月額制のサブスクリプションサービスなどSaas型のビジネスモデルにおいて、重要な指標となるのが「チャーンレート=解約率」です。
毎月決まった収益を得られるサブスクリプションサービスはスタートアップにおいても増えており、今後はよりチャーンレートの重要度、注目度は高まっていくものと考えられます。チャーンレートの悪化はそのまま収益性の悪化に直結するため、チャーンレートの把握、分析、改善ができることが事業成長の拡大に繋がります。
この記事では、チャーンレートの基礎知識から計算方法、改善のヒントなどを解説します。
チャーンレート(Churn Rate)とは
チャーンレートは「解約率」を意味しており、特定の期間中に自社サービスの解約したユーザーの割合を表しています。
例えば、年間解約率が20%の場合、平均顧客寿命は5年と見ることができます。そのため解約率の改善は平均顧客寿命を伸ばすことに繋がり、顧客生涯価値(LTV)にも影響を及ぼします。
Saas型ビジネスモデルのほとんどの場合、解約は顧客のサービス不満から来ることが多いため、分析や改善が必須です。解約がネガティブにならないケースとして、例えばダイエットの定額サービス(ダイエットの目標に到達したため解約というポジティブな理由)、婚活やデートのマッチングプラットフォーム(成婚やカップル成立による解約)は、解約の一方で顧客満足向上に繋がっていると判断できるため一概に解約となってもマイナスにならないケースもあります。
チャーンレートと合わせて知りたいのはMRRです。月次経常利益の略でスタートアップの場合、企業の成長性などを見る際に利用されるので知っておいて損はありません。
チャーンレート(解約率)が悪化する4つの要因とは
サービスや内容によって解約率悪化の要因はさまざまですが、ここでは4つの要因で分析していきます。
①サービスそのものへの不満
ユーザーはニーズ(需要)があってサービスを利用します。需要に対する供給がされていないサービスを継続的に利用することはないため、そもそものサービスの質が悪いなどの場合はチャーンレートが悪化していくことになります。
②カスタマーサクセスへの不満
サービスそのものは良いが低質なサポートや利用を促すことができていないなどのパターンです。「導入をしたものの、うまく活用ができなかった」は特にBtoBのSaas型サービスではあるあるのケースで、導入後にほったらかしにしてしまっているサービスなどもあるのではないでしょうか。こういったケースを生み出さないようにするのがカスタマーサクセス(CS)で、うまく機能していないとチャーンレートの悪化に繋がります。
③市場ニーズの変化
ユーザーのニーズそのものが変化することによりチャーンレートが悪化するケースです。例えば最近では、紙の書類を保存するサービス需要が低くなり、電子化で保存するニーズが高まるため、紙の書類サービスを利用している人は解約(あるいは縮小)をしていくなどです。
市場は絶えず変化をしていくため、市場やユーザーの声を常に聞きつつ対応できるようになることが理想です。
④競合他社へのリプレイス(乗り換え)またはより魅力的なオファー
競合他社の製品でより機能性が高い、コストが安いなどを理由に解約されるというケースです。
競合サービスがまだ少なく、先行者利益を享受している企業は機能性やサービスサポートなどを強化してリリースされるケースが多い競合他社の台頭に注意が必要です。
その他、単純にユーザー側の理由なども考えられます。(月額費用の捻出が難しいなど)
チャーンレートの平均値は1ヶ月あたり3%〜10%というのがひとつの目安と言われていますがBtoBかBtoCか、業種業態によって異なるため平均値との比較で良し悪しを決めるのは得策ではありません。特にスタートアップであれば、他社や平均値と比べる前にまずは自社の数字を把握したうえで1%でも改善していく手段を打っていくことが先決かと考えられます。大切なことは『ユーザーによって解約理由は異なるため、解約時の事実確認=要因のヒアリングが重要』ということです。解約理由を把握できれば、分析と改善を行うことができ、継続利用期間の長期化、アップデート機能の強化、付加価値サービスの提供、ビジネスモデルのブラッシュアップなど打ち手を打つことができます。
チャーンレートの種類と計算方法
