はじめに
2025年 度 / 令和7年度の税制改正の全体的な概要と目的については、令和7年度の税制改正は、中小企業の成長支援や地域経済の活性化を目的とした多くの施策が盛り込まれています。以下に、主な改正内容を網羅的にまとめます。
1. エンジェル税制の拡充および中小企業投資促進税制の延長
スタートアップへの資金供給を促進するため、エンジェル税制が見直されます。個人投資家による再投資期間が最大2年間に延長され、より多くの資金がスタートアップに流入することが期待されます。
エンジェル税制は、個人投資家がスタートアップ企業に投資する際の税制上の優遇措置を提供する制度です。この制度は、スタートアップへの資金供給を促進し、起業活動を活性化することを目的としています。しかし、従来の制度にはいくつかの課題がありました。
エンジェル税制の改正内容
- 再投資期間の延長
従来、エンジェル税制では、株式譲渡益を元手にスタートアップへの再投資を行う際、株式譲渡益が発生した年内に投資を行う必要がありました。この要件が改正され、株式譲渡益が発生した年分の確定申告時の手続き等を前提に、再投資期間が株式譲渡益が発生した翌年末まで延長されることになりました。これにより、最大で2年間の再投資期間が設けられ、投資家にとっての柔軟性が向上します。 - 非課税措置の創設
エンジェル税制では、スタートアップ企業への投資に対して非課税措置が適用されます。これにより、個人投資家は投資時点と売却時点のいずれでも税制上の優遇を受けることが可能となります。これにより、投資家はリスクを取るインセンティブが高まり、スタートアップへの資金供給が促進されます。 - 投資家のメリット
エンジェル税制の拡充により、個人投資家はスタートアップ企業に対する投資を行いやすくなります。特に、再投資期間の延長は、投資家が市場の状況を見極めながら投資を行う余裕を持たせるため、より多くの資金がスタートアップに流入することが期待されます。
期待される効果
- スタートアップの資金調達の促進
エンジェル税制の拡充により、スタートアップ企業はより多くの資金を調達しやすくなります。これにより、事業の成長や新たな雇用の創出が期待されます。 - 個人投資家の参加促進
税制上の優遇措置が強化されることで、個人投資家がスタートアップへの投資に参加しやすくなります。これにより、投資家の多様性が増し、スタートアップに対する支援が広がることが見込まれます。
エンジェル税制の拡充は、スタートアップ企業への投資を促進し、起業活動を活性化するための重要な施策です。再投資期間の延長や非課税措置の創設により、個人投資家がスタートアップに対してより積極的に投資できる環境が整備され、結果として経済全体の活性化が期待されます。
中小企業投資促進税制の延長
中小企業投資促進税制は、中小企業が設備投資を行う際に税額控除や特別償却を受けられる制度です。この制度は、中小企業の設備投資を後押しし、経済の活性化を図ることを目的としています。最近、この税制の適用期限が延長されることが決定されました。
主な内容
- 税制の内容
税額控除: 中小企業が一定の設備投資を行った場合、税額控除として7%が適用されます。
特別償却: 設備投資に対して30%の特別償却が認められます。この特別償却は、資本金3,000万円以下の中小企業者に限られます。 - 適用期限の延長
中小企業投資促進税制の適用期限が2年間延長され、令和8年度末(2026年度末)まで適用されることになりました。これにより、企業は今後もこの税制を利用して設備投資を行うことが可能です。
対象者
この税制の対象は、資本金1億円以下の法人や、従業員数1,000人以下の個人事業主など、中小企業者等です。また、対象業種には製造業、建設業、農業、卸売業、小売業などが含まれます。
期待される効果
- 設備投資の促進
中小企業が税制を利用することで、設備投資を行いやすくなります。これにより、企業の生産性向上や競争力の強化が期待されます。 - 経済の活性化
中小企業の設備投資が進むことで、地域経済全体の活性化が期待されます。企業の成長が地域の雇用を生み出し、経済の循環を促進します。 - 持続可能な成長
中小企業が設備投資を行うことで、長期的な成長が見込まれます。これにより、企業は市場での競争力を維持し、持続可能なビジネスモデルを構築することができます。中小企業投資促進税制の延長は、中小企業の設備投資を後押しし、経済の活性化を図る重要な施策です。この税制を活用することで、企業は税負担を軽減し、持続可能な成長を実現することが期待されます。
2. 中小企業の事業承継税制の見直し
日本では経営者の高齢化が進んでおり、事業承継が重要な課題となっています。事業承継を円滑に進めるため、事業承継税制の特例措置が見直されます。事業承継税制は、後継者が事業を引き継ぐ際の税負担を軽減するための制度ですが、具体的には、役員就任要件が「贈与日まで3年以上役員である」から「贈与の直前に役員である」に変更され、より柔軟な対応が可能になります。これまでの要件が厳しいため、円滑な承継が難しいケースが多く見られました。
改正内容
- 役員就任要件の見直し
従来の事業承継税制では、後継者が「贈与日までに3年以上役員である」ことが求められていました。この要件が改正され、今後は「贈与の直前に役員である」ことが求められるようになります。これにより、後継者が事業に関与するタイミングが柔軟になり、事業承継がしやすくなります。 - 特例措置の適用期限
事業承継税制の特例措置は、2024年3月末までに計画を提出し、2028年12月31日までに事業承継を実施する必要があります。この期限内に後継者が事業に従事していることが求められますが、改正により、贈与直前に役員に就任していればよいという条件に変更されます。 - 手続きの簡素化
事業承継に関する手続きが簡素化され、税務申告の際の負担が軽減されることが期待されています。具体的には、必要な書類や申請手続きの見直しが行われ、後継者がスムーズに事業を引き継げるよう配慮されています。
期待される効果
- 円滑な事業承継の促進
改正により、後継者が事業に関与しやすくなることで、事業承継が円滑に進むことが期待されます。これにより、中小企業の存続や地域経済の活性化に寄与することが見込まれます。 - 経営者の不安軽減
経営者が事業承継に対する不安を軽減できることで、より多くの経営者が事業承継を検討しやすくなります。これにより、事業の継続性が高まるとともに、地域社会への貢献も期待されます。
