スマートシティ構想が進められる背景
一方でグローバルで見るとスマートシティ構想が進められる背景には、世界的な人口増加と都市部への集中が挙げられます。国連の報告によると、2050年までに世界の都市人口はさらに25億人増加し、特にアジアとアフリカの都市部での人口増加が顕著です。2050年には世界人口の7割が都市に住むといわれ、急速に都市化が進んでいます。これにより、住宅、基盤施設、交通、エネルギー、雇用、教育、医療などの面で大きな課題が生じています。それらの社会情勢を背景に世界中でスマートシティの実現に向けた動きが加速しています。
デジタルツイン技術を用いたスマートシティ構想
そこでテクノロジーを活かした持続可能で住みやすいまちづくりとして「スマートシティ」が注目されています。日本政府は、ICT技術の活用でインフラなどのマネジメントを高度化することで、さまざまな課題解決や新たな価値創出につなげるスマートシティの取り組みを推進し、政府が描く未来社会像「Society5.0」の実現を目指しています。
また、スマートシティは、エネルギー供給の見直しやインフラの効率化を含む都市の問題解決に向けた取り組みとして、世界中で推進されています。先進国では、少子高齢化や災害の頻発などの課題に直面しており、これらの問題に対処するためにもスマートシティが注目されています。
スマートシティの構想には、IoTやAIなどの先端技術を活用し、エネルギーや交通網などのインフラを効率化することで生活やサービスの質を向上させる目的があります。旧来の個別分野特化型のアプローチから、より統合的で全体最適化を図る方向へと進化しています。これにより、教育や医療、交通などの様々な分野での技術活用が進んでいます。
セクターごとの状況
住宅
スマートシティの住宅セクターでは、IoTやAIの技術が活用され、スマートホームやスマートハウスが注目されています。スマートホームとは、家電や機器がそれぞれインターネットと接続し、社会インフラと繋がっている家庭を指します。一方、スマートハウスとは、家の中にあるすべての設備機器をITを使って自動的に制御し、消費エネルギーを最適化したり、便利な生活ができる家を指します。
スマートホームでは、スマートスピーカーやスマートフォンを用いて情報を検索したり、家電製品のリモートコントロール、スマートスピーカーを通じた音声認識機能、玄関の自動ロックや防犯カメラの設置、省エネ機能を備えた照明の導入などが可能になります。これにより、エネルギー消費の無駄を削減し、光熱費の節約にもつながります。
一方、スマートハウスでは、全体として一体化したシステムを持ち、さまざまな要素が連携して動作します。例えば、太陽の出入りや天候の状況、家の中の人の動きや状況に応じて、照明や冷暖房を自動的に調整します。スマートハウスを実現するためには、IoT機器、HEMS、太陽光パネル、蓄電池などの設備投資が必要です。
しかし、スマートホームやスマートハウスの導入には、システム障害や機器の故障、プライバシーとセキュリティの懸念、テクノロジーへの依存過多などの問題も存在します。これらの問題を解決するためには、適切な設計と設備の設置、信頼性の高いサービス運営業者の選択、適切な保守・メンテナンス、セキュリティ対策などが必要です。
以上のように、スマートシティの住宅セクターでは、IoTやAIの技術を活用したスマートホームやスマートハウスが進化し、生活者の利便性や快適性を向上させる一方で、新たな課題も生じています。これらの課題を解決することで、より快適で効率的な生活環境の提供が期待されています。
公共インフラ
公共インフラにおけるICT技術の活用は、都市の運営を効率化し、生活者の利便性や快適性を向上させる重要な要素となっています。AIやビッグデータを活用した予測メンテナンスは、インフラの老朽化や故障を早期に発見し、修理や更新を計画的に行うことを可能にします。
これにより、インフラの寿命を延ばし、コストを削減することができます。スマートシティでは、公共インフラのデジタル化が進んでおり、公共サービスの提供や都市計画の策定において、データ分析が重要な役割を果たしています。
