スタートアップの人材獲得戦略、アクハイアとは?
スタートアップ企業が成長し、市場での競争力を高めるためには、優秀な人材の獲得が不可欠です。しかし、人材の採用や育成には時間と資源がかかるため、効率的な方法が求められます。アクハイア/アクハイヤー(acqui-hire)もしくはアクハイアリング(acqui-hiring)とは、人材獲得を目的としたM&Aのことを言います。「acquisition (買収)」と「hire (雇用)」を掛け合わせた英語の造語で、本稿では、Acqui-hireとは何か、そのメリットや実践方法について、事例を交えながら解説していきます。
スタートアップも含めた企業の人材不足
日本のビジネス界において、人材不足は深刻な課題として浮上しています。日本の企業の多くが人材の確保に苦慮しており、これは業種や地域を問わず広く見られる傾向です。厚生労働省のデータを見ても多くの日本企業が人材不足を抱えていることがわかります。特に技術系や専門職の人材不足が顕著で、ITエンジニアや医療関係者なども需要が高く、人材不足が企業の業績や成長に直接的な影響を与えるだけでなく、スタートアップにおける新たなビジネスの展開やイノベーションの阻害要因となっています。
現代のビジネス環境は急速に変化し、その中で企業が中長期的な価値向上を実現するための新しい経営戦略として「人的資本経営」が挙げられていますが、人的資本経営は、個々の人が持つ能力や知識、スキルを「資本」と捉え、その人的資本に最適な投資を行うことで最適なリターンを生み出す経営になるため、そもそもの人材が獲得できていないと成り立ちません。人材育成のためのリスキリング(=新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること)も同様です
人材獲得のさまざまな手段
1. 求人サイトの活用
企業が求人情報を掲載し、求職者がその情報を検索して応募するプラットフォームです。代表的なものにはリクルートエージェントやマイナビエージェント、Indeedや求人ボックスなどです。求人サイトを活用することで、広範囲の求職者にアクセスしやすくなります。また、様々な職種や地域に対応した求人を掲載できるため、適切な人材を効率的に獲得することができます。
2. ソーシャルメディア
ソーシャルメディアは、企業が自社のブランドや文化をアピールするための重要なツールとして利用されています。LinkedInやX(Twitter)、Facebookなどのプラットフォームを活用することで、企業の魅力を広くアピールすることが可能です。また、ソーシャルメディア上での情報共有やコミュニケーションを通じて、求職者との関係を構築しやすくなります。求人に強いビジネスSNSとしてWantedlyがあります。Wantedlyは、企業の持つミッションやビジョンに共感し、一緒に働きたいと思う人と繋がり、ビジョン・ミッションドリブンで採用することができるのでEXPACTでも活用しています。
キャリアフェアやイベントは、企業と求職者が直接対面し、交流する機会を提供します。これらのイベントに参加することで、企業は自社の文化や価値観をリアルタイムで伝えることができます。また、求職者も企業の代表者と直接話すことで、より深い理解を得ることができます。このような対面の機会は、両者の間に信頼関係を築く上で非常に有益です。
4. 社内紹介(リファーラル)制度
社内紹介制度は、現在の従業員が自身の知人や関係者を企業に推薦する制度です。従業員が自社を積極的に紹介することで、信頼度の高い候補者を獲得しやすくなります。また、社内紹介制度は従業員のモチベーション向上にもつながります。成功報酬やインセンティブなどの仕組みを導入することで、社員の参加を促進することができます。
5. 専門的な採用エージェントやヘッドハンター
専門的な採用エージェントやヘッドハンターは、企業が特定の人材を採用する際にサポートを提供する専門家です。これらのエージェントは市場のトレンドやネットワークを活用して、優秀な候補者をスカウトしたり紹介したりします。企業は自社のニーズに合ったエージェントを選択し、効果的な採用プロセスを進めることができます。
アクハイア(Acqui-hire)とは
