経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義
~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~
第1章 マクロ経済運営の基本的考え方
1.本基本方針の考え方
我が国は内外の歴史的・構造的な変化と課題に直面している。世界においては、ロシアによるウクライナ侵略が国際秩序の根幹を揺るがす中でこれまで以上に重要となる「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」の維持・強化、インフレ圧力と欧米各国の急速な金融引締めによる世界経済の下振れリスクへの対応、深刻さを増す世界規模での気候変動や災害問題の克服、エネルギー・食料問題を含む経済安全保障に対応したサプライチェーンの再構築など、世界的な課題に対する果断な対応と国際協調が一層求められている。
国内においては、四半世紀にわたるデフレ経済からの脱却、急速に進行する少子化とその背景にある若年層の将来不安への対応、雇用形態や年齢、性別等を問わず生涯を通じて自らの働き方を選択でき、格差が固定化されない誰もが暮らしやすい包摂社会の実現、気候変動や新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえた持続可能な経済社会の構築など、我々の意識の変化や社会変革を求める構造的な課題に直面している。
我が国は、こうした「時代の転換点」とも言える内外の構造的な課題の克服に向け、大胆な改革を進めることにより、新時代にふさわしい経済社会を創造していかなくてはならない。 岸田政権が進める「新しい資本主義」は、こうした変化に対応した経済社会の変革を進め、社会課題の解決に向けた取組それ自体を成長のエンジンに変えることで、持続可能で包摂的な社会を構築し、裾野の広い成長と適切な分配が相互に好循環をもたらす「成長と分配の好循環」を目指すものである。
四半世紀にわたり、我が国のマクロ経済政策運営においては、常にデフレとの闘いがその中心にあった。世界的な経済構造変化が生じる中でも、国内ではデフレによる需要停滞と新興国とのコスト競争を背景に企業はコスト削減を優先せざるを得ず、国内市場よりも海外市場を求めて海外生産比率を高め、国内投資を抑制し、労働者の賃金も抑制された。
結果として、イノベーションの停滞、不安定な非正規雇用の増加や格差の固定化懸念、中間層の減少などの新たな課題に直面してきた。 こうした状況に対し、岸田政権では「新しい資本主義」を掲げ、従来「コスト」と認識されてきた賃金や設備・研究開発投資などを「未来への投資」と再認識し、人への投資や国内投資を促進する政策を展開している。
こうした政策展開もあいまって、30年ぶりとなる高い水準となる賃上げ、企業部門に醸成されてきた高い投資意欲など、これまでの悪循環を断ち切る挑戦が確実に動き始めている。今こそ、こうした前向きな動きを更に加速させるときである。
まず、コストの適切な転嫁を通じたマークアップの確保を行うとともに、高い賃金上昇を持続的なものとするべく、リ・スキリングによる能力向上の支援など三位一体の労働市場改革を実行し、構造的賃上げの実現を通じた賃金と物価の好循環へとつなげる。
あわせて、人への投資、グリーン、経済安全保障など市場や競争に任せるだけでは過少投資となりやすい分野について、官が的を絞った公的支出を行い、これを呼び水として民間投資を拡大させる。これにより、官と民が協働して社会課題を解決しながら、それを成長のエンジンとして持続的な成長に結び付けていく。
まさに、「新しい資本主義」を通じて、経済の付加価値を高め、企業が上げた収益を構造的賃上げによって労働者に分配し、消費も企業投資も伸び、更なる経済成長が生まれるという「成長と分配の好循環」を成し遂げる。
また、社会全体でこども・子育てを支える社会の構築や全てのこどもがチャンスを得られる教育制度の確保、生活の安定や将来の安心の基盤となる社会保障制度の持続可能性の向上、多様な価値観が尊重される包摂社会の実現に向けた取組等を通じ、分厚い中間層を復活させていく。
さらに、こども・子育て政策は最も有効な未来への投資であり、「こども未来戦略方針」に沿って、政府を挙げて取組を抜本強化し、少子化傾向を反転させる。
G7広島サミットにおいて、経済安全保障の観点も踏まえつつ、民間による人への投資や設備・研究開発投資の喚起を通じて持続的成長を目指す取組の重要性が共通認識となった。それは、供給サイドの改革の重要性を改めて強調したものである。
我が国は、世界に先駆けて、「新しい資本主義」の旗印の下、予算・税制、規制・制度改革を総動員し、グローバルリスクにも対応しつつ持続的成長を実現する、新たな経済社会の創造に向けた改革を力強く進めるとともに、G7広島サミット等を契機として、政策運営の国際的なコンセンサス形成と、同志国等との連携強化に向けた議論をリードしていく。
このため、本「経済財政運営と改革の基本方針2023」においては、
・ 内外の環境変化に対応したマクロ経済運営の基本的考え方を示すとともに、「新しい資本主義」の実現に向けた構造的賃上げの実現や人への投資、分厚い中間層の形成に向けた取組や、GX・DX、スタートアップ推進や新たな産業構造への転換など、官と民が連携した投資の拡大と経済社会改革の実行に向けた基本方針を示す。
・ 少子化のトレンドを反転させるべく、こども・子育て政策の抜本的強化に向けた道筋を示す。あわせて、多様性が尊重され全ての人が力を発揮できる包摂的な社会や地域の中小企業の活力を引き出し特色ある地方創生を実現するための方針を示す。
・ G7広島サミットの成果も踏まえた戦略的な外交・安全保障や我が国経済を強靱なものとする経済安全保障、エネルギー・食料安全保障についての方針を示すとともに、自然災害から国民を守る防災・減災、国土強靱化の推進、東日本大震災等からの復興、国民生活の安全・安心に向けた方針を示す。
・ その上で、これら政策遂行の基盤となる中長期の視点に立った経済財政運営の方針を示し、令和6年度予算編成の考え方を提示する。
2.環境変化に対応したマクロ経済運営
マクロ経済運営について、政府と日本銀行との緊密な連携の下、経済・物価・金融情勢に応じて機動的な政策運営を行っていく。 政府としては、まずは、輸入物価上昇を起点とした外生的な物価上昇から、賃金上昇やコストの適切な価格転嫁を伴う「賃金と物価の好循環」を目指し、下請取引適正化を始めとする中小企業の価格転嫁対策、最低賃金の継続的引上げに向けた環境整備、適切な労働市場改革等を進める。
あわせて、生産性向上とイノベーション促進に向けた民間投資を引き出すとともに、人への投資、GXなど社会課題の解決に向けた官民連携投資、さらに海外からの人材や資金の積極的な呼び込み等を通じ、国内投資の持続的な拡大を図る。
また、効率化投資の促進を含め構造的な人手不足の問題の克服に向けた取組を進めるとともに、スタートアップ推進に向けた取組を抜本強化し、産業構造の転換と経済社会改革を促進する。こうして「賃金と物価の好循環」に持続性を確保しつつ、成長力の向上と家計所得の幅広い増加に裏打ちされた消費・国内需要の持続的拡大が実現する「成長と分配の好循環」を目指す。
日本銀行においては、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、賃金の上昇を伴う形で、2%の物価安定の目標を持続的・安定的に実現することを期待する。
こうした取組を通じ、今後とも、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略を一体的に進めつつ、長らく続いたデフレマインドを払拭し、期待成長率を高めることでデフレに後戻りしないとの認識を広く醸成し、デフレ脱却につなげていく。
経済財政諮問会議においては、財政政策と金融政策のポリシーミックスを含むマクロ経済政策運営の状況、物価や賃金、分配面も含めた経済の状況、経済財政の構造改革の取組状況などについて、定期的に検証していく。
3.持続可能な成長の実現に向けた経済構造の強化
我が国の人口は、コロナ禍の影響もあり、減少速度が加速しており、今後10年で5%減少した後、50年後(2070年)には現在の7割を切ると見込まれる。このため、異次元の少子化対策に全力で取り組みつつ、本格化する人口減少社会において持続的成長と安心で幸せを実感できる経済社会を実現できる経済構造を作っていかなければならない。
このためにも、「新しい資本主義」の下、新たな行動を実行に移す企業・個人を積極的に後押しすることで、民需主導の持続的・安定的な経済成長を実現する。
こうした状況について、経済活動に伴う収支を示す貯蓄・投資バランスから見ると、我が国では、バブル崩壊以降、高齢化を背景に家計の貯蓄率は低下傾向にある一方、企業は投資超過から余剰資金を保有する状態である貯蓄超過となり、政府は大きな財政赤字から脱却できずにいる。
また、企業投資は海外に向かい、交易条件も悪化し、この結果、所得の流出、賃金の停滞等が生じてきた。 持続的な経済成長を実現するには、女性・高齢者の労働参加や資産所得の拡大等により家計所得を押し上げ、高齢化による貯蓄率低下圧力を緩和しつつ、スタートアップや生産性を高める投資、GXを始めとする官民連携による社会課題解決に向けた多年度にわたる計画的投資の強化等、国内投資の強化が必要である。
その下で、高い収益・付加価値を実現させ、企業の投資超過へのシフトを促していく必要がある。 こうした民間投資の喚起に併せて、政府による、DXの利活用を通じた行財政の徹底した効率化や無駄の排除、EBPM(証拠に基づく政策立案)を通じた成果につながる賢い財政支出(ワイズスペンディング)の徹底、政策の将来にわたる効果を見据えた動的思考の活用等の取組があいまって、政府の財政赤字が改善していく姿を目指す。
また、デジタル社会に対応し大胆に社会変革を進めつつ、変革に即した大胆な行財政改革に取り組む。 経済あっての財政であり、経済を立て直し、そして、財政健全化に向けて取り組むとの考え方の下、財政への信認を確保していく。
第2章 新しい資本主義の加速
1.三位一体の労働市場改革による構造的賃上げの実現と「人への投資」の強化、分厚い中間層の形成
「成長と分配の好循環」と「賃金と物価の好循環」の実現の鍵を握るのが賃上げであり、これまで積み上げてきた経済成長の土台の上に、構造的な人手不足への対応を図りながら、人への投資を強化し、労働市場改革を進めることにより、物価高に打ち勝つ持続的で構造的な賃上げを実現する。
あわせて、賃金の底上げや金融資産所得の拡大等により家計所得の増大を図るとともに、多様な働き方の推進等を通じ、多様な人材がその能力を最大限いかして働くことで企業の生産性を向上させ、それが更なる賃上げにつながる社会を創る。
三位一体の労働市場改革
一人一人が自らのキャリアを選択する時代となってきた中、職務ごとに要求されるスキルを明らかにすることで、労働者が自らの意思でリ・スキリングを行い、職務を選択できる制度に移行していくことが重要であり、内部労働市場と外部労働市場をシームレスにつなげ、労働者が自らの選択によって労働移動できるようにすることが急務である。
内部労働市場が活性化されてこそ、労働市場全体も活性化するのであり、人的資本こそ企業価値向上の鍵である。こうした考え方の下、「リ・スキリングによる能力向上支援」、「個々の企業の実態に応じた職務給の導入」、「成長分野への労働移動の円滑化」という「三位一体の労働市場改革」を行い、客観性、透明性、公平性が確保される雇用システムへの転換を図ることにより、構造的に賃金が上昇する仕組みを作っていく。
また、地方、中小・小規模企業について、三位一体の労働市場改革と並行して、生産性向上を図るとともに、価格転嫁対策を徹底し、賃上げの原資の確保につなげる。
「リ・スキリングによる能力向上支援」については、現在、企業経由が中心となっている在職者への学び直し支援策について、5年以内を目途に、効果を検証しつつ、過半が個人経由での給付が可能となるよう、個人への直接支援を拡充する。
その際、教育訓練給付の拡充、教育訓練中の生活を支えるための給付や融資制度の創設について検討する。また、5年で1兆円の「人への投資」施策パッケージのフォローアップと施策の見直し等を行うほか、雇用調整助成金について、休業よりも教育訓練による雇用調整を選択しやすくなるよう助成率等の見直しを行う。
「個々の企業の実態に応じた職務給の導入」については、職務給(ジョブ型人事)の日本企業の人材確保の上での目的、人材の配置・育成・評価方法、リ・スキリングの方法、賃金制度、労働条件変更と現行法制・判例との関係などについて事例を整理し、個々の企業が制度の導入を行うために参考となるよう、中小・小規模企業の導入事例も含めて、年内に事例集を取りまとめる。
「成長分野への労働移動の円滑化」については、失業給付制度において、自己都合による離職の場合に失業給付を受給できない期間に関し、失業給付の申請前にリ・スキリングに取り組んでいた場合などについて会社都合の離職の場合と同じ扱いにするなど、自己都合の場合の要件を緩和する方向で具体的設計を行う。
また、自己都合退職の場合の退職金の減額といった労働慣行の見直しに向けた「モデル就業規則」の改正や退職所得課税制度の見直しを行う。
さらに、求職・求人に関して官民が有する基礎的情報を加工して集約し、共有して、キャリアコンサルタントが、その基礎的情報に基づき、働く方々のキャリアアップや転職の相談に応じられる体制の整備等に取り組む。 これらの労働市場改革の際、官民でその進捗を確認し、計画的に見直しを行っていく。
家計所得の増大と分厚い中間層の形成
今年の春季労使交渉の賃上げ率は約30年ぶりの高い伸びとなった。この賃上げの流れの維持・拡大を図り、特に我が国の雇用の7割を占める中小企業が賃上げできる環境の整備に取り組むほか、最低賃金の引上げや同一労働・同一賃金制の施行の徹底と必要な制度見直しの検討等を通じて非正規雇用労働者の処遇改善を促し、我が国全体の賃金の底上げ等による家計所得の増大に取り組む。
中小企業等の賃上げの環境整備については、賃上げ税制や補助金等における賃上げ企業の優遇等の強化を行う。その際、赤字法人においても賃上げを促進するため、課題を整理した上で、税制を含めて更なる施策を検討する。
さらに、各サプライチェーンにおいて賃上げ原資となる付加価値の増大を図り、マークアップ率を高めるとともに、付加価値の適切な分配を促進するため、エネルギーコストや原材料費のみならず、賃上げ原資の確保も含めて適切な価格転嫁が行われるよう取引適正化の促進を強化する。
その一環として、特に労務費の転嫁状況について業界ごとに実態調査を行った上で、労務費の転嫁の在り方について指針を年内にまとめる。
