ベンチャーファンド市場は、未公開企業を中心とするベンチャー企業を主な投資対象とする投資法人のための市場として、2001年12月3日に東京証券取引所に開設されました。
事業者は、投資法人(会社型投資信託)制度を活用して、個人投資家を含む広く一般投資家から資金を集めることができます。
一般投資家からは、少額の資金で未公開企業への投資を行うことができ、上場市場であることから換金の場が確保されることがメリットです。
この記事では、改定内容も含めてベンチャーファンド市場について解説します。
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ベンチャーファンド市場とは
ベンチャーファンドは、ベンチャー企業への資金供給手段の多様化を図るとともに、個人投資家を含む投資者に未公開株への投資機会を提供することが目的となります。
取引所は、ベンチャー企業への資金供給の機能と投資者保護の両立の観点から上場制度を整備していますが、現行制度で上場した銘柄は、いずれも再投資先選定が困難となり、市場期待が低迷した結果、解散しているため、成長資金の円滑な供給に向けて、必要な制度の見直しが実施されていきます。
※取引所グループサイトより引用 © 2022 Japan Exchange Group, Inc.
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ベンチャー市場への上場制度(上場審査基準)とは
上場審査基準には次の項目があります。
①流動性基準
・上場投資口口数(普通株券での株数):2,000単位以上
・投資主数(普通株券での株主数):300人以上
・大口投資主が所有する投資口の比率80%以下
・純資産総額30億円以上
②運用資産の比率
・国内の未公開株等、未公開株等関連資産及び上場後5年以内の株券等への投資額(未公開株等投資額)の合計が運用資産等の総額の70%以上となり、かつ、未公開株等への投資額(未公開株等の額及び未公開株関連資産のうち未公開株等に相当する部分の額の合計)が未公開株等投資額の50%以上となる見込みのあること。
・その他の資産が、流動資産等及び運用資産等に係る価格変動による損失の危険その他の危険を減殺することを目的とし、かつ、当該損失の危険その他の危険を減殺することが客観的に認められる取引に係る権利その他の資産に限られること。
③未公開株等の評価の適正性
・独立した未公開株等評価機関へ委託していること。
・当該未公開株等評価機関が適正な評価を行うことができる社内体制にあること。
④その他
投資主名簿等管理人の設置等
※取引所グループサイトより引用 © 2022 Japan Exchange Group, Inc.
ベンチャーファンドの運用方法としては、ファンドの性質を担保するために、上場審査基準では、上場申請時において上図の投資比率を満たしているか、上場後6か月以内に達成できる見込みのあることを求めています。ベンチャーファンドの運用状況を正確に把握するためには、適正な評価に基づく未公開株等の時価の開示が必要です。未公開株等の評価の適正性を確保するために、未公開株等の評価に係る業務を東京証券取引所(以下「東証」という)が適当と認める外部の未公開株等評価機関に委託することを求めています。
ベンチャーファンド市場の売買制度とは
ベンチャーファンドの市場における売買の方法は、通常の株券と同じ扱いとなり、指値注文・成行注文、信用取引も可能となります。制度信用銘柄及び貸借銘柄への選定基準も株券と同様です。ベンチャーファンドの譲渡益(キャピタルゲイン)への課税は株式と同様の取扱いとなります。ベンチャーファンドの損益は一般の株式の譲渡損益との間で損益通算でき、収益分配金への課税は株式の配当と同様に所得税が源泉徴収されます。
ディスクロージャーについて
ベンチャーファンドは主に未公開株に投資することから、未公開株等に関する情報の適時開示が重要になります。東証の開示制度では、主に次のような事項について適時開示を求めることにより、投資判断材料を提供します。
適時開示 |
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1口当たり純資産額(週1回) |
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運用資産の概要(月1回) |
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適時開示の例
〇1口当たり純資産額
1口当たり純資産額の推移を見ることで、ファンドの運用状況を知ることができます。
また、未公開株等及び未公開株等関連資産、上場後5年以内の株券等、その他の資産の内訳をみることで、ファンドの組入状況がわかるだけでなく、未公開株等評価機関の評価に基づく評価額も参考情報として記載されるので、ファンドの状況をより詳しく知ることができます。
