▲「UKRAINIAN STARTUP WALL OF FAME」(画像:LIFT99)
今、政治的な関心が高いウクライナですが、実はスタートアップ業界ではもっと早くから注目を集めていました。
今回の記事ではウクライナ発のスタートアップにはどのような企業があるのか解説していきたいと思います。
ウクライナ発のスタートアップとは!?
ウクライナは、AI、サイバーセキュリティ、自然言語処理、ナノテクノロジーに強みがあると言われています。そのため、新型コロナ禍においてもウクライナのIT産業は成長を見せており、ウクライナの非政府団体Better Regulation Deliverly Officeによると、2020年のIT産業輸出額は前年比20%増の50億円と大きく伸びたと発表されています。
これは、投資ファンド 「Aベンチャーズ」によると、新型コロナ禍によりビジネスのオンライン化が進んだことで、様々なデジタルサービスへのニーズが高まったことが要因だと分析されています。
投資額でみると、2020年の国内外の投資額は5億7,100万米ドル(前年比5.0%増、日本円にして約685億円,1ドル120円換算)です。特に米国の投資家から出資を多く受けており、FacebookやInstagramに投資したAndreessen Horowitzもウクライナ発スタートアップに投資しています。
ソフトウェア開発に必要な課題管理、バージョン管理、コードレビューなどの機能を統合したSaaSを提供しているGitLabの起業家もウクライナ出身です。同社は時価総額64億ドルを超え、2021年8月時点で推定登録ユーザー数は3,000万人を記録しています。その中には、ナスダック、ゴールドマンサックス証券なども含まれています。ただし、多くの人からはサンフランシスコ発の企業として知られています。
参考:JETRO「新興国スタートアップ動向調査-各国のエコシステム編-[アルメニア、ウクライナ、ジョージア、ベラルーシ、モルドバ]」(2022年1月)
「UKRAINIAN STARTUP WALL OF FAME」とは
ウクライナのスタートアップはこれまで、「ウクライナ発」であることを隠す傾向にありました。ユニコーン企業として世界的知名度の高いGrammarlyやGitLabもサンフランシスコ発であるとしています。これは、新たなスタートアップ起業家の輩出やスタートアップコミュニティの形成にあたって、大きな障害になっています。
そこでエンジェル投資家Ragnar Sassが創設したLIFT99は、「UKRAINIAN STARTUP WALL OF FAME」と呼ばれる、ウクライナのスタートアップを紹介する「名声の壁」を作りました。この「名声の壁」によって、ウクライナには素晴らしいスタートアップや起業家がいることを示す狙いがあります。
この壁で紹介されるには、6つの基準を満たす必要があります。
1.You have to be a startup (あなたはスタートアップでなければなりません )
企業の資金調達ではなく、エンジェル/ベンチャーキャピタルが存在するハイテク製品会社です。
2.Your business & product are clear and transparent (あなたのビジネスと製品は明確で透明です )
あなたは日陰のビジネスに関与しておらず、あなた自身が行っていることについて正直でオープンであり、最初にサービス品質に焦点を合わせています。
3.You have at least 1 Ukrainian founder (少なくとも1人のウクライナ人創設者がいます )
ウクライナ人は、ビジョンを実現したり、新しいゲームを発明するなど、グローバル視点でビジネスを展開できるからです。
4.You have a significant presence in Ukraine – minimum 40% of your team is located in Ukraine(あなたはウクライナで重要な存在感を示しています-あなたのチームの最低40%はウクライナにいます)
あなたは地元の実体を持っています、あなたはウクライナに職場を作り、あなたはウクライナ政府に税金を支払い、あなたはチームを教育して育てます
5.> $2M annual revenue and/or > $5M+ funding(200万ドルの年間収益および/または500万ドル以上の資金調達)あなたのビジネスは機能していて、ユーザーがいて、市場はあなたを好意的に扱っており、あなたはたくさんの牽引力を持っており、あなたは成長に集中しています
6.70% – 100% YoY growth (前年比70%〜100%の成長 )
非常に速く成長するので、誰もが競争しようとするのを思いとどまらせます
ウクライナのスタートアップ企業一覧
▲「UKRAINIAN STARTUP WALL OF FAME」(画像:LIFT99)