例えば、行政が保有する多種多様なデータを蓄積・加工・活用するデータプラットフォームの構築が進んでいます。これにより、都市の運営やサービス提供における意思決定がデータに基づくものとなり、より効率的かつ効果的な都市運営が可能となります。また、公共データだけでなく、民間企業が持つデータアセットも安全かつ有効に活用することが求められています。
これにより、公共インフラの運営やサービス提供における新たな価値創出や課題解決が可能となります。以上のように、公共インフラにおけるデジタル技術の活用は、都市の運営を効率化し、生活者の利便性や快適性を向上させるだけでなく、都市の持続可能性や発展性を高めるための重要な手段となっています。
防災・防犯
これにより、犯罪の予防や早期発見が期待できます。また、スマートシティでは、センサーやカメラを用いてリアルタイムの情報を収集し、災害発生時の迅速な対応や犯罪の予防に役立てています。センスタイムの顔認証技術やリアルタイム物体検知技術は、高度なセキュリティソリューションを実現に貢献します。オフィスビルのエントランスやセキュリティーゾーンへの入退室、また公共エリアでの不審者検知などで活用できます。さらに、デジタル技術を活用することで、犯罪発生のパターンを分析し、予防策を講じることや、災害発生時の迅速な情報共有と対応計画の実行が可能になります。
これにより、都市全体の安全性を向上させることができます。以上のように、スマートシティでは、デジタル技術とAIの活用により、防災・防犯体制の強化と市民の生活の安全性・安心感の向上を実現しています。
交通
スマートシティでは、自動運転車やMaaS(Mobility as a Service)の導入により、交通の効率化と安全性向上が期待されています。自動運転車は、IoT技術の進化により、安全性、効率性、そして利便性を大きく向上させています。
また、自動運転車は従来のタクシーやレンタカーサービスを超え、オンデマンドでの移動サービスを提供することが可能になります。これにより、個人の車両所有の必要性が減少し、都市の交通状況や環境にも好影響を与えることが期待されています。公共交通機関の運行情報をリアルタイムで提供することで、市民の移動の便利さを向上させます。
さらに、スマートシティでは、交通データの収集と分析を通じて、交通渋滞の解消や交通事故の防止に取り組んでいます。
群馬県前橋市では、自動運転バスの営業運行を目指しています。自動運転車の普及は、従来の自動車産業だけでなく、IT、通信、エンターテイメントなど多岐にわたる産業に影響を及ぼし、新たなビジネスモデルの創出を促進します。
これらの変化は、ビジネスのあり方を根本から変え、消費者のライフスタイルにも大きな影響を与えるでしょう。
エネルギー
また、再生可能エネルギーの導入も進んでいます。例えば、トヨタ自動車は静岡県裾野市に「ウーブンシティ」を建設しており、ENEOS株式会社と共同で水素に関わる実証実験を行い、カーボンニュートラル実現のための取り組みを進めています。具体的には、ENEOSが水素ステーションの建設・運営を行い、水電解装置により再生可能エネルギー由来の水素(グリーン水素)を製造し、ウーブンシティに供給します。また、トヨタは定置式の燃料電池発電機(FC発電機)を用いて、供給された水素を電力に変換します。これらの取り組みにより、スマートシティはエネルギーの効率化と環境負荷の低減を実現し、持続可能な社会の構築に貢献しています。
雇用
スマートシティの雇用セクターでは、デジタル技術の進化と普及が新たなビジネスチャンスを生み出し、雇用の創出につながっています。特に、AI、ビッグデータ、IoTなどの先端技術を活用した新サービスやビジネスモデルが注目されています。これらの技術は、従来の産業をデジタル化するだけでなく、全く新しい産業を生み出す可能性も秘めています。
また、スマートシティの進展に伴い、リモートワークやテレワークといった新しい働き方が普及しています。これにより、働き方の多様化が進み、より柔軟な労働環境が実現しています。これは、従来のオフィスワークに限定されず、さまざまな場所や時間で働くことが可能になり、生活と仕事の両立を支援します。
