はじめに
令和6年度の税制改正の全体的な概要と目的については、経済の長期低迷からの脱却と成長を確実な軌道に乗せるため、企業による設備投資や無形資産・人への投資を後押しする税制措置が講じられることが予定されています。また、12月14日には税制改正大綱が決定されました。
2024年度の日本の税制改正の概要は、企業の成長と環境対策を推進し、企業活動を支援することを目的としています。法人税、所得税、消費税など様々な分野で改正が行われており、特に中小企業向けの賃上げ促進税制の拡充や延長、交際費の課税特例の延長、M&A促進税制の導入などが含まれます。これにより、企業の成長と環境対策を推進し、企業活動を支援することが期待されます
また、成長志向の中堅企業等の成長を支援するため、新たな需要獲得等に資する設備投資や、規模拡大・高付加価値化を目的としたグループ化等を促進する措置が検討されています。
また、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の拡充及び延長も重要な改正点となります。さらに、交際費の課税特例についても見直しが行われる予定です。
これらの改正は、企業の成長と環境対策を推進し、企業活動を支援することを目的としています。
スタートアップ関連税制
ストックオプション税制の改正
ストックオプション税制の年間の権利行使価額の上限を、スタートアップが発行したものについて、最大で現行の3倍となる年間 3,600 万円への引上げを実施する。
法人税の改正点
法人税の改正では、中小企業向け賃上げ促進税制の拡充および延長、交際費の課税の特例(中小法人における損金算入の特例)措置の延長、中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例措置の延長が行われました。
大企業向け賃上げ促進税制改正
- 大企業が前年度比で給与総額を7%以上増やした場合、増額分の最大35%が法人税から控除される。
- 子育て支援や女性の活躍促進に積極的な企業に対する税優遇も拡大される。
- 現行制度では、継続雇用者の給与総額を3%以上増やした場合、増加分の15%(4%以上なら25%)が控除される。改正後は、3%増の控除率が10%に引き下げられる。
中堅企業のための新優遇枠
- 従業員2000人以下の中堅企業も新たな税優遇枠が設けられる。給与総額が前年度比3%以上増えた場合、増加分の10%(4%以上なら25%)が法人税から控除される。
中小企業向け賃上げ促進税制の拡充および延長
- 中小企業向け「賃上げ促進税制」は、青色申告書を提出している中小企業者等が、一定の要件を満たした上で、前年度より給与等の支給額を増加させた場合、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。この制度は令和4年4月1日から令和6年3月31日までの間に開始する各事業年度が対象となっています。
中小企業への税優遇措置
- 中小企業が賃上げの基準を満たすが赤字の場合、「繰越控除措置」を新設し、税額控除分を黒字時まで繰り越せるようにする。賃上げを実施した企業の法人税を減税する「賃上げ税制」の税額控除では、赤字などの中小企業でも5年以内であれば黒字になるまで減税の優遇措置を繰り越せる制度を導入する。
- また、持続的な賃上げを実現する観点から、繰越控除する年度については、全雇用者の給与等支給額が対前年度から増加していることを要件とすることが示されています。
交際費の課税の特例(中小法人における損金算入の特例)措置の延長
- 交際費等とならずに損金算入可能な飲食費の上限(1人あたり 5,000 円以下)を引き上げるとともに、飲食費の 50%を損金算入できる特例措置。
中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例措置の延長
- 中小企業者等が、取得価額が30万円未満である減価償却資産(以下「少額減価償却資産」といいます。)を平成18年4月1日から令和6年3月31日までの間に取得などして事業の用に供した場合には、一定の要件のもとに、その取得価額に相当する金額を損金の額に算入することができます。
国内研究・開発関連の新税制
イノベーションボックス税制(研究開発の成果からの所得に対する税率の優遇)の創設を要望