〇未公開企業の概要
ファンドにどのような未公開企業が組み入れられているかを知ることにより、ファンドの状態を知ることができます。
上場会社については比較的情報が多くありますが、未公開企業については情報の収集が困難なため、ファンドに対して組み入れられている未公開株等の発行者である未公開企業の概要を開示することを求めています。
〇直近の運用状況及び短期的な運用方針
ファンドの運用状況と、どのような方針に基づいて運用を行っているかを知ることにより、ファンドの性格をより詳しく知ることができます。
ベンチャーファンドのリスク
ベンチャーファンドは、元本及び分配金等が保証されている商品ではありません。
ベンチャーファンドの純資産額は、保有する株式の値動きや銘柄入替え等により大きく変動する可能性があります。
未公開企業については、一般的に上場企業と比較して財務状況等が脆弱であり、未公開企業に投資するベンチャーファンドは、上場株券のみに投資するファンドに比べて大きなリスクを有しています。
ベンチャーファンドの市場価格は市場の需給等を反映して変動するので、必ずしも市場価格とベンチャーファンドの1口当たり純資産額は一致しません。
2022年3月1日施行の有価証券上場規程等の一部改正について
Ⅱ 改正概要
1.上場株券等の継続保有可能期間
・ 投資法人の投資先の非上場企業が国内の金融商品取引所又は外国金融商品取引所等に上場した場合、投資法人は、非上場の時点から当該企業の発行する株券を保有するときは、上場後5年を経過して継続保有することができることとします。優先株等、新株予約権証券及び新株予約権付社債券についても、同様の取り扱いとします。
・ 投資法人の投資先の非上場企業が上場した場合、投資法人が当該企業の発行する上場株券、優先株等、新株予約権証券及び新株予約権付社債券(以下「上場株券等」といいます。)を、上場後5年を経過して継続保有するときは、その理由及び運用方針を開示することとします。ただし、投資先の非上場企業が上場した場合に、投資法人が当該企業の発行する上場株券等を継続保有するときは、投資法人は、当該企業が発行する上場株券等を新たに取得できないこととします。なお、特定取引所金融商品市場に上場する企業の発行する株券等は未公開株等に含まれることを明確化します。2.運用資産等の比率の計算方法
・ 投資法人の投資先の非上場企業が国内の金融商品取引所又は外国金融商品取引所等に上場した場合、投資法人の保有する上場株券等について、当該企業が非上場の時点から継続保有するときは、上場後5年以内は、未公開株への投資とみなして運用資産等の比率を計算することとします。また、当該企業が上場後5年を経過した場合、当該企業の発行する上場株券は、上場後5年以内の株券として運用資産等の比率を計算することとします。
・ 優先株等、新株予約権証券及び新株予約権付社債券についても、同様の取り扱いとします。3.特定の投資先への投資制限
・投資法人は、未公開株等又は未公開株等関連資産の取得に際し、特定の投資先に取得時における純資産総額の15%を超えて投資しない旨を規約に記載する場合には、特定の投資先に取得時における純資産総額の15%まで投資を行うことができることとします。
・投資法人は、未公開株等又は未公開株等関連資産の取得に際し、特定の投資先に取得時における純資産総額の10%を超えて投資する場合には、取得の際に、適切な投資であると判断した理由を開示することとします。4.資金の借入れ及び投資法人債券の発行
・投資主総会の決議を経て、投資法人の規約又はこれに類する書類(運用ガイドラインや内部規程を含む。)において、以下の事項が定められていることを確認できた場合、資金の借入れ又は投資法人債券の発行ができることとします。
①原則として総資産有利子負債比率が20%以下となる運用方針であること
②資金の借入れ又は投資法人債券の発行に係るリスク管理方針
③資金の借入れ又は投資法人債券の発行に係る目的、限度額及び使途に関する事項
・ 上記①~③のいずれか又はすべての内容を変更する場合には、その内容を開示することとします。
・ 投資法人が資金の借入れ又は投資法人債券の発行を行うことについて決定をした場合、金額の多寡を問わず、その内容を開示することとします。
・ 総資産有利子負債比率が20%を超えた場合又はその後、総資産有利子負債比率が改善され20%以下になった場合、その内容を開示することとします。・ 規約又はこれに類する書類において、上記①から③のいずれか又はすべての定めがなくなる場合は、上場廃止とすることとします。
・ 投資法人に係る営業期間の末日において、総資産有利子負債比率が20%を超えた場合において、1年以内に、総資産有利子負債比率が20%以下とならないときは、上場廃止とすることとします。