【デーティング投資】最新トレンドの投資手法を解説!M&AクラウドやリクルートHDが注目する理由とは?
大企業が新規事業や海外市場の開拓をする際、スタートアップ・ベンチャー企業のM&A(合併・買収)をする事例が日本でも増えてきました。しかし、組織の統合が進まず予想していた収益を挙げられなくなるケースもしばしば見受けられます。その解決策として、段階的に投資を行う「デーティング投資」と呼ばれる手法が注目されています。この投資手法はM&AクラウドやリクルートHDが提唱していて、日本の投資の最新トレンドとなっています。
今回の記事では、「デーティング投資」とそのメリット・デメリット、事例について解説します。
「デーティング投資」とは
「デーティング投資」とは将来的なM&Aを見越して、相手企業との相性やシナジー創出の可能性を見定める期間(デーティング期間)を設けるために、一旦マイノリティ出資を行う手法です。
スタートアップにおけるM&Aは結婚に例えられることが多く、この言葉も「デート」の意味をもつ”dating”が語源です。「デーティング投資」の呼称は、M&Aクラウドによって名付けられています。また、M&Aクラウドは同義語として、「プレ・マージャー・インテグレーション」という「ポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)」と対になる言葉も独自で使用しています。
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国内スタートアップ投資額は年々増加しており、スタートアップのEXIT戦略としてIPOだけでなくM&Aの重要性も高まっています。また、政府も事業会社やCVCからスタートアップへの投資額の一部を所得控除する「オープンイノベーション促進税制」を2020年度から施行するなど、欧米に比べて浸透が遅れているオープンイノベーションの活性化に取り組んでいます。こうした中、事業会社やCVCなどにおいて、デーティング投資件数が増加していくと考えられています。
*CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル):事業会社が自己資金で形成したファンドによる、社外ベンチャーへの投資のこと
*オープンイノベーション促進税制:国内の対象法人等が、オープンイノベーションを目的としてスタートアップ企業の株式を取得する場合、取得価額の25%を課税所得から控除できる制度
デーティング投資のメリット
標的予想の検証
マジョリティ出資をすると、資金調達の負担が大きくなり、リスクも高くなります。一旦マイノリティ出資を行い、当初計画した通りに収益目標と企業価値の向上が実現できるかどうかを検証したあと、追加投資を行うとリスクが抑えられます。
たとえば、リクルートHDは海外展開において「2段階アプローチ」を用いています。フェーズ1でマイノリティ出資をして、海外展開の可能性や培ってきたノウハウが通用するのかを検証します。そしてフェーズ2で追加投資を行い、買収を通じて企業の価値最大化と海外展開の加速を図ります。また、リクルートHDは人材派遣・人材メディア・販促メディアなど事業分野ごとに海外M&Aをフェーズ1とフェーズ2に分け、海外展開の進捗状況を整理しています。
▲リクルートの掲げる”2段階アプローチ”(画像:リクルートHD)
統合過程の円滑化
マジョリティ出資や完全子会社化をする場合、本社から経営陣を派遣することで経営の舵を取ることが多いです。しかし、買収側と投資先の事業内容・企業文化・ガバナンス体制などの違いによって統合が失敗するか、長期化して投資先の事業に悪影響を与えることが懸念されます。M&A後の統合プロセスは「ポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)」とも呼ばれています。当初計画していた目標を実現するために、経営・業務・社風などの面において統合が行われます。M&Aの現場では統合の混乱によりシステム障害や業務ミスが発生し、顧客離れや人材の流出を招いてしまうケースもあります。
「デーティング投資」の手法を用いる場合、まずマイノリティ出資をして、経営陣を一部派遣して投資先の状況を理解しつつ、自社の設備・ノウハウ・ネットワークを共有し投資先の事業を支援できます。同時に、シナジーが実現できるようにガバナンス体制を練ります。その後マジョリティ取得をして、経営陣を投資先の社長に就任させ、経営権を徹底的に握ります。
特に慣行の違う大企業とスタートアップのM&Aや、文化の違うクロスボーダーM&Aに向いている手法です。
デーティング投資のデメリット
株式売却が難しい
