
個人の熱量が切り拓く社会的インパクトの未来
地域課題や社会的インパクトを目指す取り組みが、いま世界で注目を集めています。社会が求める持続可能な未来像に対して、多くの企業や団体がそれぞれの方法でアプローチを試みるようになりました。そんな時代の流れの中で、「社会にポジティブな変化をもたらす」をミッションに掲げるEXPACT株式会社は、まさにこの課題と真摯に向き合っていきます。
本記事では、EXPACTの活動や昨年現地を訪問し、お話を伺った株式会社TeaRoomの事例にも触れながら、”社会的インパクト創出”への多様なアプローチを探っていきます。また、ナラティブ(物語)の力で顧客を仲間に巻き込む取り組み事例もご紹介。地域課題解決や新規事業のヒントを見出す一助になれば幸いです。
社会課題の解決を成長エンジンに変える”インパクト投資” とは?
EXPACTが掲げる社会的インパクトの創出
個人の熱量が社会変革を動かす
社会的インパクトを生み出すうえで欠かせないのが、「個人の純粋な熱意」です。
「こういうことをやりたい」「この地域をこんなふうに変えたい」――そうした強い思いが、最初は小さな一歩だったとしても、周囲を巻き込みながらやがて大きなうねりへと発展していきます。
EXPACTは、スタートアップ支援を通じて社会に大きなインパクトを与えることをミッションに掲げています。挑戦者たちがその一歩を踏み出す瞬間から伴走し、彼らの熱意を形にするための支援を行っています。
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個人の熱量が顧客との関係性を深める
個人の熱量と顧客との関係性は、ビジネスの成功において非常に重要な要素です。情熱を持って取り組む個人が顧客との深い関係を構築することで、単なる取引を超えた価値が生まれます。
顧客との関係性
従来のビジネスでは「サービス提供者」と「買い手」という関係が当たり前でした。しかし現代では、「顧客も価値創造の仲間」や「社会システムの一員」と捉える新たな関係性が新たなビジネスモデルを生み出します。
スタートアップ企業の経営者も「仲間が増えることと事業の成功は極めて近しい」と述べています。特筆すべきは「お客さんも仲間」という考え方です。顧客を単なる購入者ではなく、共に価値を創造する仲間として捉えることで、事業の成功確率が高めます。
顧客を「共創者」として巻き込む
ビジネスの世界では、顧客との関係性が大きく変化しています。従来の「作り手と買い手」という一方向の関係から、顧客を「共創者(コ・クリエイター)」として巻き込む双方向の関係へとシフトしています。
顧客共創の4つの形態
1. アイデア共創型
顧客からアイデアを募集し、製品開発に活かす形態です。例えば、無印良品の「モノづくりコミュニティ」では、顧客から商品アイデアを募集し、実際の商品化につなげています。このプロセスを通じて、企業だけでは思いつかなかった斬新なアイデアが生まれることがあります。
2. デザイン共創型
製品のデザインプロセスに顧客を巻き込む形態です。スニーカーブランドのNIKE By Youでは、顧客が自分好みにカスタマイズしたスニーカーをデザインできるサービスを提供しています。これにより、顧客は自分だけの特別な製品を手に入れることができます。
3. 評価・改善共創型
製品の評価や改善点を顧客と共に考える形態です。アパレルブランドのZARAは、店舗スタッフが顧客の声を直接本社に伝えるシステムを構築し、迅速な商品改良につなげています。この仕組みにより、市場のトレンドに素早く対応することが可能になっています。
4. 体験共創型
顧客と共に新しい体験を創り出す形態です。スターバックスでは、顧客からのアイデアを募集するプラットフォーム「My Starbucks Idea」を運営し、新しいドリンクメニューやサービス改善に活かしています。顧客は自分のアイデアが実現する喜びを体験できます。
成功事例に学ぶ共創のポイント
LEGOのアイデアプラットフォーム
LEGOは「LEGO Ideas」というプラットフォームを通じて、ファンからの新製品アイデアを募集しています。1万票以上の支持を集めたアイデアは商品化の検討対象となり、実際に商品化された場合、アイデア提供者はロイヤリティを受け取ることができます。このプラットフォームから生まれた「女性科学者セット」は大ヒット商品となりました。
ユニリーバの共創ラボ
ユニリーバは「Unilever Foundry」という共創プラットフォームを通じて、スタートアップ企業や消費者と協働しています。このプラットフォームでは、製品開発だけでなく、マーケティング戦略やサステナビリティに関するアイデアも募集しています。この取り組みにより、ユニリーバは市場の変化に迅速に対応できる体制を構築しています。
多くの個人から共感を得るためにはインパクト評価が必要
「いいことをしている」だけでは、もう人は動かない時代になりました。SNSで溢れる社会貢献活動や地域の取り組み。その中で、あなたの活動が本当に共感を呼び、多くの人を巻き込むためには何が必要でしょうか?その答えが「インパクト評価」です。
なぜ今、共感を得るのが難しいのか
現代社会では、様々な社会課題や地域の取り組みが日々発信されています。「子どもの貧困をなくしたい」「地域の高齢者を支えたい」「環境問題に取り組みたい」—こうした活動は数多く存在します。
しかし、情報過多の時代において、単に「良いことをしている」というメッセージだけでは、人々の心に届きにくくなっています。「本当にその活動は効果があるの?」「私の支援や参加が何を変えるの?」という問いに答えられなければ、共感の輪は広がりません。
