スタートアップ企業が銀行融資を受けるためのガイド
創業初期のスタートアップ企業が直面する最大の課題の一つは、資金調達です。多くの起業家が抱える疑問は、「どのようにして資金を確保すれば良いのか?」というものです。
特に、エクイティファイナンスと並んで銀行融資を受けることは、多くのスタートアップにとって難しい道のりとなりがちです。しかし、適切な情報と準備をもってすれば、この課題を乗り越えることは可能です。
創業初期の融資の現状
創業初期の企業にとって、民間銀行からの融資を受けることは一般的に難しいとされています。これは、事業内容や業績の実態が明らかにされていないため、銀行側がリスクを避ける傾向にあるからです。しかし、諦める必要はありません。地方銀行や信用金庫、日本政策金融公庫など、創業融資を受け付けている金融機関は存在します。
どういったケースで銀行借入を選択すべきか
エクイティファイナンスと銀行借入(デットファイナンス)は、資金調達の主要な手段であり、それぞれにメリットとデメリットがあります。エクイティファイナンスは株式の発行や出資による資金調達であり、返済義務がないのに対し、デットファイナンスは借りたお金を返済する必要があります。
以下のケースでは、銀行借入を選択することが適切かもしれません:
1. 経営権の維持
エクイティファイナンスでは、新たな株主が経営に参加する権利を持ちますが、デットファイナンスでは融資元が経営に関与することはありません。経営権を維持したい場合、銀行借入が適しています。
2. 資金の返済能力がある場合
返済計画に基づいて資金を返済できる見込みがある場合、銀行借入は企業の信用を構築する機会となります。また、利益が出ている企業は、利益に対する税金を支払う代わりに、利息費用を経費として計上できるため、税負担を軽減できる可能性があります。
3. 大規模な資金が必要な場合
銀行借入は、設備投資や運転資金など、大規模な資金を一度に調達するのに適しています。銀行からの融資は、比較的大きな金額を借り入れることが可能です。
4. 短期間での資金調達が必要な場合
急な資金繰りに対応するため、短期間で資金を調達する必要がある場合、銀行借入は迅速な手続きが可能な場合があります。
5. 信用保証協会の保証が得られる場合
信用保証協会の保証が得られる場合、プロパー融資では審査に通過できない場合でも、保証付きの条件で借入が可能になることがあります。
スタートアップが直面する銀行融資に対する不満
スタートアップが銀行融資に対して抱える不満の声は、主に手続きの煩雑さ、審査の厳しさ、返済条件の厳しさ、金利の高さに集約されます。これらの不満は、スタートアップの特性と銀行融資の基準が合致しないことに起因しています。
手続きが煩雑
スタートアップは、業歴が短く、過去の業績によって収益力や返済力を示すことが難しいため、銀行融資の申請プロセスが特に煩雑に感じられます。銀行は貸し倒れリスクを避けるために、詳細な審査を行う必要があり、これが手続きの複雑化につながります。
審査が厳しい
銀行は、融資の際に企業の財務状況や事業計画の実現可能性を厳しく審査します。スタートアップは、業歴が短い、または事業モデルが未検証であることが多く、これらの条件下では銀行の審査基準を満たすことが困難になります。特に、経営計画や事業計画に矛盾があると、融資が断られる要因になります。
返済条件が厳しい
民間の金融機関による間接融資は返済が前提であり、売上がすぐには見込めないスタートアップにとって、銀行からの積極的な支援を期待することは難しいです。これは、返済計画が現実的でない場合、スタートアップにとって負担が大きくなることを意味します。
これらの不満を解消するために、スタートアップはファクタリングやベンチャーキャピタルからの資金調達など、銀行融資以外の選択肢を探ることが増えています。これらの方法は、スタートアップの特性に合わせた柔軟な資金調達が可能であり、迅速な資金調達や返済条件の柔軟性など、スタートアップにとって有利な条件を提供することが多いです。
金利が高い
スタートアップ向けの融資では、一般的な企業融資に比べて金利が高く設定されることがあります。これは、スタートアップが持つ高いリスクを金融機関が価格に反映させるためです。例えば、りそな銀行はスタートアップ向け融資において金利6%でも需要を見込んでいます。また最近では、金利は高いが赤字でも大型調達が可能なベンチャーデットの利用も増えています。
高い金利は、スタートアップの財務負担をさらに増加させる要因となります。これらの不満を解消するために、スタートアップはファクタリングやベンチャーキャピタルからの資金調達など、銀行融資以外の選択肢を探ることが増えています。
これらの方法は、スタートアップの特性に合わせた柔軟な資金調達が可能であり、迅速な資金調達や返済条件の柔軟性、そして比較的低い金利など、スタートアップにとって有利な条件を提供することが多いです。
融資審査に影響する!?最適なオフィスとは?
