
はじめに
近年、スタートアップ業界ではPLG(Product-Led Growth)が注目を集め、「これからは営業を介さずにプロダクトで売る時代だ」という論調が広がりました。しかし現実のBtoB市場、とりわけエンタープライズやミッドマーケット領域を見渡すと、依然として成長の中心にあるのは営業組織です。
むしろ市場が成熟し、競合が増え、意思決定プロセスが複雑化している現在においては、「誰が、どのように、どう売るのか」という設計の巧拙が、成長スピードを左右します。ここで再評価されているのがSLG(Sales-Led Growth)です。
SLGは単なる「営業中心の会社」を意味しません。営業を成長の偶発的な手段ではなく、戦略的な成長エンジンとして設計する考え方です。本稿では、SLGの構造、ユニットエコノミクスとの関係、PLGとの違い、失敗パターン、そして実務で押さえるべき設計ポイントまでを掘り下げます。
SLGとは?
SLGとは、営業活動を通じて顧客を獲得し、拡張し、LTVを最大化していく成長モデルを指します。ここで重要なのは、「営業が売っている」という事実ではなく、「営業プロセスが構造化され、再現性を持っているかどうか」です。
創業初期、多くのスタートアップでは創業者自身や一部の優秀な営業担当者が売上をつくります。しかしそれは、あくまで属人的な成果です。SLGが目指すのは、トップセールスの暗黙知を形式知化し、平均的な営業でも成果を出せる状態をつくることです。そのためには、次のような要素が必要になります。
➀まず、明確なICP(Ideal Customer Profile)が定義されていること。誰に売るのかが曖昧なままでは、営業活動は効率化できません。
②次に、商談プロセスが標準化されていること。初回接触からクロージングまでの流れ、ヒアリング項目、提案構成、決裁プロセスの進め方が整理されている必要があります。
③さらに、受注後のカスタマーサクセスとの連携が設計されていること。SLGは受注で終わるモデルではなく、拡張まで含めたアカウント成長モデルだからです。
なぜSLGが有効なのか
SLGが特に有効なのは、顧客の意思決定が複雑な市場です。
例えば、以下のような条件が当てはまる場合です。
・契約単価が高い(数百万円〜数千万円)
・複数部署が関与する
・既存業務フローを変更する必要がある
・セキュリティや法務チェックが厳格
・導入効果の事前説明が不可欠
このような環境では、顧客は「試してみて判断する」ことができません。営業は単なる販売員ではなく、意思決定プロセスの伴走者になります。顧客の曖昧な課題を構造化し、定量的なROIに落とし込み、社内稟議を通すための材料を揃える。この一連のプロセスを支援することで、受注確度は大きく向上します。ここにSLGの本質があります。営業はコストではなく、意思決定を前進させる価値提供そのものなのです。
SLGとCAC・LTVの関係
SLGは一般的にCAC(顧客獲得コスト)が高くなりがちです。営業人件費、提案準備コスト、移動時間など、PLGに比べて人的コストがかかるからです。しかし重要なのは、CAC単体ではなくLTVとの関係です。
SLGが成立する条件は、
LTV > CAC × 許容回収期間
が明確に成立していることです。
高単価契約、長期契約、アップセル・クロスセルの余地がある場合、LTVは大きくなります。特にLand and Expand型のモデルでは、最初は小規模導入であっても、数年かけてアカウント価値が拡大します。この構造が成立している限り、SLGは非常に強い成長モデルになります。逆に、単価が低く解約率が高い場合は、SLGの経済合理性は崩れます。
SLGとPLGの違いと補完関係
SLGとPLGはよく、対立的に語られますが、実際には補完的な関係にあります。
PLGは、プロダクト体験を通じて顧客を獲得し、自己拡張していくモデルです。低単価、短い意思決定サイクル、個人利用から始まるプロダクトと相性が良いです。
一方SLGは、高単価、複雑な意思決定、組織導入型のプロダクトと相性が良いです。
近年増えているのは、ハイブリッド型です。PLGで利用データを取得し、一定利用量を超えた顧客に営業が介入する。これにより、営業は確度の高いアカウントに集中できます。SLGとPLGは二者択一ではなく、「どこに人が介在すべきか」を設計する問題なのです。
SLGが失敗しやすい典型パターン
SLGの失敗は、主に三つのパターンに集約されます。
第一に、トップセールス依存です。エースが売れている間は問題が見えませんが、組織拡大とともに平均受注率が低下します。
第二に、ICPが曖昧なまま営業を増やすケースです。ターゲットが広すぎると、提案が一般論になり、受注率が下がります。
第三に、受注後の設計不足です。営業とカスタマーサクセスが分断されていると、LTVが伸びず、結果的にSLGの経済合理性が崩れます。
SLGは「営業人員の増加」ではなく、「営業モデルの設計」であるという前提を忘れてはいけません。
実務で押さえるべきSLG設計のポイント
SLGを設計する際には、次の観点が重要です。
まず、勝ちパターンの分析です。どの業界・規模・課題を持つ顧客が高確率で受注しているのかをデータで把握します。次に、営業ストーリーの構造化です。ヒアリングの順番、提案資料の構成、ROI算出方法を標準化します。さらに、CRMの徹底運用です。商談フェーズの定義、確度管理、失注理由の記録が、次の改善につながります。
そして、Enablementの継続的アップデートです。市場やプロダクトが変化すれば、営業メッセージも更新が必要です。
スケールフェーズにおけるSLGの戦略的意義

PMFを超えた後、スタートアップはスケールという壁に直面します。広告費を増やしても、営業を増員しても、売上が比例しない状態です。
この壁を越える鍵が、SLGの再設計です。営業を属人化から脱却させ、組織知として蓄積し、拡張モデルと統合する。これができる企業は、営業人数に依存しない成長曲線を描けます。特に資金調達局面では、「再現性のある営業モデル」が存在するかどうかが、企業価値評価に大きく影響します。
まとめ:SLGは“売り方”の競争優位をつくる
SLGとは、営業を戦略資産として設計する成長モデルです。
優れたプロダクトがあっても、売り方が設計されていなければスケールは実現しません。一方で、営業モデルが構造化されていれば、市場変化にも柔軟に対応できます。SLGの本質は、「売れる営業」を再現可能にすることです。BtoBスタートアップが持続的に成長するためには、プロダクト戦略と同じ解像度で営業戦略を設計する必要があります。営業をコストではなく、競争優位の源泉として捉えられたとき、SLGは単なる販売手法を超え、企業成長の中核になります。
参考資料
・SLGとは?PLGとの違い、SaaS企業がSLGを活用する際のポイントを解説
・SLG(セールスレッドグロース)とは?PLGとの違いや実現方法を解説 |
・SLGとは?PLGとの違いや導入のメリット、成功事例を徹底解説 – Salesforceブログ
EXPACTでは、特にスタートアップ企業への補助金活用や資金調達を強みとしており、実績・経験も多数ございます。資金調達成功に向けて、パートナーを探している、また詳しく話を聞いてみたいという方は下記からお問い合わせください。