中小企業の事業承継税制の見直しは、経営者の高齢化に伴う課題に対処するための重要な施策です。役員就任要件の緩和や手続きの簡素化により、事業承継がよりスムーズに行えるようになり、結果として中小企業の持続的な成長が促進されることが期待されます。
3. 中小企業税制の拡充・延長 / 自動車税制の総合的な見直し
中小企業の成長を後押しするため、中小企業経営強化税制が2年間延長されます。特に、売上高が100億円を超える中小企業(100億企業)を目指す企業に対して、特別償却や税額控除の対象設備に建物が追加されるなど、支援が強化されます。
中小企業経営強化税制の強化
中小企業経営強化税制は、中小企業が経営基盤を強化し、競争力を向上させるための設備投資を促進することを目的とした税制です。この税制は、特定の条件を満たす中小企業に対して、税額控除や特別償却などの優遇措置を提供します。
改正内容
- 税制の拡充
中小企業経営強化税制の適用範囲が拡大され、より多くの中小企業がこの制度を利用できるようになります。具体的には、対象となる設備投資の種類や条件が見直され、より多様な投資に対して税制上の優遇が適用されるようになります。 - 税額控除の引き上げ
中小企業が行う設備投資に対する税額控除の割合が引き上げられ、企業の負担が軽減されます。これにより、企業は新たな設備投資を行いやすくなり、経営基盤の強化が促進されます。 - 特別償却の適用
設備投資に対して特別償却が認められることにより、企業は初期投資の回収を早めることができます。特別償却の割合や条件も見直され、より多くの企業が恩恵を受けられるようになります。 - 適用期限の延長
中小企業経営強化税制の適用期限が延長され、企業は長期的な視点での投資計画を立てやすくなります。これにより、企業は安定した経営基盤を築くための投資を行いやすくなります。
期待される効果
- 中小企業の競争力向上
税制の強化により、中小企業は新たな設備投資を行いやすくなり、競争力の向上が期待されます。特に、技術革新や生産性向上に寄与する設備投資が促進されることで、企業の成長が期待されます。 - 地域経済の活性化
中小企業の成長は地域経済にとって重要です。中小企業経営強化税制の強化により、地域内での雇用創出や経済活動の活性化が期待され、地域全体の経済基盤が強化されるでしょう。 - 持続可能な成長の実現
中小企業が経営基盤を強化することで、持続可能な成長が実現されます。これにより、地域経済の安定性が向上し、長期的な経済成長が期待されます。
中小企業経営強化税制の強化は、中小企業の競争力向上や地域経済の活性化に寄与する重要な施策です。税額控除や特別償却の拡充、適用期限の延長により、企業は新たな設備投資を行いやすくなり、結果として持続可能な成長が期待されます。
地域未来投資促進税制の拡充及び延長
地域未来投資促進税制は、地域経済の発展を支援するために設けられた税制で、特に地域経済を牽引する企業の成長を促進することを目的としています。この制度は、地域の実情に応じた設備投資を行う企業に対して、税制上の優遇措置を提供します。
改正内容
- 特別措置の追加
地域経済の実情に応じて、特に資する分野に対する10億円以上の設備投資に対して、新たな特別措置が追加されました。具体的には、特別償却50%または税額控除5%が適用されます。これにより、大規模な設備投資を行う企業に対するインセンティブが強化されます。 - 適用期限の延長
地域未来投資促進税制の適用期限が3年間延長され、令和9年度末(2027年度末)までとなります。これにより、企業は長期的な視点での投資計画を立てやすくなります。 - 対象産業の指定
自治体が指定する産業に対して、税制上の優遇措置が適用されます。対象となる産業は、日本標準産業分類に基づき、地域経済への波及効果や成長性、自治体の計画性を考慮して選定されます。具体的には、以下の3つの要件を満たす産業が対象となります①地域経済への波及効果が高いこと
②当該産業の成長性があること
③自治体において関連する産業ビジョンが定められていること
期待される効果
- 地域経済の活性化
地域未来投資促進税制の拡充により、地域企業が設備投資を行いやすくなり、地域経済の活性化が期待されます。特に、大規模な設備投資が促進されることで、地域の雇用創出や経済成長に寄与することが見込まれます。 - 企業の競争力向上
税制上の優遇措置が強化されることで、企業は新たな設備投資を行いやすくなり、競争力の向上が期待されます。これにより、地域内での企業の成長が促進され、地域全体の経済基盤が強化されるでしょう。
地域未来投資促進税制の拡充及び延長は、地域経済の発展を支援するための重要な施策です。特別措置の追加や適用期限の延長により、企業は長期的な視点での投資を行いやすくなり、結果として地域経済の活性化や企業の競争力向上が期待されます。
自動車税制の総合的な見直し
自動車関係の税制については、2050年カーボンニュートラル目標の実現に向けた施策が求められています。CASE(Connected, Autonomous, Shared, Electric)に対応したインフラ整備や地域公共交通のニーズに応じた税制の見直しが進められます。
自動車税制の総合的な見直しは、日本の自動車戦略やインフラ整備の長期展望を踏まえ、環境への配慮や地域公共交通のニーズに応じた税制の見直しを行うことを目的としています。特に「2050年カーボンニュートラル」目標の実現に向けて、自動車税制が果たすべき役割が強調されています。
主な見直し内容
- 環境性能に基づく課税の見直し
自動車の重量や環境性能に応じた課税のあり方を見直し、環境に優しい車両に対する優遇措置を強化します。これにより、低排出ガス車や電気自動車(EV)などの普及を促進し、カーボンニュートラルの実現に寄与します。 - 取得時の負担軽減
自動車の取得時における税負担を軽減するための措置が検討されています。これにより、消費者が新しい環境性能の高い車両を購入しやすくなり、全体的な自動車の環境性能向上が期待されます。 - 地域公共交通のニーズへの対応
地域公共交通のニーズが高まる中で、自動車税制が地域の交通インフラの維持管理や機能強化に貢献することが求められています。これにより、地域の交通網の充実が図られ、住民の移動の利便性が向上します。 - 税収の安定性の確保
自動車税制全体として、国・地方を通じた安定的な財源を確保することが重要です。税制の見直しにあたっては、税収の中立性を保ちながら、持続可能な財源を確保することが求められます。
期待される効果
- 環境負荷の低減
環境性能に基づく課税の見直しにより、低排出ガス車やEVの普及が進み、全体的な環境負荷の低減が期待されます。 - 地域経済の活性化
