海外のスタートアップでは”アグリテック”という分野で年間1兆円以上の資金が動く業界でもあり、世界的な人口増加や資源減少という課題を解決する手段として、農業のイノベーションが注目されています。
日本では農業での起業を考える人に『農事組合法人』という選択肢があります。農家は個人で事業を行うこともできますが、農事組合法人を設立することでさまざまなメリットを享受することができます。設立のための条件や、個人事業・株式会社との違い、メリット・デメリットについてまとめました。
農業法人とは何か?
農業法人とは、農業を営む法人に対して任意で使用される呼称です。農地を利用しないで農業を営む法人と、農地を利用して農業経営を行う法人を合わせた総称となります。法人化によって補助金や助成金制度を利用しやすくなったり、税制上の優遇措置を受けやすくなるなどメリットもあります。
農業法人は分類すると、大きくわけて農事組合法人と会社法人の2つ、また4つの要件があり、設立するためには『3人以上の発起人が必要』となります。
農業法人の中で、農地法第2条第3項の要件に適合し、“農業経営を行うために農地を取得できる”農業法人のことを「農地所有適格法人」と言います。
© 公益社団法人 日本農業法人協会より引用
農地を利用しない農業を営む法人などすべての農業分野の従事者が農地所有適格法人の要件を満たす必要はありません。
法人化する場合、自社の事業内容と照らし合わせてどの法人形態を選ぶのか見極める必要があります。
農事組合法人と会社法人がありますが、実質的に会社法人は株式会社の設立と変わりないため、この記事では農事組合法人について解説します。
農事組合法人を設立するには?
設立の流れとしては、
①発起人会総会を開催
=農事組合法人設立の目的となる定款の設定や作成
②役員理事を選任
③発起人会総会後に、事務手続きを理事会へ引き継ぎ
④農事組合法人の組合員が構成されたら、各組合員が設立される農事組合法人に対して出資
⑤組合員からの最初の出資が完了した後の2週間以内に、該当の農事組合法人の法人登記
上記の流れとなり、会社法人として農業法人を設立する場合は、農地法においての設立要件を満たす1人以上の人数が存在することで申請が可能になります。会社法人として登記申請するためには、取締役などの役員が1人以上存在することが設立要件となります。
農地所有適格法人の要件は次の4つです。
○法人形態要件
○事業要件
○議決権要件
○役員要件
法人が農業を営むにあたり、農地を所有(売買)しようとする場合は、必ず上記の要件を満たす必要があります。
農地所有適格法人の要件 | |
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法人形態 |
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事業要件 |
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構成員 議決権 要件 |
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役員要件 |
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農事組合法人のメリット
経営上のメリットは、経営管理能力や信用力の向上など、制度上のメリットでは融資制度や税制上の優遇措置、社会保障制度、農地の取得支援や、農業を始める方向けの補助金や助成金などもあり、本格的にはじめるならば法人化の方がメリットは多そうです。法人化に伴う義務としては、納税義務(法人課税が個人課税より有利となるには、一定以上の所得規模が必要)や事業主負担の発生、記帳義務、会計事務に関する経費負担、設立時に資本金や設立登記費用等の経費などが必要になってきます。
経 営 上 の メ リ ッ ト | 経営管理能力 の向上 |
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対外信用力 の向上 |
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人材の確保 ・育成 |
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経営継承の 円滑化 |
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制 度 上 の メ リ ッ ト | 税制面での 優遇 |
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社会保障制度 |
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制度資金 |
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農地の取得 |
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法人化することによって自動的に享受できるものばかりではなく、法人運営をしていく中で受けられるサポートのような意味合いで考えた方が健全です。
法人設立時の事業内容や経営計画を多面的な視点で見ながら十分に検討することが大切です。
事業再構築補助金でも農事組合法人は対象になりましたので、参照ください
農事組合法人のデメリット
農事組合法人のデメリットは以下になります。
・所得によっては節税効果が得られない、また法人住民税の支出が重くなる可能性がある
法人の取り組む内容次第ですが、実際に農作物を作る場合など、モノによっては半年や1年といった作物もあります。長期での経営を前提にする場合ある程度資本が必要になることと、信用力の意味でもあると有利です。
・設立手続には費用と手間がかかる
先ほどの設立の流れにも記載の通りで、煩雑な手順を踏みながら、費用も発生します。
法人化にあたり会計帳簿を付けるため、経理やバックオフィスの知識を持った人材が必要になります。顧問税理士・会計士等が必要になる場合もあります。
農事組合法人と株式会社との違い
まず構成員ですが、農事組合法人は農家が3人以上。株式会社は1人でも可能な点は大きな違いです。
議決権も通常株式会社では原則1株に1議決権がありますが、農事組合法人の場合1人で1議決権です。
役員構成はほぼ同じで、農事組合法人は理事が1名以上で農民の組合員であることが必須です。株式会社は取締役(代表取締役含む)1名がいればOKです。
事業内容は農事組合法人の場合農業で限定されます。
株式会社設立についてはこちらの記事も参照下さい
まとめ
農事組合法人は3人の農家が集まってはじめて設立できるため、実際のところは農業分野のスタートアップで立ち上げるというよりも、農家同士の連携や現在個人で農家をする方がメリット享受するために設立するケースがほとんどです。もし、新しく農業分野で起業したいなどの場合は、自分自身で農作物を育てて販売したいのか、農業用ドローンを開発していきたいのかなど、どういった事業を行うかによってはじめ方が変わります。
弊社においては、パートナー企業である 株式会社Happy Qualityにて資金調達実績もありますので、法人設立や事業支援、資金調達などお困りのことがあればお気軽にご相談下さい。