また、業界団体に自主行動計画の改定・徹底を求めるほか、「価格交渉促進月間」の取組や価格交渉の支援を行う。 最低賃金については、昨年は過去最高の引上げ額となったが、今年は全国加重平均1,000円を達成することを含めて、公労使三者構成の最低賃金審議会で、しっかりと議論を行う。
また、地域間格差に関しては、最低賃金の目安額を示すランク数を4つから3つに見直したところであり、今後とも、地域別最低賃金の最高額に対する最低額の比率を引き上げる等、地域間格差の是正を図る。今夏以降は、1,000円達成後の最低賃金引上げの方針についても、新しい資本主義実現会議で議論を行う。
公的セクターの賃上げを進めるに当たり、2022年10月からの処遇改善の効果が現場職員に広く行き渡るようになっているかどうかの検証を行い、経営情報の見える化を進める。 2,000兆円の家計金融資産を開放し、持続的成長に貢献する「資産運用立国」を実現する。
そのためには、家計の賃金所得とともに、金融資産所得を拡大することが重要であり、iDeCo(個人型確定拠出年金)の拠出限度額及び受給開始年齢の上限引上げについて2024年中に結論を得るとともに、NISA(少額投資非課税制度)の抜本的な拡充・恒久化、 金融経済教育推進機構の設立、顧客本位の業務運営の推進等、「資産所得倍増プラン」を実行する。
加えて、資産運用会社やアセットオーナーのガバナンス改善・体制強化、資産運用力の向上及び運用対象の多様化に向けた環境整備等を通じた資産運用業等の抜本的な改革に関する政策プランを年内に策定する。
これらによる家計所得の増大と併せて、持続可能な社会保障制度の構築、少子化対策・こども政策の抜本強化、質の高い公教育の再生等に取り組むことを通じ、分厚い中間層を復活させ、格差の拡大と固定化による社会の分断を回避し、持続可能な経済社会の実現につなげる。
多様な働き方の推進
三位一体の労働市場改革と併せて、人手不足への対応も視野に入れ、多様な人材がその能力を最大限いかして働くことができるよう、多様な働き方を効果的に支える雇用のセーフティネットを構築するとともに、個々のニーズ等に基づいて多様な働き方を選択でき、活躍できる環境を整備する。
このため、週所定労働時間20時間未満の労働者に対する雇用保険の適用拡大について検討し、2028年度までを目途に実施する。
あわせて、時間や場所を有効に活用できる良質なテレワークやビジネスケアラーの増大等を踏まえた介護と仕事の両立支援を推進するほか、勤務間インターバル制度の導入促進、メンタルヘルス対策の強化等の働き方改革を一層進めながら、副業・兼業の促進、選択的週休3日制度の普及等に取り組む。
また、フリーランスが安心して働くことができる環境を整備するため、フリーランス・事業者間取引適正化等法の十分な周知・啓発、同法の執行体制や相談体制の充実等に取り組む。
国家公務員については、デジタル環境の整備、業務の見直し、時間や場所にとらわれない働き方の充実等により働き方改革を一層推進するとともに、採用試験の受験者拡大や中途採用の活用、職員としての成長に資する業務経験やスキルアップ機会の付与、民間知見の習得など人材の確保・育成に戦略的に取り組む。
2.投資の拡大と経済社会改革の実行
(1)官民連携による国内投資拡大とサプライチェーンの強靱化
新しい資本主義の下、従来「コスト」と認識されてきた賃上げと設備投資を「未来への投資」と再認識し、人への投資や国内投資の促進を展開している。こうした政策的後押しを受ける中で経団連がバブル期以降最高水準となる民間設備投資115兆円の早期実現という目標を掲げるなど企業部門において高い投資意欲が醸成されてきている。
長期にわたる賃金の停滞とデフレの継続という悪循環を断ち切る挑戦が動き始めている今こそ、こうした前向きな動きを更に加速させるときである。
予算・税制、規制・制度改革を総動員して、国が呼び水となる政策を集中的に展開することにより、質の高い雇用を生み出し、構造的賃上げを実現するとともに、国内投資・研究開発を大胆に促進することが不可欠である。
これにより、日本経済再生に向けた動きを加速させ、人口減少・人手不足、地球環境問題を含めた課題を克服しつつ、新たな産業構造への転換と経済社会の変革を進め、中長期の将来にわたる力強い成長を実現させる成長基盤を再構築していく。
GX、DX、科学技術・イノベーション、スタートアップといった重点分野での大胆な投資拡大に向けて、長期的なビジョンを提示し、呼び水となる官の投資について複数年度でコミットするとともに、規制・制度措置の見通しを示すことで、民間の予見可能性を高め、民間投資を誘発していく。
また、雇用機会、賃金水準が少子化の最大の原因となっていることを踏まえ、特に、地域において経済を牽引する中堅・中小企業の投資等を力強く支援し、良質な雇用を創出し、若年層の所得増加を促す。また、そうした新たな事業を支える優秀な人材の確保や人手不足等の課題に的確に対応する。
こうした取組により、国際環境が不確実さを増し、グローバルサプライチェーンの再編等が進展する中、高い技術力を持つ我が国が投資の促進を通じて重要物資等の供給力・輸出力を高めることで、ショックに対してより強靱な経済構造を確立する。
また、独占禁止法上の取扱いを含め、民の投資を引き出す上での様々な課題について、その解決に向けた取組を強力に進める。
さらに、知的財産の創出等を促し、我が国のイノベーション拠点としての立地競争力を強化する。加えて、企業の価値創造経営を促進し、経営改革を進め、投資拡大につなげる。
また、海外からヒト、モノ、カネ、アイデアを積極的に呼び込むことで我が国全体の投資を拡大させ、イノベーション力を高め、我が国の更なる経済成長につなげていくことが重要である。
対内直接投資残高を2030年に100兆円とする目標の早期実現を目指し、半導体等の戦略分野への投資促進、アジア最大のスタートアップハブ形成に向けた戦略、特別高度人材制度(J-Skip)や未来創造人材制度(J-Find)の創設、技能実習制度や特定技能制度の在り方の検討等を含む高度外国人材等の呼び込みに向けた制度整備、国際金融センターの機能強化、投資喚起プロモーション・世界への発信強化などを含む「海外からの人材・資金を呼び込むためのアクションプラン」を早期に実行し、我が国経済の持続的成長や地域経済の活性化につなげる。
特に、G7広島サミットを契機としてグローバルサプライチェーンの強靱化という世界的な課題の解決に向けて我が国がリーダーシップを発揮する中、次世代半導体を含め我が国がグローバルサプライチェーンの中核となることを目指し、半導体産業への支援を始め、政府を挙げて国内投資の更なる拡大や研究開発、人材育成に取り組んでいく。
(2)グリーントランスフォーメーション(GX)、デジタルトランスフォーメーション(DX)等の加速
グリーントランスフォーメーション(GX)
2030年度の温室効果ガス46%削減(2013年度比)、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、我が国が持つ技術的な強みを最大限活用しながらGX投資を大胆に加速させ、エネルギー安定供給と脱炭素分野で新たな需要・市場を創出し、日本経済の産業競争力強化・経済成長につなげる。
このため、少なくとも今後10年間で、官民協調で150兆円超の脱炭素分野での新たな関連投資を実現する。 徹底した省エネルギーの推進に向け、複数年の投資計画に切れ目なく対応できる中小企業向けの省エネ補助金や、省エネ効果の高い住宅・建築物の新築・改修、断熱窓への改修を含むZEH・ZEB等の取組を推進するとともに、産業の非化石エネルギー転換に集中的に取り組む。
産業部門のエネルギー使用量の4割を占める主要5業種(鉄鋼業・化学工業・セメント製造業・製紙業・自動車製造業)に対して国が2030年度の非化石目標の目安を提示することなどを通じ、製造業の燃料・原料転換を加速する。 再生可能エネルギーについては、国民負担の抑制と地域との共生を図りながら、S+3Eを大前提に、主力電源として最優先の原則で最大限導入拡大に取り組む。
このため、地域間を結ぶ系統については、今後10年間程度で過去10年(約120万kW)と比べて8倍以上の規模(1000万kW以上)で整備を加速し、2030年度を目指して北海道からの海底直流送電を整備する。
分散型エネルギーシステムなど真の地産地消にも取り組むよう促す。また、再エネ導入に向けたイノベーションを加速し、技術自給率の向上に向け、次世代太陽電池(ペロブスカイト)や浮体式洋上風力等の社会実装、次世代蓄電池やスマートエネルギーマネジメントシステムの技術開発、再エネ分野におけるサプライチェーン構築や地域に根差した人材育成を進める。
原子力の活用については、安全性の確保を大前提に、原子力規制委員会による審査に合格し、かつ、地元の理解を得た原子炉の再稼働を進める。また、原子力の安全性向上を目指し、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設に取り組む。そして、地域の理解確保を大前提に、廃炉を決定した原発の敷地内での次世代革新炉への建て替えの具体化を進めていく。
あわせて、安全性向上等の取組に向けた必要な事業環境整備を進めるとともに、研究開発や人材育成、サプライチェーンの維持・強化に対する支援を拡充する。原子力規制委員会による厳格な審査を前提に、現行制度と同様に、「運転期間は40年、延長を認める期間は20年」との制限を設けた上で、一定の停止期間に限り、追加的な延長を認める。
また、核燃料サイクルの推進、廃炉の着実かつ効率的な実現に向けた知見の共有や資金確保等の仕組みの整備や最終処分の実現に向けた国主導での国民理解の促進や自治体等への主体的な働き掛けの抜本強化を行う。 エネルギー安定供給の確保に向けた各々の方策については、「第6次エネルギー基本計画」(令和3年10月22日閣議決定)を踏まえて実施する。
改定「水素基本戦略」に基づく対応を進め、既存燃料との価格差に着目した事業の予見性を高める支援や、需要拡大や産業集積を促す拠点整備支援を含む、規制・支援一体型での制度整備に需給両面で取り組み、2030年頃までの商用開始に向けて、水素コア技術を国内外で展開しつつ、水素・アンモニアの大規模かつ強靱なサプライチェーンの早期構築を目指す。
自動車については、2030年代前半までの商用化を目指す合成燃料(e-fuel)の内燃機関への利用も見据え、2035年までに新車販売でいわゆる電動車(電気自動車、燃料電池自動車、プラグインハイブリッド自動車及びハイブリッド自動車)を100%とする目標等に向け、蓄電池の投資促進・技術開発等や、車両の購入、充電・水素充てんインフラの整備、中小サプライヤー等の業態転換を支援する。
船舶・航空・鉄道等の輸送分野については、カーボンニュートラルポートの形成やゼロエミッション船の開発・導入のほか、低燃費機材導入や運航改善と併せて、国産の持続可能な航空燃料(SAF)を国際競争力のある価格で安定供給できる体制を構築する。
また、まちづくりGXを含むインフラの脱炭素化を更に進めるとともに、森林吸収源対策等を加速する。合成燃料(e-fuel)や合成メタン(e-methane)等のカーボンリサイクル燃料を含むカーボンリサイクルやCCS( Carbon dioxide Capture and Storage(二酸化炭素回収・貯留)の略称)、地熱を含め、各分野においてGXに向けた研究開発や設備投資、需要創出の取組を推進する。
今後10年間で150兆円超の官民GX投資の実現を目指し、GX推進法23に基づくGX推進戦略を定め、今年度から発行する将来の財源の裏付けをもった「GX経済移行債」等を活用した大胆な先行投資支援を規制・制度措置と一体的に講ずるなど、「成長志向型カーボンプライシング構想」を速やかに実現・実行する。
地域・くらしの脱炭素化に向けて、中小企業等の脱炭素経営や人材育成への支援を図りつつ、2025年度までに少なくとも100か所の脱炭素先行地域を選定するなどGXの社会実装を後押しする。また、新たな国民運動の全国展開等により、国民・消費者の行動変容・ライフスタイル変革を促し、脱炭素製品等の需要を喚起する。
環境制約・資源制約の克服や経済安全保障の強化、経済成長、産業競争力の強化に向け、産官学連携のパートナーシップを活用しつつ、サーキュラーエコノミー(循環経済)の実現に取り組む。
また、動静脈連携による資源循環を加速し、中長期的にレジリエントな資源循環市場の創出を支援する制度を導入する。
GX投資を支えるファイナンスについて、日本をアジアにおけるGX投資のハブとすべく国際金融センター機能を強化する。グリーン・ファイナンスの拡大、トランジション・ファイナンスに対する国際的な理解醸成へ向けた取組の強化を図るとともに、公的資金と民間資金を組み合わせた金融手法(ブレンデッド・ファイナンス)を開発・確立する。
加えて、TCFD(Task force on Climate-related Financial Disclosuresの略称)等に基づく開示の質と量の充実を含めたサステナブルファイナンス全体を推進するための環境整備を図る。
デジタルトランスフォーメーション(DX)、AIへの対応
デジタル化の恩恵が広く実感できるための取組を地方公共団体、民間事業者などと連携して進める。起業や補助金の申請手続など事業者向けの行政サービスがより容易にできるようにするためのGビズID、Jグランツ等の利用拡大の促進、法人基本情報データベースの整備等を行う。
デジタル臨時行政調査会が示したアナログ規制約1万条項の見直し工程表に沿って、2024年6月までを目途に、一括して規制を見直す。また、行政手続のデジタル完結、テクノロジーマップの整備・実装を進める。
さらに、ベンダーロックインなどの課題を解消するため、政府の情報システム調達の見直しに向けた取組を進める。 「サイバーセキュリティ戦略」に基づく取組などを進める。
また、携帯電話市場における、公正な競争環境の整備を進め、料金の低廉化を図るとともに、通信障害など非常時における事業者間ローミングの実現等の必要な対応を行う。
安全保障にも資する地理空間(G空間)情報の充実・高度活用や準天頂衛星等の更なる整備及び衛星データの利活用を図る。デジタル空間の誤情報等への対応を行う。
スマートフォンアプリ等の市場の競争環境確保に必要な法制度を検討する。 分散型のデジタル社会の実現に向け、利用者保護等にも配慮しつつ、Web3.0に係るトークンの利活用やコンテンツ産業の活性化に係る環境整備、担い手やアイデアの裾野の拡大に必要な取組などを行う。
我が国経済の持続的かつ健全な発展と国民の幸福な生活の実現に寄与するデジタル社会の形成に向け、デジタル庁を中心に、政府全体で、重点計画に基づき、デジタル3原則等を基本原則としつつ、行政のデジタル化を着実に推進する。
デジタル社会のパスポートとしてのマイナンバーカードについて、政府が一丸となって制度の安全と信頼の確保に努めるとともに、ほぼ全国民に行きわたりつつある状況を踏まえ、今後は官民様々な領域での利活用シーンの拡大など、マイナンバーカードの利便性・機能向上、円滑に取得できる環境整備に取り組む。
