新しい資本主義を実現するため、日本政府が掲げるスタートアップ育成5カ年計画とは?
岸田文雄首相が掲げる経済政策「新しい資本主義」の目玉の一つである「スタートアップ育成5か年計画」が2023年から本格的に動き出します。
2022年に日本政府が革新的なビジネスを生み出すスタートアップ企業を支援するため、今後5年間でスタートアップへの投資額を10兆円規模に拡大することを目指す育成計画案をまとめました。
長期的なビジョンを示し、複数年にわたって官民が協働で支援することで官民で一致団結した取り組みが可能となっています。
政府は2022年をスタートアップ創出元年と位置づけ、2022年末に「スタートアップ育成5か年計画」を策定しました。スタートアップ関連施策に過去最大規模の約1兆円の予算措置を講じるなど、岸田内閣の「本気度」が垣間見れます。
この計画案では、スタートアップ企業への投資額を今後5年間(2027年度まで)で現在の8000億円規模の10倍以上となる10兆円規模に拡大するほか、創業を目指す若手人材に経験を積んでもらうため1000人規模で海外派遣することなどを目標に掲げています。また、将来において、ユニコーン企業を100社創出し、スタートアップ企業を10万社創出することを目指しています。
<参照:INITIAL JAPAN STARTUP FIINANCE 2022h1>
スタートアップは、社会課題の解決を目指し、社会課題を成長エンジンに変える役割をになっています。スタートアップが社会課題を解決することで、持続可能な経済社会を実現すること、すなわち新しい資本主義の考え方を体現するものと考えられています。
3本の柱
この計画の具体的な取り組みとしては、以下のようなものが挙げられます。
1. スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築
2. スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化
3. オープンイノベーションの推進
「スタートアップ育成5カ年計画」の具体的な取り組みの背景としては米国や欧州と比べると、日本の開業率は低水準で推移していることが挙げられます。「起業」を望ましい職業選択と考える人の割合は、中国は79%、米国は68%に対して、日本は25%となっており、これは先進国・主要国の中で最も低い水準にあります。
そのために、スタートアップに関する情報発信や海外からの人材の受け入れの促進などが検討されています。また、資金調達の支援として、個人保証の慣行の廃止や、公共調達の拡大も必要です。さらに、スタートアップ企業がより長期的に事業を展開できるように、上場後の株式保有期間を延長するなど、投資環境の整備も進められます。
12の取り組み
1. メンターによる支援事業の拡大・横展開
2. 海外における起業家育成の拠点の創設(出島事業)
3. 米国大学の日本向け起業家育成プログラムの創設などを含む、アントレプレナー教育の強化
4. 1大学1イグジット運動
5. 大学・小中高生でのスタートアップ創出に向けた支援
6. 高等専門学校における起業家教育の強化
7. グローバルスタートアップキャンパス構想
8. スタートアップ・大学における知的財産戦略
9. 研究分野の担い手の拡大
10. 海外起業家・投資家の誘致拡大
11. 再チャレンジを支援する環境の整備
12. 国内の起業家コミュニティの形成促進
スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化
1. 中小企業基盤整備機構のベンチャーキャピタルへの出資機能の強化
2. 産業革新投資機構の出資機能の強化
3. 官民ファンド等の出資機能の強化
4. 新エネルギー・産業技術総合開発機構による研究開発型スタートアップへの支援策の強化
5. 日本医療研究開発機構による創薬ベンチャーへの支援強化
6. 海外先進エコシステムとの接続強化
7. スタートアップへの投資を促すための措置
8. 個人からベンチャーキャピタルへの投資促進
9. ストックオプションの環境整備
10. RSU(Restricted Stock Unit:事後交付型譲渡制限付株式)の活用に向けた環境整備
11. 株式投資型クラウドファンディングの活用に向けた環境整備
12. SBIR(Small Business Innovation Research)制度の抜本見直しと公共調達の促進
13. 経営者の個人保証を不要にする制度の見直し
14. IPO プロセスの整備
15. SPAC(特別買収目的会社)の検討
16. 未上場株のセカンダリーマーケットの整備
17. 特定投資家私募制度の見直し
18. 海外進出を促すための出国税等に関する税制上の措置
