
令和4年1月、内閣府地方創生推進事務局は「スーパーシティ」構想について新たな方針を発表しました。同年2月には、スーパーシティに名乗りを上げた31自治体の最新の動向についても明らかになりました。
テクノロジーを活かした持続可能で住みやすいまちづくりとして注目された「スーパーシティ」。日本政府は、ICT技術の活用でインフラなどのマネジメントを高度化することで、さまざまな課題解決や新たな価値創出につなげるスマートシティの取り組みを推進し、政府が描く未来社会像「Society5.0」の実現を目指している。その上で官民の連携は重要であり、新たなビジネスを推進するスタートアップへの注目も年々高まっている。企業がスーパーシティ構想にどう貢献し、ビジネスを展開できるチャンスがあるのか。
スーパーシティ構想って結局どんな政策なのか?スマートシティとかウーブンシティとの関連は?今どこまで進んでいるの?どこが採択された?海外は?これからどうなっていくの?などと様々な疑問を徹底解説します!!
スーパーシティ構想とは
そもそも「スーパーシティ」とは
これまで日本でも、「スマートシティ」や「近未来技術実証特区」などの取組み自体はありました。しかし、エネルギー・交通などの個別分野での取り組みや、個別の最先端技術の実証などに留まっていました。
「スーパーシティ」は、これらとは次元が異なり、「まるごと未来都市を作る」ことを目指しています。世界が先行している部分もありますが、次の3つの条件を満たす、「まるごと未来都市」は世界各国でも未だ実現していません。
- これまでの自動走行や再生可能エネルギーなど、個別分野限定の実証実験的な取組ではなく、幅広く生活全般をカバーする取組であること
- 一時的な実証実験ではなくて、2030年頃に実現され得る「ありたき未来」の生活の先行実現に向けて、暮らしと社会に実装する取組であること
- さらに、供給者や技術者目線ではなくて、住民の目線でより良い暮らしの実現を図るものであること
▲内閣府「スーパーシティ構想について」より引用
幅広く生活全般をカバーするとは、以下の中から5領域程度をカバーするとしています。(内閣府「スーパーシティ」構想の実現に向けて(最終報告))
- 移動 : 自動走行、データ活用による交通量管理・駐車管理、マルチモード輸送(MaaS) など
- 物流 : 自動配送、ドローン配達 など
- 支払い : キャッシュレス など
- 行政 : パーソナルデータストア(PDS)、オープンデータプラットホームワンストップ窓口、API ガバメント、ワンスオンリーなど
- 医療・介護: AI ホスピタル、データ活用、オンライン(遠隔)診療・医薬品配達 など
- 教育 : AI 活用、遠隔教育 など
- エネルギー・水: データ活用によるスマートシステム など
- 環境・ゴミ: データ活用によるスマートシステム など
- 防災 : 緊急時の自立エネルギー供給、防災システム など
- 防犯・安全: ロボット監視 など
「スーパーシティ構想」とは
内閣府によると、「スーパーシティ構想」とは
「住⺠が参画し、住⺠⽬線で、2030年頃に実現される未来社会を先⾏実現することを⽬指す」ための取り組みです。
国家戦略特区制度を活用しつつ住民と競争力のある事業者が協力し、世界最先端の日本型スーパーシティを実現しようという、「スーパーシティ構想」が提唱されました。
実現のためのポイントは3点です。
- ⽣活全般にまたがる複数分野の先端的サービスの提供:AIやビッグデータなど先端技術を活⽤し、幅広い分野で利便性を向上。
- 複数分野間でのデータ連携:複数分野の先端的サービス実現のため、「データ連携基盤」を通じて、様々なデータを連携・共有。
- ⼤胆な規制改⾰:先端的サービスを実現するための規制改⾰を同時・⼀体的・包括的に推進。
ここまででイメージが湧かない方はこちらをチェック
政府インターネットテレビ:「スーパーシティ」構想の実現に向けて
政府インターネットテレビ:「スーパーシティ」で実現する私たちの暮らし(長編)
