
スタートアップは避けて通りたい『リビングデッド』とは?
スタートアップの経営者、特にVC(ベンチャーキャピタル)などから出資を得ている企業経営者は社会課題の解決を目指すとともに、IPOやM&AといったEXITを目標にしていますが、実際に上場やM&Aまでたどり着ける企業は多くありません。EXITに辿り着かない企業は、資金調達がうまくいかない、研究開発が停滞してしまうなどさまざまな理由で倒産してしまうケースもあれば、「リビングデッド」という状態となるケースが存在します。
今回はスタートアップ、ベンチャー業界における「リビングデッド」について解説します。
スタートアップのExit目標の一つ / IPOの現状
2023年のIPO社数は96社となっており、2022年の125社から大きく減少することになりました。背景には世界的な金融緩和の反動や、ウクライナ侵攻リスク、円安の進行、各国の中央銀行の金融引き締めによる海外機関投資家の供給減少などさまざまな要因が考えられます。経済産業省から発表されている「令和4年度大学発ベンチャー実態等調査」結果(速報)では2022年10月末日時点での大学発ベンチャー数は3,782社とあり、ここを仮の分母で考えてもIPOの確率は約2%と狭き門であることがわかります。さまざまな調査データの中でもIPOできる確率はどんなによくても10%以下というのが現状です。
では、残りのIPO(やEXIT)できていない企業はどうなるのかというと、上場に向けてステージを前進させている企業でなければおおよそ3つのケースに集約され、リビングデッド、ピボット、倒産・廃業といった形になってくることが多いです。
リビングデッドとは
リビングデッドとは映画に出てくる「ゾンビ」のイメージを被せた用語で、VCなどから資金調達したスタートアップ企業がIPOやM&AなどEXITができず、しかし倒産はしない程度に資金があり、ゾンビのように存続している状態のことを指します。つぶれないように経営ができていれば良いと考えることもできますが、これが個人事業主や中小企業であれば大きな問題ではないものの、スタートアップの場合は社会課題の解決や世の中にインパクトを与えるための起業であり、そのために出資を受けていることがほとんどです。出資したVCや投資家はスタートアップがEXITすることで収益を得ることができるため、ダラダラと生存されることについてあまりよくは思われません。
なぜリビングデッドが起こるのか
スタートアップは成長過程においてシリーズが進んでいきますが、その際VCからの出資はエクイティ調達となるため、出資を受ける際に買い戻し条件がなければ返済期日が設定されず、リビングデッドの企業はVCにとって「売れないけど維持費が発生する」出資先となってしまうことが原因です。VCは出資先がIPOやM&Aなどを実施し、収益を出すことが目的である一方でリビングデッドしてしまうと出資先を売却することもできず、譲渡制限がついていたりするため第三者に譲渡させることもできずと大変困った存在となります。
リビングデッドになった企業へのVCの対応とは
リビングデッドは、経営が成り立っているが成長しない企業のことで、VCにとっては特に扱いが難しい存在です。
VCにとっては資金の償還期限があるために、期限までに売却なのか清算なのか何かしら判断を行わなければなりません。
・第三者への譲渡
などの選択肢が考えられますが、リビングデッド状態の企業にはどれも難しかったりすることが多いです。
株の買戻し
企業価値が低い場合、0円または安価に株を買い戻すことができます。しかし、リビングデッド状態の企業は倒産していないため、ある程度の企業価値があり、買戻し価格もある程度まとまった価値になることが想定されます。
M&A
リビングデッドの企業を対象としたM&Aも非常に難易度が高いです。多くのM&Aは買い手の成長性や事業シナジーを求めますが、リビングデッド企業は成長が見込めない(成長性が低い)ため、買い手を見つけるのが困難となります。
第三者への譲渡(セカンダリー取引)
M&Aと同様に、リビングデッドの企業を引き受ける第三者を見つけるのは難しいです。ランニングコストのみがかかるような企業に投資する動機が少ないためです。