チャーンレートは大きく3種類に分類されます。
・カスタマーチャーンレート
・アカウントチャーンレート
・レベニューチャーンレート
①カスタマーチャーンレート
『カスタマー=顧客数』をベースにして算出するチャーンレートです。ここの顧客数は有料顧客(有料会員)を指します。収益性を見る観点のため無料会員はカウントしません。
計算式:カスタマーチャーンレート=一定期間内に解約した顧客数÷期間前の総顧客数×100(%)
例)一定期間前の顧客数が1,000人、期間内に100人の顧客が解約した場合は(100÷1,000)×100=10%となります。
②アカウントチャーンレート
『アカウント=登録数』をベースに算出するチャーンレートです。
計算式=一定期間内に解約したアカウント数÷期間前の総アカウント数×100(%)
例)期間前のアカウント数が1,000人、期間内に100個のアカウントが解約した場合は(100÷1000)×100=10%
カスタマーチャーンレートとの違いは”アカウント”のためBtoBであれば企業単位、BtoCであれば家族での利用なども総じてアカウントとするケースです。そのため、ユーザー単位で分析するカスタマーチャーンレートとは異なるチャーンレートとして扱います。
③レベニューチャーンレート
『収益をベースにして算出するチャーンレート』です。基本的に複数のサービスを展開する際に売上や価格別の解約率を把握するために利用します。
レベニューチャーンレートは、
〇グロスレベニューチャーンレート
〇ネットレベニューチャーンレート
の2種類に分類されます。
グロスレベニューチャーンレートは、一定期間内に発生した解約、ダウングレードなどによる損失金額をベースに算出するチャーンレートです。ネットレベニューチャーンレートは解約やダウングレードによる損失に加えて、サービスのクロスセルやアップグレードなどプラスの利益も含めた金額の割合を示すチャーンレートになります。
チャーンレートを改善する方法
チャーンレートは改善することができます。前述と同じではありますが大切なのは「ユーザーの解約要因はなにか」です。改善は要因に対する打ち手であるため、以下の改善方法が適切かどうかは慎重にご判断ください。
①サービス・商品そのものの改善
例)ユーザーリクエストの多い機能の追加
顧客ニーズがあるにもかかわらずその機能がなければ、追加していくことも有効的です。しかしユーザーリクエストが多いからと言って何でも機能を追加するのは危険です。サービスコンセプトにあった機能を追加していきましょう。「その機能があることでユーザーが費用を出してでも買うようになるか」という視点が重要です。
例)ニーズの低い機能の削除
逆に使われない機能などはどんどん削ぎ落していくことも大切です。ものによりますがシンプルで使いやすい商品の方がユーザーに好まれることもあるかと考えられます。
例)価格やプラン形態の見直し
競合と比べて高い、内容が劣るなどであれば、費用を見直したり、年間プランを半年プランにするなどプラン変更なども手段です。
例)UI、UXの改善
機能は需要に合っているのにいざ使おうとすると使いにくいサービスではもったいないです。ユーザー目線の使いやすさなどデザインを見直すことも手段です
②販促、PR、マーケティング方法の改善
どれだけイケてる商品・サービスだとしても、顧客側にメリットが伝わっていなければ意味がありません。販促においては狙うべきコアターゲット層を絞り込む、そのためにどのようなユーザーが商品・サービスを利用しているか、競合サービスと比較して自社の強みは何かなどを分析して訴求方法を見直してみましょう。
③カスタマーサクセス(CS)を強化する
スタートアップに多いのは、CSはプロダクト開発者や営業が兼務しているなどのケースで、PMFなど最初の段階では必要性は低いものの顧客が一定数を越えればカスタマーサクセスの必要性は高まってきます。サブスクリプションのサービスに大切などはサービスの定着で、導入の段階で定着しないとその後時間が空いて定着させるのは難しくなってくることが多いです。初動の段階でログインしていない、使われていないなどは黄色信号のため初期の段階でしっかりと利用を促すこと、また不明点や疑問点などにスピード感と丁寧さをもって接することができればユーザーからの信頼も得られ継続的な利用が促せると考えられます。