スマートシティ、ウーブンシティ、その他関連用語
スーパーシティ構想を語るには欠かせない、いくつかの関連用語について紹介します。
スマートシティ スーパーシティより技術開発に焦点を置いた取り組みです。内閣府によると、「ICT 等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域であり、Society 5.0の先行的な実現の場」と定義しています。(引用:内閣府より)
ウーブンシティ(Woven City) 静岡県裾野市に建設中のスマートシティです。トヨタ自動車の豊田章男社長が主導していて、日本を代表するような大企業がいくつも参画しています。人々の未来の暮らし、働き方、移動を大きく進化させる先駆的なプロジェクトです。
▲ウーブンシティのイメージ図(画像:トヨタ)
グリーンフィールド型 ⽩地から未来都市を作り上げるスーパーシティ・スマートシティの取り組み方です。中国・雄安、カナダ・トロント等が取り組んでいます。
ブラウンフィールド型 既存の都市を造り変えようとするスーパーシティ・スマートシティの取り組み方です。アラブ首長国連邦・ドバイ、シンガポール等が取り組んでいます。
J-Tech 世界に誇る”日本で展開される技術”Japan Technologyの略です。日本にはスーパーシティ構想に必要な要素技術はほぼ揃っていますが、規制に阻まれたりして実践する場がないことが課題とされてきました。
国家戦略特区 「国家戦略特区」は、“世界で一番ビジネスをしやすい環境”を作ることを目的に、地域や分野を限定することで、大胆な規制・制度の緩和や税制面の優遇を行う規制改革制度です。平成25年度に関連する法律が制定され、平成26年5月に最初の区域が指定されました。
海外の事例
世界を見ますと、スペインのバルセロナ、ドバイ首長国、シンガポール、オランダのアムステルダム等、実に様々な都市で、インテリジェントなまちづくり、いわゆる「スマートシティ」の投資・開発競争が巻き起こっております。
スペイン・バルセロナ
2000年から、バルセロナでは知識集約型の新産業とイノベーションを創出するための大規模なスマートシティプロジェクトが進行しています。
都市基盤のICT共通基盤としてWi-Fiを活用し、様々なサービスを可能としています。 例えば、車や人の動きをセンサーにより検知し、Wi-FIを経由して空き駐車スペース情報を提供する「スマートパーキング」によって都市の渋滞緩和を実現していたり、街路灯と連動した見守りサービス、ゴミの自動収集サービスなど、様々な関連サービスを、複数、街単位で実現しています。
韓国・ソンド
韓国のソンド市においては、埋立地におけるグリーンフィールドにおいて、計画的にスマートシティを創り上げています。
例えば、高層住宅では、ゴミをダクトから吸引して収集センターまで自動集積することで、街にゴミ収集車が不要になっていたり、最新のビデオ技術を活用し、家にいながら教育や医療を受けられる遠隔教育、遠隔医療の実践がなされています。
中国・杭州
中国の杭州では、世界最大のEコマース企業(流通総額年52兆円)であるアリババ集団と杭州による「City Brain」構想の一環としてスマートシティプロジェクトを進めています。
具体的には、AI・ビッグデータを活用した交通渋滞の緩和や、データ共通基盤を活用した多様なサービスを展開しており、なかでも、セントラルシステムを活用した都市交通の包括的なコントロール、道路状況の可視化による交通管理が代表的な取り組みです。
しかし、カナダのトロントとGoogleの姉妹会社が取り組んでいたスマートシティ「Sidewalk Toronto」計画では、「ブロック・サイドウォーク」(「歩道を封鎖せよ」の意味)などの反対運動が起こり、撤退しています。個人情報の収集などに住民の合意が得られなかったことが原因です。
スーパーシティ構想の現状・国の取り組み
スーパーシティ構想の進展:つくば市と大阪市がスーパーシティに指定!!