さらに、スマートシティでは、新たな産業の創出や雇用の拡大を通じて、地域経済の活性化にも寄与しています。特に、地方都市では、スマートシティの取り組みを通じて、地域資源を活用した新たなビジネスの創出や、若者や女性の活躍の場を提供することで、地域の活性化を図っています。
これらの取り組みにより、スマートシティは、新たなビジネスチャンスの創出、働き方の多様化、地域経済の活性化といった形で、雇用環境の改善に寄与しています。
教育
スマートシティの教育セクターでは、ICTの活用により教育の質向上や学習支援が進められています。オンライン教育の普及により、地域や時間を問わずに質の高い教育を受けることが可能になり、教育の機会均等が向上しています。また、AIやビッグデータを活用した個別学習支援や学習効果の分析も進んでおり、一人ひとりの学習ニーズに合わせた教育が実現しています。
さらに、スマートシティでは、教育データの収集と分析を通じて、教育の質向上や学習支援の提供に取り組んでいます。具体的には、学習管理システム(LMS)を活用して学習データを収集し、AIを用いて学習進度や理解度を分析します。これにより、教師は学生の学習状況をリアルタイムで把握し、個々の学生に最適な学習支援を提供することが可能になります。
また、スマートシティの教育環境では、プログラミング教育やデジタルリテラシー教育も重視されています。これにより、デジタル社会で必要とされるスキルを身につけることができ、子どもたちは未来の社会で活躍するための準備を整えることができます。これらの取り組みにより、スマートシティは、教育の質向上、学習支援の強化、デジタルスキルの習得といった形で、教育環境の改善に寄与しています。
ヘルスケア(医療/介護)
スマートシティにおけるヘルスケアでは、ICTを活用した医療サービスの提供が進んでおり、遠隔医療やAIを活用した診断支援、健康管理アプリなどにより、医療の質向上と効率化が期待されています。また、医療データの収集と分析を通じて、疾病の早期発見や予防医療に取り組んでいます。
スマートシティでのヘルスケアサービス提供により、住民の健康促進や医療・介護サービスの質向上が期待されます。しかし、多様なステークホルダーとの協調・調整や住民への周知広報、ヘルスケア関連の制度やデータの取扱いへの配慮が必要です。
5Gを活用した高精細映像伝送による遠隔診療では、臨場感の増加や正確な診断の実現、診療時間の短縮などが達成されています。
また、歩数データや生体データ、個人意識データなどを匿名加工して収集・分析し、健康と運動の関係性の確認や傾向の明確化、利用者個々人に応じた健康増進情報の提供が行われています。
これらの取り組みにより、スマートシティは医療サービスの質の向上、効率化、そして住民の健康促進に寄与しています。
環境分野
スマートシティにおける環境分野では、エネルギーの効率的な利用や廃棄物の削減など、環境に配慮した都市運営が進んでいます。さらに、環境データの収集と分析を通じて、環境問題の解決に取り組んでいます。
エネルギーの効率的な利用については、再生可能エネルギーの利用や次世代型の交通網の整備など、CO2排出量を削減して環境にやさしいまちを目指しています。また、エネルギー利用の効率化や省エネなど「エネルギーの観点で持続可能な都市」を作る取り組みが進められています。
廃棄物の削減については、ICT技術を活用した廃棄物処理効率化による資源循環の構築が進められています。具体的には、小型家電の回収走行距離を42%削減したり、プラスチック包装類の走行距離を40%削減したりするなど、廃棄物の回収へのICT技術導入による業務効率化及びリサイクル率の向上が図られています。
環境データの収集と分析については、企業や自治体、住民からデータを収集して仮想空間を解析するなど、データ活用が鍵となっています。
これにより、環境問題の解決に向けた具体的な施策を立案し、実行することが可能となります。以上のように、スマートシティではICTを活用した環境負荷の低減や環境問題の解決に向けた取り組みが進められています。これにより、持続可能な社会の実現に向けた都市運営が可能となり、住民の生活環境の向上や地球環境の保全に寄与しています。