デーティング期間中に方針を転換したり、当初の目論見とは異なったりした場合、売却をすることもあります。しかし、売却先を探すことは難しいです。現状に鑑みても、売却先を見つけられず株式を保有し続けてしまった結果、投資企業と投資引受先企業の双方が不利益を被るケースが見受けられます。
デーティング投資の事例
ラクスル株式会社による株式会社ダンボールワンの買収
印刷・物流・広告など伝統産業のデジタル化を目指しているラクスル株式会社が2回の投資にわたって、ダンボール・梱包材の受発注プラットフォーム「ダンボールワン」を運営している株式会社ダンボールワンを買収しました。
マイノリティ出資:2020年11月 49.9%株取得
マジョリティ出資:2021年12月 残りの50.1%株取得
参考:ラクスル株式会社と株式会社ダンボールワンの連結に関するお知らせ | ダンボールワン | 梱包材EC国内シェアNo.1
CMA CGMによるCEVA Logisticsの買収
フランスを拠点とする世界有数の海運会社・コンテナ輸送会社CMA CGMはグローバル物流サプライチェーン企業CEVA Logisticsとの提携強化により、物流戦略に積極的に取り組んでいます。
マイノリティ出資:2018年4月 25%株取得
2018年10月 33%株保有に引き上げ
マジョリティ出資:2019年3月 TOBで買収(89.5%株保有)
参考:Shipping Gazette News – 欧州委員会がCMAのCEVA買収を承認
ポーラ・オルビスホールディングスによるトリコ(FUJIMI)の買収
化粧品メーカー大手のポーラ・オルビスホールディングスは、グループが所有する研究開発の技術や生産物流におけるシナジーの最大化を目指し、パーソナライズビューティケアFUJIMIを提供するトリコ株式会社に増資を行い、100%子会社化に着地しました。
マイノリティ出資:2019年10月 10.56%株取得
マジョリティ出資:2021年2月 100%子会社化
参考:パーソナライズビューティケアFUJIMIを提供するトリコ、ポーラ・オルビスホールディングスにグループ入りのお知らせ
プレイドグループによるEmotion Techの連結子会社化
CXM(顧客体験マネジメント)サービス「EmotionTech CX」を運営する株式会社Emotion Techは、CX(顧客体験)プラットフォーム「KARTE」を運営する株式会社プレイドを引受先とする第三者割当増資を行いました。
*第三者割当増資:特定の第三者に株式を有償で引き受けてもらうことで資金を調達する手法
Emotion Techの「感情データの解析や優先課題の可視化」における強みと、プレイドの「行動データ分析や顧客ごとに最適化されたCX提供」における強みを融合させ、より強力なソリューション開発に取り組む狙いです。また、Emotion Techは引き続きIPO(新規上場)を見据えた事業拡大を推進しています。
▲プレイドとEmotion Techの連携戦略を表す図
マイノリティ出資:2020年5月 4.5%株(B種優先株式)取得
マジョリティ出資:2021年9月 合計64%株保有に引き上げ
(普通株式18,615 株とA種優先株式36,289株、合計54,904株を既存株主から取得した上、Emotion Tech社が発行するC種優先株式10,235株を引き受け)
参考:Emotion Tech、プレイドグループへ参画し、CX領域での提供価値向上へ
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)による株式会社IRIAMの買収
株式会社ZIZAIが2018年10月に開始したキャラライブアプリ『IRIAM』はIRIAM社として子会社化の後、2020年8月にDeNAの出資を受け、利用者数・売上等を成長させていました。この間にDeNAは担当取締役1名を派遣しました。より積極的な成長資本の投資及びDeNAのライブストリーミングサービスの運営ノウハウの活用を実現するために、ZIZAIは子会社IRIAMの全株式をDeNAへ譲渡することに踏み切りました。
マイノリティ出資:2020年8月 20%株(A種優先株式)取得
マジョリティ出資:2021年7月 残りの80%株(普通株式)追加取得
まとめ
今回の記事ではデーティング投資について解説しました。これから事業会社とスタートアップが連携する「デート」が増えるにつれ、相性の良いM&Aペアが増加するでしょう。
参考:2022年注目のデーティング投資とは?最新4事例から徹底解説!
参考記事:M&Aクラウド、デーティング投資・セカンダリー売却の包括支援サービスを提供開始:時事ドットコム
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