19. Web3.0 に関する環境整備
20. 事業成長担保権の創設
21. 個人金融資産及びGPIF等の長期運用資金のベンチャー投資への循環
22. 銀行等によるスタートアップへの融資促進
23. 社会的起業のエコシステムの整備とインパクト投資の推進
24. 海外スタートアップの呼び込み、国内スタートアップ海外展開の強化
25. 海外の投資家やベンチャーキャピタルを呼び込むための環境整備
26. 地方におけるスタートアップ創出の強化
27. 福島でのスタートアップ創出の支援
28. 2025年大阪・関西万博でのスタートアップの活用
大企業とスタートアップのオープンイノベーション
1. オープンイノベーションを促すための税制措置等の在り方
2. 公募増資ルールの見直し
3. 事業再構築のための私的整理法制の整備
4. スタートアップへの円滑な労働移動
5. 組織再編の更なる加速に向けた検討
6. M&A を促進するための国際会計基準(IFRS)の任意適用の拡大
7. スタートアップ・エコシステムの全体像把握のためのデータの収集・整理
8. 公共サービスやインフラに関するデータのオープン化の推進
9. 大企業とスタートアップのネットワーク強化
ユニコーン企業の創出
スタートアップを10万社創出し、その中から評価額1千億円(企業価値が10億ドル)以上の未上場スタートアップ企業を意味する「ユニコーン」を、現在の6社から将来は100社に増やすこともめざしている。
https://expact.jp/unicorn/
大学発スタートアップのEXIT支援
また大学発スタートアップを増やすため、1大学につき1社のIPO(新規株式公開)やM&A(合併・買収)を目指す運動も進める。
リスクマネーの供給拡大
産業競争力強化法を24年メドに改正し、産業革新投資機構(JIC)の運用期限を現在の34年から50年までに延ばす。2000億円の基金を設けスタートアップ企業が革新的な事業を軌道にのせる後押しを行うとしている。
スタートアップに投資した投資家などが別のスタートアップに再投資する場合は非課税とすることや起業家が自社株を売却して別の新興企業に再投資することも支援する。大企業がスタートアップに投資した際の優遇税制の拡大(大企業による既存発行株式取得時の優遇措置を設ける等)、上場されていない株の売買ができる市場の整備などで国内外からの投資を促したい考え。
ストックオプション(SO)の優遇拡大
さらに、企業が報酬として従業員などに与える自社株購入の権利「ストックオプション」に関する税の優遇措置を拡充することや企業が社員らに付与するストックオプションの期間も、現在の最大10年から延長する。
スタートアップキャンパス構想(GSUC)
日本での技術革新を促進し、才能を育成するという野心的な取り組みの一環として、スタートアップ・キャンパス構想という新たなプロジェクトが立ち上げられています。この画期的な取り組みは、AIを含む最先端技術の研究で名高い世界の大学を引き寄せることを目指しています。このプロジェクトの中心にあるのは、東京に「グローバル・スタートアップ・キャンパス」を設立するという計画です。
このプロジェクトの主要な共同者の一つは、技術研究のリーダーシップで名高いアメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)です。
この未来のイノベーションの中心地となる予定の場所は、東京の目黒区と渋谷区にまたがる広大な20,000平方メートル以上のエリアです。日本政府は、キャンパスの正式な開設を2028年に予定しており、これは日本の技術教育と世界での存在感に明るい未来を示しています。この事業は大いに期待されており、東京にMITの顕著な足跡を刻むことになると、この街の活気ある学術的、技術的エコシステムに付加価値をもたらすことになるでしょう。
今後の動向にも注目です。
まとめ
政府は、新しい資本主義を実現するために、スタートアップ育成に力を入れており、そのためには様々な取り組みが行われています。スタートアップ企業が社会的課題を解決することで、持続可能な経済社会を実現するための「新しい資本主義」の考え方が体現されています。
岸田総理大臣は今年を「スタートアップ創出元年」と位置付け、「計画を着実に実行し、日本をアジア最大の『スタートアップハブ』とする」とも述べています。今後のスタートアップ政策にも注目していきたいと思います。
参考記事
日経新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA245RQ0U2A121C2000000/
DIAMOND SIGNAL:https://signal.diamond.jp/articles/-/1516