
スタートアップ企業が事業を立ち上げ、成長を遂げるためには、市場規模の理解が不可欠です。どれだけ革新的な技術やサービスを提供しても、市場が十分に大きくなければ事業は拡大しません。しかし、市場の規模は単に「市場が大きい」という数字だけで語れるものではなく、ターゲットできる市場の範囲や実際に獲得可能なシェアを考慮する必要があります。
そこで重要になってくるのが、TAM、SAM、SOMという3つの指標です。これらは、市場規模を測るための基本的かつ強力なツールであり、スタートアップ企業にとっては成長戦略を明確にするための指針となります。本記事では、TAM、SAM、SOMのそれぞれの意味と重要性を解説し、実際にどのように活用すべきかを詳しく紹介します。
はじめに
市場規模を測るために重要な指標、TAM、SAM、SOM、の3つは似たような英語で構成されていますが、もちろんそれぞれ意味が異なってきます。1つずつ、具体例と共に説明していきます。
TAM(Total Addressable Market)
TAMは、総潜在市場を指します。自社の製品やサービスが提供できる、理論的に最大の市場規模です。これは、製品やサービスがどれほど広く市場に適用可能であるかを示し、市場の成長ポテンシャルを評価するための出発点となります。
例:- TAM: 世界全体のスマートフォン市場(すべてのスマートフォン利用者)
SAM(Serviceable Available Market)
SAMは、サービス可能な市場のことです。TAMの中で、実際に自社の技術やリソースで提供可能な市場規模を示します。具体的には、地域や技術的な制約を加味した場合、ターゲット可能な市場を指します。
例:- SAM: 日本国内の若年層向けスマートフォン市場(特定の顧客層に対する製品)
SOM(Serviceable Obtainable Market)
SOMは、取得可能な市場を指します。SAMの中で、実際に獲得可能な市場シェアを示します。競争状況や自社の営業・マーケティングリソースに基づいて、現実的に獲得できる市場規模を計算します。
例:SOM: 日本市場における若年層向けスマートフォン市場で、初年度のターゲットシェア(例えば、10%)
重要性_何が違うの?_
TAM、SAM、SOMは、それぞれが異なる役割を持つ指標です。次は、それぞれの指標がどのように市場戦略を導くのか、その重要性について理解していきましょう。
TAM(総潜在市場)
TAMは、スタートアップにとって市場の大きさを把握するための指標です。特に、事業が成長する可能性を理解するために重要です。TAMを把握することで、企業は市場のポテンシャルを具体的に知ることができ、投資家に対して事業の将来性を説得力を持って示すことができます。
SAM(提供可能市場)
SAMは、TAMから自社が実際に対応できる市場規模を絞り込むもので、スタートアップがどのターゲット市場にフォーカスするべきかを明確にします。資源や能力に基づいて、どの市場を狙うべきかを判断するために役立ちます。
SOM(取得可能市場)
SOMは、スタートアップが現実的に目指すべき市場シェアを示します。どれだけ大きな市場をターゲットとして設定しても、現実的にどれくらいのシェアを獲得できるのかを見極めるための重要な指標です。SOMは、企業の短期的なターゲットを明確にし、資源の配分や営業戦略の基盤を作る上で欠かせません。
それぞれの算出方法と例
TAM、SAM、SOM、3つ指標の算出方法は、いずれも市場データや自社のリソースに基づいて推定します。続いて、これらを算出するための具体的な方法についてご紹介します。
TAM(総潜在市場)
TAMは、スタートアップが狙うべき市場の最大規模を把握するための基盤となります。TAMを理解することで、市場のポテンシャルや成長余地を見積もることができます。投資家やパートナーに対して、事業の未来像を示す際にも重要です。
SAM(提供可能市場)
SAMは、TAMの中から自社がターゲットとして実際に進出できる市場規模を見積もります。資源や技術の制約を加味した現実的な市場規模を理解することで、どの市場に注力すべきかが明確になります。SAMを把握することは、マーケティング戦略や営業戦略を立てるうえで非常に重要です。