地域公共交通のニーズに応じた税制の見直しは、地域経済の活性化に寄与します。交通インフラの充実は、地域の経済活動を支える重要な要素です。 - 持続可能な交通社会の実現
自動車税制の見直しは、持続可能な交通社会の実現に向けた重要なステップです。環境に配慮した交通手段の普及は、将来的な社会の持続可能性を高めることにつながります。
自動車税制の総合的な見直しは、環境への配慮や地域公共交通のニーズに応じた重要な施策です。これにより、持続可能な交通社会の実現や地域経済の活性化が期待され、2050年カーボンニュートラルの目標達成に向けた一助となるでしょう。
生産性向上や賃上げに資する中小企業の設備投資に関する固定資産税の特例措置の拡充及び延長
この特例措置は、中小企業が設備投資を行う際に、固定資産税の負担を軽減することを目的としています。特に、賃上げを行う企業に対して、赤字企業を含めた前向きな投資を促進するための措置が講じられています【T4】【T5】。
主な内容
- 特例措置の内容固定資産税の軽減: 中小企業が設備投資を行った場合、固定資産税の特例措置が適用されます。この措置は、企業が賃上げを行う場合に特に有利です。賃上げ率に応じた軽減:
賃上げ率が1.5%以上の場合、課税標準を1/2に軽減する特例が適用され、3年間の適用が可能です。
賃上げ率が3%以上の場合、課税標準を1/4に軽減する特例が適用され、5年間の適用が可能です。 - 適用期限の延長
この特例措置の適用期限が2年間延長され、令和8年度末(2026年度末)まで適用されることになりました。これにより、企業は今後もこの特例を利用して設備投資を行うことが可能です。
対象企業
特例措置の対象となるのは、資本金1億円以下の中小企業であり、先端設備等導入計画の認定を受けた企業が含まれます。また、赤字企業も対象となるため、より多くの企業がこの特例を利用できるようになっています【T5】。
期待される効果
- 設備投資の促進
固定資産税の軽減により、中小企業は設備投資を行いやすくなります。これにより、生産性の向上が期待されます。 - 賃上げの促進
賃上げを行う企業に対して特例が設けられているため、企業は従業員の賃金を引き上げるインセンティブを持つことになります。これにより、労働者の生活水準向上にも寄与します。 - 経済の活性化
中小企業の設備投資が進むことで、地域経済全体の活性化が期待されます。企業の成長が地域の雇用を生み出し、経済の循環を促進します。
生産性向上や賃上げに資する中小企業の設備投資に関する固定資産税の特例措置の拡充及び延長は、中小企業の成長を支援し、経済全体の活性化を図る重要な施策です。この特例を活用することで、企業は税負担を軽減し、持続可能な成長を実現することが期待されます。
中小企業等の法人税率の特例の延長について
中小企業に対する法人税率の特例措置は、企業の資金繰り負担を軽減し、財務基盤を強化することを目的としています。この特例は、特に年間800万円以下の所得金額に対して適用される税率を引き下げるもので、企業の成長を支援する重要な施策です。
主な内容
- 法人税率の軽減
中小企業者等の法人税率は、年間800万円以下の所得金額に対して、通常の税率19%から特例として15%に軽減されています。この特例は、資本金1億円以下の中小法人に適用されます。さらに、単年所得が10億円を超える中小企業者については、税率が19%から17%に軽減される措置もあります。 - 適用期限の延長この法人税率の特例措置は、令和9年(2027年)3月31日までの時限的な措置として延長されることが決定されました。これにより、企業は引き続き税負担を軽減し、経営の安定を図ることが可能となります。
- 適用対象の条件
特例措置の適用対象は、資本金1億円以下の法人であり、過去3年平均で所得が15億円を超える企業は対象外となります。また、通算法人は適用対象から除外されます。
期待される効果
- 資金繰りの改善
法人税率の軽減により、中小企業は税負担が軽くなり、資金繰りが改善されます。これにより、企業は新たな投資や人材の確保に資金を回すことができるようになります。 - 経営の安定化
税負担の軽減は、企業の財務基盤を強化し、経営の安定化に寄与します。特に、経済環境が不安定な中で、企業が持続的に成長するための支援となります。 - 地域経済の活性化
中小企業の成長は地域経済にとって重要です。法人税率の特例措置により、中小企業が成長することで、地域の雇用創出や経済の活性化が期待されます。
中小企業等の法人税率の特例の延長は、企業の資金繰りを改善し、経営の安定化を図るための重要な施策です。この特例を活用することで、中小企業は税負担を軽減し、持続可能な成長を実現することが期待されます。
4. 中小企業防災・減災投資促進税制の延長
自然災害が多発する中、中小企業の防災・減災能力を強化するための税制が2年間延長されます。特別償却16%の措置が継続され、企業が防災投資を行いやすくなります。
中小企業防災・減災投資促進税制は、中小企業が自然災害に対する備えを強化するための設備投資を促進することを目的とした税制です。この税制は、特に近年の自然災害の頻発を受けて、その重要性が増しています。2026年度末までの適用期限の延長が決定されました。
主な内容
- 適用対象者
この税制は、令和9年(2027年)3月31日までに「事業継続力強化計画」の認定を受けた中小企業者が対象です。認定を受けた企業は、計画に記載された対象設備を取得し、事業に供することが求められます。 - 税制措置
認定を受けた中小企業者は、特別償却を受けることができます。具体的には、取得した設備に対して16%の特別償却が適用されます。これにより、企業は設備投資の負担を軽減し、災害に対する備えを強化することが可能になります。 - 対象設備
対象となる設備は、自然災害の発生が事業活動に与える影響の軽減に資する機能を有するものです。具体的には、自家発電設備、浄水装置、揚水ポンプ、排水ポンプ、耐震・制震・免震装置などが含まれます。これらの設備は、災害時の事業継続に寄与する重要な役割を果たします。
期待される効果
- 防災・減災能力の強化
中小企業が防災・減災に向けた設備投資を行うことで、自然災害に対する備えが強化され、事業の継続性が向上します。 - 地域経済の安定
中小企業の防災・減災能力が向上することで、地域経済全体の安定性が増し、災害時の影響を軽減することが期待されます。 - 持続可能な経営の実現
自然災害に対する備えを強化することは、企業の持続可能な経営に寄与します。災害による損失を最小限に抑えることで、企業の安定した運営が可能になります。
