新しい事業を次々と立ち上げる連続起業家(シリアルアントレプレナー)の特徴
連続起業家(シリアルアントレプレナー)とは、新しい事業やベンチャー企業を連続で何度も立ち上げる起業家のことを言います。日本の国際競争力が低下する中、世の中にインパクトのある新規事業を何度も立ち上げ成長させる連続起業家は、日本の経済力を高める一つの大きなカギと言えるでしょう。
しかし、連続起業家には新規事業の成功率を高めるための特別なスキルセットと心構えが求められます。その一つに、マーケットの動向を敏感に察知し、タイミングを見計らって参入する洞察力があります。また、彼らは常に次の挑戦を見据え、現状に満足せず、新たな市場機会を模索し続けるのです。
その一方で、日本ではまだまだ起業家人口が少なく、「起業家」と「連続起業家」の違いについて理解されていないのが現状です。
この記事では一般的な起業家と連続起業家の違いや、連続起業家が持つ特徴、そして新規事業創出の流れについて解説します。これから新規事業を立ち上げることを考えている方、起業家というキャリアに魅力を感じている方にとって役に立つ情報をまとめているので、最後までぜひご覧ください。
連続起業家とは?
まずは、連続起業家とは何かについて説明します。先ほども説明したとおり、連続起業家は次々に新規事業を立ち上げ成長させていく、いわば「起業のプロ」です。
具体的には、新規事業を立ち上げ、ある程度その事業を成長させたら売却します。そして、事業を売却して得た資金を元手にしてまた新しい事業を作ります。その繰り返しで、新規事業をいくつも立ち上げていくのが連続起業家のモデルです。
これまで日本では起業・創業した会社は成長したらIPO(上場)するのがいわゆる「成功」のパターンであり、創業者はその会社の経営者として事業に関わり続けるのが一般的でした。逆にM&A(事業売却、譲渡)には、事業に失敗した際にやむをえず会社を手放すために行われるという負のイメージがありました。また仮にM&Aをしても子会社あるいは株主として継続的に事業に関わることが多かったのです。
しかし、近年では戦略的にM&Aを選択し、ゼロから新しく事業を立ち上げることに対してポジティブに評価する価値観が浸透しつつあります。そこには、米国企業がM&Aを投資戦略として採用する事例が増えていることが大きな背景としてあります。
例えば、Meta社(旧Facebook社)はInstagramやWhatsAppを買収し成長しています。このような企業成長の形を取るには、優れたベンチャー企業が1社でも多く増えることが必要です。そこで、従来のような1社の経営をやり遂げる経営者像ではなく、失敗も許容しながら何度も新しいビジネスを作り上げる連続起業家の能力が求められるようになったのです。
さらに、連続起業家はビジネスの「エコシステム」を構築することにも長けています。彼らは複数の事業間でシナジー効果を生み出し、各事業を相互に支援しながら成長させる手法を用います。これは、単に新規事業を立ち上げるだけでなく、それぞれの事業が互いに補完し合い、持続可能な成長を促進するという戦略的な視点を持っていることを示しています。
連続起業家といえばこの人!イーロン・マスクのキャリア
連続起業家、シリアルアントレプレナーといえば、まず外せないのがイーロン・マスク氏です。
次に、連続起業家のモデルケースとして、彼のキャリアを追いかけてみましょう。
1.自作ゲームソフトを開発
イーロンはエンジニアだった父の影響で、10歳の時に独学でプログラミングをマスターしました。その後12歳で宇宙をテーマにしたゲームソフト「ブラスター」を開発し、そのコードを500ドルで南アフリカの雑誌「PC and Office Technology」に売却しました。
2.オンラインコンテンツ会社「Zip2」
物理学と経済学の学士号を取得したマスク氏は1995年、応用物理学を学ぶため名門スタンフォード大学の大学院物理学課程に進みますが、「新聞などのメディア向けにウェブサイトの開発などを支援するソフトウェアを提供する」というアイデアを思いつき、わずか2日間で退学しています。この時、イーロンは今後の世界について考えを整理していたと語っています。「大学生の時、将来人類にとって最も重要になるものは何かを考えた。答えはインターネット、持続可能エネルギー、そして複数の惑星での生活の3つだった」(『週刊東洋経済』2013.1.12)という発言の通り、退学したその年に弟キンバル・マスクと「Zip2」を立ち上げました。Zip2はニューヨーク・タイムズを始めとする有名新聞社のWebサイトへ、街の旅行情報などを提供するサービスを展開していました。99年には、コンピュータ製造企業の「コンパック」に約3億ドルで売却しています。