デジタルツイン
デジタルツインは、現実世界をデジタルで再現し、シミュレーションや予測を行う技術です。この技術を活用することで、都市の運営やサービスの提供を最適化し、人々の生活をより便利で快適なものにすることが期待されています。
例えば、シーメンスはデジタルツインのソリューションを提供しており、全てのデータをつなぐことにより設計の標準化や機械の付加価値創出が可能になっています。このソリューションを導入した企業では、開発期間を30%短縮し、新製品の早期開発が可能になっています。
また、東京都は「都市のデジタルツイン」社会実装を目指しており、シンガポールでは全ての道路、ビル、住宅、公園などを3D化し仮想空間に再現することで、物理空間では難しいシミュレーションを行い、都市開発の課題解決に役立てています。
富士通は台湾でスマートダムの共創コンセプトをデジタルツインを活用して行っており、ドローンで撮影した映像を5Gでリアルタイムに送り、仮想空間にリアルなダムを再現することで、台風などで氾濫が起きそうなときの予測が可能になっています。
これらの事例からもわかるように、デジタルツインは都市の運営やサービスの提供を最適化するための強力なツールであり、スマートシティの実現において重要な役割を果たしています。
市民参加の重要性
スマートシティの実現には、市民の積極的な参加が不可欠です。市民が自分たちの生活環境を改善するためのアイデアを提供し、それを実現するためのプロジェクトに参加することで、より効果的なスマートシティが形成されます。また、市民が自分たちの生活に直結したデータを提供することで、都市の運営やサービスの提供を最適化することが可能となります。
官民パートナーシップ / 公私パートナーシップ
スマートシティの実現には、官民パートナーシップ(PPP)が重要な役割を果たします。PPPは、「パブリック・プライベート・パートナーシップ」の略で、政府と企業が連携して公共施設を建設、運営する仕組みを指します。これには、政府が建設費用を負担し、企業が運営を担当するモデルや、企業が建設と運営を担当し、政府が使用料を支払うモデルなどがあります。このようなパートナーシップにより、公共サービスの提供と都市の持続可能な発展が実現されます。
官民パートナーシップ(PPP)と公私パートナーシップという言葉は、しばしば混同されることがありますが、一般的には官民パートナーシップの方がより広く使われている用語です。
一方で、公私パートナーシップという表現は、官民パートナーシップと同様の意味で使われることがありますが、文脈によっては公共部門と民間部門だけでなく、市民社会や非営利組織なども含むより広範な連携を指す場合があります。ただし、公私パートナーシップという用語は官民パートナーシップほど一般的ではなく、またその定義も曖昧で包括的な場合が多いです。
したがって、官民パートナーシップは政府と企業間の具体的な連携を指す用語としてより一般的に使われ、公私パートナーシップはそれに加えてより広い範囲のセクター間連携を含む可能性があると言えます。しかし、これらの用語は文脈によって使い分けられることがあり、明確な区別が常に存在するわけではありません。
スマートシティ実現の鍵を握る「都市OS」
スマートシティを実現する上で重要となるのが、さまざまなデータを分野横断的に収集・整理し提供する「データ連携基盤(都市OS)」です。街のインフラの根幹となるデジタルオペレーティングシステムの開発に向けて、バーチャルとリアルの両方でAIなどの将来技術を実証することで、街に住む人々、建物、車などモノとサービスが情報でつながることにより都市のポテンシャルを最大化できると考えられています。
人工知能やビッグデータ、自動運転、ロボットなどの活用により、社会のあり方を根本から変えるような最先端都市を目指していく必要があります。現在、一部の地方都市や過疎地域では、高齢化や人口減少のあおりを受けたことで自治体の財政が逼迫し、住民サービスの質が低下しています。これらの課題をICTやデータ、AIなどを活用し解決を目指しているのがスマートシティです。
日本におけるスマートシティ先進事例