デジタル社会の実現において不可欠なデータ基盤強化を図るため、デジタル庁が関係府省庁と連携し、データの取扱いルールを含めたアーキテクチャを設計した上で、健康・医療・介護、教育、インフラ、防災、モビリティ分野等におけるデータ連携基盤の構築を進める。
マイナポータルの利便性向上に加えて、個人や法人の税務・社会保障を始めとする各種手続の負担軽減に向けた取組を進めるとともに、デジタル技術の導入により、社会保障給付に要する事務コストを効率化し、行政機関間の情報連携を推進する。
自治体の基幹業務システムの統一・標準化に向けて、「地方公共団体情報システム標準化基本方針」に基づき、2025年度末までにガバメントクラウドを活用した標準準拠システムへの移行の取組を推進する。
住民・事業者目線に立ったワンストップのデジタル・ガバメントの実現には、デジタルの力を活用して国が地方を支えることが重要との考え方に基づき、共通的なデジタル基盤の活用やローカルルールの見直しなどにより、国・自治体を通じた行政サービスの見直しを進め、国民の利便性を高める。
また、総務省は、推進計画に基づき、デジタル人材の確保・育成やデジタル技術の活用、住民との接点(「フロント」)の改革など、行財政の効率化等につながるデジタル化の取組を推進する。 CBDC( Central Bank Digital Currency(中央銀行デジタル通貨)の略称)について、政府・日本銀行は、年内目途の有識者の議論の取りまとめ等を踏まえ、諸外国の動向を見つつ、制度設計の大枠を整理し、発行の実現可能性や法制面の検討を進める。
AI戦略会議における「AIに関する暫定的な論点整理」も踏まえ、「広島AIプロセス」を始めとする国際的な議論をリードする。生成AIの開発・提供・利用を促進するためにも、言わばガードレールとして、AIの多様なリスクへの適切な対応を進めるとともに、AIの最適な利用や、計算資源・データの整備・拡充などAI開発力の強化を図る。
また、DFFT( Data Free Flow with Trust(信頼性のある自由なデータ流通)の略称)を具体化する国際枠組みを立ち上げ、関連プロジェクトを進める。
(3)スタートアップの推進と新たな産業構造への転換、インパクト投資の促進
人への投資、GXなど社会課題の解決を成長のエンジンに転換するとともに、成長分野への労働移動の円滑化を図り、新たな産業構造への転換を実現していくためには、社会課題の解決への挑戦を支援するとともに、挑戦に伴う失敗を許容し、試行錯誤を通じたイノベーションを促進していくことが不可欠である。
こうした挑戦と失敗の試行錯誤を支える基盤として、スタートアップを生み育てるエコシステムの形成や企業の参入・退出の円滑化に取り組むことに加え、社会課題の解決に挑戦する企業への投資やNPO等への支援の 拡大を図り、新たな成長産業の創出と持続可能な経済社会の実現につなげていく。
スタートアップの推進と新たな産業構造への転換
GX・DXなど新たな産業構造への転換を進め、持続的な成長を確保していくため、新たな参入と再チャレンジの際の退出の障壁を低くし、スタートアップが成長できる環境の整備が不可欠である。しかしながら、日本の開廃業率は、米国・欧州主要国に比べて低い水準で推移している。
このため、スタートアップへの投資額を5年後の2027年度に10倍を超える規模にするなどの目標の達成を目指し、「スタートアップ育成5か年計画」に定めた人材育成、資金供給、オープンイノベーションを確実に推進するなど、参入の円滑化を着実に実行するとともに、企業経営者に退出希望がある場合の早期相談体制の構築など、退出の円滑化を図ることにより、新たな産業構造への転換を促していく。
具体的には、「スタートアップ育成5か年計画」に基づき、過去最大規模の1兆円のスタートアップ育成に向けた予算措置を活用して各分野の実態等にも応じた支援を行いつつ、スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築を進めるため、従業員に対して付与するストックオプションについて予め発行枠を設定し、柔軟に付与できる仕組みの整備を含め、ストックオプションの活用に向けた環境整備を進めるとともに、メンターによる支援の拡大、国内外における起業家育成の拠点の整備や人材交流、各地域の大学・高専等でのスタートアップ創出、起業家教育、海外起業家・投資家の誘致拡大等を推進する。
あわせて、連携に向けたマサチューセッツ工科大学(MIT)など海外トップ大学との調整や施設の検討など構想の具体化を進めつつ、優秀な研究者の招へい等により、ディープテック分野の国際共同研究とインキュベーション機能を兼ね備えた「グローバル・スタートアップ・キャンパス」を東京都心に創設するなどの取組を推進する。
また、スタートアップの資金供給の強化と出口戦略の多様化を図るため、ベンチャーキャピタルへの公的資本の有限責任投資、ベンチャーキャピタルとも連携した事業開発等の支援の更なる推進、SBIR制度による支援の推進とスタートアップの実態を踏まえた運用改善、エンジェル税制の活用促進、株式投資型クラウドファンディングの環境整備、未上場株の取引環境の整備、特定投資家私募制度等の見直し等に取り組む。
さらに、既存大企業によるオープンイノベーションを推進するため、オープンイノベーションを促すための税制措置に関する検討、公募増資ルールの見直し、大企業が有する経営資源のカーブアウトの加速等を行うとともに、多数決により金融債務の減額を容易にする事業再構築法制の整備を進める。
これらに併せて、企業の参入・退出の円滑化やスタートアップ育成の観点から、規制改革の推進、知的財産の保護・活用の推進等に取り組むとともに、経営者が事業不振の際、M&A・事業再構築・廃業等を早期に相談できる体制の確立や事業成長担保権の創設を含め、経営者保証に依存しない融資の拡大を図る。
インパクト投資の促進
インパクト投資の促進等を通じ社会的起業家(インパクトスタートアップ)への支援を強化し、社会的起業家のエコシステムの整備を図る。社会的起業家の認証制度を早期に創設し、認証企業に対し公共調達の優遇措置を導入する。
民間で公的役割を担う新たな法人形態について検討を進める。寄附性の高い資金を呼び込むため、公益法人の事業変更認定手続や公益信託の受託者要件の見直しを行う。
休眠預金等活用制度における出資の実現に向けた取組を進める。複数年度の案件形成支援や予算の戦略的活用により、SIBを含む成果連動型民間委託契約方式(PFS)の一層の拡大を図る。
インパクト投資の普及に向けた基本的指針を年度内に策定し、インパクト指標や事例等を具体化するコンソーシアムの設置について必要な措置を講ずる。
また、専門家派遣事業等の検討、個人投資家とつなぐビークルの早期の枠組み整備などインパクト投資促進のための総合的な支援策を推進する。
(4)官民連携を通じた科学技術・イノベーションの推進
科学技術・イノベーションへの投資を通じ、社会課題を経済成長のエンジンへと転換し、持続的な成長を実現する。このため、AI、量子技術、健康・医療、フュージョンエネルギー、バイオものづくり分野において、官民連携による科学技術投資の抜本拡充を図り、科学技術立国を再興する。
小型衛星コンステレーションの構築、ロケットの打上げ能力の強化、日本人の月面着陸等の月・火星探査・開発等の宇宙分野、北極を含む海洋分野の取組の強化を図る。
社会課題や情勢変化への機動的な対応・早期の社会実装に向け、公的研究機関や資金配分機関を中核とした新たな連携の構築を図る。 イノベーションの持続的な創出に向け、国際的な競争的環境下で、多様で厚みのある研究大学群を形成しつつ、世界最高水準の研究大学を実現する。
我が国全体の研究力向上を牽引する国際卓越研究大学の選定を着実に進めるとともに、戦略的な自律経営が可能となるよう必要な規制改革等を早期に実行する。同大学と経営リソースの拡張・戦略的活用や研究者等のキャリア形成面を含め相乗的・相補的に連携した車の両輪として、地域の中核・特色ある研究大学の多様なミッションの実現に向けた抜本的な機能強化を図る。
イノベーションの源泉である優秀な若者が博士を志す環境を実現する。博士課程学生の処遇向上、挑戦的な研究に専念できる環境の確保、博士号取得者が産業界等を含め幅広く活躍できるキャリアパス整備等、魅力的な展望が描けるよう総合的な支援を一層強化する。
価値観を共有するG7を始めとした同志国やASEAN等との科学研究の連携を強化する。オープンサイエンスや、戦略的な国際共同研究等を通じた国際頭脳循環を加速する。
コロナ後のグローバル社会を見据えた人への投資として、多様性と包摂性のある持続可能な社会を構築し、国際競争力を高めるとともに、世界の平和に貢献していくことが不可欠である。
このため、デジタル化やグローバル化など社会の急速な変化への対応を加速し、文理の枠を超えた多様性のあるイノベーション人材の育成強化や国際的な人的交流の活性化を図る。
その際、進学者のニーズ等も踏まえた成長分野への学部再編等や先端技術に対応した高専教育の高度化、文理横断的な大学入学者選抜・SSH(スーパーサイエンスハイスクール)等による学びの転換の促進、産学官連携によるキャンパスの共創拠点化等、未来を支える高度専門人材を育む大学、高等専門学校、専門学校等の機能強化を図る。
また、我が国の未来を担う若者の留学を通じた成長・活躍は社会を変革する鍵となるものであり、より質の高い留学生交流を進める視点も重視しつつ、2033年までに日本人学生の中長期の海外派遣の拡大を含む海外留学者年間50万人、外国人留学生の受入れ年間40万人・卒業後の国内就職率6割等の実現に向け、留学生の派遣・受入れの強化や卒業後の活躍に向けた環境整備、教育の国際化の推進等に必要な取組を速やかに進める。
(5)インバウンド戦略の展開
国際的な人的交流の促進を通じたインバウンドの拡大を図るため、「新時代のインバウンド拡大アクションプラン」に基づき、従来の観光にとどまらず、日本を舞台とした国際交流の回復や国際頭脳循環の確立を目指し、ビジネスや教育・研究、文化芸術・スポーツ等の広い分野で取組を深化させる。
持続可能な形での観光立国の復活
訪日外国人旅行消費額が本年第1四半期に1兆円を超えるなど、我が国の成長戦略の柱、地域活性化の切り札である観光について、新たな「観光立国推進基本計画」に基づき、持続可能な観光地域づくりやインバウンド回復、国内交流拡大に戦略的に取り組む。
我が国固有の温泉・旅館・食・文化・歴史などの観光資源・文化資源の連携による磨き上げを図りつつ、地域社会・経済に好循環を生む持続可能な観光地域づくりの取組を全国で展開し、宿泊施設改修や面的DX化等の観光地・観光産業の再生・高付加価値化について、複数年度にわたる計画的・継続的な支援策を活用して推進するほか、官民ファンドによる事業再生支援等に取り組む。
観光地のマネジメント体制構築を支援するほか、観光DX・GX、待遇改善や外国人材活用による人材不足対策、スタートアップ支援等を推進する。
訪日外国人旅行消費額5兆円の早期達成に向け、アドベンチャーツーリズム等の特別な体験の提供等の支援、新たな観光コンテンツ創出、文化財等の夜間活用、民間活力等による国立公園・国民公園や公的施設の魅力向上、医療ツーリズムの推進、高付加価値旅行者の誘客の集中的支援、航空便回復・CIQ(スマートレーン等の最先端技術によるFAST TRAVELの推進など搭乗関連手続の円滑化や、相互事前旅客情報システム(iAPI)の導入等による厳格な出入国管理と革新的で円滑な出入国審査等の実現を含む)等の受入環境整備、伝統芸能等における外国人対応の推進、クルーズの再興と拠点形成、観光地へのアクセス向上、消費税免税制度の適正利用の促進、観光外交の推進を含む戦略的なプロモーション、日本酒・焼酎・泡盛等のユネスコ無形文化遺産への早期登録、MICE誘致・開催、IR整備、アウトバウンド・国際相互交流の拡大等を強力に推進する。
国内交流拡大のため、官民で連携してワーケーションや第2のふるさとづくり等を推進するほか、観光・交通事業者と連携して平日の旅行等を促進する。
高度人材等の受入れ
世界に伍する水準の新たな在留資格制度(特別高度人材制度(J-Skip)・未来創造人材制度(J-Find))の活用を進めるとともに、「海外からの人材・資金を呼び込むためのアクションプラン」を踏まえ、税制や規制などの制度面も含めた課題の把握・検討を行い、必要な対応を行うことを含め、高度外国人材等の呼び込みに向けた制度整備を推進する。
特定技能制度の受入れ分野の追加について、分野を所管する行政機関が人手不足の状況等を示し、法務省を中心に適切な検討を行う。
技能実習制度及び特定技能制度の在り方の検討
技能実習制度及び特定技能制度の在り方を検討するに当たっては、日本人と外国人が互いに尊重し、安全・安心に暮らせる共生社会の実現を目指し、両制度を外国人がキャリアアップしつつ国内で就労し活躍できる分かりやすいものとするとともに、人権侵害等の防止・是正等を図り、日本が魅力ある働き先として選ばれる国になるという観点に立たなければならない。
以上のことから、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」における中間報告書を踏まえ、現行の技能実習制度を実態に即して発展的に解消して人材確保と人材育成を目的とした新たな制度を創設するとともに、特定技能制度は、制度を見直して適正化を図った上で引き続き活用していくなどの方向で検討することとし、さらに今後の有識者会議の議論等も踏まえ、制度の具体化に向けて取り組む。
資産運用立国・国際金融センター等の実現
2,000兆円の家計金融資産を開放し、日本の金融市場の魅力を向上させ、世界の金融センターとしての発展を実現すべく、取組を進める。企業価値向上に向けて、コーポレートガバナンス改革の実質化に取り組む。
アジアにおけるGX金融ハブを形成すべく、CO2排出量を含む企業データの集約やASEAN等で官民関係者が参画する「アジアGXコンソーシアム(仮称)」の組成などの取組を進める。
さらに、地域でのGX投融資を促すため、地方自治体と地域企業、金融機関等による推進協議体の設置等を支援する。金融行政・税制のグローバル化の観点から、拠点開設サポートオフィス及びFinTechサポートデスクの機能と体制を強化するとともに、「国際金融ハブ」に向けた税制上の諸課題について把握し、必要な見直しに向けた対応を行う。
また、銀証ファイアウォール規制の在り方につき検討を行う。さらに、「資産運用立国」の実現を目指し、資産運用業等の抜本的な改革の一環として、日本独自のビジネス慣行・参入障壁の是正や、新規参入に係る支援の拡充等を通じた競争の促進に取り組む。