3.オンライン金融サービス「X.com」「PayPal」
Zip2の売却益で、イーロンはオンライン金融サービスと電子メール支払いサービスを行う会社「X.com」を立ち上げました。2002年にはピーター・ティール氏が創業したコンフィニティと合併し、社名を「PayPal」とし、最大株主のマスク氏は会長(のちにCEО)に就任しています。合併後、X.comとコンフィニティの企業文化の違いなどから衝突し、イーロンはCEOを解任されてしまいます。しかし、その後も相談役としてPayPalの成長に貢献し続けたイーロンは筆頭株主として自らの資産を増やしています。イーロンのもくろみ通り、PayPalは順調に利用者を増やし、2002年2月に株式を公開、時価総額は12億ドルに達しました。この絶好のチャンスに、かねてよりPayPal買収を考えていたeBayに会社を15億ドルで売却、イーロンは1億6,500万ドルを手にすることになりました。
4.ロケット開発の「スペースX」
この資金をもとにマスク氏が乗り出したのが「宇宙ビジネス」です。ただし、最初からロケット開発を考えていたわけではありません。初めに考えたのは、火星に「バイオフィア」と呼ばれるミニ地球環境を持ち込んで、植物を栽培する構想でした。専門機関に費用を調査してもらったところ、イーロンの手元資金で十分可能でした。
問題は、必要な資材を運ぶためのロケットです。ボーイング社製のロケットを使うと、莫大なコストがかかります。イーロンはより安い方法を求めてロシアに出掛け、交渉を重ねますが、ロシア製には信頼性が欠けると判断しました。米国製もダメ、ロシア製もダメとなれば、計画そのものをあきらめるところですが、イーロンは安くて信頼性の高いロケットを誰もつくっていなのならば、自分でつくればいいと考えたのです。これが、イーロンがロケット開発に乗り出した理由です。2002年、イーロンは「スペースX」を設立、火星への人類の移住を本気で目指すことになりました。
5.電気自動車の「テスラ・モーターズ」
イーrンは2004年には電気自動車会社「テスラ・モーターズ」へ出資し代表取締役に就任しています。同社は電気自動車の開発を進め、2008年に電気自動車にして超高級スポーツカータイプの「ロードスター」を完成させ、著名人の支持を得ることに成功しました。最初のロードスターは10万ドルを超える高額な車でしたが、2012年に「モデルS」、2015年にSUV車「モデルX」を発売、2017年に生産を開始した4ドア車「モデル3」は3万5,000ドルからと一般の人でも手が届く価格を実現しています。
6.太陽光発電の「ソーラーシティ」
ソーラーシティ(Solar City)は、イーロンの従兄弟である2人の起業家によって、イーロンのアドバイスによりカリフォルニア州フォスター市で2006年に創業されました。現在の本社はフリーモント市になります。当初は太陽光発電パネルを生産していましたが、現在はそれに加え屋根のタイルと併用しても違和感のないデザイン性の高い太陽光発電タイルと電気自動車用のチャージャーも製造しています。2016年にテスラに2,600億円で買収され、「Tesla Energy」の傘下となりました。テスラの掲げるクリーン・エネルギーの達成というミッションに貢献しています。
イーロンが手がけたそれぞれの事業ごとにエピソードはたくさんありますが、ここで重要なのは、イーロンが一つの事業をひたすら伸ばすのではなく、前の事業を売却して得た利益を元手に次々と新しい事業にチャレンジしていることです。人生で6つも事業を立ち上げられるのは、連続起業家ならではのキャリアだと言えます。事業が成長していく時のエキサイティングな場面を何度も経験し、その価値を受け取ることができるのは、連続起業家の大きなメリットです。
2022年4月5日には、米Twitterの筆頭株主となり、イーロン・マスクが取締役にも就任している。
(参考記事)
Forbes Japan
ビジネス+IT(前編)
ビジネス+IT(後編)
ABS
連続起業家の特徴
連続起業家は、会社を上場させた後でも継続的に拡大する「経営者」とは違い、ゼロから新しい事業を何度も立ち上げ、かつその事業を成長軌道に乗せる存在です。 ビジネスを何度も成功に導く彼らに共通する特徴には、どんなものがあるのでしょうか?ここでは5つに分けてご紹介します!