中小企業防災・減災投資促進税制の延長は、自然災害に対する備えを強化し、中小企業の持続可能な経営を支援する重要な施策です。この税制を活用することで、企業は災害リスクを軽減し、地域経済の安定に寄与することが期待されます。
5. 固定資産税の特例措置の拡充・延長
赤字の中小企業でも前向きな投資が可能となるよう、賃上げを行う企業を対象に、設備投資に伴う固定資産税の特例措置が2年間延長されます。賃上げ率に応じて軽減率も引き上げられ、最大で5年間1/4まで軽減されることが見込まれています。
固定資産税の特例措置は、中小企業が設備投資を行う際の税負担を軽減するための制度です。この特例措置は、特に賃上げを行う企業を対象にしており、赤字企業を含む中小企業の前向きな投資を後押しすることを目的としています。2026年度末までの適用期限の延長が決定されました。
主な内容
- 特例措置の適用対象
特例措置は、賃上げを行う中小企業に対して適用されます。具体的には、赤字企業も含め、賃上げを行う企業が対象です。これにより、企業は設備投資に伴う固定資産税の負担を軽減することができます。 - 軽減措置の内容
賃上げ率に応じた軽減
賃上げ率が1.5%以上の場合、課税標準を1/2に軽減(適用期間:3年間)。
賃上げ率が3%以上の場合、課税標準を1/4に軽減(適用期間:5年間)。このように、賃上げ率に応じて軽減率が異なるため、企業は賃上げを促進するインセンティブを得ることができます。 - 適用期限
特例措置の適用期限は、令和8年度末(2026年度末)まで延長されます。これにより、企業は今後も一定期間にわたってこの特例措置を利用することが可能です。
期待される効果
- 設備投資の促進
固定資産税の軽減により、中小企業は設備投資を行いやすくなります。これにより、企業の生産性向上や競争力の強化が期待されます。 - 賃上げの促進
賃上げを行う企業に対する特例措置は、企業が従業員の賃金を引き上げるインセンティブを提供します。これにより、労働者の生活水準向上にも寄与します。 - 経済の活性化
中小企業の設備投資や賃上げが進むことで、地域経済全体の活性化が期待されます。企業の成長が地域の雇用を生み出し、経済の循環を促進します。固定資産税の特例措置の拡充・延長は、中小企業の設備投資を後押しし、賃上げを促進する重要な施策です。この特例措置を活用することで、企業は税負担を軽減し、持続可能な成長を実現することが期待されます。
6. 次世代半導体税制の新設
国内での次世代半導体の量産を実現するため、資本増強による税負担を軽減する措置が新設されます。これにより、次世代半導体事業者の財務基盤が強化され、産業競争力の向上が期待されます。
7. エネルギーサプライチェーンの強靱化
減耗控除制度の拡充及び延長
減耗控除制度は、企業が探鉱活動を行う際に発生する費用を税務上で控除できる制度です。この制度は、エネルギーや鉱物資源の安定供給を確保するために、民間企業による持続的かつ安定的な探鉱活動を支援することを目的としています【T6】。
主な内容
- 特別控除の対象
減耗控除制度では、探鉱準備金や新鉱床探鉱費、海外探鉱準備金などが特別控除の対象となります。これにより、企業は探鉱にかかるコストを税務上で軽減することができます。 - 制度の拡充
令和7年度の税制改正において、減耗控除制度の拡充が行われます。具体的には、控除対象となる費用の範囲が広がり、より多くの探鉱活動に対して税制上の支援が提供されることになります。これにより、企業は探鉱活動をより積極的に行うことができるようになります。 - 制度の延長
減耗控除制度は、一定の期間に限られている場合がありますが、今回の改正によりその適用期間が延長されることが予定されています。これにより、企業は長期的な視点で探鉱活動を計画し、実施することが可能になります。
期待される効果
- エネルギー・鉱物資源の安定供給
減耗控除制度の拡充と延長により、企業は探鉱活動を継続的に行いやすくなります。これにより、エネルギーや鉱物資源の安定供給が確保され、国のエネルギー政策や産業政策に寄与することが期待されます。 - 企業の競争力向上
探鉱活動に対する税制上の支援が強化されることで、企業はコストを抑えつつ、競争力を高めることができます。特に、資源価格が変動する中で、安定した供給を維持するための投資が促進されるでしょう。 - 持続可能な開発の促進
減耗控除制度は、持続可能な資源開発を支援するための重要な手段です。企業が環境に配慮した探鉱活動を行うことを促進し、持続可能な開発目標(SDGs)に貢献することが期待されます。
減耗控除制度の拡充及び延長は、企業の探鉱活動を支援し、エネルギーや鉱物資源の安定供給を確保するための重要な施策です。この制度により、企業は長期的な視点での投資を行いやすくなり、持続可能な資源開発が促進されることが期待されます。
電気・ガス供給業の収入金課税の見直し
電気・ガス供給業における収入金課税は、企業の売上に基づいて課税される仕組みです。この課税方式は、一般的な法人事業税とは異なり、企業の所得(利益)ではなく、収入金額(売上)に応じて課税されるため、特有の課税のあり方が問題視されています【T6】。
主な内容
- 課税方式の見直し
電気・ガス供給業における法人事業税は、収入金額に基づく課税(収入金課税)を採用しています。これに対し、一般の企業は通常、所得に基づく課税が行われます。この違いが、電気・ガス供給業の企業にとって不公平感を生む要因となっています。 - 公平性の確保
令和7年度の税制改正において、電気・ガス供給業の課税方式を見直し、一般の企業と同様の課税方式にすることが検討されています。これにより、事業環境や競争状況の変化を踏まえた公平な課税が実現されることが期待されています。 - 検討事項
改正に向けた検討事項として、電気・ガス供給業における収入金課税のあり方について、地方税体系全体における位置付けや、各地方公共団体の税収に与える影響を考慮しつつ、引き続き検討が進められています。
期待される効果
- 競争環境の改善
課税方式の見直しにより、電気・ガス供給業の企業が一般の企業と同様の条件で競争できるようになります。これにより、業界全体の競争環境が改善され、消費者にとっても選択肢が広がることが期待されます。 - 事業の持続可能性
公平な課税が実現されることで、企業はより安定した経営が可能となり、長期的な投資や事業の持続可能性が向上します。特に、エネルギー供給の安定性が重要視される中で、企業の経営基盤が強化されることが期待されます。 - 税収の安定化
課税方式の見直しにより、地方公共団体の税収が安定する可能性があります。公平な課税が実現されることで、企業の負担が適正化され、税収の予測可能性が高まるでしょう。
