
皆さんは「デザイン思考」という言葉を聞いたことがありますか?「商品やサービスを使うユーザーの視点からビジネス上の課題を見つけ、解決策を考える手法(引用:GLOBIS CAREER NOTE)」のことを指し、数年前から重要視されています。この思考を常に活用しているのが「デザイナー」ですが、D4V(Desugn for Ventures、以下D4V)の調査リポートによると、日本国内においてデザイナーが不足していることが分かりました。
本記事では、調査リポートを元にデザイナー不足の原因と背景について解説していきます。
そもそもスタートアップって?
解説に入る前に、「スタートアップ」とは何かについて説明します。スタートアップとは、新規事業を立ち上げる企業や個人のことを指し、一般的には、特定の社会問題を解決するための新たなアイデアや製品、サービスを開発し、それを市場に投入することを目指します。
スタートアップの定義について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
ミッションドリブンで始まるスタートアップは、企業の存在意義(Purpose)や目的(Mission)、ビジョン(Vision)や価値(Value)を明確にすることで、組織の結束力を高め効率的な意思決定にもつながります。
上記の中でも特に存在意義(Purpose)は、「会社が何のために存在するのか?」を表すものであり、「パーパス経営」という言葉があるほど重要視されています。VUCAと呼ばれる不確実性の高い時代の中、パーパスによって存在・存続の意義を示すことが、会社の持続に繋がるからです。パーパスに関しては下記記事で説明していますので、ぜひ読んでみてください。
デザイナーってどんな職業?
『デザイナー』という職業に明確な定義はありませんが、「与えられた制限の中で、求められた最大限の結果を生み出すプロセスのその全てに関わる職業(引用元:btrax)」と言われています。
1)正しい情報を持っている人を探し、その情報を正しい人に伝えること
2)デザイン作業
3)出来たものの情報を正しい人に正しい人に伝えること
の3つがデザイナー業務には必要です。
デザイナーと一口にいっても、主に以下の5つのようなスキルに別れます。
(引用:D4V) |
スタートアップにとってのデザイナー採用への障壁
D4Vのシニアマーケティングマネージャーである牧瑤子氏は、今回調査リポートを作成した理由として、①デザインを通じてスタートアップの成長を支援する立場として、日本のスタートアップのデザインの現況を俯瞰したデータが必要だった②スタートアップの経営層とデザイナーをつなぐための『共通言語』をつくりたかった、の2点を挙げています。
これらの理由から、日本のスタートアップにおけるデザインの部分は不透明な部分が多く、経営層の認識しているスタートアップでのデザイナーの必要性と、デザイナーの認識しているスタートアップで活躍できる可能性との間に乖離があることが分かります。
また、調査の結果、現在デザイナーが関わっている領域は以下のようになりました。
D4Vのレポートを元にEXPACTで作成
この結果から、日本のスタートアップのデザイナーは、プロダクト戦略や経営戦略に関わる機会が限られていることが分かります。海外では、開発者やマーケターとの関わりが頻繁にあるだけでなく、新規企画や運営などに携わる場合が多く見られます(参考:brunch story)。この違いは、業務に適任のデザイナーが社内にいなかったり、経営側からデザイナーへの期待値が低く『プロジェクトの上流にデザイナーは必要ない』と思われていることが理由として考えられるそうです。
実際、「あなたの会社の経営幹部に、デザイナー(CDO、CXO、CCOなど)はいますか?」という質問に対して、Yesが15%、Noが85%という結果になっています。このことからも、日本のスタートアップにおけるデザイナーの業務領域には限りがあると言えます。
一方でデザイナーの重要性を実感している企業もあります。「スタートアップとしてデザインに取り組むうえで、課題と感じていることはなんですか?(複数選択可)」という質問に対して、「適切なデザイン人材を見つけられない・リーチできない」が56%にも達しました。「デザイナーの採用要件を定められない」も32%を占めるなど、経営に関わることのできるデザイナーの重要性を理解している企業側としても、デザイナーの採用に難航していることが分かります。
D4Vのレポートを元にEXPACTで作成
デザイナーがスタートアップとして採用される際の「1人目デザイナーという壁」とは
また、デザイナー側にも「1人目のデザイナー(First Designer)として採用される」という、スタートアップに就職する際の障壁があります。デザインの土壌がない組織に対して、その価値や重要性をゼロから啓発していく必要があり、デザインスキルに加えてビジネススキルやリーダーシップスキルも求められるからです。細部のデザインにこだわり続けるよりも、アウトラインを引き、代表やPdMと感覚のすり合わせまでの早さや、ビジネスの上流まで入っていく行動力・コミュニケーション能力が必要とされます。このような、ゼネラリストがスタートアップへの就職を希望するケースはまだ少なく、需要に対して供給が不足しているのが現状です。(参照:Dr’s Prime OFFICIAL BLOG)
それでもスタートアップにデザイナーが必要な理由
デザイナーがスタートアップにとって重要なのは、その職業の特徴に理由があります。自らのデザインを説明する機会が多いため、言語化する能力に長けている場合が多く、これが企業の打ち出すカルチャーのスムーズな浸透などにもつながります。この役割の重要性から、CDO(チーフ・デザイン・オフィサー)という役職を設けるスタートアップも現れました。またD4V高橋氏によると、クライアントに対し、デザイナーが経営者の言葉を巧みに言語化・視覚化することで、プロダクトが無い状態でも契約を取り付けた例もあるそうです。
スタートアップでは、会社内での議論や考え、これからのビジョンを第三者が理解しやすいように示すことが特に必要になります。この際、デザイナーのように頭の中をカタチにする力が要求されるため、スタートアップのデザイナー不足が問題視されているのです。
デザイナーとしてのスタートアップ創業とその魅力
ここまで、日本のスタートアップ業界はデザイナーが就職するには環境が整っていない点をお伝えしてきましたが、デザイナーが創業し大きな成功を収めたケースも多くあります。フリマアプリ「楽天ラクマ」の前身である『FRILL』がその内の一つです。利用したことのある方も多いのではないでしょうか?
FRILLの創業者である竹渓潤さんは、美大のデザイン学科を卒業後、ECナビ(現VOYAGE GROUP)に新卒デザイナーとして入社します。平日はデザイナーとして働く傍ら、新卒の同期と一緒に、週末を使っていくつかのウェブサービスを開発していました。その後、本格的にディレクションを学ぶために株式会社ライブドアに転職し、新規サービスの企画・開発に携わります。この後、新卒の際に週末プロジェクトを共にしていた同期と共に、「Fablic」を取締役・デザイナーとして共同創業し、日本初のフリマアプリ「FRILL」をリリースしました。後にFablicは楽天グループとなり、2018年7月1日には楽天株式会社に吸収合併されています。
デザイナーとして自社をEXITさせた竹渓さんは、スタートアップの魅力として「楽しさ・やりがい・リターン」を挙げています。
(参考:takejune) |
下請けの作業が多くなりがちなデザイナーですが、スタートアップ創業のように思考と実行の繰り返しを早いスピードで行える環境により、キャリアを大きく成長させることが出来ます。
終わりに
スタートアップとデザイナーという組み合わせを新鮮に感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか?。プロダクトのデザインにとどまらず、「頭の中身を言語化・可視化する」という役割に焦点を当てるととても重要なポジションであることが分かります。まだ数が少ないことからデザイナー採用にお困りのスタートアップも多いかもしれません。
EXPACTでは、人材採用支援も行っております。デザイナーに限らず採用にお困りの場合は、お気軽にお問い合わせください。
執筆: 金野彩音