これら一連の取組につき、海外主要メディアへの広報チャンネル拡大や、集中的に海外金融事業者を日本に招致する「Japan Week(仮称)」の立ち上げを含む国内外でのプロモーションイベントの開催等、情報発信を効果的・戦略的に実施する。
また、企業のノウハウや顧客基盤等の知財・無形資産を含む事業全体を担保に資金調達できる法制度(「事業成長担保権」)を検討し、早期の法案提出を目指す。
消費者にとって利用しづらい金融サービスや手続を網羅的に点検し、消費者の利便性向上の観点から必要なものについて改善を求める。
3.少子化対策・こども政策の抜本強化
加速化プランの推進
急速な少子化・人口減少に歯止めをかけなければ、我が国の経済・社会システムを維持することは難しく、世界第3位の経済大国という、我が国の立ち位置にも大きな影響を及ぼす。若年人口が急激に減少する2030年代に入るまでが、こうした状況を反転させることができるかどうかの重要な分岐点であり、ラストチャンスである。
このため、政府として、若者・子育て世代の所得向上に全力で取り組む。新しい資本主義の下、賃上げを含む人への投資と新たな官民連携による投資の促進を進めることで、安定的な経済成長の実現に先行して取り組む。
次元の異なる少子化対策としては、「こども未来戦略方針」に基づき、若い世代の所得を増やす、社会全体の構造や意識を変える、全てのこども・子育て世帯を切れ目なく支援するという3つの基本理念を踏まえ、抜本的な政策の強化を図る。
経済を成長させ、国民の所得が向上することで、経済基盤及び財源基盤を確固たるものとするとともに、歳出改革等によって得られる公費の節減等の効果及び社会保険負担軽減の効果を活用することによって、国民に実質的な追加負担を求めることなく、「こども・子育て支援加速化プラン」(以下「加速化プラン」という。)を推進する。
なお、その財源確保のための消費税を含めた新たな税負担は考えない。
具体的には、「こども未来戦略方針」に基づき、今後「加速化プラン」の3年間の集中取組期間において、「ライフステージを通じた子育てに係る経済的支援の強化や若い世代の所得向上に向けた取組」(児童手当の拡充、出産等の経済的負担の軽減、地方自治体の取組への支援による医療費等の負担軽減、奨学金制度の充実など高等教育費の負担軽減、個人の主体的なリ・スキリングへの直接支援、いわゆる「年収の壁」への対応、子育て世帯に対する住宅支援の強化)、「全てのこども・子育て世帯を対象とする支援の拡充」(妊娠期からの切れ目ない支援の拡充や幼児教育・保育の質の向上、「こども誰でも通園制度(仮称)」の創設など)、「共働き・共育ての推進」(男性育休の取得促進や育児期を通じた柔軟な働き方の推進、多様な働き方と子育ての両立支援)とともに、こうした具体的政策に実効性を持たせる「こども・子育てにやさしい社会づくりのための意識改革」を、「「加速化プラン」を支える安定的な財源の確保」を進めつつ、政府を挙げて取り組んでいく。
こども・子育て予算倍増に向けては、「加速化プラン」の効果の検証を行いながら、政策の内容・予算をさらに検討し、こども家庭庁予算で見て、2030年代初頭までに、国の予算又はこども1人当たりで見た国の予算の倍増を目指す。その財源については、今後更に政策の内容を検討し、内容に応じて、社会全体でどう支えるかさらに検討する。
こども大綱の取りまとめ
常にこどもや若者の視点でこどもや若者の最善の利益を第一に考える「こどもまんなか社会」を実現するため、こども基本法に基づき、幅広いこども施策に関する今後5年程度を見据えた中長期の基本的な方針や重要事項を一元的に定めるこども大綱を年内を目途に策定し、こども家庭庁が「こどもまんなか社会」を目指すための新たな司令塔機能を発揮する中で、政府全体でこども施策を強力に推進する。
こどもや若者を取り巻くあらゆる環境を視野に入れ、こどもや若者の権利を保障し、国や地方公共団体の政策決定プロセスへのこどもや若者の参画、意見の反映促進、健やかな成長を社会全体で後押ししていく。
このため、「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的な指針(仮称)」を策定し、全てのこどもの育ちに係る質を保障する取組を強力に推進するほか、職員配置基準の改善も見据え、保育人材の確保の強化と現場の負担軽減を図るとともに、「新子育て安心プラン」の着実な実施に取り組む。
また、ファミリー・サポート・センター事業を推進する。「こどもの居場所づくりに関する指針(仮称)」を策定し、多様なこどもの居場所づくりやこどもと居場所をつなぐ仕組みを構築する。
流産、死産を経験された方への相談支援、産後ケアの人材育成、新生児マススクリーニング、新生児聴覚検査、乳幼児健診を始めとする母子保健対策の推進、予防のためのこどもの死亡検証(CDR)など、産前産後の支援を充実するとともに、こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組み(日本版DBS)の導入やこどもが安全・安心に成長できる環境の構築に取り組む。
希望する人の結婚支援(伴走型のマッチング支援等)及び妊娠・出産支援を始め地方自治体等が行う取組を強力に推進するため、地域少子化対策重点推進交付金による取組を拡充するとともに、ライフプラン研修等を行う事業者を支援する。
誰一人取り残さず、確実に支援を届けるため、こどもや家庭への包括的な支援体制づくりを推進する。このため、こども家庭センターの設置促進、訪問家事支援の充実、里親支援の充実等家庭養育優先原則の徹底、社会的養護経験者等に対する自立支援の充実、一時保護所の環境改善、こども家庭ソーシャルワーカーの取得促進を始めとする、児童虐待防止対策強化・社会的養育推進のための改正児童福祉法の円滑な施行や、児童相談所の質・量の体制強化、児童養護施設等の環境改善に取り組むとともに、こどもの自殺対策の強化、いじめ防止対策の推進、若年妊婦の支援に取り組む。
また、就業支援や養育費の支払確保と安全・安心な親子の交流の推進などひとり親支援の推進、こども食堂、こども宅食・フードバンク等への支援を始めとした、こどもの貧困解消や見守り強化を図るほか、食育を推進する。
こどもホスピスの全国普及に向けた取組を進めるとともに、家庭・教育・医療・保健・福祉の連携の下、発達障害児や強度行動障害を有する児童、医療的ケア児を始めとする全ての障害のあるこどもへの支援体制の整備等、多様なニーズを有するこどもの地域の支援基盤の強化を図る。
さらに、こども政策DXを推進する。 こども・子育て政策の抜本強化に向け、縦割りを超え、多様な施策とこども政策との連携を図る必要がある。このため、少子化時代における質の高い公教育の再生の強力な推進 「こども未来戦略方針」に基づいて具体的な取組を進める。
4.包摂社会の実現
女性活躍
女性版骨太の方針2023に基づき、L字カーブの解消に資するよう、女性活躍と経済成長の好循環の実現に向けて、プライム市場上場企業を対象とした女性役員に係る数値目標の設定やその達成を確保する仕組みの導入など女性登用の加速化、女性起業家の育成・支援等を進めるとともに、多様な正社員の普及促進や長時間労働慣行の是正、投資家の評価を利用した両立支援等の多様で柔軟な働き方の推進、仕事と家庭の両立に向けた男性の育児休業取得の促進やベビーシッター・家事支援サービス利用の普及、男女間賃金格差の更なる開示の検討、女性の視点も踏まえた社会保障制度・税制等の検討、非正規雇用労働者の正規化や処遇改善、女性デジタル人材の育成、地域のニーズに応じた取組の推進、就業支援や養育費の確保を含めたひとり親家庭支援など女性の所得向上・経済的自立に向けた取組を強化する。
IT分野を始め理工系分野の大学・高専生、教員等に占める女性の割合向上に向け、女子中高生の同分野の学びや分野選択の促進など産学官連携で地域一体となった取組等を加速するとともに、大学の上位職への女性研究者登用を促進する取組を強化する。DV対策、性犯罪・性暴力対策、困難な問題を抱える女性への支援に関する法律の円滑な施行、事業主健診の充実、フェムテックの利活用やナショナルセンター機能の構築を含めた女性の健康支援、WPS(女性・平和・安全保障(Women, Peace and Security))等により女性が尊厳と誇りを持って生きられる社会を実現する。
共生・共助社会づくり
人と人、人と社会がつながり、一人一人が生きがいや役割を持ち、助け合いながら暮らせる包摂的な共生社会づくりを推進する。
このため、重層的支援体制整備事業について、実施市町村の拡充を図るとともに、生活困窮者自立支援制度及び生活保護制度について就労、家計改善、住まいの支援などの強化等の検討を行う。
また、ユニバーサルデザインの街づくりや心のバリアフリーの取組の推進のほか、生活困窮者自立支援制度、住宅セーフティネット制度等の住まい支援の強化を図るとともに、入居後の総合的な生活支援を含めて、住まい支援を必要とする者のニーズ等を踏まえ必要な制度的対応等を検討する。
さらに、認知症の人や家族に対する支援、障害者の地域生活の支援、生涯学習の推進、就労支援、情報コミュニケーション等に対する支援、官民協働の支援体制構築等困難な問題を抱える女性支援の強化、労働者協同組合の活用促進、成年後見制度を含めた総合的な権利擁護、無戸籍者の解消、性的マイノリティに関する正しい理解や社会全体が多様性を受け入れる環境づくりの促進等を図る。
また、外国人との共生社会の実現に向け、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」等に基づき、マイナンバーカードと在留カードの一体化のほか、関係省庁の連携により、政府の新たな重要課題である外国人材の受入れ・共生の基盤となる日本語教育機関認定法の運用を確実に実施するために必要な日本語教育の推進体制の大幅な強化・拡充や地域の日本語教育の体制づくり、外国人児童生徒等の就学促進等に取り組む。
また、改正入管法に基づく長期収容・送還忌避の課題解消に向けた取組とともに、難民に準じて庇護すべき者に対して適切な支援を実施する。 寄附やベンチャー・フィランソロフィーを促進するなど公的役割を担う民間主体への支援を強化し、ソーシャルセクターの発展を図る。
公益社団・財団法人制度を改革するため、2024年通常国会への関連法案の提出とともに体制面を含め所要の環境整備を図る。
伴走支援の充実等の休眠預金等活用法施行5年後の見直しに即してその円滑な実施に取り組むとともに、社会経済情勢の変化に応じ機動的な休眠預金の活用を図る。
NPO法に基づく各種事務のオンライン化の促進を含め、NPO法人の活動促進に向けた環境整備を進めるとともに、地方創生SDGs官民連携プラットフォームの活用など官民による協働の促進を図る。
就職氷河期世代支援
今年度から2年間の「第二ステージ」において、これまでの支援の成果等を踏まえて強化した施策を着実に実施し、地方自治体の取組も後押ししながら、相談、教育訓練から就職、定着までの切れ目のない支援や、個々人の状況に合わせた丁寧な寄り添い支援を行う。
あわせて、公務員での採用を推進するほか、「第二ステージ」から開始した独立行政法人等での採用の促進に取り組む。さらに、就職氷河期世代の実態の把握を図りつつ、「第 一ステージ」の総括的検証を踏まえた施策の見直し等を行い、より効果的な支援に取り組む。
孤独・孤立対策
孤独・孤立対策推進法に基づき、国・地方の孤独・孤立対策を強化する。
特に、孤独・孤立対策推進本部など安定的・継続的な実施体制の整備、国・地方における官民の連携・協働及び一元的な相談支援体制の本格実施に向けた環境整備を促進する。また、孤独・孤立に関する普及啓発活動の集中実施やサポーター養成の仕組みの創設、民生委員・児童委員活動の推進など支援を求める声を上げやすく声を掛けやすい環境づくりを進め、孤独・孤立対策に関するNPO等の諸活動について、複数年契約の普及促進等による継続的な支援及び支援者支援など新たな支援策の具体化に取り組む。実態調査結果等を踏まえ、全省庁で孤独・孤立対策の視点を入れて施策を推進する。日常の様々な分野で緩やかなつながりを築ける多様な「居場所」づくりなど孤独・孤立の「予防」、アウトリーチの取組、社会的処方の活用、ひきこもり支援、新大綱に基づく自殺総合対策など重点計画の施策を着実に推進する。
5.地域・中小企業の活性化
デジタル田園都市国家構想と「新時代に地域力をつなぐ国土」の実現
「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を目指し、総合戦略に基づき、従来の地方創生の取組にデジタルの力を活用して加速させるとともに、今夏に策定する新たな「国土形成計画」に基づき、「新時代に地域力をつなぐ国土」の実現に向け、デジタルとリアルが融合した地域生活圏の形成や交通とデジタルによるネットワークの強化を進め、デジタル田園都市国家構想を国土形成に展開する。
東京一極集中の是正に向け、地方創生の取組と連携し、地方と東京の相互利益となる分散型国づくりを進める。 地域の個性や魅力をいかす地域ビジョンの実現に向け、スマートシティ・スーパーシティ、「デジ活」中山間地域等のモデル地域ビジョンに係る施策間・地域間連携や交通活性化等の重要施策分野等に関するフォローアップと施策の充実を図り、官民の取組を政府一丸で支援する。
優良事例を支えるサービス・システムの効果的・効率的な横展開やDigi田甲子園による機運醸成など重点課題に係る取組を深化し、年内に総合戦略を改訂する。
空飛ぶクルマを推進するほか、ドローン、自動運転等の実装と面的整備に向け「デジタルライフライン全国総合整備計画」を年度内に策定し、2024年度にはドローン航路や自動運転支援道の設定を開始し、先行地域での実装を実現する。また、デジタル実装の前提となる5G、光ファイバ等のデジタル基盤について全国津々浦々で整備を推進するとともに、デジタル人材育成を推進し、改訂整備計画に基づき、GIGAスクール構想に資する通信環境の年度内の全学校整備、非地上系ネットワークの展開、データセンター地方拠点や海底ケーブル等の整備、Beyond5Gの研究開発等を進める。 デジタル推進委員の相談体制の充実など誰一人取り残されないための取組を推進する。
「シームレスな拠点連結型国土」の構築と交通の「リ・デザイン」
広域的な人口・諸機能の分散と連結強化等を進め、コンパクト・プラス・ネットワークを深化・発展させ、「シームレスな拠点連結型国土」の構築を目指す。 地域生活圏の形成等に向け、中心市街地を含む地方都市等の再生や競争力強化、公園の利活用等による人中心のコンパクトな多世代交流まちづくりとその高度化、公共交通施設等のバリアフリー、通学路等の交通安全対策、道の駅の拠点機能強化、自転車等の利用環境の向上等を進めるとともに、戦略的なインフラメンテナンスの取組を加速化する。
