Founder–Market Fit
スタートアップの成功要因として、プロダクトマーケットフィット(PMF)の重要性は広く知られています。一方で近年、あらためて注目されているのがFounder–Market Fit(ファウンダー・マーケット・フィット)という概念です。これは、「その市場で戦うにあたって、創業者自身がどれだけ適合しているか」を問う考え方です。
同じ市場、同じアイデア、同じような資金条件でスタートしているにもかかわらず、なぜか前に進み続けるチームと、途中で行き詰まってしまうチームが生まれます。その差は、戦略や実行力だけでは説明できません。その背後にある要因の一つが、「この市場を、この人がやっている」という必然性、つまりFounder–Market Fitです。
Founder–Market Fitとは何か
Founder–Market Fitとは、創業者がその市場に対して持っている経験、理解、動機、ネットワーク、そして執着心の総体が、市場の特性と噛み合っている状態を指します。単に「業界にいたことがある」という事実ではなく、「その市場で勝ち続けるための前提条件を、どれだけ身体感覚として内在化しているか」が問われます。
スタートアップは常に不確実性の中で意思決定を迫られます。十分なデータも前例もない中で、どの仮説を信じ、どこにリソースを賭けるのか。その判断の質は、創業者が市場をどれだけ深く理解しているかによって大きく左右されます。Founder–Market Fitとは、意思決定の「速さ」や「正しさ」を下支えする、見えにくい基盤だと言えます。
なぜFounder–Market Fitが重要なのか
スタートアップは、計画通りに進むことの方が稀です。顧客の反応は想定とズレ、市場環境は変化し、競合は予想外の動きを見せます。そのたびに、創業者は「この事業を続ける意味は何か」「どこまでやるのか」という問いに向き合うことになります。
Founder–Market Fitが高い創業者は、こうした局面で粘り強く踏みとどまれます。なぜなら、その市場が「たまたま選んだテーマ」ではなく、「自分自身の問題意識や過去の経験と直結しているテーマ」だからです。市場で起きている痛みや矛盾が、他人事ではなく自分事として感じられる。この距離の近さが、困難な局面での意思決定を支えます。
よくある誤解:業界経験があれば十分なのか
Founder–Market Fitは、よく「業界経験の長さ」と混同されます。しかし、長く同じ業界にいたからといって、自動的にFounder–Market Fitが高まるわけではありません。
重要なのは経験の質です。現場で顧客と直接向き合っていたか、自ら意思決定を行っていたか、その結果として失敗の責任を引き受けていたか。こうした経験があるかどうかで、市場に対する解像度は大きく変わります。表面的な知識ではなく、「なぜこの構造になっているのか」「どこに歪みが溜まりやすいのか」を理解しているかどうかが分かれ目になります。
Founder–Market Fitを形づくるもの
Founder–Market Fitは、単一の要素で決まるものではありません。多くの場合、いくつかの要素が重なり合って形成されます。たとえば、市場に対する原体験や強い問題意識があり、業界構造や主要プレイヤーへの理解があり、顧客の曖昧な言葉をプロダクト要件に翻訳できる力がある。さらに、市場内に一定の人的ネットワークを持ち、短期的な成果が出なくても耐え抜ける執着心が加わることで、適合度は高まっていきます。
これらが揃っている創業者は、市場の「表に出ていない本音」を掴みやすくなります。それはデータやレポートからは得られない、実践知に近いものです。
Founder–Market FitはPMFよりも前に問われる
多くのスタートアップは、PMFに到達するまでに何度もピボットを繰り返します。この過程で重要になるのが、「何を変えて、何を変えないか」という判断です。
Founder–Market Fitがある創業者は、方向転換をしても市場の核心から外れにくい傾向があります。解決すべき問題の本質を理解しているため、手段を変えても軸が残るからです。一方でFounder–Market Fitが弱い場合、ピボットのたびに事業の前提が揺らぎ、一貫性を失っていきます。
投資家がFounder–Market Fitを重視する理由
投資家が初期段階でプロダクト以上に創業者を見るのは、Founder–Market Fitと深く関係しています。アイデアやプロダクトは変わりますが、創業者そのものは変わりません。市場が想定外の方向に動いたとき、その変化を機会として捉えられるかどうかは、創業者の市場理解にかかっています。
投資家は、創業者のキャリアや過去の選択の一貫性から、「なぜこの人が、この市場なのか」というストーリーを読み取ろうとします。そこに納得感があるかどうかが、初期投資の判断に大きく影響します。
Founder–Market Fitが弱いと起きやすいこと
Founder–Market Fitが弱い場合、いくつかの兆候が現れます。顧客ヒアリングが表面的になり、課題の深さを誤認しやすくなります。競合の動きを軽視したり、逆に過剰に恐れたりすることもあります。そして困難な局面に直面したとき、撤退判断が早すぎるという形で表れることもあります。これらは能力不足というより、「市場との距離感」の問題です。
Founder–Market Fitは後天的に高められるのか
Founder–Market Fitは生まれつき決まるものではありません。後天的に高めることは可能です。ただし、それには時間と覚悟が必要です。市場に深く入り込み、顧客と長時間向き合い、自分自身の仮説を何度も壊しながら再構築する。そのプロセスを引き受けられるかどうかが問われます。
短期的な成果が出なくても、その市場に居続ける意思があるか。ここに、Founder–Market Fitを育てられるかどうかの分かれ目があります。
共同創業者との関係性
Founder–Market Fitは、チーム全体で補完されることもあります。ビジネスに強い創業者と、技術に強い創業者が組むことで、市場への適合度が高まるケースは少なくありません。ただし、その場合でも「市場への最終的な責任を誰が持つのか」は曖昧にすべきではありません。責任の所在が明確であることが、判断のスピードと一貫性を保ちます。
Founder–Market FitとGTM戦略
Founder–Market Fitが高い創業者は、Go-To-Market戦略の初期設計が非常に自然です。どの顧客から入るべきか、誰が最初に使ってくれるか、どこで躓きやすいかを、経験則として理解しているからです。
これはデータやフレームワークでは補いきれない、重要なアドバンテージです。
まとめ
Founder–Market Fitとは、「創業者が、その市場で戦う理由を本当に持っているか」を問う概念です。アイデアやプロダクト以前に、「なぜあなたがやるのか」という問いへの答えが、事業の持続力を決めます。スタートアップにとって、市場選びは人生選びでもあります。短期的なトレンドではなく、自分自身の経験や問題意識と向き合いながら、長く戦える市場を選ぶこと。それこそが、Founder–Market Fitの本質です。
参考資料
・ファウンダー・マーケットフィットがない事業は続かない?起業成功の前提条件 – 月刊タレンタル
・「マーケットにフィットした起業家か?」、誰がやるかは何をやるか以上に大事 | 日経クロステック(xTECH)
・FMF(Founder Market Fit)で起業の成功確率はグッと高まる|長坂創太 / 起業家
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