日本においても、経済産業省による「次世代エネルギー・社会システム実証事業」などを通じて、横浜市、北九州市、豊田市、けいはんな学研都市などでスマートシティの研究が行われており、家庭用エネルギー管理システムの導入やEVのシェアリングサービスなどの実証実験が行われています。
トヨタ「コネクティッド・シティ」構想発表
3つのポイント
- あらゆるモノやサービスがつながる実証都市「コネクティッド・シティ」を東富士(静岡県裾野市)に設置。※「Woven City」と命名し、2021年初頭より着工
- 企業や研究者が幅広く参画し、CASE、AI、パーソナルモビリティ、ロボット等の実証を実施
- デンマークの著名な建築家であるビャルケ・インゲルス氏が街の設計を担当
トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)は、2020年1月7日(火)~10日(金)に米国ネバダ州ラスベガスで開催するCES 2020において、人々の暮らしを支えるあらゆるモノやサービスがつながる実証都市「コネクティッド・シティ」のプロジェクト概要を発表しました。
2020年末に閉鎖予定のトヨタ自動車東日本株式会社 東富士工場(静岡県裾野市)跡地を利用して、将来的に175エーカー(約70.8万㎡)の範囲でスマートシティを進めていく構想です。
このプロジェクトは、人々が生活を送るリアルな環境のもと、自動運転、モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム技術、人工知能(AI)技術などを導入・検証できる実証都市を新たに作ります。
プロジェクトの狙いは、人々の暮らしを支えるあらゆるモノ、サービスが情報でつながっていく時代を見据え、この街で技術やサービスの開発と実証のサイクルを素早く回すことで、新たな価値やビジネスモデルを生み出し続けることです。
トヨタは、網の目のように道が織り込まれ合う街の姿から、この街を「Woven City」(ウーブン・シティ)と名付け、初期は、トヨタの従業員やプロジェクトの関係者をはじめ、2,000名程度の住民が暮らすそうです。
また2020年3月24日、トヨタとNTTと資本業務提携を発表した。それぞれ約2000億円を出資して株式を持ち合い、世界的に激しい競争が続く自動運転技術の開発強化や、デジタルツインを活用した街づくり「スマートシティー」の早期実用化につなげる狙い。スマートシティ(最新技術を用いた、持続可能な都市)を実現する上での基盤となる「スマートシティ・プラットフォーム」の共同構築を目指す。
静岡県の工場跡地に「Woven City」(ウーブン・シティ)と名付けた実験都市を整備する予定だ。NTTとの協業により、どんな変化が起きるのだろうか。
Woven Cityの主な構想
街を通る道路を3つに分類し、それらの道が網の目のように織り込まれた街を作ります。
- スピードが速い車両専用の道として、「e-Palette」など、完全自動運転かつゼロエミッションのモビリティのみが走行する道
- 歩行者とスピードが遅いパーソナルモビリティが共存するプロムナードのような道
- 歩行者専用の公園内歩道のような道
デジタルツインによる実証検証
デジタルツインは様々なモノや建物、人間、場所をバーチャル空間で組み合わせることで、より詳細で、現実に近く、複雑な空間すらも表現することが可能です。
例えば、都市の3次元データに道路交通や公共交通、人流、災害情報などのデータを組み合わせることで、MaaS(モビリディー・アズ・ア・サービス)など新たな交通サービス導入の検証をしたり、スマートシティーの構想を練ったりします。
また、ドローンによる荷物配送や、VR(バーチャル・リアリティー)・AR(拡張現実)を利用して観光を疑似体験できるようにすることも可能です。こうした5Gやデジタルツインの進展により、「都市全体をバーチャル化させる」という動きが加速しています。
トヨタのWoven Cityもこの『デジタルツイン』技術を活用し、いきなり都市を建設するのではなく実際に建設した場合に人や車の流れ、都市機能が正常に動作するかなどVR空間上でシミュレーションを重ね、実証検証を行います。
