【欧米で続々と資金調達】勢いが止まらないeVtoL / エアモビリティ スタートアップとは?
いま、世界中であらゆる形態の交通の電動化が進んでいます。特に欧米では世界的に有名な企業からの資金調達実施ニュースが飛び交っており、数多くのスタートアップやベンチャーと呼ばれる新興企業が相次いでいます。このコラムでは欧米の電動航空機スタートアップの事例を紹介しながら、その資金調達方法について解説します。
eVTOL(電垂直離着陸型航空機)とは?
動力に電動機を使用する航空機であり、ドローン(無人航空機)などもその一つになります。人やモノの移動を便利にするものとして注目を集めており、国内外で研究開発が進められています。
電動航空機のメリットとしては、
・電動のため環境に良い
・従来の航空機と比べ、騒音が少ない
・燃料や油圧系統を使用しないため軽量化されメンテナンスも簡素化される
・燃料の運搬コストがかからない(充電、あるいは電池式)
・可燃物を積載しないため火災のリスクが減る
などさまざまな特徴があります。
欧米で勢いづく電動航空機スタートアップ
アメリカでは多くの資金調達ニュースが流れ市場が活発です。
例えば、『空飛ぶタクシー事業』を目指すJoby Aviation(ジョビー・アビエーション)は、2020年に約650億円の資金調達を行い、そのうち約450億円程度がトヨタ自動車からの出資であることを発表しました。
Joby Aviation raises $590 million led by Toyota to launch an electric air taxi service
空飛ぶタクシー事業とは、自社開発の電動垂直離着陸型 航空機(eVTOL)を使用した都市部での移動事業となり、戦略パートナーであるトヨタの自動車製造の経験が活かされているとともに、同社の取締役会にはトヨタ自動車執行副社長の友山茂樹氏が参画しています。2021年には特別買収目的会社(SPAC)との合併を通じての上場を交渉していると報じられ、その評価額は57億ドル(約6,000億円)になる見込みとされています。
ーーー豊田章男社長コメントーーー
トヨタは、自動車事業に加え、今回、Jobyという力強いパートナーとともに、新たに“空”のモビリティ事業にチャレンジします。空のモビリティは、未来のモビリティ社会における人々の移動と生活を大きく変革する可能性を秘めており、空のモビリティの実用化はトヨタ創業以来の夢でもあります。今回の協業により、陸だけでなく空にも、移動の自由と楽しさをお届けするモビリティの実現に貢献できることを嬉しく思います。
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同じく、都市部の航空モビリティマーケット事業を展開する電動航空機スタートアップのArcher Aviation(アーチャー・アビエーション)は、SPAC(特別買収目的会社)との合併を通じて公開企業となることを目指す一環で、ユナイテッド航空を顧客、また投資家として獲得することも発表されました。
同社の電動垂直離発着機(eVTOL)はフル充電で時速150マイル(約241km)で60マイル(約96km)飛行できる機体であり、2023年には大量生産開始を目指しています。
大型の資金調達がスピーディに実現できており、企業の研究開発や成長速度も非常に速いと思われる点が特徴です。
日本初のテストフライト成功
2024年11月2日、ジョビー・アビエーションは静岡県にあるトヨタ自動車の東富士テクニカルセンターで、日本初となるeVTOL(電動垂直離着陸機)のテストフライトを成功させました。このフライトは富士山を背景に行われ、ジョビーの無排出航空機の低騒音性を実証する機会となりました。
トヨタとの協力関係
ジョビー・アビエーションとトヨタ自動車は約7年間にわたって協力関係を築いてきました。トヨタは自動車製造や技術開発の知見を提供し、ジョビーの開発をサポートしています。
2023年には、トヨタがジョビーの航空機生産に必要な主要な動力系統やアクチュエーション部品を供給する長期契約を締結しました。
追加投資と生産支援
トヨタは最近、ジョビー・アビエーションに5億ドルの追加投資を行うことを発表しました。この投資により、トヨタのジョビーへの総投資額は8億9400万ドルに達します。この資金は、ジョビーの電動空中タクシーの認証取得と商業生産をサポートするために使用されます。
2025年の商業運行開始予定
ジョビー・アビエーションは、早ければ2025年にも日本で商業運行を開始する予定です。すでに日本の国土交通省航空局に認証取得の申請を行っているとのことです。
大阪万博2025での実証飛行
ジョビー・アビエーションは、ANAホールディングスとのパートナーシップのもと、2025年に開催される大阪万博でフライトデモンストレーションを行う予定です。ただし、これは商業サービスではなく、実証実験として行われる予定です。
航空機の特徴
ジョビーのeVTOLは、パイロットと4人の乗客を乗せ、最高速度時速320km、航続距離160kmで飛行できるよう設計されています。この航空機は、ヘリコプターの騒音のほんの一部しか発生せず、運用時の排出ガスもゼロという特徴があります。ジョビー・アビエーションは、トヨタ自動車との強力なパートナーシップを活かし、日本での空飛ぶタクシーの実現に向けて着実に前進しています。
ANAホールディングス、2027年度に日本初の空飛ぶクルマ商用運航を開始
革新的な都市間移動サービスの幕開け
ANAホールディングス(ANAHD)が、2027年度に日本初となる「空飛ぶクルマ」の商用運航を開始すると発表しました。この画期的なサービスは、東京都心と成田空港を結び、わずか10〜20分での移動を可能にします。
運航計画の詳細
