
新しいサービスやツール、設備を導入する際、多くの人がまず注目するのが「初期費用」(=イニシャルコスト)です。
「イニシャルコストが高いから、やめておこう」
「初期0円のサブスクのほうが手軽で良さそう」
こうした判断は決して間違いではありませんが、初期費用(イニシャルコスト)だけで比較するのは危険です。むしろ、本質的に見なければならないのは、長期的に発生する“ランニングコスト(維持費・運用費)”を含めた“総コスト”の設計です。
このコラムでは、イニシャルコストとランニングコストの違いを整理したうえで、実際の企業事例も交えながら、賢い意思決定のヒントをお届けします。
そもそもランニングコストとイニシャルコストの意味は?何が違うの?
用語の基本:イニシャルコストとランニングコスト
用語 | 意味 | 代表例 |
イニシャルコスト(Initial Cost) | 導入・購入など、初期段階にかかる費用 | 設備投資、初期開発費、導入コンサル費用など |
ランニングコスト(Running Cost) | 継続的な運用・維持にかかる費用 | 月額料金、保守費、人件費、更新費など |
例えるなら、家を買う時の「頭金」と「ローン返済・管理費」の関係に近いものです。
よくある「安さの落とし穴」
近年は、SaaS型ツールや月額制のクラウドサービスの普及により、「初期費用ゼロ」で導入可能なプロダクトが急増しています。一見すると合理的で、試しやすく、経費処理もしやすい。しかし、ここにこそ大きな罠が潜んでいます。
たとえば、以下のようなケース
・月額課金型のツールを複数導入 → 毎月数万円の固定費に
・安価なレンタルサーバーを使い続けた結果、スピードやセキュリティに課題発生
・外注開発で安く作ったシステム → 保守性が低く、改善ごとに追加コスト
つまり、導入時だけでなく「使い続ける前提」で考える視点が重要なのです。
実際の企業例_意思決定を左右したコスト構造_
事例1:free VS 弥生会計_見かけの価格 vs 累計コスト_
ある中堅企業では、会計ソフトを選定する際、「freee(クラウド型)」と「弥生会計(インストール型)」で比較検討を実施。
最初はfreeeの手軽さに惹かれたが、試算してみると、3年後には弥生の方が安いという結果に。さらに、操作性・サポート体制・セキュリティを評価し、弥生を選択。
→ 初期の「導入しやすさ」よりも、3〜5年スパンでの累積コスト(TCO)を重視すべきであるということがわかりました。
事例2:Airtable_“拡張性の代償”に気づけなかったノーコード導入_
プロジェクト管理とデータベースを一体化した柔軟なノーコードツールとして人気のAirtable。E社では、Excelベースの情報管理から脱却するため、無料プランでの導入を開始。操作性が高く、UIも優れており、チームの満足度も高かったようです。しかし、業務全体がAirtableに依存するにつれ、以下のような課題が顕在化しました。
- ビューの数・自動化・API接続など、業務活用には有料プランが必須
- ユーザー数が拡大するにつれ、月額10万円以上の支払いにスライド
- データベースが複雑化した結果、エンジニアでないと管理困難に
また、機能が豊富な分、他部門への横展開にはマニュアル整備や教育の負荷もかかった。
→スモールスタートできるツールほど、「スケール時のランニングコスト」が上がる可能性を見積もるべき。
事例3:Chatwork──“無料導入定着”のはずが…
使いこないことから、サンクコスト化国産のビジネスチャットツールとして広く導入されているChatwork。
- 社内にすでに「LINE WORKS」やメール文化が浸透しており、Chatworkの利用率が伸びなかった
- 結果的に、有料プランへ移行したものの、アクティブユーザーは3割以下
- 「せっかく導入したから」と続けているが、**実質的には“使われていない有料ツール”**に
→ランニングコストは“利用実態に対する費用対効果”で評価すべき。「安いから」「無駄じゃないはずだ」と思い込んで継続すると、組織のサンクコスト化につながる可能性がある。
このように、無料/低価格で導入できるツールであっても、拡張性・定着性・組織との相性を見誤ると、かえって高コストな選択になることがあります。。
イニシャルコストが高いことは悪なのか?
必ずしもそうではありません。むしろ、「初期投資は高いが、その後の維持費が安い」「自社でコントロールできる構造」など、長期的な視点で優位性があるケースも多くあります。
例:買い切り型 vs サブスク型
プラン | 初期コスト | 維持コスト | 3年後の累計 |
サブスク型 | 0円 | 月額2万円 | 72万円 |
買い切り型 | 50万円 | 年間保守5万円 | 65万円 |
→3年後に逆転。使用期間が長い程、買い切り型の方がコスト効率が良くなることも。
見るべき4つの視点
・累積コストで比較する(TCO思考)
→ 初期費用+ランニングコストを3〜5年スパンで算出
・拡張性(スケーラビリティ)を加味する
→ 人数やデータ量が増えた時にどうなるか?
・業務への影響=“人的ランニングコスト”も想定する
→ ツールが業務にどう影響するか、習熟にどれだけ時間がかかるか
・最悪パターン時の「固定費の重さ」を想像する
→ 利用頻度が下がったとき、コストが身軽に調整できるか
最後に_”安さ”より”持続可能性”を_
イニシャルコストが安いという理由だけで選ぶと、後から「使い続けられない」ことになりかねません。逆に、高い初期投資があっても、その後の運用が安定し、組織にとって持続的に機能する選択であれば、それは**正しい“経済的選択”**です。
「今いくらかかるか」ではなく、
「3年後、自分たちの負担はどう変わっているか?」
要するに、「長い目で見た時のコストパフォーマンス」に留意していく必要があるでしょう。
それを想像できる企業ならば、コストをコントロールした戦略的な成長を実現できるのです。
参考資料:
・https://www.meti.go.jp/press/2022/04/20220411001/20220411001.html
・https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2023/honbun/index.html
・https://forbesjapan.com/articles/detail/39675
・https://newspicks.com/news/6365451/
・https://bizhint.jp/report/561206
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