
サナエノミクスが拓く「地方×スタートアップ」の新時代―740億円の宇宙基金と“地域未来戦略”が示す勝機―
2025年11月、高市早苗政権が本格始動し、その経済政策「サナエノミクス」の全貌が、令和7年度補正予算案(案)として具体的な姿を現しました。
「強い国、強い経済」を掲げる新政権において、最大の鍵を握るのは実は「地方」と「スタートアップ」です。かつて重厚長大産業が主役だった安全保障の領域で、なぜ今、新興企業の存在感が急拡大しているのか。そして、「地域未来戦略」が地方経済にどのような変革をもたらすのか。
公開された予算資料と政策骨子から、その勝機を読み解きます。
「危機管理投資」がもたらすパラダイムシフト
高市首相が掲げるサナエノミクスの核心は、「危機管理投資」と「成長投資」の両輪にあります。これは単なる景気刺激策ではありません。エネルギー、食料、サイバーセキュリティ、AI・半導体など、国家の存立に関わる「17の戦略分野」に対し、国策として大胆な官民投資を行うものです。
特筆すべきは、経済安全保障の担い手が「大企業」から「スタートアップ」へと広がっている点です。
予算案に見る“本気度”:ドローン・宇宙への重点配分
令和7年度補正予算案(案)によれば、サプライチェーン強靭化に巨額の予算が投じられます。特に象徴的なのが以下の数字です。
無人航空機(ドローン)サプライチェーン強靭化:139億円
人工衛星・ロケット部品サプライチェーン強靭化:146億円
宇宙戦略基金事業:740億円
ウクライナ情勢が示した通り、現代の危機管理において戦局を左右するのは、安価で高性能な商用ドローンや即応性の高い宇宙インフラです。これらは、技術力を持つスタートアップこそが主役となれる領域。政府はJAXAをハブとしつつ、民間スタートアップによる開発を「10年単位」で支援する長期的なコミットメントを示しました。
「死の谷」を超える:上場後も続くディープテック支援
スタートアップ政策において画期的な転換点となるのが、「ディープテック・スタートアップ向け債務保証の拡充(19億円)」です。
従来、国の債務保証は未上場企業に限られていました。しかし、バイオや宇宙、量子技術などのディープテック企業は、上場後も黒字化までに長い研究開発期間(死の谷)を要します。サナエノミクスでは、これを「上場後の企業」にも拡大。IPOをゴールとせず、世界で戦える規模になるまで国が資金調達をバックアップするという、歴史的な方針転換です。
「地域未来戦略」:地方発100億企業とクラスターの創出
サナエノミクスは、地方経済の構造改革にも深く切り込みます。新たに示された「地域未来戦略」の骨子は、従来のバラマキとは一線を画すものでした。
1. 「戦略産業クラスター」への集中投資
地域ごとに、半導体、蓄電池、バイオなどの「GX戦略地域」や産業集積地を選定。国がインフラ整備や規制緩和(緑地規制や工業用水の見直し等)を集中的に行い、そこから「地域経済全体を底上げする100億企業」を創出することを目指します。
2. 「点」から「面」へのスタートアップ支援
これまでの支援が「個々の企業(点)」への補助金中心だったのに対し、今回は「地方大学発、高専発スタートアップの創出・成長支援」を明記。産総研などの公的研究機関と地方大学が連携する拠点を整備し、地域の中堅企業とスタートアップが有機的に結びつくエコシステム(面)の形成に重点が置かれています。
3. 人材の還流:大企業人材を地方へ
ハード面だけでなく、ソフト面での「大企業人材の活用促進(レビキャリ等)」も強化されます。都市部のプロフェッショナル人材が、地方の中堅・スタートアップに転籍・兼業しやすい環境を整備し、地方企業の経営力強化を後押しします。
賃上げへの直球:4,121億円の大規模投資補助
「強い経済」の実現に向けた賃上げ支援も桁違いです。
「中堅・中小・スタートアップ企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金」には、4,121億円が計上されました。
対象に明示的に「スタートアップ」が含まれており、人手不足解消のためのロボット導入や工場新設などを行う製造業系スタートアップにとっては、かつてない追い風となります。また、赤字フェーズにある企業であっても、賃上げに取り組むことで支援を受けられる仕組みへの転換も検討されており、人材獲得競争において大企業と対等に渡り合う武器となり得ます。
地方モデルが「国家戦略」になる日
経済安全保障の強化は、サプライチェーンの国内回帰を促す一方で、「デュアルユース(軍民両用)」技術の重要性を高めます。
製造業の厚い基盤を持ち、ドローンやロボットの実証フィールドがあり、地域金融機関や自治体が一体となってスタートアップ支援に取り組む静岡県。サナエノミクスが描く「地域未来戦略」は、まさに静岡のような地域が主役となるシナリオです。
政府の危機管理投資という追い風を受け、地方発の技術が国のレジリエンスを高め、世界へと羽ばたく。サナエノミクスは、地方の挑戦者たちにとって千載一遇のチャンスとなるに違いありません。