電気・ガス供給業の収入金課税の見直しは、業界の競争環境を改善し、企業の持続可能な成長を支援するための重要な施策です。公平な課税が実現されることで、企業は安定した経営を行いやすくなり、消費者にとってもより良いサービスが提供されることが期待されます。
車体課税の見直し
車体課税は、自動車の取得時や保有時に課される税金であり、環境性能や車両の重量に基づいて課税されることが一般的です。近年、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みが進められる中で、車体課税のあり方について見直しが求められています。
主な内容
- カーボンニュートラルの実現
車体課税の見直しは、カーボンニュートラルの実現に貢献することを目的としています。具体的には、環境性能の高い自動車に対する優遇措置を検討し、低公害車両の普及を促進することが目指されています。 - 税収中立の下での見直し
車体課税の見直しは、国・地方の税収中立を前提としています。つまり、税制改正によって税収が大きく変動しないように配慮しつつ、課税のあり方を見直すことが求められています。 - 取得時の負担軽減
自動車の取得時における税負担を軽減するための施策が検討されています。これにより、消費者が環境性能の高い自動車を選択しやすくなることが期待されています。 - 保有時の公平・中立な税負担
自動車の重量や環境性能に応じた公平で中立な税負担のあり方についても検討が進められています。これにより、異なるパワートレイン(例えば、電気自動車やハイブリッド車)間での税負担の公平性が確保されることが目指されています。
期待される効果
- 環境への配慮
環境性能の高い自動車に対する優遇措置が導入されることで、消費者がより環境に配慮した選択をするよう促されます。これにより、温室効果ガスの排出削減に寄与することが期待されます。 - 自動車産業の活性化
車体課税の見直しにより、環境性能の高い自動車の需要が増加することで、自動車産業全体の活性化が図られる可能性があります。特に、電気自動車やハイブリッド車の市場が拡大することが期待されます。 - 税制の透明性向上
課税のあり方が見直されることで、税制の透明性が向上し、消費者や企業が納得感を持って税負担を受け入れることができるようになります。
車体課税の見直しは、カーボンニュートラルの実現に向けた重要な施策であり、環境性能の高い自動車の普及を促進することが期待されています。税収中立を考慮しつつ、取得時や保有時の税負担を見直すことで、より公平で持続可能な税制が実現されることが目指されています。
半導体分野における国内投資の継続的な拡大に向けた税制上の措置
半導体産業は、生成AIや自動運転技術など、現代の産業全体の競争力を支える重要な分野です。日本政府は、半導体製造基盤の確保を目指し、国内投資を促進するための税制上の措置を検討しています。
主な内容
- 大規模な予算措置
半導体関連政策の中で、開発費に対する大規模な予算措置が講じられています。これにより、企業が半導体の研究開発や生産に必要な資金を確保しやすくなります。 - 税負担の軽減
国内で次世代半導体を製造するための基盤整備を行う事業者に対して、資本増強によって発生する税負担を軽減する措置が検討されています。これにより、企業が新たな投資を行いやすくなり、国内の半導体産業の競争力が向上することが期待されます。 - 法制上の措置の検討
半導体分野における投資を促進するために、必要な法制上の措置を検討しています。これには、税制の見直しや新たなインセンティブの導入が含まれる可能性があります。 - 支援手法の多様化
投資支援の手法を多様化し、企業が利用できる支援の選択肢を増やすことが目指されています。これにより、企業は自社のニーズに応じた支援を受けやすくなります。
期待される効果
- 競争力の強化
半導体産業の基盤が強化されることで、日本の産業全体の競争力が向上します。特に、次世代半導体の開発が進むことで、国際的な競争において優位性を持つことが期待されます。 - 経済安全保障の向上
半導体の製造基盤が国内に確保されることで、経済安全保障の観点からも重要な役割を果たします。外部依存を減らし、国内での供給能力を高めることが可能になります。 - 雇用の創出
半導体産業への投資が増加することで、新たな雇用が創出されることが期待されます。特に、高度な技術を持つ人材の需要が高まることで、技術者の育成や雇用機会の拡大が見込まれます。
半導体分野における国内投資の拡大に向けた税制上の措置は、日本の産業競争力を強化し、経済安全保障を向上させるための重要な施策です。大規模な予算措置や税負担の軽減、法制上の措置の検討を通じて、企業が安心して投資できる環境を整えることが目指されています。
8. 経済のデジタル化等に対応した新たな国際課税制度への対応
経済のデジタル化やグローバル化に伴い、国際課税制度が見直されます。特に、グローバル・ミニマム課税の法制化が進展し、事務負担の軽減が図られる予定です。
経済のデジタル化が進展する中で、国際的な課税制度も変革が求められています。特に、デジタル経済における企業の利益の配分や課税の公平性を確保するための新たな制度が導入されています。この取り組みは、OECD(経済協力開発機構)による国際的な合意に基づいて進められています。
主な内容
- グローバル・ミニマム課税(第2の柱)
新たな国際課税制度の一環として、グローバル・ミニマム課税が導入されます。この制度は、各国が企業に対して最低限の税率を設定し、税率の引き下げ競争を抑制することを目的としています。これにより、企業間の公平な競争条件を確保することが期待されています【T5】。 - 軽課税所得ルール(UTPR)及び国内ミニマム課税(QDMTT)の法制化
令和7年度税制改正では、軽課税所得ルール(UTPR)と国内ミニマム課税(QDMTT)の法制化が行われます。これにより、各国が自国の企業に対して適用する税制が整備され、国際的な課税の透明性が向上します。適用開始時期は、対象企業の準備期間を考慮し、令和8年(2026年)4月以降の会計年度からとなります。 - OECDのガイダンスに基づく制度の見直し
新たな国際課税制度は、OECDが発出したガイダンスに基づいて見直され、制度の明確化が図られます。これにより、企業が国際的に活動する際の税務リスクを軽減し、より安定した経営環境を提供することが目指されています【T6】。
期待される効果
- 税収の安定化