コワーキングスペースやシェアオフィスを利用している場合、融資を断られる可能性があるという懸念があります。これは、バーチャルオフィスを利用している場合にも同様で、口座開設を拒否されることがあると指摘されています。
これは、架空融資や口座売買などを防ぐために厳しくチェックしているはずです。そのため金融機関が運営するコワーキングスペースや先輩利用者に融資や口座開設に問題ないかヒアリングすることも重要です。
融資を受けるためには、自社の専有スペースがあるかどうかが審査の判断材料となることがありますが、レンタルオフィスのように専有スペース(個室)がある場合は、融資の審査が通りやすいとされています。
しかし、これは必ずしもコワーキングスペースやシェアオフィスを利用しているからといって融資が受けられないというわけではありませんが注意が必要です。また固定電話があるかどうかも聞かれることがありますのでIP電話等で会社の電話回線を確保することも重要です。
初めは、自宅やコワーキング名の表示がないスペースに登記をするのが無難でしょう。あらかじめ法人設立前に希望する金融機関にご相談ください。
コワーキングスペースやシェアオフィスの利用時の注意点
- 融資審査への影響: コワーキングスペースやシェアオフィスを利用していること自体が融資審査に直接的なマイナス影響を与えるわけではありません。重要なのは、事業の健全性や将来性を示すことができるかです。
- 金融機関の懸念: 一部の金融機関では、架空融資や口座売買を防ぐために、オフィスの形態を厳しくチェックする場合があります。そのため、事前に金融機関に相談することが重要です。
専有スペースの有無
- 融資審査のポイント: 自社の専有スペースがあるかどうかは、融資審査において一定の影響を与えることがあります。レンタルオフィスのように専有スペース(個室)がある場合は、融資審査が通りやすい傾向にあります。
固定電話の有無
- 審査の一要素: 固定電話があるかどうかも、金融機関によっては融資審査の際に確認されることがあります。IP電話などを利用して、会社の電話回線を確保することが望ましいです。
日本政策金融公庫の創業融資
日本政策金融公庫は、創業前・創業時の資金調達先として特に推奨されています。審査に通りやすい傾向がありますが、審査基準は決して甘くはありません。具体的な事業計画や取引先一覧などを事業計画書に記載することが重要です。明確なビジョンと計画があれば、融資の扉を開く鍵となります。
日本政策金融公庫からの融資においては、登記場所がコワーキングスペースやシェアオフィスであっても審査には影響しません。重要なのは、自己資金の有無や適切な事業計画書を提出することで、事業内容が健全であることを示すことです。
ネット専業銀行の役割
ネット専業銀行は、インターネットを介した金融サービスを提供する銀行で、実店舗を持たないことが特徴です。これにより、従来の銀行と比較して低コストで運営が可能となり、そのメリットを顧客に還元する形で多様なサービスを提供しています。
振込や引き落としのサービス
ネット専業銀行では、クレジットカードの利用代金や携帯電話料金、家賃、保険料などの毎月の支払いを、顧客の普通預金口座から自動的に引き落とす口座振替サービスを提供しています。このサービスは、顧客が毎月の支払いを忘れることなく、自動的に管理できるため、非常に便利です。
インターネットバンキングの利便性
ネット専業銀行の最大の特徴は、インターネットバンキングによる利便性です。顧客はパソコンやスマートフォンを使用して、いつでもどこでも銀行口座の引出・預入、振込・振替を行うことができます。これにより、銀行の窓口やATMに行く手間が省け、時間や場所にとらわれずに金融取引を行うことが可能になります。
ネット専業銀行のメリット
- 場所にとらわれないサービス提供: インターネットが使える環境であれば、自宅や外出先からでも残高照会や振込・振替が可能です。
- 24時間手続きが可能: インターネットバンキングでは、銀行の窓口やATMの利用時間に制限されずに、24時間いつでも手続きができます。
- 自動引き落としによる便利な支払い管理: 毎月の支払いを自動的に普通預金口座から引き落とし、給与振込と合わせて収支管理を一元化できます。
- 日本政策金融公庫の新創業融資の引き落とし口座にも活用可能:GMOあおぞら
ネット銀行や住信SBIネット銀行、PayPay銀行等が利用可能です。
