DeepTechスタートアップにとって、資金調達は単なる資金確保の手段ではありません。それは、技術を社会実装へと導くための「長距離走の伴走者」を選ぶプロセスでもあります。AI、バイオテック、量子技術、ロボティクス、クリーンテックなどのDeepTech領域では、研究開発期間が長く、事業化までに多くの不確実性が伴います。そのため、従来型のスタートアップ以上に「誰がリードインベスターになるか」が事業の将来を大きく左右します。
本記事では、DeepTechスタートアップに特化した視点から、リードインベスターの役割、重要性、選び方、そして国内外の具体的な事例を交えながら解説します。
1. DeepTechスタートアップが直面する資金調達の構造的課題
DeepTechスタートアップの最大の特徴は、「価値が顕在化するまでに時間がかかる」点にあります。多くの場合、研究成果はすぐに売上や利益に結びつかず、社会実装までに数年、場合によっては10年以上を要することもあります。
この特徴により、資金調達において以下のような課題を生まれます。
こうした状況下では、単に資金を出す投資家ではなく、技術の価値を理解し、長期視点で支援できるリードインベスターの存在が不可欠となります。
2. リードインベスターの役割は「評価者」から「翻訳者」へ
DeepTech領域におけるリードインベスターは、単なる評価者ではありません。むしろ重要なのは、技術の価値を投資家市場や事業会社に“翻訳”する役割です。
高度な研究内容や専門用語に満ちた技術説明を、他の投資家やステークホルダーに理解可能なストーリーへと落とし込む。この「翻訳力」があるリードインベスターがいることで、後続投資家の理解が進み、資金調達ラウンド全体が成立しやすくなります。
この点において、DeepTechのリードインベスターには、
技術理解力
事業化・市場化の経験
投資家ネットワーク
の三点が強く求められます。
3. 国内VCの事例①:UTEC(東京大学エッジキャピタル)
日本におけるDeepTech投資の代表例として挙げられるのが、UTEC(東京大学エッジキャピタル)です。UTECは大学発スタートアップへの投資を得意とし、研究段階からリードインベスターとして関与するケースも少なくありません。
UTECの特徴は、研究成果の学術的価値だけでなく、社会実装の可能性や産業構造へのインパクトまでを見据えた評価にあります。そのため、起業家にとっては「技術を理解してくれる投資家」として強い信頼を得ています。
また、UTECがリードに立つことで、他のVCや事業会社が安心して後続投資に参加しやすくなる点も、大きなメリットと言えるでしょう。
4. 国内VCの事例②:グローバル・ブレイン、JAFCO
グローバル・ブレインやJAFCOも、近年はDeepTech領域への投資を強化しています。これらのVCは、豊富な投資実績と事業会社とのネットワークを背景に、リードインベスターとして資金面だけでなく、事業連携や経営支援を行っています。
特にJAFCOは、成長フェーズに応じた複数ラウンドでの支援実績があり、長期的な視点でスタートアップと関係を築く点が特徴です。DeepTechスタートアップにとっては、研究開発フェーズから事業拡大フェーズまで一貫して伴走してくれる存在となり得ます。
5. 海外VCの事例①:Andreessen Horowitz(a16z)
海外に目を向けると、Andreessen Horowitz(a16z)はDeepTech投資を語る上で欠かせない存在です。a16zはAI、バイオ、インフラ、Web3など多様な技術領域に専門チームを配置し、10年以上の長期スパンでの成長を前提に投資を行っています。
a16zがリードインベスターとなる場合、単なる資金提供にとどまらず、
経営戦略の策定
人材採用支援
次回ラウンドの設計
までを包括的にサポートします。このような体制は、研究に集中したいDeepTechスタートアップにとって極めて大きな価値を持ちます。
6. 海外VCの事例②:Sequoia Capital
Sequoia Capitalもまた、長期的な技術革新に賭ける投資スタイルで知られています。Sequoiaは、初期フェーズからリードに入り、企業が成熟するまで支援を続けることで、多くの世界的企業を輩出してきました。
DeepTech分野においても、短期的な収益より「社会構造を変える可能性」を重視する姿勢が、起業家から高く評価されています。
7. DeepTechスタートアップがリードインベスターを選ぶ際の視点
DeepTechスタートアップがリードインベスターを選ぶ際には、以下の点を慎重に見極める必要があります。
まず、自社の技術領域への理解と投資実績があるかどうかです。理解の浅い投資家がリードに立つと、評価や意思決定にズレが生じやすくなります。
次に、研究開発期間の長さを許容できる投資スタンスかどうかです。短期的な成果を過度に求められると、技術の本質的価値を損なう可能性があります。
さらに、産業界や研究機関とのネットワークを持っているかも重要です。DeepTechでは、資金以上に「つながり」が事業化を加速させることがあります。
8. DeepTechにおける資金調達は「共創契約」である
DeepTechスタートアップにとっての資金調達は、単なる契約ではなく、「共に未来をつくるための共創契約」と言えます。リードインベスターは、その共創の中心に立つ存在です。
技術の可能性を信じ、長期的な視点で伴走してくれるリードインベスターと出会えるかどうか。それが、研究成果を社会に届けられるかどうかの分岐点となります。
9. 経営者に求められる覚悟と準備
最後に、DeepTechスタートアップの経営者に求められるのは、「選ばれる覚悟」と同時に「選ぶ覚悟」です。資金調達は、条件交渉ではなく、価値観のすり合わせでもあります。
この投資家と10年後の未来を語れるか。困難な局面でも信頼関係を保てるか。その問いに正面から向き合うことが、DeepTechスタートアップの成功確率を高める重要な要素となります。
EXPACTでは、特にスタートアップ企業への補助金活用や資金調達を強みとしており、実績・経験も多数ございます。資金調達成功に向けて、パートナーを探している、また詳しく話を聞いてみたいという方は下記からお問い合わせください。

