
デジタルツイン技術を用いたスマートシティ構想
また2050年には世界人口の7割が都市に住むといわれ、急速に都市化が進んでいます。それらの社会情勢を背景に世界中でスマートシティの実現に向けた動きが加速しています。
テクノロジーを活かした持続可能で住みやすいまちづくりとして「スマートシティ」が注目されています。日本政府は、ICT技術の活用でインフラなどのマネジメントを高度化することで、さまざまな課題解決や新たな価値創出につなげるスマートシティの取り組みを推進し、政府が描く未来社会像「Society5.0」の実現を目指しています。
トヨタ「コネクティッド・シティ」構想を発表
3つのポイント
- あらゆるモノやサービスがつながる実証都市「コネクティッド・シティ」を東富士(静岡県裾野市)に設置。※「Woven City」と命名し、2021年初頭より着工
- 企業や研究者が幅広く参画し、CASE、AI、パーソナルモビリティ、ロボット等の実証を実施
- デンマークの著名な建築家であるビャルケ・インゲルス氏が街の設計を担当
トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)は、2020年1月7日(火)~10日(金)に米国ネバダ州ラスベガスで開催するCES 2020において、人々の暮らしを支えるあらゆるモノやサービスがつながる実証都市「コネクティッド・シティ」のプロジェクト概要を発表しました。
2020年末に閉鎖予定のトヨタ自動車東日本株式会社 東富士工場(静岡県裾野市)跡地を利用して、将来的に175エーカー(約70.8万㎡)の範囲でスマートシティを進めていく構想です。
このプロジェクトは、人々が生活を送るリアルな環境のもと、自動運転、モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム技術、人工知能(AI)技術などを導入・検証できる実証都市を新たに作ります。
プロジェクトの狙いは、人々の暮らしを支えるあらゆるモノ、サービスが情報でつながっていく時代を見据え、この街で技術やサービスの開発と実証のサイクルを素早く回すことで、新たな価値やビジネスモデルを生み出し続けることです。
トヨタは、網の目のように道が織り込まれ合う街の姿から、この街を「Woven City」(ウーブン・シティ)と名付け、初期は、トヨタの従業員やプロジェクトの関係者をはじめ、2,000名程度の住民が暮らすそうです。
また2020年3月24日、トヨタとNTTと資本業務提携を発表した。それぞれ約2000億円を出資して株式を持ち合い、世界的に激しい競争が続く自動運転技術の開発強化や、デジタルツインを活用した街づくり「スマートシティー」の早期実用化につなげる狙い。スマートシティ(最新技術を用いた、持続可能な都市)を実現する上での基盤となる「スマートシティ・プラットフォーム」の共同構築を目指す。
静岡県の工場跡地に「Woven City」(ウーブン・シティ)と名付けた実験都市を整備する予定だ。NTTとの協業により、どんな変化が起きるのだろうか。
スマートシティ実現の鍵を握る「都市OS」
スマートシティを実現する上で重要となるのが、さまざまなデータを分野横断的に収集・整理し提供する「データ連携基盤(都市OS)」です。街のインフラの根幹となるデジタルオペレーティングシステムの開発に向けて、バーチャルとリアルの両方でAIなどの将来技術を実証することで、街に住む人々、建物、車などモノとサービスが情報でつながることにより都市のポテンシャルを最大化できると考えられています。
人工知能やビッグデータ、自動運転、ロボットなどの活用により、社会のあり方を根本から変えるような最先端都市を目指していく必要があります。現在、一部の地方都市や過疎地域では、高齢化や人口減少のあおりを受けたことで自治体の財政が逼迫し、住民サービスの質が低下しています。これらの課題をICTやデータ、AIなどを活用し解決を目指しているのがスマートシティです。
Woven Cityの主な構想
街を通る道路を3つに分類し、それらの道が網の目のように織り込まれた街を作ります。
- スピードが速い車両専用の道として、「e-Palette」など、完全自動運転かつゼロエミッションのモビリティのみが走行する道
- 歩行者とスピードが遅いパーソナルモビリティが共存するプロムナードのような道
- 歩行者専用の公園内歩道のような道
デジタルツインによる実証検証
デジタルツインは様々なモノや建物、人間、場所をバーチャル空間で組み合わせることで、より詳細で、現実に近く、複雑な空間すらも表現することが可能です。
例えば、都市の3次元データに道路交通や公共交通、人流、災害情報などのデータを組み合わせることで、MaaS(モビリディー・アズ・ア・サービス)など新たな交通サービス導入の検証をしたり、スマートシティーの構想を練ったりします。