インパクト評価が共感を生み出す理由
インパクト評価とは、活動がもたらす変化や効果を具体的に測定・分析する方法です。これが共感を生み出す理由は以下の3つです。
1. 抽象的な「善意」を具体的な「変化」に変換する
「子どもたちの笑顔のために」という言葉は温かいですが、抽象的です。一方、「この学習支援によって、参加した子どもの80%が学校の授業に前向きに取り組むようになった」という具体的な変化は、活動の価値を明確に伝えます。
2. 「思い」だけでなく「証拠」を示す
熱い思いは大切ですが、それだけでは持続的な支持は得られません。「この3年間で地域の独居高齢者の外出頻度が週2回増加した」といった具体的な証拠があれば、活動の意義が説得力を持って伝わります。
3. 参加する意味を明確にする
「あなたの参加で世界が変わる」と言われても、具体的にどう変わるのかわからなければ行動に移せません。「あなたが月1回参加することで、高齢者の孤独感が30%軽減される」と示されれば、参加する意味が明確になります。
インパクト評価の簡単な始め方
難しく考える必要はありません。以下の3ステップから始めましょう。
ステップ1: 変化を定義する
「私たちの活動によって、誰に、どんな変化を起こしたいのか」を明確にします。例えば「地域の子どもたちの学習意欲を高める」など。
ステップ2: 測定可能な指標を設定する
変化を測る具体的な指標を決めます。「学校の宿題を提出する割合」「読書時間」「将来の夢を語れるかどうか」など、測定可能な項目を選びます。
ステップ3: 変化を記録する
活動の前後で、設定した指標がどう変化したかを記録します。数字だけでなく、参加者の声や具体的なエピソードも大切な証拠です。
共感を呼ぶインパクト評価の実例
地域の子ども食堂の場合
単に「毎週20人の子どもに食事を提供しています」ではなく、「子ども食堂に参加した子どもの70%が、バランスの取れた食事の大切さを理解し、家庭でも野菜を食べるようになりました」と伝えることで、活動の本質的な価値が伝わります。
高齢者向けサロンの場合
「月2回、高齢者が集まる場を作っています」ではなく、「サロンに参加している高齢者の90%が『生きがいを感じる時間が増えた』と回答し、地域の高齢者の救急搬送率が前年比15%減少しました」と伝えれば、活動の社会的意義が明確になります。
インパクト評価で変わる共感の質
インパクト評価を取り入れることで、共感の質が変わります。
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一時的な感動 → 持続的な支持
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漠然とした応援 → 積極的な参加
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個人的な関心 → 社会的な運動
インパクト評価とは?
インパクト評価とは、活動や事業が社会にもたらす変化や効果を測定・分析する方法です。単に「何をしたか」ではなく、「何が変わったか」に焦点を当てます。
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成果の可視化: 「なんとなく良いことをしている」から「具体的にこれだけの変化を生み出した」へ
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説得力の向上: 数字やデータで示すことで、支援者や投資家への説得力が増す
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活動の改善: 何が効果的で何が効果的でないかを把握し、改善できる
インパクト評価の基本ステップ
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目標設定: 何を達成したいのかを明確にする
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指標の選定: 変化を測るための具体的な指標を決める
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データ収集: 定量的・定性的なデータを集める
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分析: 集めたデータを分析し、因果関係を検証する
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報告・活用: 結果を報告し、今後の活動に活かす
具体例で理解する
子ども食堂を運営している場合:
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活動指標: 開催回数、参加人数
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成果指標: 子どもの孤食率の減少、栄養バランスの改善
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インパクト: 地域の子どもの健康状態の向上、学習意欲の向上
インパクト評価のポイント
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難しく考えすぎない。小さく始めて徐々に発展させる
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数字だけでなく、物語(ストーリー)も大切にする