経済産業省、厚生労働省、農林水産省の3省は、令和6年度税制改正において、国内で開発された知的財産から生じる所得に対する優遇税率を適用する制度(イノベーションボックス税制)の創設を要望している。この制度は、我が国の研究開発拠点としての立地競争力を向上し、民間企業の無形資産投資を後押しするためのもの。具体的には、民間企業の課税所得のうち、我が国で開発した知的財産に由来する所得に対して優遇税率を適用する新たな措置を創設することを目指している。
現行の研究開発税制では、研究開発を行う企業が、法人税額(国税)から、試験研究費の一定割合(2~14%)を控除できる制度があります。控除できる金額は、原則として、法人税額の25%が上限となっている。この制度は、民間企業の研究開発投資を維持・拡大することにより、イノベーション創出に繋がる中長期・革新的な研究開発等を促し、我が国の成長力・国際競争力を強化することを目的としている。
企業が国内で自ら研究開発を行った特許権又はAI分野のソフトウェアに係る著作権について、当該知的財産の国内への譲渡所得又は国内外からのライセンス所得に対して、所得の 30%の所得控除を認める制度を設けることとされています。また、イノベーションボックス税制の対象範囲については、制度の執行状況や効果を十分に検証した上で、国際ルールとの整合性、官民の事務負担の検証、立証責任の所在等諸外国との違いや体制面を含めた税務当局の執行可能性等の観点から、財源確保の状況も踏まえ、状況に応じ、見直しを検討することが示されています。
戦略分野国内生産促進税制の創設
GX、DX、経済安全保障という戦略分野において、民間として事業採算性に乗りにくいが、国として特段に戦略的な長期投資が不可欠となる投資を選定し、それらを対象として生産・販売量に比例して法人税額を控除する戦略分野国内生産促進税制を創設することが示されています。
具体的な対象物資は、電気自動車等(蓄電池)、グリーンスチール、グリーンケミカル、SAF(持続可能な航空燃料)、半導体とし、物資毎に単価を設定することが示されています。また、措置期間を通じた控除上限は、既設の建屋等を含む生産設備全体の額とするほか、各年度の控除上限として、当期の法人税額の40%(半導体については当期の法人税額の20%)との上限を設けることが記載されています。
政府・与党は、企業が国内で研究・開発した特許や著作権で得られた所得の30%を課税対象から差し引く新たな法人税減税措置を導入する方針です。この措置は、国内の研究開発を促進し、企業の国際競争力を高めることを目的としています。
具体的には、企業が国内で行った研究・開発により得られた特許や著作権による所得の30%が課税対象から控除される新税制が導入されます。
研究開発費用の税制上の取扱い
令和6年度の法人税の改正点には、企業が国内で行った研究・開発により得られた特許や著作権による所得の30%が課税対象から控除される新税制が導入されるというものがあります。この新税制は、企業の国内での研究・開発を促進し、国際競争力を高めることを目的としています。
具体的には、2024年4月以降に国内での研究・開発によって取得した特許や著作権で得られた所得の30%を、課税対象の所得から控除する方向です。減税の対象は、その企業の知的財産を第三者が使用した場合のライセンス収入や、知的財産を売却した際の所得に限られ、知的財産を使った製品の売り上げは対象とはならない見込みです。
この新税制の創設に伴い、企業の研究開発費に応じて法人税を減税する現在の「研究開発税制」は、研究開発費が減少している場合、段階的に縮小する方向で調整される予定です。
オープンイノベーション促進税制やパーシャルスピンオフ税制の恒久化の要望
これらの税制は一般的には新たなビジネスモデルや技術開発を促進するためのもので、その恒久化は企業の研究開発活動やイノベーションを継続的に支援するための要望と考えられている。
オープンイノベーション促進税制は、大企業がスタートアップに投資することを奨励するための制度で、投資した金額の一部を所得控除することができる。この制度は、スタートアップの成長とイノベーションを促進することを目指している。
パーシャルスピンオフ税制は、企業が自社の一部事業を新たに設立する子会社に移管する際、親会社が子会社の株式の一部を保有し続ける形態の事業再編を指す。この税制は、配当や譲渡損益に対する課税を対象外とする措置が講じられている。現状、パーシャルスピンオフ税制は、令和6年3月31日までの間に産業競争力強化法の事業再編計画の認定を受けた場合の時限的措置とされているが、令和6年度の税制改正によって期限の延長又は制度の恒久化が期待されている。
