
はじめに
― 価格を「売るための仕組み」から「価値を伝える設計」へ_
スタートアップがプロダクトを市場に届ける際、価格設計はしばしば最後の調整事項として扱われがちです。機能が揃い、PMFの兆しが見え、ようやく「いくらで売るか」を考え始める。しかし実際には、価格は単なる収益回収の手段ではなく、「このプロダクトは、顧客にとって何が価値なのか」を最も端的に表現するメッセージです。
特にSaaSやAPIビジネスでは、価格の置き方そのものが、プロダクトの思想や成長モデルを外部に伝えます。その中で近年注目されているUsage-Based Pricing(従量課金)は、価格を通じて価値定義を顧客と共有しようとする、非常に思想性の強いモデルだと言えます。
Usage-Based Pricingとは「利用=価値」という前提に立つこと
Usage-Based Pricingとは、ユーザーの利用量や消費量に応じて料金が変動する価格モデルです。ユーザー数や契約期間ではなく、「どれだけ価値を使ったか」を課金の基準に置きます。
APIコール数、処理件数、保存データ量、実行時間など、課金単位はプロダクトごとに異なりますが、共通しているのは「利用された分だけ、価値が発生している」という前提です。顧客は、成果や便益を実感した分だけ支払うため、価格に対する心理的な納得感が生まれやすくなります。
これは言い換えれば、「売った時点で価値が発生する」という発想から、「使われた時点で初めて価値が成立する」という発想への転換でもあります。
なぜ今、Usage-Based Pricingが注目されているのか
Usage-Based Pricingが注目される背景には、顧客行動そのものの変化があります。特にBtoB SaaSの世界では、導入のハードルが大きく下がり、スモールスタートが当たり前になりました。
顧客はまず試し、使い、価値を確認してから拡大したいと考えています。そのため、「最初から高額な固定費を払う」ことへの心理的抵抗は年々強まっています。Usage-Based Pricingは、この抵抗を構造的に取り除きます。使わなければ安く済み、使えば使うほど価値を実感しながら支払う構造になるからです。
このモデルは、顧客とベンダーの利害を揃える効果も持ちます。顧客が成果を出せば出すほど、ベンダーも収益を得る。逆に、使われなければ収益も伸びない。この緊張関係は、プロダクトの質を高める方向に働きます。
Usage-Based Pricingはプロダクト設計を内側から変える
Usage-Based Pricingを採用すると、価格だけでなくプロダクト設計そのものが変わります。収益が「利用量」に直結するため、使われない機能や価値の出ない体験は、直接的にビジネスリスクになるからです。
その結果、プロダクトチームは常に、「どの行動が価値を生んでいるのか」「その行動は自然に増えていく設計になっているか」「利用量が増えるほど体験は良くなっているか」といった問いに向き合うことになります。
Usage-Based Pricingは、プロダクトを「売り切るもの」ではなく、「使われ続けるもの」として設計することを強制します。価格が、プロダクト品質の監視装置として機能し始めるとも言えます。
PLGとの相性が良いのは偶然ではない
Usage-Based PricingがProduct-Led Growth(PLG)と相性が良いのは、単なるトレンドの一致ではありません。両者は思想レベルで強く結びついています。
PLGでは、プロダクトの利用体験そのものが成長の起点になります。ユーザーはまず使い、価値を理解し、その延長線上で課金が発生します。従量課金は、この流れを最も歪みなく実装できる価格モデルです。
営業が無理にアップセルを仕掛けなくても、ユーザーが成果を出すほど利用量が増え、自然に支払いも増えていきます。価格が、成長のブレーキではなく、アクセルとして機能します。
Usage-Based PricingはGrowth Loopを壊さず、むしろ強化
Usage-Based Pricingは、Growth Loopの設計とも非常に相性が良いモデルです。なぜなら、利用が増えること自体が価値となり、その価値が次の利用や導入を生みやすいからです。
たとえば、チーム内での利用が広がることで処理量が増え、成果が可視化されます。その成果が他部署や他社に共有され、新たな導入や利用拡大につながる。この循環が回るほど、利用量と価値は相互に強化されていきます。
従量課金は、このループを途中で遮断しません。むしろ、「使うほど高くなる」という違和感ではなく、「成果が出るほど投資する」という自然な感覚を作り出します。
Usage-Based Pricingの難しさは「正直すぎる」
一方で、Usage-Based Pricingは万能ではありません。このモデルは、プロダクトの価値構造を非常に正直に顧客に突きつけます。設計を誤ると、その歪みはすぐに不安や不満として表面化します。
利用量と価値の関係が分かりにくい場合、顧客は「なぜこれにお金を払っているのか」を理解できません。また、料金の予測が難しいと、特にBtoBでは社内承認が通らず、導入自体が止まってしまいます。さらに、コスト構造と課金単位がズレていると、使われるほど赤字になるという事態すら起こり得ます。
そのため、上限設定、段階課金、ボリュームディスカウント、利用量のリアルタイム可視化など、「安心して使い続けられる設計」が不可欠になります。
成功するUsage-Based Pricingは「使うほど得をする構造」を持っている
うまく機能している従量課金モデルに共通しているのは、利用量が増えることが、ユーザーにとっても明確なメリットになっている点です。
使うほど成果が出て、その成果が次の行動を生み、その行動が自然に利用量を増やす。この循環が成立していない場合、Usage-Based Pricingは単なる「コストが膨らむ仕組み」として受け取られてしまいます。
価格は、価値体験の延長線上に置かれている必要があります。
組織とKPIの見方も変わる
Usage-Based Pricingを導入すると、組織のKPI設計も変わります。契約数や席数よりも、「価値行動の回数」や「利用の深さ」が重要な指標になります。
これにより、マーケティング、プロダクト、カスタマーサクセスが同じ問いを共有しやすくなります。「どうすればユーザーの利用が自然に増えるか」という一点に、全員の関心が集まるからです。
まとめ
Usage-Based Pricingは、単なる価格モデルではありません。それは、「このプロダクトは、使われた分だけ価値を生む」という強い意思表示です。
プロダクトが本当に顧客価値を生み出しているのであれば、従量課金はその価値を最も正直に、最も継続的に伝える方法になります。一方で、価値と利用量が噛み合っていなければ、その歪みはすぐに露呈します。
だからこそUsage-Based Pricingは、スタートアップにとって試金石とも言える価格設計です。自社のプロダクトが「使われるほど強くなる構造」を持っているかどうかを、改めて問い直すためのレンズになるはずです。
参考資料
・従量課金モデルのすゝめ #1|海外で従量課金SaaSが急増する背景とハイブリッドモデルの台頭 | One Capital, Inc
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