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失敗も含めて正直に評価し、学びを次に活かす
インパクト評価は特別なものではなく、自分たちの活動の価値を「見える化」するためのツールです。小さな一歩から始めて、社会的な価値を明確に示していきましょう。
地域資源の再発見とグローバル展開
EXPACTは地方スタートアップ支援に力を入れています。地方のスタートアップ企業は地方特有の地域課題にコミットしている場合が多く、そのような企業を支援するには都内スタートアップとは異なる視座でのサポートが必要だと考えています。
静岡ではお茶という産業や文化を新たな視点で捉え、グローバルに展開されているTeaRoomの岩本社長にお話を伺う機会に恵まれました。
文化資本という新たな視点:TeaRoomの挑戦
文化資本研究所の設立
伝統文化や日本茶産業のアップデートに取り組む株式会社TeaRoomは、2023年12月25日に一般社団法人「文化資本研究所」を立ち上げ、代表理事に代表取締役CEOの岩本涼氏が就任しました。
同研究所は、文化には歴史性や固有性といった伝統的価値だけでなく、人々が豊かに活動する視点となる有用な価値が潜んでいるとの考えから、その潜在価値を「文化資本」と定義しています。研究所の主な活動内容は、文化資本に関するアカデミーの設立・運営、組織団体に対する文化資本を活用したコンサルティングサービス、文化資本活用を目的とした物品・サービスの企画・開発・販売、啓蒙活動としての教材・書籍等の企画・制作などです。
伝統文化と産業の対立をなくす
TeaRoomが掲げる理念は「対立のないやさしい世界をつくる」。特に「文化と産業の対立をなくす」ことをミッションとし、茶道・工芸・日本茶産業などを新しい事業モデルへと発展させてきました。
TeaRoomは2018年の創業より、茶道・工芸といった日本の伝統文化や日本茶の産業に対して新たなエコシステム、事業モデルを創造し、事業を推進してきました。その過程で、伝統文化の持つ社会的な意義は、過去に固定化された伝統的価値だけでなく、その根底にある思想にあると気づいたといいます。
茶の湯がもたらす普遍的な調和
TeaRoomは「文化」を「人々が豊かに生きるために蓄積してきたもの」と捉えています。岩本氏は、伝統文化が単なるマナーや作法講座化されてしまった現状に問題意識を持ち、その根底にある思想や価値観を現代社会に活かすことを目指しています。
特に茶の湯には、国籍、宗教、性別、年齢の違いにかかわらず、誰もが安心して心地よい時間を過ごせる普遍的な調和の力があるという気づきを大切にしています。
ナラティブの力で仲間を集める
ストーリーが人を動かす
社会課題解決や新規事業の立ち上げでは、ナラティブ(物語)を通じた共感と巻き込みが大きな鍵を握ります。
社会課題解決のためのビジネスでは、ナラティブ(物語)を通じて仲間を集めることが重要です。「私はこういう経験をしたことから、この状況を無視してはいけないと思いました。こういう価値観は大事だと思うし、みんなにも気付いてほしい。なので、私たちで一緒にこういう道筋をたどって解決に向けて取り組んでいきませんか」というようなアプローチで、顧客を含む多くの人々を仲間として巻き込むことができます。
企業事例に見るナラティブの効果
ナラティブマーケティングは、物語を活用することでブランドと顧客の絆を深めるマーケティング手法です。物語を通じて、消費者は自身の体験や価値観をブランドのストーリーに重ね合わせることができます。この感情的な結びつきが、ブランドへの親近感や愛着を生み出します。
スタンフォード大学の研究によれば、ストーリー形式で提示された情報は、事実だけを提示された場合と比較して22倍も記憶に残りやすいことが明らかになっています。また、ハーバードビジネスレビューによると、感情的につながりを感じる顧客は、単に満足している顧客の2倍の価値があるとされています。
顧客参加型の商品開発
無印良品のSNSマーケティングは、ユーザーが参加できる「巻き込み型」である点が特徴です。たとえば商品紹介はあえて機能の紹介にとどめ、機能の詳しい使い方は言及しません。使い方を発見したユーザーが「自分の物語」と捉えて、SNSで発信してくれるようにする工夫です。
また、ポッタリーバーンとベンジャミンムーアは、消費者参加型のプロジェクトを立ち上げ、顧客が選んだ色やデザインを基に新しいペンキのシリーズを開発しました。SNSを活用した投票機能で消費者の声を集め、リアルタイムで反映させる仕組みを導入したことで、ブランドは顧客との距離を縮め、より信頼される存在となり、売上の増加にもつながりました。
未来を創るのは、あなたの一歩
EXPACTが取り組む社会的インパクト創出の考え方、TeaRoomが示す「文化資本」の活用や、”ナラティブ”を通じた仲間づくりの事例は、地域課題解決や新規事業開発にも大いに役立つヒントを含んでいます。
社会課題の解決や地域産業の活性化は、決して簡単な道のりではありません。しかし、「自分がやりたい」という想いを起点とし、顧客を仲間として巻き込み、伝統や文化を新しい切り口で再解釈していくことで、ビジネスとしての成長と社会的インパクトの両立が可能になります。
いま必要なのは、小さくても確実な一歩を踏み出すこと。
EXPACTのように挑戦者を支援する企業や、TeaRoomのように文化と産業を結びつけるプレイヤーが増えれば増えるほど、多彩な未来の可能性が広がっていくでしょう。
あなたのなかに眠る「熱量」や「好き」「やりたい」という気持ちを、ぜひ行動につなげてください。それこそが、社会にポジティブな変化をもたらす第一歩となるはずです。