- 路線: 東京都心と成田空港を結ぶ路線を皮切りに、羽田空港との空港間、都心と横浜市、神奈川県鎌倉市を結ぶ路線も計画中
- 運賃: タクシーと同水準を目指し、現在の羽田-成田間タクシー料金(2万円台半ば)を参考に設定予定
- 運航方式: 乗り合い方式を採用
- 離着陸場所: 野村不動産やイオンモールと連携し、都心部の施設や郊外の商業施設の屋上、駐車場などを活用
使用機体と特徴
ANAHDは、米ジョビー・アビエーションの5人乗り電動垂直離着陸機(eVTOL)を使用。
- 環境性能: 電池駆動でCO2排出ゼロ
- 騒音: 従来の飛行機やヘリコプターと比べて低騒音
- 運航コスト: 25分あたり約1万5000円(ジョビーの試算)
実現に向けた課題
商用運航の実現には、以下の課題をクリアする必要があります。
- 機体の型式証明取得(米FAAおよび日本の国土交通省)
- 具体的な飛行ルートの調整(関係省庁や自治体との協議)
- 新たな安全基準の策定
- 操縦ライセンスや運航ルールの整備
今後の展望
ANAHDの空飛ぶクルマ商用運航は、都市の交通渋滞解消や国際競争力向上に寄与すると期待されています。日本は、UAEと米国に続き、世界で3番目に空飛ぶクルマの商用運航を実現する見込みです。2025年の大阪・関西万博では、ANAHDを含む4グループがデモ飛行を行う予定ですが、商用運航は見送られています。
しかし、この革新的なモビリティサービスの実現に向けて、業界全体が着実に前進しています。空飛ぶクルマの商用化は、都市間移動の概念を根本から変える可能性を秘めています。ANAHDの取り組みが、日本の航空産業と都市交通に新たな時代をもたらすことが期待されます。
スカイドライブ/大阪・関西万博での商用運航断念
2024年6月、スカイドライブは2025年の大阪・関西万博での空飛ぶクルマの商用運航を断念すると発表しました。当初は有料で乗客を運ぶ計画でしたが、安全性や技術開発の課題が予想以上に多く、型式証明の取得が間に合わないと判断しました。万博では乗客を乗せないデモフライトのみを実施する予定です。
日本国際博覧会協会は、空飛ぶクルマの運航事業者として5社を選定しました:
- ANAホールディングス(全日空)
- JAL(日本航空)
- ジョビー・アビエーション
- スカイドライブ
- 丸紅
このうち、スカイドライブと丸紅の3社が万博での商用運航を断念し、デモフライトのみを行うと表明しました。また、ジョビー・アビエーションも、ANAホールディングスとのパートナーシップのもと、2025年に開催される大阪万博でフライトデモンストレーションを行う予定です。
なお、空飛ぶクルマは大阪・関西万博の「未来社会ショーケース事業」の一環として注目されており、世界的にも関心が高いプロジェクトです。商用運航は断念されましたが、デモフライトを通じて多くの来場者に空飛ぶクルマの姿を見せる予定です。
製造開始
2024年3月、スカイドライブはスズキと共同で設立した製造会社「スカイワークス」を通じて、スズキの磐田工場(静岡県)で空飛ぶクルマ「SKYDRIVE(SD-05型)」の製造を開始しました。年間100機の量産を目指しています。
新たな提携
- JTBとの連携協定締結(2024年1月):空飛ぶクルマを活用した新しい観光体験の創出を目的としています。
- テクノアソシエとのスポンサー契約締結(2024年10月):部品調達や開発支援を受けることになりました。
- JR九州との実現可能性調査開始(2024年7月):九州地域での空飛ぶタクシーサービスの可能性を探ります。
今後の展望
スカイドライブは、2026年以降の日本での商業運航開始を目指しています。同社のCEO福澤知浩氏は、外国人観光客向けに景観を上空から楽しむサービスに大きな需要があると見込んでいます。
スカイドライブは、万博での商用運航は断念したものの、引き続き空飛ぶクルマの実用化に向けて開発を進めており、様々な企業との提携を通じて事業拡大を図っています。
欧米の資金調達方法、SPAC(スパック)上場とは?
SPAC(Special Purpose Acquisition Company)とは特別買収目的会社となります。 一般的な会社とは異なり、買収を目的に設立される会社で、特別買収目的会社(SPAC)を上場させ、その後買収された未公開会社は、従来の上場のプロセスを行わずに上場することができるため、「裏口上場」と言われることもあります。
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日本における電動航空機の取り組み
前述した『空飛ぶタクシー事業』を目指すJoby Aviation(ジョビー・アビエーション)にトヨタが出資しているように、トヨタも「空飛ぶクルマ」への社内プロジェクトが始動しています。
また、電動航空機の活用も含めた、次世代都市構想のベースとして企画されたトヨタの『ウーブンシティ』はCMでも取り組みを情報発信しており有名かもしれません。
日本は欧米に比べて大きく立ち遅れていましたが、ドローン(無人航空機)ビジネスをはじめ、モビリティサービスを経済産業省などからも推進する動きがあり、今後さらに活発になることが予想されます。
最後に
日本企業には、海外にも引けを取らない技術力やアイデアがあるとEXPACTは考えています。しかし、それらを支援する体制は十分かと言うと、実はまだまだ改善の余地があり、国と企業が一体となって仕組みを整えていくべきと思います。資金調達一つを取っても、日本での上場は監査法人の審査をはじめ、時間がかかってしまうため研究開発費や販促費など円滑に回りにくい環境が課題です。日本においても、伸ばすべき技術を持つ会社に必要な研究開発費がスピーディに提供される、SPACのような選択肢があることを期待したいです。