中堅・中小企業のM&A促進税制
2024年度の日本の税制改正では、中小企業のM&A(合併・買収)に関する税負担を軽減することが目指されています。この改正により、中小企業はM&Aを通じて生産性を向上させ、経営資源を集約することが促進されます。具体的な措置には、M&Aに伴う設備投資に関する税額控除、雇用確保を目的とした税制優遇、リスク軽減のための準備金設定などが含まれます。これらの措置は、経営資源の集約化に基づく再構築を目指す中小企業に適用されます。
2024年度の税制改正において、政府与党は中小企業のM&A(合併・買収)に関する税負担を軽減し、後継者不足問題の解決を図る。M&Aによる株式取得額の最大100%を税務上の損金として扱えるように変更し、従業員2000人以下の中堅企業も同様の税優遇を受けることができる。現行の制度では中小企業が他社をM&Aした場合、株式取得額の70%を損金に算入できるが、これを拡大し、中小企業同士のM&Aでは、2社目で90%、3社目以降は100%を損金算入する。中堅企業による中小企業の買収では、1社目は優遇せず、2社目以降は同様の水準に設定する。
損金算入が多いほど法人税が減るため、この制度は税負担の軽減に繋がる。条件として、過去5年以内に1億円以上のM&Aを行い、経営強化計画の認定を受けることが必要。また、経産省は益金への繰り入れ期間を現行の5年から20年に延長することを求めている。
この政策の背景には、中小企業の深刻な後継者不足問題がある。中小企業庁の試算では、2025年までに70歳を超える中小企業経営者が245万人に達し、うち127万人が後継者未定となっている。M&Aによる事業継続、販路開拓、業務効率化の促進が期待される。また、中堅企業への支援は、投資拡大や人材育成を後押しする目的もある。
所得税の改正点
- 所得税の改正では、国外居住親族に係る扶養控除等の見直し、特定配当等及び特定株式等譲渡所得金額に係る所得において、課税方式を所得税と住民税とで異なる課税方式を選択することができなくなる、生命保険料控除制度の拡充、死亡保険金の相続税非課税限度額の引上げが行われました。
所得税の定額減税に所得制限の導入
所得税と住民税から1人あたり4万円を差し引く定額減税が計画されており、年収2,000万円を超える層を対象外とすることで合意されています。
所得減税と防衛増税の交錯
所得減税の減税期間と所得制限の有無が議論の争点となっています。一時金や時限的な減税は貯蓄に回る割合が高いため、経済効果は比較的小さいとの見解もあります。
国外居住親族に係る扶養控除等の見直し
- 国外居住親族に係る扶養控除等の適用については、所得要件の判定において国内源泉所得が用いられており、国外で一定以上の所得を稼得している親族でも控除の対象とされていた。しかし、令和6年度の税制改正により、留学生や障害者、送金関係書類において38万円以上の送金等が確認できる者を除く年齢30歳以上70歳未満の日本国外の居住者について、扶養控除の適用対象から除外されることとなった。
児童手当の拡充に伴って、高校生などを扶養する場合の扶養控除の扱い
- 所得税の課税対象から差し引く控除額を年38万円から25万円に、住民税は年33万円から12万円に縮小する案をもとに来年結論を出す予定。そのうえで、子育て世帯への税制面の支援を強化するため、来年引き下げが予定されていた住宅ローン減税の対象となる借入額の上限を、子育て世帯や夫婦のいずれかが39歳以下の若い世帯に限っては、引き下げを見送る。
特定配当等及び特定株式等譲渡所得金額に係る所得において、課税方式を所得税と住民税とで異なる課税方式を選択することができなくなる
- 令和4年度税制改正により、令和6年度(令和5年分)から特定配当等及び特定株式等譲渡所得金額に係る所得の課税方式について所得税と一致させることとなり、所得税と異なる課税方式を選択することはできなくなった。
生命保険料控除制度の拡充
- 生命保険料控除制度の拡充が提案されており、所得税法上および地方税法上の介護医療・個人年金の各保険料控除の最高限度額を少なくとも5万円および3.5万円とすること、一般生命保険料控除については扶養している子どもがいる場合、6万円および4.2万円とすること、また、所得税法上の保険料控除の合計適用限度額を少なくとも14万円(扶養している子どもがいる場合、16万円)とすることが提案されている。
死亡保険金の相続税非課税限度額の引上げ
