、あまり見ることはありません。
(※ダウンラウンド:前回の資金調達時よりも低い株価で株式を発行する資金調達ラウンドのこと。)
優先株式のデメリット
優先株式による資金調達は、創業者にとってデメリットも存在します。
まず、優先株式の発行によって実務上では、投資契約の設計が複雑になることが多いためです。
そのため、弁護士などの専門家に契約書レビューを依頼するためのコストもかかります。優先株式発行後も、毎年の種類株主総会の開催など、株主の召集手続きなども必要になってきます。
したがって創業したばかりのシード期の投資やエンジェル投資家からの投資は、優先株式ではなく、普通株式や新株予約権で投資実行されることが一般的です。このように、創業者にとって優先株での資金調達は余分な時間やコストがかかり、事務手続きも煩雑となるものの、シードラウンド以降は、ほとんどのスタートアップが優先株でVCなどから資金調達するのが一般となっています。
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さらに、優先株式の内容は登記簿謄本に記載されるので、誰でも優先株式の内容が見ることができます。資金調達額(借入、資本性ローン除く)が公開されている場合、謄本を読み解くことで発行株式数から持ち株比率も計算できることからおおよその株価やバリュエーションが計算できることもあります。そのため、未上場にもかかわらずバリュエーションが他社に知られてしまうこともデメリットの一つです。
みなし優先株とは
みなし優先株とは、発行時は普通株式であるものの、次回の優先株式による調達時に優先株式に転換することが約束された株式のことを意味します。優先株のデメリットである手続きの煩雑さや法務レビューのコストを軽減するため、シードやプレリシリーズAラウンドでの優先株発行を見送る代わりに、次回ラウンドで普通株から優先株に切り替える旨を別途契約で取り交わす形となります。
繰り返しとなりますが、みなし優先株は、発行時は普通株式であるものの、次回の優先株式による調達時に優先株式に転換することが約束された株式です。この特徴により、エンジェル投資家に対してエンジェル税制の対象となり、投資家にとって税制上の優遇措置が適用されることがあります。エンジェル投資家は、企業が成長して株式上場したり、M&AされるExitのタイミングで利益を得ることができます。
エンジェル税制は、ベンチャー企業への投資を促進するために設けられた措置で、個人投資家とベンチャー企業の双方にとってメリットのある制度です。エンジェル税制は、ベンチャー企業への投資を促進するために、ベンチャー企業へ投資を行った個人投資家に対して税制上の優遇措置を行う制度です。制度の目的は、創業間もない企業に株式投資をする個人投資家に対して税制優遇措置を講じ、起業家への資金の流れをつくることです。
エンジェル税制の適用を受けるためには、個人投資家がベンチャー企業の新規発行株式を金銭の払込みにより取得する必要があります。ただし、発行済株式を他の株主から買ったり、譲り受けたりした場合は対象となりません。
エンジェル税制の具体的な優遇措置は以下の通りです。
- 投資時点:対象企業への投資額から2,000円を差し引いた金額を、その年の総所得金額から控除できます。
- 株式売却時点:対象企業への投資額全額を、その年の他の株式譲渡益から控除できます。
エンジェル税制におけるみなし優先株の活用
エンジェル投資家から資金調達を行う際、みなし優先株を活用することでエンジェル税制の適用を受けることができます。みなし優先株とは、発行時は普通株式ですが、次回の優先株式による調達時に優先株式に転換することが約束された株式のことです。
エンジェル税制の適用を受けるには、個人投資家がベンチャー企業の新規発行株式を金銭の払込みにより取得する必要があります。
みなし優先株を使うことで、優先株のデメリットである手続きの煩雑さや法務レビューのコストを軽減しつつ、エンジェル投資家に税制優遇措置を提供できます。
資金調達をするスタートアップ起業家は、エンジェル投資家から資金調達をする場合、エンジェル税制を適用できるようにするためJ-Kiss(新株予約券)ではなくみなし優先株(普通株)も検討することが望ましいケースもあります。エンジェル投資家からの投資を受けやすくするため税制や契約内容も考慮しながら、VCや事業会社とも交渉していきましょう。
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エンジェル投資家のラウンドとVCのラウンドを分けて資金調達されるのも一つだと思います。
日本と米国の優先株式の違い
日本国内のスタートアップ投資では、企業側に不利な参加型優先株式が一般的です。Coral Capitalの調査では、日本のスタートアップが発行した優先株式の97%が参加型だったと言われています。
一方、米国では非参加型優先株式が主流です。Fenwick & West LLPの2022年の調査レポートによると、参加型の優先株式を利用した資金調達は全体のわずか5%未満でした。米国の投資家は、不確定要素とリスクの高い投資条件を嫌う傾向にあります。(参照:スマートラウンド社のプレスリリース)
米国投資家は”アブノーマルな投資条件を受けているスタートアップ”に投資をすることを躊躇します。不確定要素とリスクを負うことを嫌うためです。日本における1倍参加型の優先株式による投資は、米国投資家からするとアブノーマルな投資条件そのものであると言えます。
そのため、海外投資家から資金調達を検討するスタートアップは、非参加型の優先株式の発行も視野に入れる必要があるでしょう。 日本と世界の優先株式の違いを理解し、投資家のニーズに合わせた資金調達戦略を練ることが重要です。
EXPACTのEXIT支援とは?
弊社(EXPACT株式会社)では、EXIT戦略(IPO/M&A)を成功させるためにアドバイスのみに留まらないハンズオン支援型のEXIT支援を実行しております。
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M&A
戦略コンサルティング 経営戦略におけるコア事業、ノンコア事業の整理、コア事業の切り出し、スキームの提案を行います。
実行支援 ハンズオン型支援体制による事業譲渡を実行し、クロージングまで一貫して支援先にコミットした支援体制を構築します。
PMI支援 事業ポートフォリオ整理後の資本政策、資金調達計画の立案、実行を支援します。
弊社では、このようにオール・イン・ワンの提案ができる独自のアセットを活用した戦略コンサルティング、実行支援、PMI支援を一貫して行うことで、企業価値の向上をサポートして参ります。
まとめ
優先株式、特に参加型優先株式は、スタートアップ投資において投資家のリスクを軽減し、リターンを最大化するための重要なツールです。一方で、起業家にとっては、自社の将来の成長と株式の希薄化のバランスを考慮しながら、慎重に交渉する必要があります。
スタートアップエコシステムの発展とともに、優先株式の利用はさらに増加すると予想されます。投資家も起業家も、これらの仕組みを十分に理解し、Win-Winの関係を築くことが重要です。
今回はスタートアップ投資における優先株について解説しました!
投資家サイドは、優先株式でスタートアップに出資することで、IPOでなくともM&Aによっても投資回収しやすいため、出資のハードルを大幅に下げることが可能です。
EXPACTでは、特にスタートアップ企業への補助金活用や資金調達を強みとしており、実績・経験も多数ございます。資金調達成功に向けて、パートナーを探している、また詳しく話を聞いてみたいという方はこちらからお問い合わせください。
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