
はじめに
スタートアップの成長が停滞する場面では、マーケティング施策や営業手法、あるいはプロダクト機能の不足が原因として挙げられることが多いです。しかし、そうした表層的な課題の背後には、より根本的な問題が潜んでいる場合が少なくありません。それは、「誰を顧客として想定しているのか」が組織として明確に定義されていないことが原因にある場合ほとんどです。広告の反応は悪くないにもかかわらず受注につながらない、受注はできるが継続しない、顧客数は増えているのにLTVが伸びないといった現象は、その典型例だと言えます。
これらの問題は、施策の巧拙以前に、成長の前提条件である顧客像が曖昧なままになっていることで生じます。こうした状況に対して有効な概念が、ICP(Ideal Customer Profile)です。
ICP導入の目的とは?
ICPを導入する最大の目的は、事業成長を再現可能なものにすることにあります。スタートアップ初期の売上や成功体験は、偶然や個別要因にあることがほとんんど。しかし、その状態を拡大しようとすると、同じやり方が通用しなくなる時期を迎えます。そのときに必要となるのが、「どの顧客に対してなら、同じ勝ち方を繰り返せるのか」を明確にする視点です。
ICPは、売上の最大化を目指すための概念ではなく、むしろ「戦わない顧客」を決めるための枠組みだと言えます。すべての顧客を取りに行こうとすると、営業・サポート・プロダクト開発のいずれにも過剰な負荷がかかり、結果として組織の持続可能性が損なわれる。ICPを定めることは、限られたリソースを最も成果につながりやすい顧客に集中させるための戦略的な選択なのです。
ICPとは何か――事業成長を支える顧客定義
ICPとは、自社のプロダクト、ビジネスモデル、組織体制と最も適合し、最小限の摩擦で最大の価値を生み出せる顧客像を明確にしたもののことです。ここで重要なのは、ICPが単なる理想像や願望ではなく、事業として再現性をもって成功できる顧客の条件を言語化したものである点です。
ICPが定義されている状態では、なぜその顧客が今この課題を抱えているのか、なぜ他の選択肢ではなく自社プロダクトが選ばれるのか、導入後にどのような使われ方をし、どの時点で価値を実感するのかといった問いに具体的に答えることができます。これらの問いに答えられないまま事業を進める場合、売上は偶然に左右されやすくなります。ICPは、売上や成長を偶然から切り離し、戦略的な意思決定へと引き戻すための基盤でもあるのです。
ICP導入の方法解説
ICPを導入する際に重要なのは、仮説や希望ではなく、実際の顧客データや現場の経験から定義することです。多くのスタートアップでは、「狙いたい市場」から逆算してICPを描いてしまいがちだが、それでは現実との乖離が生まれやすい傾向にあります。
実務的には、まず既存顧客の中で、導入から価値実感までがスムーズだったケースや、サポート負荷が低く、継続・拡張が起きているケースを丁寧に振り返る必要があります。どのような課題認識を持ち、どのタイミングで意思決定を行い、どのような体制でプロダクトを使っているのかを言語化していくことで、勝ちやすい顧客の共通項が浮かび上がってくるでしょう。
このプロセスでは、営業やカスタマーサクセス、プロダクトチームなど、顧客と接点を持つメンバーの知見を横断的に集めることが欠かせません。これは、ICPは一部門の判断ではなく、組織全体で共有されるべき前提条件だからです。
属性ではなく「成功確率」で顧客を見る
ICPを考える際、業界や企業規模、従業員数といった表面的な属性だけで顧客を捉えてしまうケースは多いです。しかし、それだけでは実際の成功確率を十分に説明することはできません。より重要なのは、その顧客が自らの課題を明確に認識しているかどうか、解決に対する優先度が高いかどうか、意思決定を前に進められる組織構造を持っているか、そしてプロダクトの価値を引き出せる運用力を備えているかといった点です。
つまり、ICPとは「売れそうな顧客」を定義するものではなく、「売った後に成果を出しやすい顧客」を定義する概念です。この視点を欠いたまま顧客数を追いかけると、短期的な売上は立つものの、サポートコストや解約率の増加によって、長期的な成長は阻害されてしまいます。
ペルソナとの違いは?