地域公共交通については、改正法の円滑な施行等あらゆる政策ツールを総動員するとともに、国の執行体制の強化を図る。MaaS等の交通DX・GX、地域経営における連携強化、ローカル鉄道の再構築、地域の路線バスの活性化など「リ・デザイン」の取組を加速化するとともに、デジタル田園都市国家構想の実現に資する幹線鉄道ネットワークの地域の実情に応じた高機能化・サービスの向上、ラストワンマイルの移動手段であるタクシーや自家用有償旅客運送に関する制度・運用の改善等を通じて、豊かな暮らしのための交通を実現する。
中枢中核都市等を核とした広域圏の自立的発展と「全国的な回廊ネットワーク」の形成を通じた交流・連携の強化、国際競争力の強化のため、高規格道路、整備新幹線、リニア中央新幹線、港湾等の物流・人流ネットワークの早期整備・活用、航空ネットワークの維持・活性化、モーダルコネクトの強化、造船・海運業等の競争力強化等に取り組む。
加えて、基本計画路線及び幹線鉄道ネットワーク等の高機能化等の地域の実情に応じた今後の方向性について調査検討を行う。また、リニア中央新幹線等により三大都市圏を結ぶ「日本中央回廊」を形成し、地方活性化や国際競争力強化を推進する。
リニア中央新幹線について、水資源、環境保全等の課題解決に向けた取組を取りまとめ、品川・名古屋間の早期整備を促進するとともに、開業に伴う東海道新幹線の輸送余力を活用した東海エリアの利便性向上・地域にもたらす効果等について調査分析を行う。全線開業の前倒しを図るため、建設主体が本年から名古屋・大阪間の環境影響評価に着手できるよう、沿線自治体と連携して、必要な指導・支援を行う。 また、運輸分野におけるモード横断的な安全対策や人材確保・育成に取り組む。
個性をいかした地域づくりと関係人口の拡大
個性をいかした地域づくりに向けて、沖縄振興・北海道開発と、過疎地域や奄美、小笠原、半島、離島、豪雪地帯等の条件不利地域対策に取り組む。
沖縄が「強い沖縄経済」を実現し、日本の経済成長の牽引役となるよう、観光等の各種産業や北部・離島地域の振興、沖縄健康医療拠点の整備を始めとした基地跡地の利用、こどもの貧困対策、クリーンエネルギー導入、スタートアップ支援、人材育成等の沖縄振興策を国家戦略として総合的・積極的に推進する。
新たな「北海道総合開発計画」を年度内に策定し、我が国のエネルギー供給基地も担うゼロカーボン北海道の実現、食と観光を担う生産空間の維持・発展、デジタル産業の集積促進、北方領土隣接地域の振興等、北海道開発を推進する。ウポポイを拠点に文化振興等に取り組み、アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現する。 人の流れを創出するため、若者の地方移住への支援を強化するとともに、地域と企業の連携を促進しつつ、地方拠点強化税制を活用し企業の地方移転を促す。
関係人口の創出・拡大や、テレワーク活用による転職なき移住、二地域・多地域居住等の多様なライフスタイルの推進に向け、サテライトオフィス等の環境整備を進めるとともに、地域おこし協力隊等自治体への人的支援の充実や地域企業へのマッチング支援等により地域への人材還流を促す。
地域の稼ぐ力の向上に向け、産学官金連携により地域の経済循環を担う地域密着型企業の立ち上げ等を促進する。
物流の革新
2024年度から時間外労働の上限規制が運転手に適用され物流への影響が懸念される「物流2024年問題」の解決等に向け、持続可能な物流を実現すべく、「物流革新に向けた政策パッケージ」に基づき、道路・港湾・貨物鉄道・倉庫等の物流拠点・ネットワークの災害対応能力を含む機能強化、モーダルシフトなど物流GX、物流DX・標準化等による「物流の効率化」、荷主・物流事業者間における物流負荷の軽減に向けた規制的措置の導入、トラック法に基づく荷主等への要請・勧告制度の実効性向上等による「商慣行の見直し」、再配達削減を含む荷主や消費者の「行動変容を促す仕組みの導入」等の抜本的・総合的な対策を一体的に進め、物流の生産性向上等を推進する。このため、次期通常国会での法制化も含め、荷主への規制的措置など中長期的に継続して取り組むための枠組みを整備する。
中堅・中小企業の活力向上
地域経済を支える中堅・中小企業の活力を向上させ、良質な雇用の創出や経済の底上げを図る。このため、成長力のある中堅企業の振興や売上高100億円以上の企業など中堅企業への成長を目指す中小企業の振興を行うため、予算・税制等により、集中支援を行う。
具体的には、M&Aや外需獲得、イノベーションの支援、伴走支援の体制整備等に取り組む。また、GX、DX、人手不足等の事業環境変化への対応を後押ししつつ、切れ目のない継続的な中小企業等の事業再構築・生産性向上の支援、円滑な事業承継の支援や、新規に輸出に挑戦する1万者の支援を行う。
あわせて、地域の社会課題解決の担い手となり、インパクト投資等を呼び込む中小企業(いわゆるゼブラ企業など)の創出と投資促進、地域での企業立地を促す工業用水等の産業インフラ整備や、地域経済を牽引する中堅企業の人的投資等を通じた成長の促進に取り組む。
これらによるサプライチェーンの付加価値の増大とともに、その適切な分配を推進するため、「パートナーシップ構築宣言」を推進するほか、優越的地位の濫用に関する特別調査、重点5業種に対する立入調査の実施等、原材料費やエネルギーコストの適切なコスト増加分の全額転嫁を目指し、取引適正化を推進する。また、実態調査を行った上で、労務費の転嫁の在り方について指針をまとめる。
加えて、インボイス制度の円滑な導入やサイバーセキュリティ対策を支援する。 さらに、感染症の影響等への対応で債務が増大している中小企業等の収益力改善・事業再生・再チャレンジの支援を強化する。
具体的には、官民金融機関や信用保証協会等による経営支援の強化、返済猶予等の資金繰り支援、資本性劣後ローンの活用等を通じた資本基盤の強化、債務減免を含めた債務整理等に総合的に取り組む。
地域交通や観光・宿泊業等の事業再生等を重点的に支援する。加えて、早期の事業再生等を促す環境を整備するため、経営者保証に依存しない融資慣行を推進する。
また、新しい事業に取り組むフリーランスを含む個人事業主に対する経営や財務戦略についての経営者教育に取り組む。
文化芸術・スポーツの振興
文化芸術と経済の好循環による活動基盤強化と持続的発展を加速し、心豊かで多様性と活力のある文化芸術立国を実現する。
このため、我が国が誇るソフトパワーや日本遺産等の地域の有形・無形の伝統的・現代的な文化芸術資源・コンテンツの魅力の掘り起こし、 磨き上げや強靱化、国際文化交流とそれを通じた平和・絆・安全保障への寄与、国内外への発信強化、クールジャパン戦略の展開、民間資金や著作権制度改革を含む文化DXの活用等を推進する。
文化庁の京都移転を機に、文化芸術による地方創生や文化芸術のグローバル展開等の強化に向け、日本博2.0の全国展開、食文化や建築文化、生活文化、書籍を含む文字・活字文化、文化観光等による新たな価値創造、社会全体で文化財を支える保存・活用の充実と官民連携等の推進を図る。
舞台芸術の地方公演等での統括団体等を通じた総合的な活動支援等を含め、こどもや障害者等の文化芸術教育、鑑賞・体験機会の充実を図る。新国立劇場など国際拠点となる国立文化施設や博物館・美術館等のグローバル展開を含む機能強化、アート市場の活性化、メディア芸術ナショナルセンター構想の推進や、トップ芸術家や伝統芸能の担い手の育成等を含め、文化芸術の成長産業化を図る。
世界のコンテンツ産業の成長を睨み、広い意味でのクリエイターの支援を進めていく。国立公文書館の機能強化等を進める。
障害の有無にかかわらず、誰もが気軽にスポーツに親しみ、その価値を実感できる、活力ある、絆の強い社会を実現する。
このため、地域の実情に応じた地域スポーツ環境の総合的な整備を推進する。スポーツ振興と地方創生の好循環の加速化と、スポーツの成長産業化を図る。その際、武道・スポーツツーリズムや日本らしいスポーツホスピタリティを取り入れたスポーツ・健康まちづくりの全国展開、民間資金の活用やスポーツDXの推進、指導者や活動団体の育成等を図る。
また、持続可能な国際競技力の向上やスポーツ界のガバナンス強化を図る。
第3章 我が国を取り巻く環境変化への対応
1.国際環境変化への対応
(1)外交・安全保障の強化
ロシアのウクライナ侵略など、国際秩序が重大な挑戦にさらされる歴史の転換期にあって、G7広島サミットの成果も踏まえ、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の堅持のための外交を積極的に展開する。
G7が結束し、食料、保健など地球規模課題等への取組を進め、いわゆるグローバル・サウスへの関与を強化するとともに、対露制裁並びにウクライナ及び周辺国への強力な支援を推進する。
「核兵器のない世界」に向け、「ヒロシマ・アクション・プラン」の着実な実施等を通じ、核を含む軍縮・不拡散に向けた国際的な取組を主導する。「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、日米同盟を基軸に、米豪印や韓国を始め各国・地域との協力連携を進める。
特に我が国のアジア外交の中心に据え、長年の貢献により、相互信頼関係を築いてきたASEANとは特別首脳会議162を機に将来のビジョンと幅広い協力を打ち出し、包括的かつ戦略的関係を深める。太平洋島しょ国とも太平洋・島サミットを通じ関係強化を図る。
「開発協力大綱」に基づいて、開発協力を効果的・戦略的かつ適正に実施していくことを踏まえ、様々な形でODAを拡充し、実施基盤の強化のための必要な努力を行う。OSAを戦略的に推進し、強化する。
安保理改革を含む国連の機能強化、国際機関邦人職員の増強、国際裁判を含む国際法に基づく紛争解決、人権、WPS、人間の安全保障、親日派・知日派の育成、領土・主権等に係る対外発信等の課題に取り組む。
北朝鮮との関係では、日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、国交正常化を目指す。 合理化・効率化を図りつつ、外交の基盤となる人的体制の強化や財政基盤の整備、緊急時の邦人保護体制を含む在外公館の強靱化、領事サービスの向上、デジタル化・情報防護の強化を含め、外交・領事実施体制を抜本的に強化し、外交力の強化を図る。 戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に対応すべく、「国家安全保障戦略」等に基づき、2027年度までの5年間で防衛力を抜本的に強化する。
その際、スタンド・オフ防衛能力、統合防空ミサイル防衛能力、無人アセット防衛能力、領域横断作戦能力、指揮統制・情報関連機能、機動展開能力・国民保護、持続性・強靱性の7つの柱を重視し、現有装備品を最大限有効に活用するため、可動状況の向上や弾薬・燃料の確保、主要な防衛施設の強靱化への投資を加速するとともに、統合運用体制を含め、将来の中核となる能力を強化する。 日米同盟の抑止力と対処力を強化するとともに、同志国等との連携を強化する。 装備品の安定的な調達を確保するため、防衛生産・技術基盤を国内において維持・強化する。
防衛生産基盤強化法の着実な執行等により、力強く持続可能な防衛産業の構築、様々なリスクへの対処、防衛装備移転の推進を図るとともに、画期的な装備品等を他国に先駆けて実現する研究開発、民生の先端技術の積極的な活用に取り組む。
優秀な人材の確保、生活・勤務環境の改善や処遇の向上等を通じて人的基盤を強化するほか、衛生機能を強化する。また、在日米軍再編及び基地対策の推進等を図る。
防衛力の抜本的強化等の財源については「防衛力整備計画」等に沿って、機動的・弾力的な対応を含め確保する。その際、各年度の予算編成過程において、歳出改革の継続、税収等の動向や歳出の不用等の結果生じる決算剰余金の活用、外国為替資金特別会計からの繰入れ等により4.6兆円が確保された税外収入の更なる確保に努める。
「令和6年以降の適切な時期とする」とされている税制措置の開始時期については、令和7年以降の然るべき時期とすることも可能となるよう5兆円強の確保を目指す税外収入の上積みやその他の追加収入を含めた取組の状況を踏まえ、柔軟に判断する。 防衛力のみならず、外交力・経済力を含む総合的な国力を活用するという考えの下、防衛力の抜本的強化を補完し、それと不可分一体のものとして、研究開発、公共インフラ整備、サイバー安全保障、我が国及び同志国の抑止力の向上等のための国際協力の4つの分野における取組を関係省庁の枠組みの下で推進し、総合的な防衛体制を強化する。
サイバー安全保障分野での対応能力を欧米主要国並みに向上させるため、政府のサイバーセキュリティの強化を図るとともに、能動的サイバー防御の実施に向けた体制を整備する。政府外の機関との連携の強化を含む偽情報対策等の情報戦対応や対外発信、人的情報を含む情報収集・分析に係る我が国の体制と能力を強化する。南西地域を含む住民の迅速かつ安全な避難を実現すべく、様々な種類の避難施設の確保等を含め、国や地方公共団体等が協力して、住民を守るための取組を進めるなど、国民保護のための体制を強化する。
「海洋基本計画」に基づき、海洋状況把握等による総合的な海洋の安全保障等の取組を推進するほか、「海上保安能力強化に関する方針」に基づき、巡視船等の増強・更新、運航費の確保、無操縦者航空機等の新技術の活用推進、警察・自衛隊、外国海上保安機関等との連携協力の強化、人材育成等を進める。
「宇宙基本計画」に基づき、自衛隊等による宇宙利用を強化するなど、宇宙の安全保障に関する総合的な取組を強化する。
(2)経済安全保障政策の推進
我が国の平和と安全や経済的な繁栄等の国益を経済面から確保する観点から、経済活動の自由との両立を図りつつ、我が国の自律性の向上、技術等に関する我が国の優位性、不可欠性の確保等に向けて必要な経済施策を総合的、効果的かつ集中的に講じていく。
その際、同盟国・同志国等との連携を強化するとともに、各産業等が抱えるリスクを継続的に点検し、政府一体となって必要な取組を行う。 経済安全保障推進法の着実な実施と取組の更なる強化を行う。
重要な物資のサプライチェーンについて不断の点検・評価を行った上で、把握された課題への対応を検討し、安定供給確保のために必要な措置を着実に講ずる。国民の生存や国民生活・経済活動にとって重要な物資の製造等を担う民間企業への資本強化を含めた支援の在り方について、更に検討を進める。
先端的な重要技術の育成に向け、新たに支援対象とするべき技術を示し、官民の伴走支援の下で着実に研究開発を行いつつ、切れ目なく強力な支援を実現する。安全・安心に関するシンクタンクにおいて経済安全保障推進法に基づく調査研究を着実に実施すべく、本格的な設立準備を進め、政府における調査研究を充実させる。
基幹インフラの事前審査制度及び特許出願の非公開制度の2024年春の円滑な施行に向け、必要な周知等を行うとともに、関係省庁における必要な体制を整備する。重要なインフラ分野については、同盟国・同志国等と協調しつつ、国際通信における自律性向上も含め、脆弱ぜいじゃく性解消に向けたインフラ強靱化に取り組む。
