日本発、世界へ。M&Aで拓くスタートアップ成功の未来
経済産業省が発表している『大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書』 (バリュエーションに対する考え方及びIRのあり方について) についてこの記事ではまとめていきます。
岸田首相はスタートアップの注力を掲げていますが、その中でオープンイノベーションの手段として「大企業等の事業会社とスタートアップのM&A」も今後注目が高まるものと予想されます。
国内大手企業によるスタートアップM&Aの事例としては、2017年に大手通信キャリアのKDDIがIoTプラットフォームを提供するソラコムを買収しています。また、金融業界の大型スタートアップM&Aとしては、2018年にネット証券大手のマネックスグループが仮想通貨取引所を提供するコインチェックを買収しました。また、アメリカの大手決済サービスPayPalによって約3000億円で買収された事例や直近では、金融機関である三菱UFJ銀行が、
グループとして多様化・複雑化する中で、
イノベーションの担い手であるスタートアップは社会にとって重要な存在であり、今後の新しいビジネスがスタートアップを中心として次々に創造されていくことが期待されているためです。
経済産業省レポートの中身を紐解きながら、M&Aの課題とは?またその解決策を考えていきます。
スタートアップとオープンイノベーション
近年、オープンイノベーションの推進によって、スタートアップと大企業等との連携が図られるようになってきていますが、日本の大企業は、一般的に自前主義の傾向が強いとの指摘があります。
スタートアップとのオープンイノベーションは、時間・費用・リスク等の面で、自社単独での研究開発よりも効率的な可能性を秘めているものの、多くの企業は自社の成長戦略の中にオープンイノベーションの活用を組み込めておらず、「大企業とスタートアップの両者がM&A時のバリュエーションを適切に評価するための考え方」と、「M&Aの有用性を投資家に理解してもらうためのIRのあり方」が課題であるとレポートでは取りまとめられています。
米国と日本のM&Aの差
例えば米国では、GAFAMに代表されるような大企業で、スタートアップに対して積極的にM&Aが行われて非連続的な成長を遂げている一方、日本の大企業は一般的に自前主義の傾向が強いとの指摘がなされており、M&Aがうまく活用しきれていないという現状があります。
ベンチャーキャピタルの投資先のエグジット状況を見ると、日本は米国と比べてM&Aの割合が非常に少ない状況であり、大企業が自社の成長戦略の中にM&Aを組み込んで実施していくことは、オープンイノベーションによる中長期的な価値向上につながるものであるとともに、スタートアップにとっては安定的な成長に資する選択肢となり得ます。
ここでスタートアップのエグジットについてみていきましょう。
IPOとM&Aの割合は、米国では約1:9とM&Aが圧倒的に多いのに対し、日本では約7:3とM&Aの割合が低く、IPOが中心であることが見て取れます。
次に日米主要企業のM&A件数及び企業価値推移を見てみましょう。
M&A件数に大きな開きがあることがわかります。
米国と日本の買収価格の差
日本と米国では、M&A時の買収価格に大きな開きがあります。その要因として、M&Aが実施されるステージの違いなどもありますが、「スタートアップの非財務情報やM&Aによる買収企業のシナジー等が買収価格に適切に反映されていない可能性がある」という点も要因の一つです。
レポート内では日本のM&A時の買収価格に、スタートアップの非財務情報やM&Aによるシナジー効果等が適切に反映されていない可能性があると指摘されており、要するに財務上金銭に勘案できないとされているものや、M&A後の相乗効果について加味されていないことが原因です。
例えばGoogleによるYouTubeの買収の際は、YouTubeは設立から間もない企業であったものの、同社が保有するユーザー数やデータ等の価値が考慮された結果、約2,000億円での買収が実施されました。
最近では日本のスマホ決済サービスのプリン(pring)も100億円規模で買収がされ、インターネット決済大手のPaypal(ペイパル)が、Paidyを運営するPaidy社を約3,000億円で買収するとの発表もありました。
M&Aプロセスの重要点
- スタートアップ企業の評価は、主に将来の成長見込みに基づいています。伝統的な産業の企業とは異なり、スタートアップは取引事例が少なく、評価が難しいことが多いです。
- 取引価格(フェアバリュー)は、買い手の評価に大きく依存します。そのため、事業の可能性を最大限に引き出し、高く評価してくれる買い手に譲渡することが望ましいです。
企業価値の評価
- スタートアップの場合、足元の業績だけでなく、将来の成長見込みやビジョンが重視されます。財務数値以外の情報(例えば、事業計画や経営チームの質)も評価の重要な要素となります。
スタートアップ特有の課題
- スタートアップは、伝統的な企業や大企業、上場企業と比較して、M&Aの過程で直面する課題が異なります。将来性をどう評価するか、そしてどのようにして最適な買い手を見つけるかが重要な鍵となります。
大企業×スタートアップのM&Aが活発に行われていない要因とは
要因は様々あるものの
①買収企業と被買収企業(=スタートアップ)の間で、バリュエーションが合意に至らない。
②のれんの減損が発生すること、及び投資家からのネガティブな評価を懸念する。
この2つが大きな要因と捉えられています。
課題の解決策とは?
①買収企業と被買収企業(=スタートアップ)の間で、バリュエーションが合意に至らない。
ここはスタートアップの「非財務情報」や「シナジー効果」に関する情報を両者で適切に把握し、それらが事業計画の蓋然性にどれだけ寄与するのか、認識をすり合わせることが重要と考えられます。また、M&A交渉時に「アーンアウト条項」や「株式対価M&A」を検討することも、目線の相違の解消につながる可能性があります。
②のれんの減損が発生すること、及び投資家からのネガティブな評価を懸念する。
スタートアップの成長率の高さゆえに、M&A時点の純資産価額に比して、買収企業側では多額ののれん・有価証券が計上される傾向が強く、これらの減損リスクが生じます。買収企業が当該リスクに対する投資家からのネガティブな評価を懸念することで、M&Aが活発に行われない側面があると考えられることから、投資家に対して自社の成長投資戦略やM&Aに関する情報を積極的かつ具体的に開示していく必要があります。
まとめ
今後は、スタートアップと大企業がお互いに手を取り合い、Win -Winの関係で「世界で勝つこと」と、旧態依然としたレガシー業界を変えていくことが必要になります。スタートアップも大企業側の事業部を巻き込まないと物事がスムーズに進みません。事業部側の売り上げや事業にどうメリットがあるのかをきちんと提案できること。資本業務提携やM&Aを通じてスタートアップと大企業双方がお互いの立場を超えてどうやってWin -Winの連携を図るかという両方の目線がすごく大事になってきます。
M&Aの仲介エージェントを利用するかどうかは、スタートアップの状況によって異なります。短期間に多くの買い手を探す必要がある場合は、エージェントの利用が有効な場合があります。M&Aプラットフォームサービスを利用することで、より多くの買い手候補にアプローチできる可能性もあります。