①発想力
次々に新規事業を立ち上げるにはその数だけ、あるいはそれ以上のアイデアを見つけることが必要です。ビジネスチャンスや市場、また既存のリソースを活用して必要なこと、できることを考え続ける能力はとても重要です。また、新規事業には障害がつきものですが、障害を一つ一つ乗り越えるのでも、新規事業では他者のマネは通用しません。課題解決にも柔軟な発想力は大きな武器になります。
②実行力
見つけたアイデアを実行する能力も新規事業には重要です。その時その時で必要なアクションを見極め、行動に移すフットワークの軽さや決断力も求められます。また、実行にあたって生じるハードルを突破する粘り強さも必要です。また、実行(起業)するタイミングやサービスリリースするタイミングも極めて重要になります。スタートアップとしては、大手が参入する少し前に、その市場(マーケット)に参入し、先行優位性や知財やブランドなどの参入障壁を築いておく必要があります。一方で、市場参入が早すぎると資金調達した資金を使い切り、バーンアウト(資金が燃え尽きてしまう)して倒産してしまう可能性もあります。そうした場合、事業ポートフォリオに「金のなる木」を組み込んでおくことも重要でしょう。
③人脈・人望
どんなにいいアイデアでも、一人では実行に移すことは難しいです。特に新規事業ではスピード感が重要なので、一人で何でもやるより、それぞれの得意分野を持ったメンバーや人脈を揃えていくことで成功確率が高まります。また、新規事業は安定成長するまで時間がかかるので、そこまでメンバーを巻き込む起業家のビジョンや人望も求められます。
④モチベーションとポジティブさ
新規事業には失敗がつきものです。また、成果が思うように出ず停滞する時もあるでしょう。そんな時でも粘り強く仮説と検証を重ねるには、自分の中で強いモチベーションを維持することが必要になります。自分の行うビジネスが好きという気持ちや、前向きに進むポジティブな気持ちが実行力や人望にもつながっていきます。
⑤失敗を次のチャレンジに活かす
ゼロから事業を立ち上げるのに失敗しないということはありえません。失敗を経験値と捉えて最終的な成長につなげる姿勢と工夫が必要です。また、連続起業家は特に、挑戦する全ての事業が成功するわけでもありません。失敗を許容し、事業がうまくいかない時の損失を可能な範囲で小さくする努力や、次の事業で失敗を改善する努力など、継続的な改善が求められます。
新規事業の5ステップとは?