2019年に設置された際は15社でしたが、2020年には21社に増えました。ウクライナ発で上記の条件を満たしている21社について解説していきます。
AJAX SYSTEMS
セキュリティシステムのメーカーであり、最も有望なウクライナのスタートアップの1つです。従業員数(2017年と2018年にほぼ2倍)、収益(2017年に5倍、2018年に2倍)、および生産量(2017年には3.7倍、2018年には2.4倍)の驚異的な成長を示しています。
創設者兼ディレクターであるAleksandr Konotopskyiは「AJAX SYSTEMSは非常に速いペースで成長しており、収益の70%以上がEUを中心とする75か国以上での輸出販売によるものです。私たちのチームの中核がウクライナのエンジニアと世界クラスの開発者であることを嬉しく思います。彼らの仕事の成果を誇りに思っています」とコメントしています。
ALLSET
顧客に対して効率的にサービス提供するのに役立つ、レストラン予約と食材の先行予約サービスです。Googleと提携し、”Greycroft”と”Andreessen Horowitz”から1,000万ドルを調達しました。2020年時点で 820万米ドルを調達し、累計調達額は1660万米ドルに達しています。
2019年の時点で、パートナーとなった2,000以上のレストランと、ニューヨーク、サンフランシスコ、ロサンゼルス、シカゴを含む12のアメリカの都市でサービスが利用できます。
さらに2020年には、非接触ピックアップとオンサイト注文にピボットしました。
ATTENDIFY
イベントのモバイル化を支援するSaaSプラットフォームであるAttendify(元KitApps)は、グローバルビジネスで成長したウクライナのスタートアップの代表例です。
現在、ATTENDIFYのモバイルアプリは86か国で使用されており、14,000のイベントと3,500を超えるクライアントにサービスを提供しています。その中にはGoogle、Cisco、Facebook、UEFA、TEDx、Uber、PayPal、Courseraといった世界的に有名な企業も含まれています。
COMPETERA
小売業者が毎日最適な価格を設定するのに役立つAIを活用したプラットフォームです。26か国18の業界に120以上の顧客がいるCOMPETERAは、外部投資の取引は一度もありませんでしたが、それでも百万ドル規模のビジネスを成長させることができました。
CEO兼共同創設者の”Alexander Galkin”は「私たちは1日あたり数万の価格で始めましたが、現在は数千万の価格で作業しています」とコメントしています。
DEPOSITPHOTOS
2009年に生まれたこのスタートアップは、現在ニューヨークに本社を置くロイヤリティフリーの大手フォトバンクです。1億7,000万枚以上の写真や動画が入手できます。現在192か国で運営されており、400人以上を雇用しており、”Shutterstock” や ”GettyImages” などと競合するフォトバンク業界のトップ5に位置づけられています。
創設者である”DmitrySergeev”は「私はシリアルアントレプレナーであり、自分自身を単なるフォトバンク創設者とは見なしていません。 明日、お金をもたらす火星に飛ぶ必要がある場合は、十分なエネルギーと時間があれば、それを行います。」
GRAMMARLY
コミュニケーションを改善することで生活を改善することをミッションに掲げており、毎日2,000万人以上が使用する人工知能と自然言語処理を用いたデジタルライティングツールを提供しています。
GRAMMARLYは2009年にキエフで設立されました。2017年5月に最初の資金調達を受けて以来、Grammarlyはユーザーベースを3倍以上に増やし、多数の製品改善と新機能をリリースしました。2019年、Grammarlyは第2ラウンドの資金調達で9千万ドルを調達し、伝説的なユニコーンの地位に到達しました。
Grammarlyには現在、すべてのオフィスに約240人のチームメンバーがおり、そのうち約140人がキエフに拠点を置いています。また、シアトルを拠点とする企業Docugamiに最初の投資を行いました。2022時点では、評価額130億ドルを超え、デカコーン企業となっています。
CEOであるBradHooverは2,000万人以上のユーザーがいることに対して、次のように述べています。「私たちはエキサイティングな段階にいるが、まだ出発地点に過ぎません。ユーザーは世界の20億人の英語を話す人々の1%です。まだまだ長い道のりです。」
INVISIBLE.IO
キエフの中心部に本社を置く米国とウクライナのソフトウェア開発会社です。同社はSalesforce、Oracle、Microsoft、SAPなどと提携していて、複雑なエンタープライズアプリケーション(CRM、ERP、ドキュメント管理など)と、チームが1日中使用する環境(Office 365、Outlook、Gmail、Lotus Notes、モバイルクライアントなど)との統合におけるグローバルリーダーの立ち位置を築いています。これらのツールを使用すると、ユーザーは、Office 365、IBM Notes、Gmailなどのお気に入りのコミュニケーションアプリケーションを離れることなく、顧客や企業の情報を操作できます。
