SaaSスタートアップが目指す超成長モデル「T2D3」とは?
SaaS(Software as a Service)企業がスタートアップ期から急成長を遂げるためのモデルとして、近年注目を集めているのがT2D3(Triple, Triple, Double, Double, Double)です。多くの企業がT2D3を一つの目標として掲げています。本記事では、T2D3の概要や意義、達成のためのポイント、そして日本国内での具体例を交えながら解説します。
T2D3とは?
T2D3は「2年連続で3倍成長(Triple)、その後の3年連続で2倍成長(Double)」を達成することで、5年間でARR(年間経常収益)を72倍に拡大させることを目指す成長モデルです。
- 1年目~2年目:毎年 3倍(Triple)
- 3年目~5年目:毎年 2倍(Double)
この指標は、2015年にBattery VenturesのNeeraj Agrawal氏によって提唱されたとされ、SalesforceやZendeskなどの海外SaaS大手がこの成長軌道を辿ったことで広く認知されるようになりました。
T2D3の意義
1. 投資家からの信頼を獲得
スタートアップが急成長を実現している証として、T2D3は投資家への強力なアピールポイントになります。ARRの拡大スピードが示されることで、企業の将来性やマーケットでのポテンシャルをわかりやすく伝えられます。
2. 競合優位性の確立
市場で抜きん出るためには、一定期間で圧倒的な顧客数と売上を積み上げる必要があります。T2D3を達成できれば、競合他社との差別化やブランドイメージの向上につながりやすくなります。
3. 組織の強化・成熟
大きな成長目標を掲げることで、組織づくりやチームビルディングが加速します。最適な人材配置や経営体制の構築は、急成長を支えるうえで不可欠です。
T2D3達成のためのポイント
「はたらくを喜びにする人材紹介のカノープス株式会社」でも重要性が指摘されているように、T2D3を達成するには以下の戦略が鍵となります。
1. プロダクトマーケットフィット(PMF)の確立
まずは自社プロダクトが本当に市場のニーズに合致しているかを徹底的に検証する必要があります。
- 顧客インタビューやユーザーフィードバックを通じて、課題を正確に把握し、改善を迅速に行う
- 獲得した顧客の継続利用率(リテンション)を指標として、PMFを計測
2. ARRの初期達成とスケール戦略
ARRを最初に200万ドル(約2億円)ほどに到達させることが、T2D3実現の土台づくりにあたります。
その後、トリプル→トリプル→ダブル→ダブル→ダブルといった成長カーブを描くために、以下の施策を検討しましょう。
- 営業チームの拡充
トップセールスの育成やインサイドセールスの導入 - マーケティング戦略の強化
デジタル広告やイベント開催、ウェビナーなどでリードを獲得 - カスタマーサクセスの充実
既存顧客のアップセルやクロスセルを狙い、ARRを底上げ
3. 組織づくりとチームビルディング
ARRが加速するにつれ、マネジメントやコーポレート機能を含む組織体制が複雑化します。
- 経営陣の役割定義や意思決定プロセスの明確化
- ミドルマネジメント層の強化により、現場と経営をスムーズにつなぐ
- 人材育成プログラムの導入と、企業文化の醸成
日本国内の具体例
株式会社SmartHR
人事労務管理のSaaSとして急成長を遂げ、ARRを短期間で拡大。国内SaaS企業の代表格として、ユニコーン企業となった例です。PMFの確立後、営業・マーケティングの強化によりさらなる成長を実現しました。
株式会社プレイド
顧客体験プラットフォーム「KARTE」を提供し、マーケティング領域で急拡大。T2D3の成長曲線に乗り、上場を果たすまでのスピード感が注目されています。
達成における注意点
- 急成長と品質のバランス
スピードを追求するあまり、プロダクト品質や顧客満足度を損ねると、長期的なリテンションに悪影響を及ぼします。 - 日本市場の規模と海外展開
日本市場は海外に比べて規模が限定される場合が多く、早期に海外展開を視野に入れることがT2D3達成への一つの鍵となります。 - 人材確保と組織文化
急拡大に伴い、新規採用の増加やマネジメント構造の変化が避けられません。優秀な人材の確保と、スピード感のある意思決定プロセスの両立が必要です。
まとめ
T2D3はSaaSスタートアップにとって、ARRを爆発的に成長させるための強力な目標設定です。
- PMFの早期確立で顧客のニーズを正確に捉え、強固な基盤を築く
- 営業・マーケティング戦略や組織づくりを最適化し、ARRを加速度的に拡大
- 成長と品質のバランスを保ちながら、日本市場の特性を踏まえた戦略を練る
5年間で72倍という目標は一見ハードルが高いように感じられますが、明確なゴール設定と綿密な実行プラン、そして柔軟な組織体制があれば、不可能な道のりではありません。
SaaSスタートアップの皆さんがT2D3を目指し、日本から世界へと羽ばたく姿を楽しみにしています。ぜひ、自社の成長フェーズを見極めながら、T2D3に挑戦してみてください。