主要国の情報保全の在り方や産業界等のニーズも踏まえ、セキュリティ・クリアランスを含む我が国の情報保全の強化に向けた法制度等の検討を更に深め、速やかに結論を得る。データ・情報保護について、国際的な環境の変化等を踏まえ、関係省庁が緊密に連携しつつ、機微なデータや情報通信技術サービスの安全性・信頼性確保に関してとるべき措置を検討する。
政府が扱う情報の機密性等に応じた方針に基づき情報システムの利用を進めるとともに、その方針における考え方について民間事業者等へも周知・広報を行っていくほか、必要なクラウドの技術開発等を支援しその成果を公共調達に反映する。 外為法上の投資審査について、地方支分部局も含めた情報収集・分析・モニタリング等の強化を図るとともに、指定業種の在り方について、引き続き検討を行う。
ロシアによるウクライナ侵略も踏まえ、新たな安全保障貿易管理の枠組みの検討も含めた先端技術を保有する民主主義国家による責任ある技術管理や、各種制裁の効果的な実施に引き続き取り組む。同盟国・同志国等と緊密に連携しつつ、外国からの経済的な威圧に対する効果的な取組の在り方を検討するとともに、取組を進める。
研究インテグリティの確保や留学生・外国人研究者等の受入れの審査強化に引き続き取り組む。重要土地等調査法に基づき、区域指定を進め、調査等を実効的かつ着実に実施するとともに、法の執行状況や安全保障を巡る内外の情勢等を見極めた上で、更なる検討を進める。
国家安全保障局を司令塔とした、内閣府(経済安全保障担当)等の関係省庁を含めた経済安全保障の推進体制を強化する。経済安全保障に資するインテリジェンス能力を強化するため、情報の収集・分析等に必要な体制を整備する。経済安全保障を巡る情報の発信を始めとした地方公共団体を含む関係者との連携に取り組む。
(3)エネルギー安全保障の強化
ロシアのウクライナ侵略によって国際的なエネルギー市場が混乱する中、我が国では、エネルギー価格の高騰や国内における電力やガスの需給ひっ迫の懸念など、エネルギー危機が危惧される緊迫した状況にある。
安定的で安価なエネルギー供給は、国民生活、社会・経済活動の根幹であり、脱炭素化の取組とともに、エネルギー危機に耐え得る強靱なエネルギー需給構造に転換していく必要がある。
このため、化石エネルギーへの過度な依存からの脱却を目指し、需要サイドにおける徹底した省エネルギー、製造業の燃料転換などを進めるとともに、供給サイドにおいては、足元の危機を乗り切るためにも再生可能エネルギー、原子力などエネルギー安全保障に寄与し、脱炭素効果の高い電源を最大限活用する。
また、電力需給ひっ迫を踏まえ、供給力の確保、電力ネットワークやシステムの整備などを図るとともに、脱炭素のエネルギー源を安定的に活用するためのサプライチェーン維持・強化、安全確保を大前提とした原子力の活用、厳正かつ効率的な審査を含む実効性ある原子力規制や、道路整備等による避難経路の確保等を含む原子力防災体制の構築を進めていく。
世界の資源・エネルギー情勢がより複雑かつ不透明となる中、資源の大部分を海外に依存する我が国においては、石油・天然ガス、金属鉱物資源の安定供給確保のため、国が前面に立って資源外交を行うほか、政府系機関を通じた支援強化の取組を進める。
加えて、アジア各国と連携したLNGの確保などアジア全体でのエネルギーの安定供給を図るとともに、同志国等との協調などを通じて重要鉱物の安定供給の確保に取り組む。
また、戦略的余剰LNGの構築やSS事業者の経営力強化やネットワーク維持等を通じて、燃料供給体制を強化する。 また、レアメタル権益の確実な確保に向けた支援措置など安定供給体制の強化や、メタンハイドレート、海底熱水鉱床、レアアース泥等の国産海洋資源の確保に取り組む。
(4)食料安全保障の強化と農林水産業の持続可能な成長の推進
世界的な食料争奪の激化等、食料安全保障上のリスクが高まる中、我が国の人口減少やカーボンニュートラル等に対応した持続可能で強固な食料供給基盤の確立に向け、「食料・農業・農村政策の新たな展開方向」を具体化するとともに、食料・農業・農村基本法について、本年度中の改正案の国会提出に向け、基本理念を含め見直しの検討を加速化させる。
食料安全保障の強化に向け、安定的な輸入と備蓄とを適切に組み合わせつつ、輸入依存度の高い食料・生産資材の国内生産力の拡大等の構造転換を推進するとともに、平時から食料安全保障の状況を評価し不測時に政府一体で食料の確保等を行う仕組み、関係省庁・自治体が連携した買い物弱者、フードバンク・こども食堂等国民への食料の提供を進めやすくする仕組み、食料について適正な価格転嫁を促進する仕組み等の検討を進める。
農林水産物・食品の輸出では、稼ぎを重視しつつ、2025年の輸出額2兆円目標の前倒しを目指すほか、みどりの食料システムの確立に向け、有機農業等の先進的な取組の後押し、食品事業者の育成及び生産者との連携の促進、消費者理解の醸成に資する「取組の見える 化」等を進める。
産学官連携による新技術開発と生産・流通等の方式の変革を促進する仕組みの検討やスマート農林水産業の実装加速化、担い手・サービス事業体等の育成・確保、担い手への農地の集積・集約化、農村活性化のための他産業との連携促進、中山間地域の農地の保全や粗放的利用等の対策、土地改良事業による水田の畑地化・汎用化や農地の大区画化、鳥獣対策、家畜疾病対策、農業者の経営安定等を進める。
再造林促進や林道等の生産基盤整備等を含む木材の安定供給体制構築、改正クリーンウッド法に基づく違法伐採対策、国産材への転換、CLT等の木材利用拡大等を進める。
着実な水産資源管理と操業形態の転換や加工流通構造の確立、養殖業の成長産業化、漁業者の経営安定、漁船等の生産基盤整備、改正漁港法に基づく海業の振興等を進める。
(5)対外経済連携の促進、企業の海外ビジネス投資促進
対外経済連携の促進
世界の成長と繁栄の基盤となる、自由で公正な経済圏の拡大やルールに基づく多角的貿易体制の維持・強化に取り組む。G7広島サミットを受け、新しい資本主義の重要性やこうした取組の国際連携の必要性に関する議論を主導する。
本年中に「SDGs実施指針」を改定し、誰一人取り残さない社会の実現を目指す。 CPTPPの高いレベルを維持しつつ、英国加入プロセスを主導し、また、RCEP協定の完全な履行確保を図るとともに、IPEF等において具体的な成果を目指す。
さらに、多角的貿易体制の中核を担うWTOの改革を主導する。また、TPP大綱に基づく施策を実施する。 アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想等の実現に向け、標準作り等に加え、日本の技術や制度を活用し、世界の脱炭素化に貢献する。
日本の技術を活用し、2040年までの追加的プラスチック汚染ゼロとの野心の達成に向けて多数国による条約の策定交渉等を主導する。
また、2030年までに生物多様性の損失を止めて反転させる目標に向け、本年度中の国会提出を視野に入れた自主的取組を認定する法制度の検討や、グリーンインフラ、G7ネイチャーポジティブ経済アライアンス等の取組を推進する。
グローバルヘルスの推進・課題解決に向け、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成を目指し、G7広島首脳宣言を踏まえた対応につき検討を進める。
また、ワンヘルス・アプローチを推進するとともに、薬剤耐性対策において、市場インセンティブによる治療薬の確保等の国内対策や国際連携・産学官連携による研究開発を推進する。
貿易手続を含むデジタル化、サプライチェーンの強靱化、質の高いインフラ、水循環・水防災、女性等の分野でも取組を進める。
上記の取組やスマートシティ等を始め、相手国ニーズに応じた案件形成支援の強化など、インフラシステム海外展開戦略に基づく施策を着実に進める。
国際市場の拡大を図るため、幅広い分野で国際標準戦略を推進する。途上国の債務問題に対処し、また、金融システムの強化に向けた国際的な議論に貢献する。
未来社会の実験場である2025年大阪・関西万博を始め、2027年国際園芸博覧会など、大規模国際大会等に向け着実な準備を進める。
企業の海外ビジネス投資促進
技術と意欲ある企業の海外展開を促進するため、投資関連協定やODA等の活用と併せて、海外ビジネス投資支援パッケージ等に基づき、必要な体制の強化やビジネスステージに応じた支援メニューの強化・周知を図る。
加えて、G7広島サミットの成果も踏まえ、「ウクライナ経済復興推進準備会議」での検討を早急に進めつつ、戦況等の現地情勢、ウクライナの復興計画、現地邦人の安全確保や法の支配の重要性に留意しながら、G7及び国際機関との国際連携の推進の下、関係政府機関の活用強化、資金支援や汚職対策等により、政府の積極的なイニシアティブでビジネス環境整備を行うことでウクライナの経済復興を支える。
そうした中で、日本企業による技術を活用した貢献を図りつつ、投資を促進し、柔軟で大胆な「日本ならでは」の復興支援を行う。
また、企業のサプライチェーンや政府の実施する調達において、人権尊重の取組を行う。
2.防災・減災、国土強靱化、東日本大震災等からの復興
防災・減災、国土強靱化
激甚化・頻発化する自然災害、インフラ老朽化等の国家の危機から国民の生命・財産・暮らしを守り、国家・社会の重要な機能を維持するため、「国土強靱化基本計画」に基づき、現下の資材価格の高騰等も踏まえ、必要・十分な予算を確保し、自助・共助・公助を適切に組み合わせ、女性・こども等の視点も踏まえ、ハード・ソフト一体となった取組を強力に推進する。
5か年加速化対策等の取組を推進し、災害に屈しない国土づくりを進める。 これまでの着実な取組によって大規模な被害が抑制されているところ、中長期的かつ明確な見通しの下、継続的・安定的に国土強靱化の取組を進めていくことが重要であり、5か年加速化対策後の国土強靱化の着実な推進に向け、改正法に基づき、必要な検討を行う。
今夏を目途に策定する新たな「国土強靱化基本計画」について、デジタル田園都市国家構想や新たな「国土形成計画」と一体として取組を一層強化する。
将来の気候変動の影響を踏まえた流域治水、インフラ老朽化対策の加速化、TEC-FORCE等の防災体制・機能の拡充・強化等の「国民の生命と財産を守る防災インフラの整備・管理」、ミッシングリンクの解消等による災害に強い交通ネットワークの構築等の「経済発展の基盤となる交通・通信・エネルギーなどライフラインの強靱化」、サプライチェーンの強靱化や、船舶活用医療の推進、医療コンテナの活用等による医療の継続性確保等の「災害時における事業継続性確保をはじめとした官民連携強化」に加え、次期静止気象衛星等の活用による防災気象情報等の高度化や消防防災分野のDX、防災デジタルプラットフォームの構築、住民支援のためのアプリ開発促進等の防災DX、防災科学技術の推進による「デジタル等新技術の活用による国土強靱化施策の高度化」、災害ケースマネジメントの促進、災害中間支援組織を含む被災者支援の担い手確保・育成、地域の貴重な文化財を守る防災対策、気象防災アドバイザーや地域防災マネージャーの全国拡充によるタイムライン防災の充実強化、消防団への幅広い住民の入団促進等による消防防災力の拡充・強化等、多様性・公平性・包摂性を意識した「地域における防災力の一層の強化」を新たな施策の柱とし、国土強靱化にデジタルと地域力を最大限いかす。
火山災害対策を一層強化するため、改正法に基づき、火山調査研究推進本部の体制整備、専門的な知識や技術を有する人材の育成と継続的な確保等を行う。
東日本大震災等からの復興
東北の復興なくして、日本の再生なし。復興庁を司令塔に、基本方針等に基づき、被災地の復興・再生に全力を尽くす。地震・津波被災地域では、被災者の心のケアなど残された課題に取り組む。
原子力災害被災地域の復興・再生には中長期的な対応が必要であり、今後も国が前面に立って取り組む。東京電力福島第一原発の廃炉及び環境再生を安全かつ着実に進める。
ALPS処理水の海洋放出について、安全性の確保と風評影響への対応に万全を期す。住民の帰還促進と併せ、移住・定住の促進を図る。
たとえ長い年月を要するとしても、将来的に帰還困難区域の全てを避難指示解除し、復興・再生に責任を持って取り組むとの決意の下、特定復興再生拠点区域の生活環境の整備等を進めるとともに、拠点区域外については、改正福島復興再生特別措置法に基づく「特定帰還居住区域」の設定等により、帰還意向のある住民の帰還を実現していく。
福島イノベーション・コースト構想の更なる発展に向け、創業支援や実証フィールドの整備、福島新エネ社会構想の実現に向けた取組や「創造的復興の中核拠点」となる福島国際研究教育機構の体制整備等を進める。
あわせて、高専等を通じた地元人材育成、映画など文化芸術を通じた街づくりを推進する。また、災害からの復旧・復興に全力を尽くす。
3.国民生活の安全・安心
良好な治安確保のため、関係府省庁間で連携し、テロの未然防止、インテリジェンス機能の強化を含むサイバーセキュリティ対策、有事に備えた国民保護施策、マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策等を推進する。
高齢運転者等の事故防止や自動車事故による被害者の支援、海上保安庁の救助・救急体制の強化、関係省庁や関係事業者と連携した特殊詐欺等への対策に向けた取組を推進する。
「第二次再犯防止推進計画」に基づく施策の推進、国内外の予防司法支援機能や総合法律支援の充実・強化、司法分野・司法試験のデジタル化の推進、インターネット上の人権侵害への対策の強化、法曹人材の確保及び法教育の推進などの安全・安心な社会を支える人的・物的基盤の整備を図るとともに、基本計画及び「犯罪被害者等施策の一層の推進について」に基づき、犯罪被害者等施策を強化する。
また、性犯罪・性暴力対策に取り組む。さらに、G7・ASEAN等と連携しつつ、司法外交を外交一元化の下で推進し、法制度整備支援、国際仲裁の活性化及び国際法務人材の育成等に取り組む。
基準行政の機能強化、悪質商法被害防止のための消費者教育、食品表示基準の国際基準への整合化を推進するとともに、食品ロス削減目標達成に向けた施策パッケージを年末までに策定する。
花粉症という社会問題の解決に向けて、「花粉症対策の全体像」に基づき、約30年後の花粉発生量の半減を目指した発生源対策、飛散対策、発症・曝露対策等に政府一体となって取り組む。
改正法に基づき、熱中症特別警戒情報の活用や指定暑熱避難施設の指定の働き掛けなど、熱中症対策を強化する。
新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類に変更されたことに伴い、医療体制、公費支援など様々な政策・措置の段階的な移行を進めるとともに、基本的な感染対策を推進しつつ、重層的な流行状況の把握体制を確保するなど、必要な対策等を講じていく。