共同創設者のVlad Voskresenskyは「私はアメリカが大好きですが、ウクライナはさらに大好きです。私は永遠にウクライナを去るつもりはありません」 とウクライナ愛を語っています。
MACPAW
Oleksandr Kosovanが寮に住み、教育費を支払うために3つの仕事をしている間に、彼が自分で書いたコードが、現在MACPAWで最も人気のあるソフトウェアになっています。 現在、世界中のMacの約5分の1が同社のソフトウェアを実行しています。最も有名なものの中には、CleanMyMac、SetApp、Gemini 2があります。2018年の収益は2300万ドルを超え、外部資金なしで0から構築されました。
PEOPLE.AI
2016年に設立された同社は、データ収集の自動化と適格な予測により、顧客の状況変化に合致する最良の営業活動を実現するツールを提供しています。ごく最近、同社は5億ドルの非公式評価で脅威の6000万ドルを調達しました。また、ClosePlanを買収しました。
CEOのOleg Rogynskyy氏は、Salesforce内の不要データを「掃除」した経験から、「データの入力は面倒で時間がかかり、手動の「掃除」が必要な、このやり方では、ビジネスの成長にデータが追いつきません。そして、顧客の進化を常に把握しなければ、よりよい関係は築けません。」との想いで起業しました。
PETCUBE
Petcubeのアイデアは、共同創設者のNeskin氏のペット犬であるロッキーから生まれました。
ロッキーは、Neskin氏が家を離れているときに家具を破壊し、激しく吠えたため、近所の人に通報されました。彼はロッキーを楽しませて不安を和らげるために、最初のプロトタイプのペットキューブカメラを開発しました。現在、同社は100,000台以上のカメラを販売しており、女優エマ・ワトソンもクライアントの1人です。
共同創設者の1人であるYaroslav Azhnyuk氏が「4年以内に「ユニコーン」になることができることを願っています」と 語っています。
PREPLY
25,000人以上の講師が、160ヵ国10万人以上のユーザーに40の言語を教えている、世界的な言語の個別指導プラットフォームを提供しています。2012年に最も有望なウクライナのスタートアップの1つに選ばれ、2018年には400万ドルを調達しています。2020年に1,000万米ドルを調達を調達し、累計調達額は1,550万米ドルに達しています。
共同創設者の1人であるKirill Bigai氏はインタビューで、「買収までにはまだ大きな改善の余地があり、正しい方向に進んでいると信じています」とコメントしています。
READDLE
同社のメールアプリSparkは、世界中で延べ1億2500万ダウンロードを突破し、たくさんの企業で業務を支えるツールです。業界トップクラスの大企業が提供するソフトウェアとも競合するほどの、ワールドクラスの製品を開発しています。32回失敗し、外部資本を調達することはなく、最終的に1億人のユーザーを有機的に引き付けた世界クラスの製品を構築しました。
Readdleのマーケティング担当副社長であるDenysZhadanovは、次のように述べています。「あなたは世界中のどこにでもいることができます。そして、あなたが良い製品を作ったなら、あなたはそれをApp Storeに投稿することができます。そして一瞬でそれは世界中で人気が出るでしょう。」
RESTREAM
同社はライブビデオをすべてのソーシャルネットワークに同時にストリーミングするためのツールです。毎月約300万の放送を配信し、3億人を魅了しています。
同社の顧客には、プロおよびアマチュアのゲーマー、フォーチュン500企業、政治家、有名人が含まれます。2018年、リストリームは100万人のストリーマーに到達し、 4,5百万ドルを調達しました。2020年時点で5,000万ドルを調達し、合計5,340万ドルに達しました。
CEOのAlexander Khoudaは「私たちが始めたとき、私たちは英語を話すことができませんでした。 “traction” という言葉が何を意味するのかわかりませんでした。 振り返ってみると、会社を成長させることは、新しいことを探求し、学ぶための非常に効率的な方法であることがわかりました。」と振り返っています。
YAYPAY
バックオフィスの自動化と機械学習のフィンテックスタートアップは、わずか1年で顧客数を5倍に増やしています。すべての開発チームはウクライナのキエフに拠点を置いており、2017年に530万ドルの投資を集めた後、新しいR&Dセンターも立ち上げる予定です。
