
高度に制度化され、規制と競争に囲まれた医療業界。そこに革新の余地は残っていない_そう考える人も少なくありません。しかし、本当にそうでしょうか?
確かに医療という領域は高度に制度化され、規制も強く、新規参入のハードルが高いことは事実です。しかし、その構造を細かく見ていくと、医療バリューチェーンの中にこそ、誰も手をつけてこなかった余白=”フロンティア”が数多く存在していることに気づかされます。
その余白が、スタートアップによる破壊的イノベーションの入り口になる可能性を秘めています。
医療は「本体」だけでは成り立たない
多くの人が「医療」と聞いてまず思い浮かべるのは、「診断」「治療」「投薬」などの“医療行為そのもの”でしょう。確かに、それは医療サービスの中核です。しかし、実際の医療提供プロセスは、その“本体”だけでは回っていません。
例えば、次のようなプロセスが医療提供までのステップに必要となっています。
・来院前の予約・問診・情報収集
・医師による事前の症状予測や診療計画立案
・診療後の服薬アドヒアランス管理
・生活習慣への指導・行動変容支援
・医療費や制度に関する説明・請求・申請サポート
・介護・福祉など医療外のケア連携
これらは医療行為の“周縁”にあるように見えて、患者の体験や治療成果に直結する重要な構成要素です。そして、これらの領域は驚くほどアナログで属人的なまま放置されている場合が少なくありません。
この未開拓のエリアこそが、「破壊的余白(Disruptive White Space)」です。
なぜ「破壊的余白」が重要なのか
医療の“本体”は制度が握っている
- 保険診療の可否、診療報酬の加算、医療機器の認可など、制度に深く組み込まれているため、スタートアップが直接参入するのは極めて難しい。
- 医師免許・薬剤師免許など、専門ライセンスに依存する。
- PMDAによる審査・承認には長期的な開発・エビデンス蓄積が必要。
→ 制度の本丸に挑むことは、スタートアップにとって「重戦車との正面衝突」になりやすい。
しかし、制度の外側には“誰も守っていない”領域が広がっている
- 診療前・診療後・診療外にあたる情報、支援、事務作業などのプロセス
- それらは制度によって“保護”されていない代わりに、既得権益が少なく、テクノロジー導入の余地が大きい
- しかも、制度に繋がっていないこと自体が、現場のストレスやエラーを生んでいる
→ スタートアップにとっては、「競争が少なく、価値が高く、介入可能な領域」と言えます。
具体的な”破壊的余白”の例_スタートアップが狙うべき5つの領域
ここでは、実際にスタートアップが入り込みやすい医療バリューチェーンの余白をいくつか紹介します。
① デジタル問診/プレ問診領域
・医師が限られた時間で聞き出していた情報を、AI・チャットボットが自動収集
・例:Ubie(ユビー)のような問診支援SaaS
・医療行為ではないため制度の制約が少ない
制度外でありながら、診療分野全体に波及効果のある領域。
② 治療後の服薬管理・行動変容支援
・アドヒアランスの向上は、再入院率や治療効果に直結する
・アプリやリマインド機能、LINE連携などでサポート
・例:HERBIO、CureAppなど
「治療の外」にイノベーションを差し込む動きを期待できる。
③ 医療費の見える化・説明・助成制度のナビゲーション
・高額療養費制度、自治体の助成などを理解していない患者が多い
・行政サービスをAPI連携してサポートする余裕
これは「制度の中」へのアクセシビリティを高めるサービスともいえる
④ 地域連携・介護・福祉とのハブ機能
・高齢者や慢性疾患患者にとって、医療と介護は連続している
・医師とケアマネ、訪問看護、行政をつなぐデジタルプラットフォームに余地あり
技術力よりも、現場理解と関係構築力が問われるタイプの破壊的余白。
⑤ 医療スタッフの業務負担軽減(B向けSaaS)
・スタッフの電話対応、スケジュール調整、報告書作成など“医療外業務”を効率化
・例:予約システム、AI問合せ対応、RPA、AI議事録ツールなど
スタートアップは”隙間”から始まる
医療スタートアップの本質的な価値は、「いきなり制度の中心に食い込むこと」ではありません。むしろ、制度が届いていない分野に対して、テクノロジーの力で解決策を提示することです。
本丸ではないが、無視できない課題。医療行為ではないが、患者体験や治療成果に直結するプロセス。度外ではあるが、明らかに効率が悪く、疲弊を生んでいる業務。
こうした「隙間」こそが、スタートアップが本領を発揮する領域です。そして、こうした“隙間”を深く掘り下げてプロダクトを磨き上げていけば、やがて制度の中枢や本丸への導入も現実的になります。「余白」からはじめて、「制度」と接続するのが、医療スタートアップの戦略です。
余白を掘るための3つの問い
question1:医療行為ではないが、医療に深く関係している業務は何か?
question2:制度の外にあるために、“誰も責任を持てていないプロセス”はどこか?
question3:患者やスタッフが「ずっと我慢している」「当たり前になっている」違和感は何か?
これらは、破壊的余白の“入り口”になります。
そして、それにテクノロジーと現場知見を掛け合わせることで、制度では救えなかった領域をカバーするプロダクトが生まれます。
まとめ_余白こそ、イノベーションの主戦場
医療業界は、参入障壁が高いようでいて、実は誰も掘っていない“余白”が広がっている市場です。技術的ブレイクスルーだけでなく、制度の外にある当事者を見つけ、それを愚直に解決する。
それこそが、医療スタートアップの戦い方であり、最大の価値創造となるのです。
参考資料
・https://note.com/ubie/n/n2df11e3726de
・https://jhec.jp/news/2023/11/01/startup-healthcare-dx/
・https://www.cbinsights.com/research/report/healthcare-nonclinical-startups/
・https://rockhealth.com/reports/healthcare-beyond-the-exam-room/
・https://hbr.org/2023/03/how-digital-health-startups-can-succeed
最後までご覧いただき、ありがとうございました。今回の記事では、医療業界における”余白”とスタートアップだからこそ築ける挑戦についてご紹介いたしました。
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