2020年4月に31の自治体からスーパーシティ提案がありました。8月には専門調査会があり、10月には規制改革などで再提案がありました。提案内容の「熟度」に差があるため、これから以下のプロセスを経て、「熟度」の高いものから順次検討をしています。
- 国家戦略特区ワーキンググループ(規制改⾰の提案の具体化等)
- スーパーシティの区域指定に関する専⾨調査会(区域指定の原案の検討)
- 国家戦略特区諮問会議(区域指定の案の意⾒具申)
- 政令閣議決定(区域指定)
参考:内閣府「スーパーシティ構想について」
2022年3月10日、茨城県つくば市と大阪市がスーパーシティ第1号として指定されました。大阪市は空飛ぶクルマを実用化するための環境整備、つくば市はドローンを使った配送などを提案しています。
参考:日本経済新聞「スーパーシティに大阪・つくば市指定 政府諮問会議」
区域検討と各自治体の提案についてはこちら 内閣府「スーパーシティの区域選定の進め方」
大阪市
2025年の大阪・関西万博の開催予定地である「夢洲(ゆめしま)」とJR大阪駅前の貨物ヤード跡地の「うめきた2期」という2つのグリーンフィールド(新たな都市開発が可能な土地)にて様々な開発が行われている。
夢洲は、大阪湾に位置する3つの人工島(咲洲、舞洲、夢洲)の一つで、島内の155ヘクタールが万博会場となる計画である。
うめきた2期は、大阪の中心街である梅田周辺の17ヘクタールの土地にオフィス、ホテル、商業施設、住宅、大型公園などを建設中の大規模複合開発エリアで、2024年夏頃に一部先行してまちびらき(全エリアの開業は2027年度)する予定となっている。
グリーンフィールドを活用しながら、先端的サービスの実証実験や社会実装が進められていく計画である。デジタル技術を駆使した都市のショーケースとなる万博開催を経て、段階的に大阪全体へと取り組みを広げていく計画となっている。
つくば市
つくば市は、「インターネット投票の導入」「パーソナルモビリティの最高速度の緩和」「マイナンバーの利用拡大」といったブラウンフィールドの取り組みを進める案を定時、「グリーンフィールド」の取り組みについても、つくば市らしく、「科学」をキーワードに先進的なまちづくりを進める。
具体的には、「移動・物流」「行政」「医療・健康」「防災・インフラ・防犯」などの分野で、ロボットによる荷物の自動配送やインターネット投票、データ連携による医療サービスなど様々な先端的なサービスに取り組んでいる。
楽天と西友は5月、つくば市でスマートフォンで注文した商品を自動配送ロボットで宅配するサービスを始めている。最短30分で配送する「オンデマンド配送」特徴。11月からはスターバックスコーヒージャパンの商品も宅配するなど社会実装が進みつつある。週2回の実験配送から毎日配送するサービスに進化した。つくば市はスーパーシティ実現に向けた取り組みを加速しており、小型無人機(ドローン)を使った配送サービスも視野に入れている。
参照:日経新聞「未来社会実現へ試み着々 配送ロボや医療MaaS」
茨城県つくば市では、最先端技術の実証実験を街全体で行う、「スーパーシティ」について2022年12月住民説明会が行われている。
五十嵐立青市長は、「つくば市には研究機関が集まっているが市民がメリットを感じられる機会は少ない。研究機関や企業と連携し、科学を活用して市民のみなさんの困りごとを解決するための新たな選択肢を増やしたい」と住民に説明している。
続いて民間企業の担当者が、ドローンなどを使って近くのスーパーから自宅まで食料品を届ける実証実験や、自宅付近から最寄りのバス停まで移動できる自動運転ロボットを使った実証実験を来年、地区で予定していることを説明。
住民との意見交換も行われ、住民からは、「高齢者も若い人も幅広い世代が住みやすい地区になるような取り組みにしてほしい」、「それぞれの事業を連携させて新しい価値を生み出すような取り組みにしてほしい」といった意見も出ていた。
NHK News:https://www3.nhk.or.jp/lnews/mito/20221219/1070019481.html
まとめ
今回の記事では、「スーパーシティ構想」についてまとめました。今後も進展に注目していきたいと思います。関連する記事もぜひご覧ください!
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