また、罹患後症状(いわゆる後遺症)やワクチンの副反応についての実態把握に資する調査・研究等を進める。 次なる感染症危機への対応に万全を期すため、内閣感染症危機管理統括庁を今秋に設置し、感染症危機管理の司令塔機能を強化するとともに、これまでの新型コロナウイルス感染症への対応の検証を踏まえて政府行動計画を見直す。
国立健康危機管理研究機構を2025年度以降に創設し、質の高い科学的知見を迅速に提供する。また、医療措置協定締結の推進、保健所や地方衛生研究所等の体制強化、臨床研究の基盤整備、人材育成や災害派遣医療チーム(DMAT)の対応力強化等に取り組む。
第4章 中長期の経済財政運営
1.中長期の視点に立った持続可能な経済財政運営
基本的考え方
これまで述べたとおり、我が国を取り巻く環境が激変する中、多様な社会課題に対応する財源を確保しながら、持続可能な経済財政運営を行っていく。
コロナ禍を脱し、経済が正常化し、「成長と分配の好循環」を拡大していく中で、賃金や調達価格の上昇を適切に考慮しつつ、歳出構造を平時に戻していくとともに、緊急時の財政支出を必要以上に長期化・恒常化させないよう取り組む。
経済再生と財政健全化の両立を図るため、財政政策は主として潜在成長率の引上げと社会課題の解決に重点を置き、中長期的な視点を重視した経済財政運営に取り組む。
5~10年の中長期的視点に立って、民間の予見可能性を確保し、民需を引き出し、社会課題を解決する中長期の計画的な投資を推進する政策運営を行うとともに、それを担保するワイズスペンディングを徹底する。
その際、予算の単年度主義の弊害是正に取り組む。税制の将来にわたる効果を見据えた動的思考を活用する。また、構造変化を促すインセンティブ・仕組みの構築や公的部門の産業化、見える化を図るとともに、個々の予算を効果的・効率的なものとし、成果の検証の強化を進める。
加えて、デジタル社会に対応した次世代型行政サービスへの改革の実現に向けて、経済波及効果や質・効率の高い行財政改革を徹底する。
財政健全化の「旗」を下ろさず、これまでの財政健全化目標に取り組む。経済あっての財政であり、現行の目標年度により、状況に応じたマクロ経済政策の選択肢が歪められてはならない。
必要な政策対応と財政健全化目標に取り組むことは決して矛盾するものではない。経済をしっかり立て直し、そして財政健全化に向けて取り組んでいく。
ただし、最近の物価高の影響を始め、内外の経済情勢等を常に注視していく必要がある。このため、状況に応じ必要な検証を行っていく。
こうした取組を通じ、今後、高齢化、人口減少が進む中においても、経済・財政・社会保障が一体で持続可能なものとしていく。
中期的な経済財政の枠組みの検討等
経済成長率の目標、財政健全化目標等の新経済・財政再生計画等で定めた経済財政の枠組みに沿って、経済と財政の相互の関係性を十分考慮し、経済再生と財政健全化の同時達成を目指す経済・財政一体改革に取り組む。
多年度にわたる計画的な投資については財源も一体的に検討し歳出と歳入を多年度でバランスさせるとともに、経常的歳出について毎年の税収等で着実に賄われる構造の実現に向けた取組を進める。
また、中期的な経済財政の枠組みの策定に向け、経済・財政一体改革の進捗について2024年度に点検・検証を実施するとともに、デジタル時代の行財政改革を見据え、「成長と分配の好循環の実現」の進捗を示す指標の在り方、好循環実現に向けた民間投資喚起の仕組み、経済再生と財政健全化の両立の枠組みなどについて検討を進める。
厳しい財政状況の中、多年度にわたる重要政策課題に取り組むための財源を確保するため、現行制度の効率性を最大限高める。
特に、コロナ関係予算で積み上がった基金や政府資産については、資金の有効活用、計画的な使用見通しの精査、余剰金の国庫返納、EBPMの徹底を進める。
原則として、多年度にわたる計画的な投資、一定規模以上の基金について、財源の一体的検討、政策効果の発現見通しや財源調達の経済への影響等の明確化を図る。
中長期の経済財政の展望とその評価・分析の充実
中期的な経済財政枠組みの検討に当たり、経済シナリオの位置付けや政策効果の発現の仕方など中長期の経済財政の展望の分析を拡充するとともに、将来の不確実性を考慮した、リスクの評価、感応度分析の充実など、対外発信する情報を拡充する。
また、「成長 と分配の好循環」の実現状況を各種指標から検証する。こうした取組について、経済財政諮問会議において、半年ごとの中長期試算公表時における随時の検証及び概ね3年を目途とする包括的な検証を行うことを通じ、短期・中期のそれぞれの視点から、政策手法の改善・強化、必要となる政策対応等に結び付ける。
効果的・効率的な支出の推進とEBPMの徹底強化
持続的な経済成長を実現するためには、全体最適を目指した資源配分が重要であり、歳出全体を通じた優先順位の明確化や、成果指向の支出の徹底が必要である。
このため、EBPMの取組の徹底強化に当たっては、あらゆる予算事項について、事後的な検証が可能な形で事前にKPIの設定と政策効果を検証するためのエビデンス・成果の提出を求め、政策の優先順位の見える化を進める。
特に、本年度の予算編成過程からEBPMを導入した行政事業レビューシートを積極的に活用することで、全ての予算事業に共通して基礎的なEBPMを導入する。
また、エビデンスによって効果が裏付けられた政策やエビデンスを構築するためのデータ収集・整備等の拡充を図る。 EBPMの裾野の拡大が図られる中、その成果も踏まえ、経済・財政一体改革のこれまでの取組を通じて十分に進捗していない重要課題に関する評価・分析を進めるとともに、予算規模・政策体系等を踏まえてメリハリのあるPDCAを実行し、本年末に新経済・財政再生計画改革工程表を改定する。
その改定に当たっては、防衛、GX、こども政策を始め、新たな拡充を要する課題について、効果的・効率的な支出の徹底を図るべくエビデンスに基づくPDCAを早急に構築する。加えて、政府の各種の基本計画等におけるKPIへのWell-being指標の導入を加速するとともに、こどもに着目した指標の在り方について検討する。
さらに、地方自治体におけるWell-being指標の活用を促進する。 予算の単年度主義の弊害是正に向け、重要な政策課題に多年度にわたって取り組む基金について、EBPMの手法を前提としたPDCAの取組の推進や、基金シートの活用を通じて、基金の特性をいかしつつ、効果的・効率的な支出の徹底や民間の予見可能性の向上、官民連携の推進、事業の効果の見える化・最大化、事業の終了予定時期の設定等を図る。
これらの取組を含め、2024年度に実施する経済・財政一体改革の進捗に関する点検・検証に向けて、評価・分析の強化・拡充を図る。 公的統計のDXを進め、品質向上と調査票情報の二次的利用の迅速化を行う。また、行政保有データの利活用の在り方に関する検討を進める。
税制改革
経済成長と財政健全化の両立を図るとともに、少子高齢化、グローバル化等の経済社会の構造変化に対応したあるべき税制の具体化に向け、包括的な検討を進める。
骨太方針2022等も踏まえ、応能負担を通じた再分配機能の向上・格差の固定化防止を図りつつ、公平かつ多様な働き方等に中立的で、デジタル社会にふさわしい税制を構築し、経済成長を阻害しない安定的な税収基盤を確保するため、税体系全般の見直しを推進する。
納税環境の整備と適正・公平な課税の実現の観点から制度及び執行体制の両面からの取組を強化するとともに、新たな国際課税ルールへの対応を進める。
2.持続可能な社会保障制度の構築
日本が本格的な「少子高齢化・人口減少時代」を迎える歴史的転換期において、今後の人口動態の変化や経済社会の変容を見据えつつ、目指すべき将来の方向として、「少子化・人口減少」の流れを変えるとともに、分厚い中間層を形成し、これからも続く「超高齢社会」に備えて持続可能な社会保障制度を構築する必要がある。
第2章3「少子化対策・こども政策の抜本強化」に基づく対策を着実に推進し、現役世代の消費活性化による成長と分配の好循環を実現していくためには、医療・介護等の不断の改革により、ワイズスペンディングを徹底し、保険料負担の上昇を抑制することが極めて重要である。
このため、全ての世代で能力に応じて負担し支え合い、必要な社会保障サービスが必要な方に適切に提供される全世代型社会保障の実現に向けて、改革の工程の具体化を進めていく。
また、これらに基づいて、最新の将来推計人口や働き方の変化等を踏まえた上で、給付・負担の新たな将来見通しを示すものとする。
社会保障分野における経済・財政一体改革の強化・推進
医療・介護サービスの提供体制については、今後の高齢者人口の更なる増加と人口減少に対応し、限りある資源を有効に活用しながら質の高い医療介護サービスを必要に応じて受けることのできる体制を確保する観点から、医療の機能分化と連携の更なる推進、医療・介護人材の確保・育成、働き方改革、医療・介護ニーズの変化やデジタル技術の著しい進展に対応した改革を早期に進める必要がある。
このため、1人当たり医療費の地域差半減に向けて、都道府県が地域の実情に応じて地域差がある医療への対応などの医療費適正化に取り組み、引き続き都道府県の責務の明確化等に関し必要な法制上の措置を含め地域医療構想を推進するとともに、都道府県のガバナンス強化、かかりつけ医機能が発揮される制度整備の実効性を伴う着実な推進、地域医療連携推進法人制度の有効活用、地域で安全に分娩できる周産期医療の確保、ドクターヘリの推進、救急医療体制の確保、訪問看護の推進、医療法人等の経営情報に関する全国的なデータベースの構築を図る。
実効性のある医師偏在対策、医療専門職のタスク・シフト/シェア、薬局薬剤師の対人業務の充実、対物業務の効率化、地域における他職種の連携等を推進する。その中で、医師が不足する地域への大学病院からの医師の派遣の継続を推進する。
また、関係者・関係機関の更なる対応により、リフィル処方の活用を進める。 医療DX推進本部において策定した工程表に基づき、医療DXの推進に向けた取組について必要な支援を行いつつ政府を挙げて確実に実現する。
マイナンバーカードによるオンライン資格確認の用途拡大や正確なデータ登録の取組を進め、2024年秋に健康保険証を廃止する。
レセプト・特定健診情報等に加え、介護保険、母子保健、予防接種、電子処方箋、電子カルテ等の医療介護全般にわたる情報を共有・交換できる「全国医療情報プラットフォーム」の創設及び電子カルテ情報の標準化等を進めるとともに、PHRとして本人が検査結果等を確認し、自らの健康づくりに活用できる仕組みを整備する。
その他、新しい医療技術の開発や創薬のための医療情報の二次利活用、「診療報酬改定DX」による医療機関等の間接コスト等の軽減を進める。
その際、医療DXに関連するシステム開発・運用主体の体制整備、電子処方箋の全国的な普及拡大に向けた環境整備、標準型電子カルテの整備、医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策等を着実に実施する。
健康寿命を延伸し、高齢者の労働参加を拡大するためにも、健康づくり・予防・重症化予防を強化し、デジタル技術を活用したヘルスケアイノベーションの推進やデジタルヘルスを含めた医療分野のスタートアップへの伴走支援などの環境整備に取り組むとともに、第3期データヘルス計画を見据え、エビデンスに基づく保健事業を推進する。
リハビリテーション、栄養管理及び口腔管理の連携・推進を図る。全身の健康と口腔の健康に関する科学的根拠の集積・活用と国民への適切な情報提供、生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)に向けた取組の推進、オーラルフレイル対策・疾病の重症化予防につながる歯科専門職による口腔健康管理の充実、歯科医療機関・医科歯科連携を始めとする関係職種間・関係機関間の連携、歯科衛生士・歯科技工士等の人材確保の必要性を踏まえた対応、歯科技工を含む歯科領域におけるICTの活用を推進し、歯科保健医療提供体制の構築と強化に取り組む。
また、市場価格に左右されない歯科用材料の導入を推進する。計画に基づき、がんの早期発見・早期治療のためのリスクに応じたがん検診の実施や適切な時機でのがん遺伝子パネル検査の実施、小児がん等に係る治療薬へのアクセス改善などのがん対策及び循環器病対策を推進する。
また、難聴対策、難病対策、移植医療対策、慢性腎臓病対策、アレルギー疾患対策、メンタルヘルス対策、栄養対策等を着実に推進する。
創薬力強化に向けて、革新的な医薬品、医療機器、再生医療等製品の開発強化、研究開発型のビジネスモデルへの転換促進等を行うため、保険収載時を始めとするイノベーションの適切な評価などの更なる薬価上の措置、全ゲノム解析等に係る計画の推進を通じた情報基盤の整備や患者への還元等の解析結果の利活用に係る体制整備、大学発を含むスタートアップへの伴走支援、臨床開発・薬事規制調和に向けたアジア拠点の強化、国際共同治験に参加するための日本人データの要否の整理、小児用・希少疾病用等の未承認薬の解消に向けた薬事上の措置と承認審査体制の強化等を推進する。
これらにより、ドラッグラグ・ドラッグロスの問題に対応する。さらに、新規モダリティへの投資や国際展開を推 進するため、政府全体の司令塔機能の下で、総合的な戦略を作成する。
医療保険財政の中で、こうしたイノベーションを推進するため、長期収載品等の自己負担の在り方の見直し、検討を進める。
大麻に関する制度を見直し、大麻由来医薬品の利用等に向けた必要な環境整備を行うほか、OTC医薬品・OTC検査薬の拡大に向けた検討等によるセルフメディケーションの推進、バイオシミラーの使用促進等、医療上の必要性を踏まえた後発医薬品を始めとする医薬品の安定供給確保、後発医薬品の産業構造の見直し、プログラム医療機器の実用化促進に向けた承認審査体制の強化を図る。
また、総合的な認知症施策を進める中で、認知症治療の研究開発を推進する。献血への理解を深めるとともに、血液製剤の国内自給、安定的な確保及び適正な使用の推進を図る。
急速な高齢化が見込まれる中で、医療機関の連携、介護サービス事業者の介護ロボット・ICT機器導入や協働化・大規模化、保有資産の状況なども踏まえた経営状況の見える化を推進した上で、賃上げや業務負担軽減が適切に図られるよう取り組む。
介護保険料の上昇を抑えるため、利用者負担の一定以上所得の範囲の取扱いなどについて検討を行い、年末までに結論を得る。
介護保険外サービスの利用促進に係る環境整備を図る。 医療介護分野における職業紹介について、関係機関が連携して、公的な職業紹介の機能の強化に取り組むとともに、有料職業紹介事業の適正化に向けた指導監督や事例の周知を行う。
次期診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬の同時改定においては、物価高騰・賃金上昇、経営の状況、支え手が減少する中での人材確保の必要性、患者・利用者負担・保険料負担への影響を踏まえ、患者・利用者が必要なサービスが受けられるよう、必要な対応を行う。