グローバル・ミニマム課税の導入により、各国は税収の安定化を図ることができます。特に、デジタル経済においては、利益が特定の国に集中する傾向があるため、適切な課税が行われることで税収が確保されます。 - 企業間の公平性の確保
新たな課税制度により、企業間の競争条件が公平に保たれることが期待されます。これにより、税率の引き下げ競争が抑制され、各国の税制がより一貫性を持つようになります。 - 国際的な協力の促進
OECDによる国際的な合意に基づく制度の導入は、各国間の協力を促進し、国際的な税務問題に対する共通のアプローチを形成することに寄与します。
経済のデジタル化に対応した新たな国際課税制度は、グローバル・ミニマム課税や軽課税所得ルールの導入を通じて、企業の税負担の公平性を確保し、税収の安定化を図る重要な施策です。これにより、国際的な経済環境がより安定し、持続可能な成長が促進されることが期待されます。
令和7年度の税制改正は、デジタル化や国際的な競争環境の変化に対応し、企業の競争力を高めるための重要な施策が盛り込まれています。特に、国際課税制度の見直しやエネルギーサプライチェーンの強靱化、中小企業支援策の強化が注目されます。これらの改正が実施されることで、日本経済の持続的な成長が期待されます。
まとめ
経済成長と競争力強化
- 中小企業の成長支援と地域経済の活性化に焦点
- デジタル化と国際競争環境の変化への対応
- 企業の競争力向上を目指す施策の導入
重点分野
- 国際課税制度の見直し:グローバル経済に適応するための改革
- エネルギーサプライチェーンの強靱化:持続可能なエネルギー政策の推進
- 中小企業支援策の強化:地域経済の中核を担う中小企業への支援拡充
期待される効果
- 企業の前向きな投資の促進
- 持続的な経済成長の実現
- 日本経済全体の競争力向上
この税制改正により、企業が積極的に投資を行いやすい環境が整備され、日本経済の持続的な成長が期待されます。今後の具体的な施策の実施と、その効果について注視していく必要があります。
出典:令和7年度税制改正について
令和7年度税制改正大綱における経済産業省関係の税制改正に関する資料は以下の通りです。
2024年度税制改正まとめ
2024年度の日本の税制改正の概要は、企業の成長と環境対策を推進し、企業活動を支援することを目的としています。法人税、所得税、消費税など様々な分野で改正が行われており、特に中小企業向けの賃上げ促進税制の拡充や延長、交際費の課税特例の延長、M&A促進税制の導入などが含まれます。これにより、企業の成長と環境対策を推進し、企業活動を支援することが期待されます
また、成長志向の中堅企業等の成長を支援するため、新たな需要獲得等に資する設備投資や、規模拡大・高付加価値化を目的としたグループ化等を促進する措置が検討されています。
また、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の拡充及び延長も重要な改正点となります。さらに、交際費の課税特例についても見直しが行われる予定です。
これらの改正は、企業の成長と環境対策を推進し、企業活動を支援することを目的としています。
スタートアップ関連税制
ストックオプション税制の改正
ストックオプション税制の年間の権利行使価額の上限を、スタートアップが発行したものについて、最大で現行の3倍となる年間 3,600 万円への引上げを実施する。
法人税の改正点
法人税の改正では、中小企業向け賃上げ促進税制の拡充および延長、交際費の課税の特例(中小法人における損金算入の特例)措置の延長、中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例措置の延長が行われました。
大企業向け賃上げ促進税制改正
- 大企業が前年度比で給与総額を7%以上増やした場合、増額分の最大35%が法人税から控除される。
- 子育て支援や女性の活躍促進に積極的な企業に対する税優遇も拡大される。
- 現行制度では、継続雇用者の給与総額を3%以上増やした場合、増加分の15%(4%以上なら25%)が控除される。改正後は、3%増の控除率が10%に引き下げられる。
中堅企業のための新優遇枠
- 従業員2000人以下の中堅企業も新たな税優遇枠が設けられる。給与総額が前年度比3%以上増えた場合、増加分の10%(4%以上なら25%)が法人税から控除される。
中小企業向け賃上げ促進税制の拡充および延長
- 中小企業向け「賃上げ促進税制」は、青色申告書を提出している中小企業者等が、一定の要件を満たした上で、前年度より給与等の支給額を増加させた場合、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。この制度は令和4年4月1日から令和6年3月31日までの間に開始する各事業年度が対象となっています。
中小企業への税優遇措置
- 中小企業が賃上げの基準を満たすが赤字の場合、「繰越控除措置」を新設し、税額控除分を黒字時まで繰り越せるようにする。賃上げを実施した企業の法人税を減税する「賃上げ税制」の税額控除では、赤字などの中小企業でも5年以内であれば黒字になるまで減税の優遇措置を繰り越せる制度を導入する。
- また、持続的な賃上げを実現する観点から、繰越控除する年度については、全雇用者の給与等支給額が対前年度から増加していることを要件とすることが示されています。
交際費の課税の特例(中小法人における損金算入の特例)措置の延長
- 交際費等とならずに損金算入可能な飲食費の上限(1人あたり 5,000 円以下)を引き上げるとともに、飲食費の 50%を損金算入できる特例措置。
中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例措置の延長
- 中小企業者等が、取得価額が30万円未満である減価償却資産(以下「少額減価償却資産」といいます。)を平成18年4月1日から令和6年3月31日までの間に取得などして事業の用に供した場合には、一定の要件のもとに、その取得価額に相当する金額を損金の額に算入することができます。
国内研究・開発関連の新税制
イノベーションボックス税制(研究開発の成果からの所得に対する税率の優遇)の創設を要望
経済産業省、厚生労働省、農林水産省の3省は、令和6年度税制改正において、国内で開発された知的財産から生じる所得に対する優遇税率を適用する制度(イノベーションボックス税制)の創設を要望している。この制度は、我が国の研究開発拠点としての立地競争力を向上し、民間企業の無形資産投資を後押しするためのもの。具体的には、民間企業の課税所得のうち、我が国で開発した知的財産に由来する所得に対して優遇税率を適用する新たな措置を創設することを目指している。