SOM(取得可能市場)
SOMは、現実的に獲得できる市場シェアを示す指標です。SOMを設定することで、目標達成に向けた戦略的行動を設計できます。また、競争環境や自社の営業リソースに基づいて、現実的な市場シェアを予測することができます。
それぞれの使い分けと活用方法
3つの指標を効果的に使い分けることで、スタートアップの市場戦略を明確にし、具体的な行動に落とし込むことができます。それぞれの指標の役割を理解し、どの場面で活用するべきかを見極めましょう。
TAMを活用する
TAMは、市場全体の潜在的な規模を把握するために活用します。TAMを知ることで、事業が成長するポテンシャルや市場の大きさを理解し、投資家に対して事業の将来性を説明できます。
SAMを活用する
SAMは、自社がターゲットとする実行可能な市場規模を明確にするために活用します。これにより、リソース配分や戦略の方向性が定まり、実際に事業を進める市場を絞り込むことができます。
SOMを活用する
SOMは、現実的な獲得市場シェアを見積もるために活用します。自社の営業リソースや競争状況に応じて、短期的な目標を設定し、具体的な営業戦略を設計できます。
活用した実例
実際にTAM、SAM、SOMを活用して成功したスタートアップの事例を見てみましょう。
例1: Relic(日本)
TAM: グローバルの新規事業創出市場(約1000億ドル)
SAM: 日本国内の中小企業向けSaaS市場(約10兆円)
SOM: 初年度100社の導入を目指す(1億ドル)
Relicは、TAM、SAM、SOMを戦略的に設定し、初年度目標を明確にした上で、マーケティングと営業活動を進めました。その結果、100社を超える導入実績を達成し、次のステップへと進みました。
例2: Copy.ai(アメリカ)
TAM: グローバルのコンテンツ生成市場(数十億ドル)
SAM: 中小企業向けコンテンツ生成市場(5億ドル)
SOM: 初年度10,000社の顧客獲得(1.5億ドル)
Copy.aiは、TAMで大きな市場を把握し、SAMでターゲット市場を絞り込み、SOMで実行可能なシェアを設定することで、急成長を遂げました。
TAM/SAM/SOMを活用するための3つのポイント
① 市場のリアルな評価
TAM、SAM、SOMを使用するには、実際の市場データをもとにした評価が欠かせません。特に、トップダウン方式とボトムアップ方式を組み合わせて、市場規模を算出することが重要です。
② スケーラビリティを意識したアプローチ
TAMとSAMを理解したうえで、自社がどれだけスケールできるかを見積もります。競争環境や顧客の潜在的ニーズに注目し、成長戦略を設計しましょう。
③ データ駆動型の判断
市場データと自社の販売実績を常にアップデートし、事業の進捗に合わせてTAM/SAM/SOMの評価を見直すことが重要です。定期的に市場の変化を追うことで、柔軟に戦略を修正できるようになります。
まとめ
TAM、SAM、SOMは、スタートアップが事業の市場規模を理解し、競争優位性を確保するために欠かせない指標です。これらを効果的に使い分けることで、スタートアップは自社の市場ポテンシャルを正確に把握し、短期的な成功だけでなく、長期的な成長のビジョンを描けるようになります。
市場規模を理解し、ターゲット市場を絞り込み、現実的なシェアを目指す――これらのステップは、事業の成長を加速させる重要な要素であり、スタートアップの成功には欠かせません。
TAM、SAM、SOMを活用し、未来を見据えた戦略を立てることで、確実に市場を獲得し、持続可能な成長を実現できるでしょう。
参考資料
・https://forbesjapan.com/articles/detail/34364
・https://www.businessinsider.jp/post-258265
・https://www.meti.go.jp/policy/startups/pdf/startup_market_analysis.pdf
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