スタートアップの中でもSaasなどのサブスクリプションサービスが多くなってきています。日本経済団体連合会のスタートアップ躍進ビジョンの中でもスタートアップの大勢を占めるのはIT系・SaaS系企業であると述べられており、投資家や企業においてもSasビジネスの成長性を測るMRRが注目されています。
MRRとは毎月継続的に得られる収益のことで、サブスクリプションサービスでは基本的に顧客の解約がない限り収益発生が長期化するため、企業バリュエーションを従来のPL(損益計算書)で計ることが困難であることから、投資家も企業も成長性や効率性などを測る指標としてMRRに着目しています。
MRRは4種類あり、この記事ではMRRの概念や計算式、改善のヒントなどを取りまとめました。
MRRとは
MRRはMonthly Recurring Revenueの略で、直訳すると「月次経常収益」となります。毎月得られる継続的な収益を指し、Saasであれば初期費用や導入サポート費用など1度だけ発生する収益は除き、毎月定常的に発生する収益を表す指標となります。事業成長を見るにあたり、毎月の収益が安定していると投資家としても投資がしやすいためMRRは特にサブスクリプション型のサービスにおいて、チャーンレートなどと合わせて重要な指標の一つと言えます。
4種類のMRR
MRRの値算出のためには4種類のMRRを把握しておく必要があります。
①New MRR
New MRRは新規顧客から得られるMRR(月次経常利益)です。スタートアップの場合このNewMRRの指標は事業の成長度合いや費用対効果なども測る意味で重要な指標となるケースが多いです。経常利益のため、販促やマーケティングなどの獲得コストを差し引いて残る利益計上がどの程度あるかという数値が見れるため顧客獲得コスト(CAC)のパフォーマンスを判断する際の指標としてもNewMRRが利用できます。
ここの値が低いと、サービス価格や販促費や原価など経費を見直す必要が出てきます。
②Expansion MRR
Expansion MRRは、既存顧客からのアップセルやクロスセルによる追加収益を把握する指標です。例えば月5,000円のサービスを月10,000円の利用に変更してもらったり、別のサービス利用によるクロスセルでの売上によって増加する収益を全て含んだものを指します。新規顧客を獲得するよりもアップセルやクロスセルの方が顧客獲得単価が低い傾向にありますので、こちらの指標も覚えておくべき指標です。特にアップセルできる時などは何か”付加価値”がついていてその対価としてセールスできていると想定されますので、満足度の高いサービスが提供されているという考え方ができます。
③Downgrade MRR
Downgrade MRRはダウングレードなどによる収益減少を測る指標です。減少MRRとも呼ばれます。解約など完全な顧客離反による減収はここではカウントしません。Downgrade MRRの要因には、社会ニーズの変化や、サービスへの不満足などが考えられ、何かしらダウングレードしている原因を突き止めて改善を行うことが重要です。
④Churn MRR
既存顧客のサービス解約によって減少するMRRを指します。解約MRRとも呼ばれます。サブスクリプションサービスにおいては、「いかに更新(継続的な利用)をしてもらえるかが勝負」です。新規顧客がどれだけ増えてもChurn MRRの値が大きい(=解約者が多い)と損失に直結しますので、いかにChurn MRRを抑えられるかが肝心です。
MRRの計算式
4種類のMRRを使ってMRRを算出します。
●前期 MRR+(New MRR+Expansion MRR-Downgrade MRR-Churn MRR)
投資家が見ている「SaaS Quick Ratio」とは
SaaS Quick Ratioとは、「SaaSビジネスの成長率を測るための指標」です。
【SaaS Quick Ratioの計算式】
Quick Ratio (%) = ( New MRR + Expansion MRR) ÷ (Downgrade MRR + Churn MRR)
MRRの増加分を減少分割ることで算出される数字(%)によって成長率の判断ができます。
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1未満:現状の事業では将来性が低く、大幅なサービス変更やPIVOTなども検討する必要あり
1以上4未満:成長はしているが更なる改善の余地あり。顧客満足向上のサポートや獲得コストの見直しなど何かしら手を打たないと縮小に向かう可能性も十分にある