最後に、新規事業が出来上がるまでの流れをご紹介します。新規事業創出の5ステップは以下の通りです。
①アイデアの創出
ビジネスチャンスや市場を見つけ、新規事業のアイデアを出します。まずは、国内外の既存ビジネスをしっかり研究してから新規事業のアイデアを固めていきましょう。アイデアを検討する時には、5W1H(誰の課題か?/どんな課題か?/課題をどうやって解決しマネタイズするのか?/なぜ自分がこの課題を解決するのか?/なぜ今この事業に参入するのか?)に当てはめてみて、検討事項に漏れがないかしっかり確認しましょう。
②マーケットリサーチ
新規事業のアイデアが市場に受け入れられるのか、MVP(Minimum Viable Product : 顧客に価値を提供できる最小限の検証可能なプロダクト)などで確かめます。
まずは、参入を検討するマーケットサイズ(市場規模)を調査し、現状のマーケットサイズに比べて5〜10年後に何倍になっているか、また日本国内だけでなく、グローバルでも成長が期待できる市場か調査する必要があります。これは、関連する上場企業のIR資料から将来見通しをリサーチしたり、調査会社等のレポートを購入するなどの手法があります。
マーケットの成長性が確認できた後は、ユーザーヒアリングを実施しましょう。そのサービスがある世界とない世界でどのようにユーザー体験が変わるのか、ユーザーの感情を揺さぶれるかがポイントとなります。弊社独自のデータベースを元に既存のスタートアップをリサーチすることが可能です。
MVPとは具体的にはどういったイメージでしょうか?口頭でサービスを伝えたり、テキストと写真を使ってサービス概要を伝えてGoogle Formを使ってアンケート調査を実施するケースもあります、Studioなどのノーコードツールを用いてLP(ランディングページ)なのでサービス概要を伝えて顧客のフィードバックを得る方法もあります。その他、ShopifyでECサイトを構築して予約販売を受け付ける方法やGlideやAdaloなどのノーコードでアプリを作れるツールを活用する方法などもあります。
③POC(仮説検証)
商品・サービスのコンセプトを形にし、PSF(Problem/Solution Fit : 解決に値する課題があるか?)を検証します。
PoCとは、Proof of Conceptの略で、「概念実証」や「仮説検証」という意味です。新しい概念や理論、原理、アイディア、ビジネスモデルの実証を目的とした、試作開発の前段階における検証やデモンストレーションを指します。これによって事前に検討したアイデア/コンセプトの実現可能性を見極め、期待した効果が得られると判断できればプロジェクトに予算を投下して進めていくという形が一般的です。
たとえば新規性の高いビジネスを立ち上げる、あるいは革新的な技術を利用するといったとき、本当にそれが実現できるのか、それによって効果が得られるのかを机上の議論のみで判断するのは困難です。そこで実際に小規模で試作や実装を行い、できあがったものを用いて検証を行うことにより、実現可能性の判断の精度を高めることが可能になります。
マーケットリサーチによりユーザーニーズ(Nice to haveではなく、Must haveなニーズ。バーニングニーズとも言う)を確認できているのであれば前述のMVPにさらに予算を投じて、モックや試作品、最低限の機能を実装したアプリの制作などを行うフェーズとなります。大企業においてはこれらを新規事業の投資予算で行いますが、その他スタートアップではものづくり補助金などの活用も可能です。
④事業計画策定
新規事業のビジネスモデルを構築し、PMF(Product/Market Fit : 誰かに必要とされるものを構築したか?)を検証するまでに必要な資金計画や施策を実行する時間軸を設定します。
事業計画の策定は、上記のマーケットリサーチや概念実証(POC)が終わった段階で初めて計画策定が可能となります。事業計画においては、必要な資金額の算出やPMF(プロダクトマーケットフィット)までに必要なトラクションとそれを獲得するまでの資金計画が重要です。加えて既存事業とのシナジーが見込める場合は、そうした影響も考慮した事業計画の策定が必要です。
必要な資金を明確にすることに加えて、それらの施策を実行するためのタイムライン(時間軸)の設定も重要な視点です。実施にどれくらいの時間がかかるかによって必要な資金額を逆算することができ、バーンレートと残りのランウェイをしっかり頭に入れておく必要があります。
また数値計画のみならずビジネスモデルキャンパスなどのビジネスフレームワークを使ってPoC(仮説検証)で得られた情報や仮説を落とし込み、整理する必要があります。
⑤アクセラレイト(事業拡大や必要な資金調達)
新規ビジネスに有効な資金調達を行います。
事業拡大する上では、資金調達が必要です。事業フェーズや事業のスケーラビリティ、リスクなどを踏まえて資金調達方法を選択しなければいけません。
アイデアの創出やマーケットリサーチでは、既存のスタートアップをリサーチすることが有効です。
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また、新規事業の実行フェーズで重要なポイントはこちらにもまとめております。
EXPACTの新規事業創出支援とは?
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まとめ
最後までご覧いただき、ありがとうございました。今回の記事では、連続起業家(シリアルアントレプレナー)の特徴から、実際の新規事業創出の流れまでご紹介しました。
EXPACTでは、事業アイデアの創出と企画戦略の立案などだけではなく、「なぜその商品・サービスを世の中に広めたいのか」きちんと把握し、体系立てて、成功に向けたサポートを行います。御相談をお待ちしております。
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