現行の研究開発税制では、研究開発を行う企業が、法人税額(国税)から、試験研究費の一定割合(2~14%)を控除できる制度があります。控除できる金額は、原則として、法人税額の25%が上限となっている。この制度は、民間企業の研究開発投資を維持・拡大することにより、イノベーション創出に繋がる中長期・革新的な研究開発等を促し、我が国の成長力・国際競争力を強化することを目的としている。
企業が国内で自ら研究開発を行った特許権又はAI分野のソフトウェアに係る著作権について、当該知的財産の国内への譲渡所得又は国内外からのライセンス所得に対して、所得の 30%の所得控除を認める制度を設けることとされています。また、イノベーションボックス税制の対象範囲については、制度の執行状況や効果を十分に検証した上で、国際ルールとの整合性、官民の事務負担の検証、立証責任の所在等諸外国との違いや体制面を含めた税務当局の執行可能性等の観点から、財源確保の状況も踏まえ、状況に応じ、見直しを検討することが示されています。
戦略分野国内生産促進税制の創設
GX、DX、経済安全保障という戦略分野において、民間として事業採算性に乗りにくいが、国として特段に戦略的な長期投資が不可欠となる投資を選定し、それらを対象として生産・販売量に比例して法人税額を控除する戦略分野国内生産促進税制を創設することが示されています。
具体的な対象物資は、電気自動車等(蓄電池)、グリーンスチール、グリーンケミカル、SAF(持続可能な航空燃料)、半導体とし、物資毎に単価を設定することが示されています。また、措置期間を通じた控除上限は、既設の建屋等を含む生産設備全体の額とするほか、各年度の控除上限として、当期の法人税額の40%(半導体については当期の法人税額の20%)との上限を設けることが記載されています。
政府・与党は、企業が国内で研究・開発した特許や著作権で得られた所得の30%を課税対象から差し引く新たな法人税減税措置を導入する方針です。この措置は、国内の研究開発を促進し、企業の国際競争力を高めることを目的としています。
具体的には、企業が国内で行った研究・開発により得られた特許や著作権による所得の30%が課税対象から控除される新税制が導入されます。
研究開発費用の税制上の取扱い
令和6年度の法人税の改正点には、企業が国内で行った研究・開発により得られた特許や著作権による所得の30%が課税対象から控除される新税制が導入されるというものがあります。この新税制は、企業の国内での研究・開発を促進し、国際競争力を高めることを目的としています。
具体的には、2024年4月以降に国内での研究・開発によって取得した特許や著作権で得られた所得の30%を、課税対象の所得から控除する方向です。減税の対象は、その企業の知的財産を第三者が使用した場合のライセンス収入や、知的財産を売却した際の所得に限られ、知的財産を使った製品の売り上げは対象とはならない見込みです。
この新税制の創設に伴い、企業の研究開発費に応じて法人税を減税する現在の「研究開発税制」は、研究開発費が減少している場合、段階的に縮小する方向で調整される予定です。
オープンイノベーション促進税制やパーシャルスピンオフ税制の恒久化の要望
これらの税制は一般的には新たなビジネスモデルや技術開発を促進するためのもので、その恒久化は企業の研究開発活動やイノベーションを継続的に支援するための要望と考えられている。
オープンイノベーション促進税制は、大企業がスタートアップに投資することを奨励するための制度で、投資した金額の一部を所得控除することができる。この制度は、スタートアップの成長とイノベーションを促進することを目指している。
パーシャルスピンオフ税制は、企業が自社の一部事業を新たに設立する子会社に移管する際、親会社が子会社の株式の一部を保有し続ける形態の事業再編を指す。この税制は、配当や譲渡損益に対する課税を対象外とする措置が講じられている。現状、パーシャルスピンオフ税制は、令和6年3月31日までの間に産業競争力強化法の事業再編計画の認定を受けた場合の時限的措置とされているが、令和6年度の税制改正によって期限の延長又は制度の恒久化が期待されている。
中堅・中小企業のM&A促進税制
2024年度の日本の税制改正では、中小企業のM&A(合併・買収)に関する税負担を軽減することが目指されています。この改正により、中小企業はM&Aを通じて生産性を向上させ、経営資源を集約することが促進されます。具体的な措置には、M&Aに伴う設備投資に関する税額控除、雇用確保を目的とした税制優遇、リスク軽減のための準備金設定などが含まれます。これらの措置は、経営資源の集約化に基づく再構築を目指す中小企業に適用されます。
2024年度の税制改正において、政府与党は中小企業のM&A(合併・買収)に関する税負担を軽減し、後継者不足問題の解決を図る。M&Aによる株式取得額の最大100%を税務上の損金として扱えるように変更し、従業員2000人以下の中堅企業も同様の税優遇を受けることができる。現行の制度では中小企業が他社をM&Aした場合、株式取得額の70%を損金に算入できるが、これを拡大し、中小企業同士のM&Aでは、2社目で90%、3社目以降は100%を損金算入する。中堅企業による中小企業の買収では、1社目は優遇せず、2社目以降は同様の水準に設定する。
損金算入が多いほど法人税が減るため、この制度は税負担の軽減に繋がる。条件として、過去5年以内に1億円以上のM&Aを行い、経営強化計画の認定を受けることが必要。また、経産省は益金への繰り入れ期間を現行の5年から20年に延長することを求めている。
この政策の背景には、中小企業の深刻な後継者不足問題がある。中小企業庁の試算では、2025年までに70歳を超える中小企業経営者が245万人に達し、うち127万人が後継者未定となっている。M&Aによる事業継続、販路開拓、業務効率化の促進が期待される。また、中堅企業への支援は、投資拡大や人材育成を後押しする目的もある。
所得税の改正点
- 所得税の改正では、国外居住親族に係る扶養控除等の見直し、特定配当等及び特定株式等譲渡所得金額に係る所得において、課税方式を所得税と住民税とで異なる課税方式を選択することができなくなる、生命保険料控除制度の拡充、死亡保険金の相続税非課税限度額の引上げが行われました。
所得税の定額減税に所得制限の導入
所得税と住民税から1人あたり4万円を差し引く定額減税が計画されており、年収2,000万円を超える層を対象外とすることで合意されています。
所得減税と防衛増税の交錯