4以上:今後の成長が見込め、事業は好調と判断できる
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この指標はサービス開始から数年が経過して注目される、というよりは数年経過しないと計算の母数の関係から正確な算出ができません。スタートアップの創業当初などの場合は投資家から指摘されることはまずないでしょう。
MRRと合わせて知りたい、ARRとは
ARR(=Annual Recurring Revenue)は『年次経常利益』となり、年間契約型のサービスの指標して最適です。
●月額制サービス=MRR
●年間契約型サービス=ARR
と覚えればよいでしょう。MRR×12(ヶ月)=ARRと言えます。
MRRとARRの違いでいうと月額のサービスか年間契約なのか、ビジネスモデルによって使い分けると良いです。
MRR改善のヒント
4種類のMRRについて、それぞれ改善のヒントを考察します。あくまで一般的な解決策も含みますので、細かな点は自社サービスと照らし合わせて考えて下さい。
①New MRRの改善ヒント
New MRRを改善するには、新規獲得がマストです。そのため改善策は新規獲得のための営業フローやプロセス、コストを見直すことが求められ、MRRの指標改善に繋げるためにはMRRが獲得コスト(CAC)に対して効率的であるのかを考えることが重要です。一つ一つのリード獲得から成約までの流れと施策を見直していきましょう。
大切なのは何がボトルネックになっているか?ということです。商談さえつくれれば一定の成約が獲れるのであれば、WEB広告や比較サイトの掲載、BPOなどを活用したリード獲得の改善になり、商談後の成約率に課題があるならば、トライアル版の提供などして顧客体感による価値提供をしていくなどの打ち手になります。
②Expansion MRR改善のヒント
Expansion MRRの改善においては、アップセルやクロスセルに繋がる商品やサービスのブラッシュアップによる単価の向上や、オプション機能の拡充、関連や提携サービスの紹介などによって、顧客単価を上げる必要があります。大事になのは顧客ニーズのある機能やサービスを追加することで、費用を”追加する分の価値”があるかどうかを見極めがポイントです。ここを失敗するとそもそものサービス解約やダウングレートに繋がるリスクもあるので慎重に行うことが求められます。
③Downgrade MRR改善のヒント
Downgrade MRRの改善でまず着手するべきなのは、『ユーザーがダウングレードした理由の解明』です。この後に出てくるChurn MRRとも共通しますが、ダウングレードや解約、離反には何かしら理由があります。サービスに満足できていない、使ってみたが有益ではなかった、うまく使いこなせなかったなど、理由はさまざまなので、それがサービス提供側で修正するべき事項であれば改善していく必要があります。理由の解明にもつながるのがカスタマーサクセス(CS)部門の存在で、顧客への継続的なサポートができれば Downgrade MRRは改善する傾向になる可能性が高いです。
④Churn MRR改善のヒント
4種類のMRRで本来一番最初に改善するべきなのがChurn MRRです。新規で一人のユーザーを獲得するよりも、一人のユーザーに継続してもらう方が圧倒的にコスパが良いためです。Churn MRRの値が高くなるほど、MMR全体数値が悪くなり、LTVも低下します。ここの解決策を見つけるためにもやはり重要なのは『ユーザーの解約理由』で、契約に至っているということは何かのニーズに応えられる商材・サービスであると判断されたということなので、その期待は何だったのか、そこに応えるためにどのようなことが必要だったかなどつぶさに顧客の声を拾う必要があり、ここを行えるのがカスタマーサクセス部門です。
スタートアップの場合、まずは新規顧客の獲得が命題になりますが、早い段階でカスタマーサクセス部門を設置して顧客満足度の調査や向上ができることがMRR数値を良くしていくことに繋がります。
まとめ
スタートアップとしてはMRRが増加している状態=自社サービスが市場から評価されている、となるので事業成長が期待できます。MRRは複数のさまざまな要因が重なり合って出てくる値となりますので、4種類のMRRを意識しながらそれぞれの値を改善していきましょう。
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