その際、第5章2における「令和6年度予算編成に向けた考え方」を踏まえつつ、持続可能な社会保障制度の構築に向けて、当面直面する地域包括ケアシステムの更なる推進のための医療・介護・障害サービスの連携等の課題とともに、以上に掲げた医療・介護分野の課題について効果的・効率的に対応する観点から検討を行う。
勤労者皆保険の実現、年齢や性別にかかわらず働き方に中立的な社会保障制度の構築に向け、企業規模要件の撤廃など短時間労働者への被用者保険の適用拡大、常時5人以上を使用する個人事業所の非適用業種の解消等について次期年金制度改正に向けて検討するほか、いわゆる「年収の壁」について、当面の対応として被用者が新たに106万円の壁を超えても手取りの逆転を生じさせない取組の支援などを本年中に決定した上で実行し、さらに、 制度の見直しに取り組む。
3.生産性を高め経済社会を支える社会資本整備
中小建設企業等におけるICT施工やBIM/CIMの普及拡大等によるiConstructionの推進、ドローン・センサネットワーク等による管理の高度化、国土交通データプラットフォーム等によるインフラデータのオープン化・連携拡充、行政手続のオンライン化の徹底等により、生産性を高めるインフラDXを加速する。
広域的・戦略的なインフラマネジメントの実施、新技術・デジタルの活用促進等により、予防保全型メンテナンスへの本格転換や高度化・効率化、公的ストック適正化を推進する。各地域において広域的・戦略的なインフラマネジメントの取組が進むよう、具体的な手法の検討を進める。
既存の国有財産についても有効に活用する。また、受益者負担や適切な維持管理の観点から、財源対策等について検討を行う。我が国の重要かつ基幹的な道路である高速道路について、改正法等により更新事業等を確実に実施する。
空き家対策について、災害対策上の重要性も踏まえ、改正法等により、空き家の発生抑制や利活用、適切な管理、除却等の総合的な取組を進める。基本方針等に基づき、地籍調査や法務局地図作成等を含む所有者不明土地等対策を進めるとともに、空き家対策と所有者不明土地等対策を一体的・総合的に推進する。
また、マンションの長寿命化と再生の円滑化を推進する。 健全な水循環の維持・回復により、安定的な水供給の確保を図る。
あわせて、水道整備・管理行政について、改正法に基づき、上下水道一体で取り組む体制を構築し、機能強化を図るなど、総合的な水行政を推進する。
国内投資の拡大、生産性向上、災害対応力の強化等に資するよう、費用便益分析の客観性・透明性の向上を図りつつ、ストック効果の高い事業への重点化を図る。
公共事業の効率化等を図るとともに、民間事業者が安心して設備投資や人材育成を行うことができるよう、中長期的な見通しの下、安定的・持続的な公共投資を推進しつつ、戦略的・計画的な取組を進める。
その際、現下の資材価格の高騰の状況等を注視しながら適切な価格転嫁が進むよう促した上で今後も必要な事業量を確保しつつ、実効性のあるPDCAサイクルを回しながら、社会資本整備を着実に進める。
持続可能な建設業の実現に向け、建設資材価格の変動への対応、建設キャリアアップシステムも活用した処遇改善、現場技能者への賃金支払の適正化、建設工事における安全管理の徹底等により、建設産業の賃上げ及び担い手の確保・育成を図る。
公共サービスを効率的かつ効果的に提供するPPP/PFIについて、改定アクションプランに基づき、各重点分野における事業件数目標の達成と上積みを視野に、取組を推進する。
空港、スタジアム・アリーナ、文化施設等の重点分野への公共施設等運営事業等の事業化支援を継続しつつ、GXに貢献する再生可能エネルギー分野を始めとする新領域の開拓と案件形成を図る。上下水道の所管の一元化を見据えたウォーターPPPや、スモールコンセッション、LABV等のスキームを確立し、導入拡大を図る。
地域社会・経済に貢献するローカルPFIの確立と普及に向け、PFI推進機構の機能も活用しつつ、地域プラットフォームの拡充に取り組む。
4.国と地方の新たな役割分担等
社会全体におけるDXの進展及び感染症対応で直面した課題等を踏まえ、ポストコロナの経済社会に的確に対応する観点から、必要な地方制度の在り方について、法整備を視野に入れつつ検討を進める。
具体的には、地方制度調査会の調査審議を通じて、国・地方間、東京圏等の大都市圏を含む地方自治体間の役割分担を明確化し、連携・協力の実効性を高めるための対応について、検討を行う。
国・地方を通じた効率的・効果的な計画行政を推進するため、各府省は、地方に係る制度の検討に当たっては、まず、計画以外の形式を検討する。
その上で、計画によらざるを得ないと考える場合には、あらかじめ地方六団体に説明を行い、理解を得るよう努めることとする。既存計画については、統廃合や事務負担の軽減を行うとともに、毎年、見直しの進捗状況を公表する。
内閣府は、各府省の六団体への説明に先立ち、各府省からの事前相談に応じ必要な支援を行う。進捗状況や新たに生じる課題を踏まえ、各府省に必要な対応を促す。
新型コロナウイルス感染症の感染症法における位置付けの変更を踏まえて、地方財政の歳出構造について平時に戻す。感染症対応として実施された地方創生臨時交付金について、内容の見える化を徹底の上、その効果・効率性についての検証作業を将来の危機対応にいかすことも見据えて行う。
また、東京一極集中が続く中、行政サービスの地域間格差が過度に生じないよう、地方自治体間の税収の偏在状況や財政力格差の調整状況等を踏まえつつ、税源の偏在性が小さく税収が安定的な地方税体系の構築に向けて取り組む。
デジタル技術の活用等による地方自治体の業務効率化や、公営企業の経営戦略改定の更なる推進など、改革工程表に沿って地方行財政改革に着実に取り組む。
5.経済社会の活力を支える教育・研究活動の推進
質の高い公教育の再生等
持続可能な社会づくりを見据え、多様なこどもたちの特性や少子化の急速な進展など地域の実情等を踏まえ、誰一人取り残されず、可能性を最大限に引き出す学びを通じ、個人と社会全体のWell-beingの向上を目指す。
このため、こどもを安心して任せることができるよう、教育DXにおけるリアルとデジタルの最適な組合せの観点も踏まえ、「教育振興基本計画」等に基づき、客観的な根拠を重視したPDCAサイクルを推進しつつ、主体的に調整できる個別最適な学びと協働的な学びの実現を始め、世界に冠たる令和型の質の高い公教育の再生に向けて、教育の質の向上に総合的に取り組む。
教職の魅力向上等を通じ、志ある優れた教師の発掘・確保に全力で取り組む。教師が安心して本務に集中し、志気高く誇りを持ってこどもに向き合うことができるよう、教員勤務実態調査の結果等を踏まえ、働き方改革の更なる加速化、処遇改善、指導・運営体制の充実、育成支援を一体的に進める。
教師の時間外在校等時間の上限を定めている指針の実効性向上に向けた具体的検討、コミュニティ・スクール等も活用した社会全体の理解の醸成や慣習にとらわれない廃止等を含む学校・教師が担う業務の適正化等を推進する。
我が国の未来を拓くこどもたちを育てるという崇高な使命と高度な専門性・裁量性を有する専門職である教職の特殊性や人材確保法の趣旨、喫緊の課題である教師不足解消の必要性等を踏まえ、真に頑張っている教師が報われるよう、教職調整額の水準や新たな手当の創設を含めた各種手当の見直しなど、職務の負荷に応じたメリハリある給与体系の改善を行うなど、給特法等の法制的な枠組みを含め、具体的な制度設計の検討を進め、教師の処遇を抜本的に見直す。
35人学級等についての小学校における多面的な効果検証等を踏まえつつ、中学校を含め、学校の望ましい教育環境や指導体制を構築していく。これらの一連の施策を安定的な財源を確保しつつ、2024年度から3年間を集中改革期間とし、スピード感を持って、2024年度から小学校高学年の教科担任制の強化や教員業務支援員の小・中学校への配置拡大を速やかに進めるとともに、2024年度中の給特法改正案の国会提出を検討するなど、少子化が進展する中で、複雑化・多様化する課題に適切に対応するため、計画的・段階的に進める。
GIGAスクール構想について、次のフェーズに向けて周辺環境整備を含め、ICTの利活用を日常化させ、人と人の触れ合いの重要性や発達段階、個人情報保護や健康管理等に留意しながら、誰一人取り残されない教育の一層の推進や情報活用能力の育成など学びの変革、校務改善につなげるため、運営支援センターの全国的な設置促進・機能強化等徹底的な伴走支援の強化により、家庭環境や利活用状況・指導力の格差解消、好事例の創出・展開を本格的に進める。
各地方公共団体による維持・更新に係る持続的な利活用計画の状況を検証しつつ、国策として推進するGIGAスクール構想の1人1台端末について、公教育の必須ツールとして、更新を着実に進める。 安心して柔軟に学べる多様な学びの場の環境整備を強化する。
非認知能力の育成に向け、幼児期及び幼保小接続期の教育・保育の質的向上、豊かな感性や創造性を育む文化芸術、スポーツ、自然等の体験活動や読書活動を推進する。
栄養教諭を中核とした食育を推進する。地域を始め社会の多様な専門性を有する大人や関係機関が協働してきめ細かく教育に関わるチーム学校との考え方の下、地域と連携したコミュニティ・スクールの導入を加速するとともに、ICTも効果的に活用し、NPO等とも連携した不登校対策や重大ないじめ・自殺への対応、特異な才能への対応やインクルーシブな学校運営モデルの構築など特別支援教育の充実等を図る。
その際、不登校特例校や学校内外の教育支援センター、夜間中学の全国的な設置促進・機能強化、養護教諭の支援体制の推進、SC・SSW等の配置促進、こうした専門家や警察にいつでも相談できる環境の整備や福祉との連携を含む組織的な早期対応等300を図る。
産業界と連携したキャリア教育・職業教育の推進、体力や視力低下の歯止めをかける対策の強化、部活動の地域連携や地域クラブ活動への移行、在外教育施設の機能強化を含め、新しい時代の学びの実現に向けた環境を整備しつつ、セーフティプロモーションスクールの考え方を取り入れた学校安全を推進する。
家庭の経済事情にかかわらず、誰もが学ぶことができるよう、安定的な財源を確保しつつ、高等教育費の負担軽減を着実に進める。2024年度から、授業料等減免及び給付型奨学金の多子世帯や理工農系の学生等の中間層への拡大、大学院修士段階における授業料後払い制度の創設及び本格導入に向けた更なる検討、貸与型奨学金における減額返還制度の年収要件等の柔軟化による拡充を図るとともに、多子世帯の学生等に対する授業料等減免について、執行状況や財源等を踏まえつつ、更なる支援拡充を検討し、必要な措置を講ずる。
地方自治体や企業による奨学金返還支援など多様な学生支援の取組の促進、初等中等教育段階も含めた関係者への周知等を図る。
研究の質を高める仕組みの構築等
官民連携による持続可能な経済社会の実現に向け、「第6期科学技術・イノベーション基本計画」及び分野別戦略等を着実に実行する。破壊的イノベーションの創出に向け、林立・複雑化した研究資金を不断に見直しつつ、基礎研究や、初期の失敗を許容し長期に成果を求める研究開発助成制度を、ステージゲート等の評価を着実に行いながら、更に充実・推進する。
教育・研究・ガバナンスの一体的改革を推進し、改革インセンティブとなる大学へのメリハリある重点配分と不断の検証や大学運営業務の合理化等を通じ、若手研究者やテニュアトラックの増加等につなげる。研究の質や生産性の向上を目指し、国際性向上や人材の円滑な移動の促進、大型研究施設の官民共同の仕組み等による戦略的な整備・活用・高度化の推進、情報インフラの活用を含む研究DXの推進、大学病院の教育・研究・診療機能の質の担保を含む勤務する医師の働き方改革の推進等を図る。
研究開発成果の社会実装と国際市場獲得のため、標準活用戦略を加速する。 日本学術会議の見直しについては、これまでの経緯を踏まえ、国から独立した法人とする案等を俎上(そじょう)に載せて議論し、早期に結論を得る。
第5章 当面の経済財政運営と令和6年度予算編成に向けた考え方
1.当面の経済財政運営について
我が国経済は、コロナ禍から経済社会活動の正常化が進み、緩やかに回復している。一方で、世界的な物価高騰とそれに対応する各国金融引締めによる海外景気の下振れリスク、金融資本市場の変動が我が国経済に与える影響に十分注意する必要がある。
こうした経済環境の下、当面の経済財政運営については、足下の物価高や世界経済の減速等による我が国経済の下振れリスクに万全の対応を図りつつ、持続的な成長と分配の好循環の実現に向けて、国内投資の拡大や研究開発の促進による生産性の向上とともに、価格転嫁を通じたマークアップ率の確保による賃上げを車の両輪として一体的に進める。
このため、「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」及びそれを具体化する令和4年度第2次補正予算、「物価・賃金・生活総合対策本部」で取りまとめたエネルギー・食料品等に関する追加策、並びに令和5年度予算の迅速かつ着実な執行に全力を尽くしつつ、物価や経済の動向を踏まえ、今後も機動的に対応していく。
あわせて、人への投資の抜本強化、労働移動の円滑化、労務費も含めた価格転嫁対策の強化等により「構造的賃上げ」の実現に取り組むとともに、本基本方針で示した重点分野への官民連携投資を 実行することにより、潜在成長率の引上げを図る。
2.令和6年度予算編成に向けた考え方
① 前述の情勢認識を踏まえ、持続可能な成長の実現に向けた経済構造の強化を進め、日本経済を本格的な経済回復、そして新たな経済成長の軌道に乗せていく。
② 令和6年度予算において、本方針、骨太方針2022及び骨太方針2021に基づき、経済・財政一体改革を着実に推進する。 ただし、重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない。
③ 構造的賃上げの実現、官民連携による投資の拡大、少子化対策・こども政策の抜本強化を含めた新しい資本主義の加速や防衛力の抜本的強化を始めとした我が国を取り巻く環境変化への対応など、重要政策課題に必要な予算措置を講ずること等により、メリハリの効いた予算編成とする。
④ 新たな拡充を要する政策課題を含め、PDCAやEBPMの取組を推進し、効果的・効率的な支出(ワイズスペンディング)を徹底する。単年度主義の弊害是正に取り組み、事業の性質に応じた基金の活用・事業効果の見える化、経済・財政一体改革における重点課題への対応など中長期の視点に立った持続可能な経済財政運営や社会保障制度の構築等を進める。
経済財政運営と改革の基本方針2023
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2023/decision0616.html