所得減税の減税期間と所得制限の有無が議論の争点となっています。一時金や時限的な減税は貯蓄に回る割合が高いため、経済効果は比較的小さいとの見解もあります。
国外居住親族に係る扶養控除等の見直し
- 国外居住親族に係る扶養控除等の適用については、所得要件の判定において国内源泉所得が用いられており、国外で一定以上の所得を稼得している親族でも控除の対象とされていた。しかし、令和6年度の税制改正により、留学生や障害者、送金関係書類において38万円以上の送金等が確認できる者を除く年齢30歳以上70歳未満の日本国外の居住者について、扶養控除の適用対象から除外されることとなった。
児童手当の拡充に伴って、高校生などを扶養する場合の扶養控除の扱い
- 所得税の課税対象から差し引く控除額を年38万円から25万円に、住民税は年33万円から12万円に縮小する案をもとに来年結論を出す予定。そのうえで、子育て世帯への税制面の支援を強化するため、来年引き下げが予定されていた住宅ローン減税の対象となる借入額の上限を、子育て世帯や夫婦のいずれかが39歳以下の若い世帯に限っては、引き下げを見送る。
特定配当等及び特定株式等譲渡所得金額に係る所得において、課税方式を所得税と住民税とで異なる課税方式を選択することができなくなる
- 令和4年度税制改正により、令和6年度(令和5年分)から特定配当等及び特定株式等譲渡所得金額に係る所得の課税方式について所得税と一致させることとなり、所得税と異なる課税方式を選択することはできなくなった。
生命保険料控除制度の拡充
- 生命保険料控除制度の拡充が提案されており、所得税法上および地方税法上の介護医療・個人年金の各保険料控除の最高限度額を少なくとも5万円および3.5万円とすること、一般生命保険料控除については扶養している子どもがいる場合、6万円および4.2万円とすること、また、所得税法上の保険料控除の合計適用限度額を少なくとも14万円(扶養している子どもがいる場合、16万円)とすることが提案されている。
死亡保険金の相続税非課税限度額の引上げ
- 遺族の生活資金確保のため、相互扶助の原理に基づいて支払われる死亡保険金の相続税非課税限度額について、現行限度額(「法定相続人数×500万円」)の引上げが提案されている。
消費税の改正点
- 消費税の改正では、国民生活センターにおける適格消費者団体が行う差止請求関係業務の援助業務の新設に伴う税制上の非課税措置、新型コロナウイルス感染症に関する特別貸付けに係る消費貸借に関する契約書に係る印紙税の非課税措置の延長が行われました。
国民生活センターにおける適格消費者団体が行う差止請求関係業務の援助業務の新設に伴う税制上の非課税措置
- 令和4年の臨時国会で成立した消費者契約法及び独立行政法人国民生活センター法の一部を改正する法律(令和4年法律第99号、「国民生活センター法等改正法」)を踏まえ、国民生活センターにおける適格消費者団体が行う差止請求関係業務の援助に係る業務の用に供する資産について、固定資産税及び都市計画税を非課税とする措置が講じられました。これにより、全国各地で活動を行う適格消費者団体による差止請求の実施の基盤強化が図られ、地域における消費者被害の防止等を図ることが可能となりました。
新型コロナウイルス感染症に関する特別貸付けに係る消費貸借に関する契約書に係る印紙税の非課税措置の延長
- 新型コロナウイルス感染症の影響を受けている事業者に対して、消費貸借契約書に係る印紙税の非課税措置が設けられ、その措置が延長されました。これにより、経営に影響を受けた事業者に対して行う一定の金銭の貸付けに係る消費貸借契約書について、印紙税が非課税となりました。
その他の税制改正
- 森林環境税および森林環境譲与税の創設、NISA(少額投資非課税制度)の抜本的拡充が行われました。
森林環境税および森林環境譲与税の創設
- 森林環境税は、令和6年度(2024年)から国内に住所のある個人に対して課税される国税であり、市町村において、個人住民税均等割と併せて1人年額1,000円が課税されます。森林環境譲与税は、市町村と都道府県に対して、私有林人工林面積、林業就業者数及び人口による客観的な基準で按分して譲与されています。これらの税は、森林の有する公益的機能を維持・向上させるための財源として活用されます。
NISA(少額投資非課税制度)の抜本的拡充
- 2024年以降、NISAの抜本的拡充・恒久化が図られ、新しいNISAが導入される予定です。新しいNISAのポイントは、非課税保有期間の無期限化、口座開設期間の恒久化、つみたて投資枠と成長投資枠の併用が可能、年間投資枠の拡大(つみたて投資枠:年間120万円、成長投資枠:年間240万円、合計最大年間360万円まで投資が可能)、非課税保有限度額は全体で1,800万円(成長投資枠は1,200万円、枠の再利用が可能)となっています。これにより、投資家がより柔軟に投資を行い、資産形成を促進することが期待されます。
ガソリン税に関するトリガー条項の検討
- ガソリン税の一部引き下げに関する「トリガー条項」について、引き続き検討する方針が税制改正大綱に記載される。
外形標準課税の対象見直し
- 資本金と資本剰余金の合計が10億円を超える企業を課税対象とする方針が決定された。資本金が1億円を超える企業を対象とする外形標準課税に関して、課税逃れを防ぐための新たな基準が設定される予定です。
まとめ
令和6年度の税制改正は、企業の成長と環境対策を推進し、企業活動を支援することを目的としています。
具体的には、成長志向の中堅企業等の成長を支援するための設備投資や、規模拡大・高付加価値化を目的としたグループ化等を促進する措置が検討されています。
また、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の拡充及び延長も重要な改正点となります。法人税の改正では、中小企業向け賃上げ促進税制の拡充および延長、交際費の課税の特例(中小法人における損金算入の特例)措置の延長、中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例措置の延長が行われました。
所得税の改正では、国外居住親族に係る扶養控除等の見直し、特定配当等及び特定株式等譲渡所得金額に係る所得において、課税方式を所得税と住民税とで異なる課税方式を選択することができなくなる、生命保険料控除制度の拡充、死亡保険金の相続税非課税限度額の引上げが行われました。
これらの改正により、企業の成長と環境対策を推進し、企業活動を支援することが期待されます。また、投資家がより柔軟に投資を行い、資産形成を促進することも期待されます。