Acqui-hireとは、企業を買収し、その主な目的が企業の人材の獲得である場合を指します。つまり、買収されたスタートアップのチームや人材が、買収企業の一員となり、その企業の成長や開発に参加することを意味します。
この手法は、新しい技術やアイデアだけでなく、優秀な人材獲得に焦点を当てています。買収した従業員を組織ごと獲得することで、エンジニアをはじめとした高度な技術やノウハウを持つ優秀な人材の確保ができるようになり、自社の事業の推進に役立てられます。
人材獲得と統合Acqui-hireは、企業が素早く優秀な人材を獲得するための効果的な手段です。買収されたスタートアップのチームは、買収企業に統合され、即戦力として活躍することが期待されます。買収されたスタートアップは、独自の技術や知識を持っている場合が多く、それを買収企業が取得することができます。
これにより、買収企業は市場での競争力を強化し、新しい製品やサービスの開発に役立てることができます。また従来の採用プロセスに比べて、Acqui-hireはスピードと効率性が高いと言えます。人材の採用や研修にかかる時間やコストを削減し、迅速な成長を実現することができます。
アクハイア(Acqui-hire)の実践方法
Acqui-hireを成功させるためには、適切な買収対象を選定することが重要です。買収対象のスタートアップが持つ技術や人材が、買収企業の成長戦略と一致しているかどうかを検討する必要があります。買収交渉では、両者の合意に達するための条件や価値の評価が重要です。買収企業は、スタートアップのチームや人材を獲得するための適切な契約条件を確立する必要があります。特に買い手側が求めている人材は買収後も引き続き経営者や役員、従業員として働いてもらうことになりますので、買収実行後も業績向上へ貢献してもらえるように準備する必要があります。
アクハイア(Acqui-hire)の事例とは
①FacebookによるInstagramの買収2012年、Facebookは写真共有アプリのInstagramを10億ドルで買収しました。この買収は、Instagramの優れたエンジニアリングチームとデザインチームを獲得することを目的としていました。InstagramチームはFacebookに統合され、Facebookの成長に貢献しました。
②GoogleによるWazeの買収2013年、Googleは交通ナビゲーションアプリのWazeを10億ドルで買収しました。この買収により、GoogleはWazeの優れた技術やユーザーの地理情報を取得し、Googleマップの改善と拡張に活用しました。発表によると、Googleは2010年から2013年前半までに約196社を買収し、推定で187億ドルを投じています。Googleはアクハイアを活用してスピード感を持って規模拡大をしているわかりやすい1社と言えます。
まとめ
Acqui-hireは、スタートアップ企業が成長し、競争力を高めるための重要な戦略の一つです。アメリカのシリコンバレーでは、優秀な開発者や技術者の獲得競争が過熱しており、エンジニアなどの人材不足が顕著です。
ゼロから開発チームを立ち上げてエンジニア募集をしても、適切な人材を集めるのは簡単ではありません。企業も人材もまるごと買収することで、優秀な開発チームを取り込み、新規サービスや研究開発をスムーズに進めることができるため、投資費用は掛かる傾向でありますが、成功すれば投資回収は早い可能性があります。
日本においてもエンジニア不足は深刻であり、エンジニア人材獲得の手段として利用されている傾向も感じられます。優れた人材の獲得や技術の取得、スピードと効率性の向上など、多くのメリットがあり、適切な買収対象の選定や交渉の達成が成功のカギとなります。
また、FacebookやGoogleなどの成功事例からも、Acqui-hireが成長戦略に与える影響をうかがい知ることができます。日経ビジネスにおいてもその有効性が記事になっています。今後も、スタートアップ企業が成長するための重要な手法として、Acqui-hireの活用がますます注目されることでしょう。
EXPACTではM&Aアドバイザーにも強みがあります。スタートアップのビジネスの成功のお手伝いをしますので、些細なことでも話を聞いてみたいという方はお問い合わせください。