最近の経済状況により、未上場企業の株式のセカンダリー取引(既存株主からの株式の買取り)に特化したVCが注目されています。これは、未上場企業のIPO(新規公開株)までの期間が長引く中で、株主が株を保有し続けるのが現実的でなくなっているためです。また、特にテック系のスタートアップ企業の従業員の中には、上場によるエグジットが遅れているため、大幅に割り引かれた価格でも株式を現金化したいと考える者もいます。
セカンダリー市場での取引は、流動性が低く、価格設定が難しいことが一般的です。しかし、最近では新たな買い手が増え、市場の流動性が高まっています。これには、グロース・エクイティファンドやヘッジファンドのアセットマネジャー、ファミリーオフィスなどのプライベートキャピタル市場の大手プレーヤーが含まれています。
日本の場合、スタートアップへの投資が活発になり、セカンダリー市場への関心も高まっています。例えば、ケップルは、未上場株のセカンダリー取引に特化したファンドを設立し、最初の取引も成立させています。このような動きは、スタートアップ企業や従業員にとって、株式の現金化という新たな機会を提供しています。
また、米国では未上場株を対象としたセカンダリー取引を支えるための特化型ファンドやマーケットプレイスが発展しています。これは、投資家や企業にとって、新たな資金調達の手段や株式の流動化の機会を提供しています。日本でも、未上場企業の株式取引ができる「FUNDINNO MARKET」などのサービスが始まっています。
セカンダリー取引専門のVCは、経済状況の変化や市場の需要の増加に応じて、今後も重要な役割を担うことが予想されます。
余談ですが、リビングデッドの企業経営者も売却や譲渡など決断に時間を要するケースもあります。経営としては成り立っている(継続して生存している)ため、売却に対して後ろ向きになったり、社長の座を離したくないという感情的な側面もあるようです。
リビングデッドになってしまったらやるべきこと
基本的にリビングデッドとなってしまったら大きく”何か”を変えなければその後のステージに進める可能性は低いと考えられます。株主や経営者が変わるケースもあれば、エクイティストーリーの作成を練り直して、再度成長過程を描くように構築していくことが大切です。
合わせて、事業計画やMVVまでしっかりとつくられているならば、人を変えるというもの手段です。どんなに計画が素晴らしくても実行できなければ意味がありません。実行するのは社長であり役員であり従業員であるため、これまでのやり方や人を変えていくことが大切と考えられます。
そしてEXITのスケジュールはいつで、どういう形なのか?という質問への答えを常に持っておくことが重要です。ゴールがあるからこそ、いつまでに何をやったらどうなるのかというエクイティストーリーの設計ができるようになります。
スタートアップのExit目標の一つ / IPO・M&Aの最新動向
2024–2025年は、世界的な金利高や地政学リスクの影響でIPOは選別的再開、M&Aは利益・シナジー重視へと舵が切られています。国内では新規上場は横ばい圏ながら審査の質的要件が上がり、赤字成長一辺倒の上場は難度が上昇しました。一方で、セカンダリーの活用や小規模M&A、アクハイア等の多様な選択肢が実務で広がっています。
セカンダリー取引の現在地
未上場株のセカンダリー市場は、ファンド償還や上場長期化を背景に拡大傾向です。投資家・従業員の一部流動化(Tender/ELP)の導入が進み、価格は直近ラウンド比ディスカウントが一般的です。譲渡制限・ROFR・時価評価・税務の整理を前提に、資本政策と合わせて設計することがポイントです。
リビングデッドの早期検知と対処
ARR成長鈍化、Burn Multipleの高止まり、NRRの低下、CAC回収遅延などが複合する場合は、90–180日での集中対応が有効です。ピボットや事業切り出し、構造化増資・限定的セカンダリー、軽量スキームでのM&A/アクハイア等を同時並行で走らせ、EXITまたは再成長のいずれかの道筋を明確化します。取得条項付種類株式やDrag/Tagの運用ルール整備は、意思決定とクローズの確度を高めます。
まとめ
EXPACTでは、特にスタートアップ企業への資金調達や事業計画策定を強みとしており、実績・経験も多数ございます。資金調達成功に向けて、パートナーを探している、また詳しく話を聞いてみたいという方はお問い合わせください。
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最終更新日:2025年10月9日