バーチャル・シンガポール(Virtual Singapore)
今ひとつの都市や、国家全体のデジタルツインを構築しようという試みまで進められています、それが、「バーチャル・シンガポール(Virtual Singapore)」です。シンガポール全体をバーチャル化するという取り組みです。シンガポールの政府機関であるNRF(シンガポール国立研究財団)などが主導しています。
まず、シンガポール全土の地形情報や建築物の情報、さらには交通機関などの社会インフラに関する情報までを統合し、バーチャル空間に3Dモデルとして再現します。
さらにこの3Dモデルに、各種のリアルタイムデータ(交通情報や水位、人間の位置情報など)を統合し、「都市のデジタルツイン」の実現を目指しています。
シンガポールは2014年に「スマート国家(Smart Nation)」構想を打ち出し、デジタル技術を活用して住みやすい社会をつくるという理想を掲げており、その実現に向けて国土に関する情報のデジタル化と、各種センサーの整備を既に進めています。
シンガポールの面積は東京23区より少し大きい程度ですが、それでも国全体をバーチャル空間の中に再現するのは大きな挑戦です。
都市のデジタルツイン化によって、各インフラを整備する計画や太陽光発電パネルの設置場所の検討、アクセシビリティの改善、渋滞の解消や公共交通機関の改善といった利用法が示されています。
トヨタ「空飛ぶクルマ」に参入
またトヨタのWoven Cityの写真には、上空にエアモビリティの姿も見えます。トヨタは以前から、空飛ぶクルマに関心を寄せており、Woven City建設予定地でもある東富士研究所(静岡県)で空飛ぶクルマの研究開発を行ってきたもようで、関連特許も出願しているとのこと。
トヨタは、垂直離着陸する「空飛ぶタクシー」を開発する米スタートアップ、ジョビー・アビエーションに3億9400万ドル(約430億円)出資すると発表。空飛ぶタクシーは都市の渋滞緩和などにつながり、新たな移動手段として注目されています。Woven Cityでもエアモビリティの実証も行われる日も近いかもしれません。
参考:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54444790W0A110C2I00000/
トヨタがeVTOL機に関心を寄せるのは、次世代モビリティーの一翼を担う可能性が高いためである。次世代モビリティーは、公共交通機関やライドシェア、電動自転車など複数の交通手段を用いる「マルチモーダル化」の中で、スマートシティー(スーパーシティ)とセットで導入が検討されている。そのため、トヨタは21年に着工するウーブン・シティでeVTOL機の実証を行うかもしれない。
自動運転やシャトル型モビリティ、電動スクーター、エアモビリティなど、様々なモビリティが登場して、移動の最適化が進んでいきます。目的地や時間を入力すると、マルチモーダルな輸送サービスを組み合わせて最適なルートが検索可能となるでしょう。自動車産業の提供価値も、単なる移動に留まらず、移動の効率化によって空いた時間やコストをどう活かすのかが今後ますます重要になってきます。
実際にスマートシティを作り上げるのは容易ではありませんが、都市の3Dデータをデジタル空間に取り込み、実証検証を繰り返すことで理想的な都市の形が見えてくる気がします。今後、デジタルツイン技術から目が離せません。
静岡県裾野市に建設される「Woven City」にも注目していきたいと思います。
まとめ
数ある移動手段のうち、eVTOL機の利点は、交通渋滞が生じても短時間で目的地まで移動できる。加えて、ヘリコプターより静かで、燃費は安価である。すなわち、ヘリコプターより利用しやすい。世界中で都市部に人口が集中し、交通渋滞が大きな問題になっている中で、eVTOL機が狙うのは、まさにこうした都市部や空港、駅などをつなぐ移動手段であり、交通渋滞を緩和し、CO2排出削減にもつながる解決策として期待されています。
現在、新型コロナウイルスの影響で移動需要が減ったものの、コロナ禍を克服し、移動の需要が戻ると、eVTOL機による移動サービスの実現も考えられます。