*YayPayはQuadientに1700万ユーロ以上で買収されました
YOUSCAN
2009年に設立されたYouScanは、ソーシャルメディアのリアルタイムの監視と分析を提供するSaaSプラットフォームです。このシステムは、AIおよびNLPテクノロジーを使用して、毎日4,000万件を超える公開投稿を分析しています。クライアントには、マクドナルド、ミケリン、ペプシコ、ボーダフォン、Viberといった企業がいます。
最近、YouScanがMartech-Challengesのビジュアル分析カテゴリーの勝者に選ばれたことが発表されました。 Saas Advisorは「このツールは、ユーザーフレンドリーで強力なビジュアル分析モジュールを提供します。提供されたフィルターの数と同様に、コンテキスト化の関連性は印象的です。」と強調していました。
Lalafo
人工知能を利用したCtoCマーケットプレイスです。2015年9月にリリースされた同社は、現在何百万人ものユーザーが自分のものを売って現金を手に入れています。ユーザーのほとんどは中央アジアとヨーロッパで、Lalafoは多くの市場でCtoCマーケットプレイスのNo.1を獲得しています。
- 設立:2015年
- モバイルアプリのダウンロード:10M
- 前年比収益成長率:70%
- 市場:アゼルバイジャン、キルギスタン、セルビア、ギリシャ、ウクライナ
Liki24
薬の検索と配信を最適化するサービスです。ウクライナの4500以上の薬局と協力して、55,000を超える商品の価格と在庫を収集しています。したがって、ユーザーは、集荷と配達のスマートなアルゴリズムのおかげで、薬を最良の価格で注文し、最大30%節約することができます。
- 設立:2017
- 月間ユーザー数:2M
- 前年比収益成長率:〜600%
- 市場:ウクライナ、ポーランド
- 総資金:600万米ドル
Reface
高品質のフェイススワッピングのための最先端のテクノロジーを提供します。Refaceは、AIを利用したアプリで、動画やGIFの顔をわずか数秒で入れ替えることができます。Refaceは、Netflix、TikTok、Youtubeを抜いて、米国のAppStoreで1位に到達した最初のウクライナのアプリになりました。2021年の計画は、コンテンツのパーソナライズのための最初のプラットフォームを作成することです。
- 設立:2019
- チーム:65
- ユーザー:100か国以上
- ダウンロード:53M
3DLOOK
ボディデータを使用して、ハイパーパーソナライズされた購買体験を消費者に提供し、小売業者のコストを節約する自動化SaaSサービスです。アパレルブランドが返品や在庫の膨らみに関連するコストを削減するのに役立ち、コロナ禍において需要が休息に高まりました。
- 設立:2016年
- チーム:59
- 総資金:>500万米ドル
- 前年比収益成長率:500%
Influ2
B2Bマーケティングにスマートなアプローチを採用した最初の個人ベースの広告プラットフォームです。総資金の3.4M USDは、アカウントベースマーケティング(ABM)の歴史の中で最大のシード資金です。
- 設立:2017
- チーム:32
- 総資金:3.4M USD
- 前年比:251%
PromoRepublic
PromoRepublicは、企業、マーケティングエージェンシー、SMB(Server Message Block)がソーシャルメディアで成功し、ローカルレベルでブランド認知度と売上を伸ばすのに役立つソーシャルメディアマーケティングプラットフォームです。マルチロケーションブランドからの有機的な需要があることを発見した後、同社はエンタープライズ市場に拡大するための製品の構築を開始することを決定しました。現在、フランチャイズおよび直接販売業界のマーケター向けに調整されたソリューションへの道を進んでいます。
- 設立:2012年
- チーム:53
- 総資金:550万米ドル
- 前年比収益成長率:200%
参考
JETRO「新興国スタートアップ動向調査-各国のエコシステム編-[アルメニア、ウクライナ、ジョージア、ベラルーシ、モルドバ]」(2022年1月)
LIFT99「Ukraine’s Top 15 Startups Launching the Wall of Fame [2019]」
LIFT99「6 New Startups Join Ukrainian Startups Wall of Fame!」
終わりに
ウクライナ発のスタートアップはいかがだったでしょうか。GoogleやMicrosoftなどと連携することができる世界を見据えたスタートアップがいくつもある印象を受けました。中には、日本でも使用されているサービスもあるので、ぜひそういった視点からもウクライナの今後に注目してみてください。
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