ICPと混同されやすい概念にペルソナがあるが、両者は役割が異なります。ICPは、事業戦略やGTM戦略、営業方針といった上位レイヤーの意思決定を支える概念です。一方、ペルソナは、マーケティングメッセージや営業トーク、UI設計、オンボーディング体験など、具体的な表現や体験を最適化するためのツールを意味します。
ICPが定まらないままペルソナだけを精緻に描くと、メッセージは刺さるが事業としては伸びないという歪みが生じます。正しい順序は、まずICPを明確に定義し、その枠組みの中で意思決定者や利用者をペルソナとして描くことで、この順序が守られてはじめて、マーケティングや営業、プロダクト開発が同じ方向を向いて機能し始めると言えます。
ICPがGTM戦略を規定する理由
GTM戦略とは、どの市場に、どの順序で、どのような売り方でプロダクトを届けるのかを設計するものです。この設計の前提条件となるのがICP。たとえば、意思決定が速く、自走できる小規模な組織がICPであれば、PLGやセルフサーブ型のアプローチが有効になる。一方で、複数部署が関与し、導入後の運用負荷が高い顧客がICPであれば、営業主導やLand and Expandを前提とした戦略が必要になるるのです。
GTM戦略がうまく機能しない場合、施策を変更する前に、その売り方が本当にICPと整合しているかを問い直すことが重要となります。
ICPとCAC・LTVの関係
ICPが適切に定義されていると、CACとLTVは構造的に改善しやすくなります。勝ちやすい顧客に集中することで、説明や教育にかかるコストが下がり、導入後も価値を実感しやすくなるためです。その結果、利用の定着や拡張が自然に生まれ、LTVが伸びていくという効果が期待できます。
逆に、ICPが曖昧なまま顧客獲得を進めると、CACは上昇し、LTVは伸び悩む。これは施策の問題というより、顧客選定の問題である場合がほとんどです。
フェーズによって変化するICP
ICPは固定的なものではなく、事業フェーズによって変化します。PSFからPMFに至る段階では、学習しやすくフィードバックを得やすい顧客がICPとなります。一方、スケールフェーズでは、再現性をもって拡張できる顧客へと重心が移ります。ただし、同一フェーズ内で複数のICPを同時に追うことは、組織の混乱を招くため避けるべきです。
ICPは組織を揃えるための共通言語である
ICPが明確になると、マーケティング、営業、プロダクト、カスタマーサクセスといった各部門の判断基準が揃い始めます。「この機能はICPにとって本当に必要か」「このリードは追うべき顧客か」といった問いが、感覚ではなく言語として共有されるようになります。ICPは、成長戦略の起点であると同時に、組織を整えるための共通言語でもあるのです。
まとめ――ICPは成長のための制約である
ICPとは、スタートアップがどこで勝ち、どこで戦わないのかを決めるための戦略的な制約です。ペルソナは伝え方を磨くための道具であり、GTM戦略は市場に届けるための設計図です。そのすべての起点にICPが存在する、と言えるでしょう。
成長が鈍化したとき、施策を増やす前に立ち返るべき問いは、「本当に正しい顧客を選んでいるか」という一点に尽きます。ICPを明確にすることは、スピードを落とすことではなく、遠回りをしないための選択の1つなのです。
参考資料
・インターナルカーボンプライシング(ICP)とは?導入の目的・方法を解説 – Green&Circular 脱炭素ソリューション|三井物産
・ICP(インターナルカーボンプライシング)とは?なぜ導入する?
・インターナルカーボンプライシング(ICP)とは?導入目的、メリットを徹底解説
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