ネット専業銀行は、創業初期のスタートアップ企業にとっても、資金管理や日々の金融取引を効率的に行うための強力なツールとなり得ます。低コストで利便性の高いサービスを提供するネット専業銀行を活用することで、スタートアップ企業は資金調達や資金運用の面で大きなメリットを享受できるでしょう。
地方銀行と信用金庫の役割
地方銀行や信用金庫は、地域に根ざしたサービスを提供しており、創業融資を受け付けていることがあります。
特に信用金庫は地域貢献を重視しており、管轄内に事業所がある場合に融資を行うことが多いです。これらの金融機関は、地域経済の活性化を目指しており、新しいビジネスの成長を支援する意欲があります。
コワーキングスペースやシェアオフィスでも口座開設できるか最寄りの金融機関に事前に確認しましょう。
制度融資の活用
日本政策金融公庫を除く、民間の金融機関では信用保証協会が創業間もない会社の債務保証をする制度融資を利用することで、金融機関からの融資を受けやすくなります。制度融資は自治体、金融機関、信用保証協会が連携して提供しているもので、創業初期の企業にとって大きな支援となります。
融資の審査と返済計画
融資を受ける際には、利息を含めた借入金額を無理なく返済できる計画性が必要です。毎月の経費や税金を考慮した上で、無理のない返済計画を立てることが求められます。返済計画の現実性が、融資の可否を左右する重要な要素となります。
売上や利益水準と既存の借入返済を加味していくら借り入れできるか、逆にいくら借入するためには、売上、利益がこれくらい必要であるという数値も計算から導き出すことができます。
借入希望額に見合う、実績や事業計画が必要となります。概算では平均月商の2〜3ヶ月分が適正な運転資金の範囲内となり、そこから既存の借入返済分を控除することで新たに借入できる余力を導き出し、新規(真水)部分の借入可能額を計算することができます。
銀行融資を受けるために必要な書類
銀行融資を受けるためには、いくつかの手続きと必要書類の提出が求められます。以下は、一般的に必要とされる書類のリストですが、銀行や融資の種類によって異なる場合があるため、具体的な融資を申し込む際には銀行に確認することが重要です。
法人の場合
- 決算書(財務諸表): 貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書などが含まれます。
- 試算表: 期中の資産、負債、売上、利益をまとめた集計表です。
- 資金繰り表: 収入と支出をまとめた集計表で、現金収支の流れを把握するために使用されます。
- 事業計画書: 事業の計画や将来性を示す重要な書類です。
- 銀行取引一覧表: 銀行取引の履歴を示します。
- 納税証明書: 税金の納付状況を証明する書類です。
- 商業登記簿謄本: 法人の登記情報を示す書類です。
- 本人確認書類: 法人代表者の身分を証明する書類です。
個人事業主の場合
- 確定申告書: 個人事業主の場合、決算書の代わりに確定申告書が使用されることがあります。
- その他: 法人の場合と同様の書類が必要になることがあります。
共通書類
- 資金繰り表
- 事業計画書
- 本人確認書類
融資申請時には、これらの書類を準備し、銀行の審査を通過する必要があります。審査では、事業の継続性や将来性、返済能力などが評価されます。また、既に融資を受けている場合には、リスケジュール(返済条件の変更)を検討することもありますが、これには経営改善計画書や資金繰り表などの追加書類が必要になることがあります。
まとめ
銀行借入を選択するかどうかは、企業の現在の財務状況、将来の収益予測、経営権の維持希望、資金の用途、返済能力など、多くの要因を考慮する必要があります。エクイティファイナンスとデットファイナンスの違いを理解し、それぞれのメリットとデメリットを比較検討した上で、最適な資金調達方法を選択することが重要です。
創業初期のスタートアップ企業が銀行融資を受けるためには、地方銀行や信用金庫、日本政策金融公庫などの制度を活用することが有効です。融資を受けるためには、現実的な事業計画の提示と返済計画の策定が重要となります。
また、信用保証協会を通じた制度融資を利用することで、金融機関からの融資を受けやすくなる可能性があります。資金調達はスタートアップの成長に不可欠なステップです。適切な準備と情報収集により、この課題を乗り越えましょう。
弊社でも融資を受けるためのアドバイス等も行っておりますのでお気軽にご相談ください。