- 遺族の生活資金確保のため、相互扶助の原理に基づいて支払われる死亡保険金の相続税非課税限度額について、現行限度額(「法定相続人数×500万円」)の引上げが提案されている。
消費税の改正点
- 消費税の改正では、国民生活センターにおける適格消費者団体が行う差止請求関係業務の援助業務の新設に伴う税制上の非課税措置、新型コロナウイルス感染症に関する特別貸付けに係る消費貸借に関する契約書に係る印紙税の非課税措置の延長が行われました。
国民生活センターにおける適格消費者団体が行う差止請求関係業務の援助業務の新設に伴う税制上の非課税措置
- 令和4年の臨時国会で成立した消費者契約法及び独立行政法人国民生活センター法の一部を改正する法律(令和4年法律第99号、「国民生活センター法等改正法」)を踏まえ、国民生活センターにおける適格消費者団体が行う差止請求関係業務の援助に係る業務の用に供する資産について、固定資産税及び都市計画税を非課税とする措置が講じられました。これにより、全国各地で活動を行う適格消費者団体による差止請求の実施の基盤強化が図られ、地域における消費者被害の防止等を図ることが可能となりました。
新型コロナウイルス感染症に関する特別貸付けに係る消費貸借に関する契約書に係る印紙税の非課税措置の延長
- 新型コロナウイルス感染症の影響を受けている事業者に対して、消費貸借契約書に係る印紙税の非課税措置が設けられ、その措置が延長されました。これにより、経営に影響を受けた事業者に対して行う一定の金銭の貸付けに係る消費貸借契約書について、印紙税が非課税となりました。
その他の税制改正
- 森林環境税および森林環境譲与税の創設、NISA(少額投資非課税制度)の抜本的拡充が行われました。
森林環境税および森林環境譲与税の創設
- 森林環境税は、令和6年度(2024年)から国内に住所のある個人に対して課税される国税であり、市町村において、個人住民税均等割と併せて1人年額1,000円が課税されます。森林環境譲与税は、市町村と都道府県に対して、私有林人工林面積、林業就業者数及び人口による客観的な基準で按分して譲与されています。これらの税は、森林の有する公益的機能を維持・向上させるための財源として活用されます。
NISA(少額投資非課税制度)の抜本的拡充
- 2024年以降、NISAの抜本的拡充・恒久化が図られ、新しいNISAが導入される予定です。新しいNISAのポイントは、非課税保有期間の無期限化、口座開設期間の恒久化、つみたて投資枠と成長投資枠の併用が可能、年間投資枠の拡大(つみたて投資枠:年間120万円、成長投資枠:年間240万円、合計最大年間360万円まで投資が可能)、非課税保有限度額は全体で1,800万円(成長投資枠は1,200万円、枠の再利用が可能)となっています。これにより、投資家がより柔軟に投資を行い、資産形成を促進することが期待されます。
ガソリン税に関するトリガー条項の検討
- ガソリン税の一部引き下げに関する「トリガー条項」について、引き続き検討する方針が税制改正大綱に記載される。
外形標準課税の対象見直し
- 資本金と資本剰余金の合計が10億円を超える企業を課税対象とする方針が決定された。資本金が1億円を超える企業を対象とする外形標準課税に関して、課税逃れを防ぐための新たな基準が設定される予定です。
まとめ
令和6年度の税制改正は、企業の成長と環境対策を推進し、企業活動を支援することを目的としています。
具体的には、成長志向の中堅企業等の成長を支援するための設備投資や、規模拡大・高付加価値化を目的としたグループ化等を促進する措置が検討されています。
また、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の拡充及び延長も重要な改正点となります。法人税の改正では、中小企業向け賃上げ促進税制の拡充および延長、交際費の課税の特例(中小法人における損金算入の特例)措置の延長、中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例措置の延長が行われました。
所得税の改正では、国外居住親族に係る扶養控除等の見直し、特定配当等及び特定株式等譲渡所得金額に係る所得において、課税方式を所得税と住民税とで異なる課税方式を選択することができなくなる、生命保険料控除制度の拡充、死亡保険金の相続税非課税限度額の引上げが行われました。
これらの改正により、企業の成長と環境対策を推進し、企業活動を支援することが期待されます。また、投資家がより柔軟に投資を行い、資産形成を促進することも期待されます。