また、ドローンによる荷物配送や、VR(バーチャル・リアリティー)・AR(拡張現実)を利用して観光を疑似体験できるようにすることも可能です。こうした5Gやデジタルツインの進展により、「都市全体をバーチャル化させる」という動きが加速しています。
トヨタのWoven Cityもこの『デジタルツイン』技術を活用し、いきなり都市を建設するのではなく実際に建設した場合に人や車の流れ、都市機能が正常に動作するかなどVR空間上でシミュレーションを重ね、実証検証を行います。
バーチャル・シンガポール(Virtual Singapore)
今ひとつの都市や、国家全体のデジタルツインを構築しようという試みまで進められています、それが、「バーチャル・シンガポール(Virtual Singapore)」です。シンガポール全体をバーチャル化するという取り組みです。シンガポールの政府機関であるNRF(シンガポール国立研究財団)などが主導しています。
まず、シンガポール全土の地形情報や建築物の情報、さらには交通機関などの社会インフラに関する情報までを統合し、バーチャル空間に3Dモデルとして再現します。
さらにこの3Dモデルに、各種のリアルタイムデータ(交通情報や水位、人間の位置情報など)を統合し、「都市のデジタルツイン」の実現を目指しています。
シンガポールは2014年に「スマート国家(Smart Nation)」構想を打ち出し、デジタル技術を活用して住みやすい社会をつくるという理想を掲げており、その実現に向けて国土に関する情報のデジタル化と、各種センサーの整備を既に進めています。
シンガポールの面積は東京23区より少し大きい程度ですが、それでも国全体をバーチャル空間の中に再現するのは大きな挑戦です。
都市のデジタルツイン化によって、各インフラを整備する計画や太陽光発電パネルの設置場所の検討、アクセシビリティの改善、渋滞の解消や公共交通機関の改善といった利用法が示されています。
トヨタ「空飛ぶクルマ」に参入
またトヨタのWoven Cityの写真には、上空にエアモビリティの姿も見えます。トヨタは以前から、空飛ぶクルマに関心を寄せており、Woven City建設予定地でもある東富士研究所(静岡県)で空飛ぶクルマの研究開発を行ってきたもようで、関連特許も出願しているとのこと。
トヨタは、垂直離着陸する「空飛ぶタクシー」を開発する米スタートアップ、ジョビー・アビエーションに3億9400万ドル(約430億円)出資すると発表。空飛ぶタクシーは都市の渋滞緩和などにつながり、新たな移動手段として注目されています。Woven Cityでもエアモビリティの実証も行われる日も近いかもしれません。
参考:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54444790W0A110C2I00000/
トヨタがeVTOL機に関心を寄せるのは、次世代モビリティーの一翼を担う可能性が高いためである。次世代モビリティーは、公共交通機関やライドシェア、電動自転車など複数の交通手段を用いる「マルチモーダル化」の中で、スマートシティー(スーパーシティ)とセットで導入が検討されている。そのため、トヨタは21年に着工するウーブン・シティでeVTOL機の実証を行うかもしれない。
自動運転やシャトル型モビリティ、電動スクーター、エアモビリティなど、様々なモビリティが登場して、移動の最適化が進んでいきます。目的地や時間を入力すると、マルチモーダルな輸送サービスを組み合わせて最適なルートが検索可能となるでしょう。自動車産業の提供価値も、単なる移動に留まらず、移動の効率化によって空いた時間やコストをどう活かすのかが今後ますます重要になってきます。
実際にスマートシティを作り上げるのは容易ではありませんが、都市の3Dデータをデジタル空間に取り込み、実証検証を繰り返すことで理想的な都市の形が見えてくる気がします。今後、デジタルツイン技術から目が離せません。
静岡県裾野市に建設される「Woven City」にも注目していきたいと思います。
まとめ
数ある移動手段のうち、eVTOL機の利点は、交通渋滞が生じても短時間で目的地まで移動できる。加えて、ヘリコプターより静かで、燃費は安価である。すなわち、ヘリコプターより利用しやすい。世界中で都市部に人口が集中し、交通渋滞が大きな問題になっている中で、eVTOL機が狙うのは、まさにこうした都市部や空港、駅などをつなぐ移動手段であり、交通渋滞を緩和し、CO2排出削減にもつながる解決策として期待されています。
現在、新型コロナウイルスの影響で移動需要が減ったものの、コロナ禍を克服し、移動の需要が戻ると、eVTOL機による移動サービスの実現も考えられます。