ESG×サスティナブルな上場フレーム『SPO』とは何か?
ご存じの通り、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の終息を迎え、私たちの生活や経済は新しい段階に入りました。しかし、その影響はまだ多くの面で感じられ、企業の経営環境も大きく変わりました。
各地で戦争が起こるなど不確実性が高まっ
このような事業環境を踏まえ、ステー
ステークホルダーから信頼
また、企業を取り巻く環境変化のスピードが増し、財務情報だけでは企業が継続的に収益をあげ続けられるか判断しにくい傾向にある為、非財務情報の重要性が増しています。その中でESGや非財務情報の価値をいかに顕在化し、企業価値に結び付けていくかが重要な課題となっています。
非財務情報の活用は、企業の持続可能な成長を促進し、多様なステークホルダーからの信頼を獲得する上で不可欠です。以下では、ESGや非財務情報を活用して企業価値を向上させるための具体的な取り組みについて説明します。
まず、企業はESG(環境、社会、ガバナンス)の取り組みを強化することで、環境や社会貢献に配慮した経営を行い、持続可能な価値創造を目指す必要があります。環境面では、CO2排出量の削減やリサイクル活動の推進などが挙げられます。社会面では、働き方改革や人権問題の解決、地域社会との連携を重視することが求められます。ガバナンス面では、企業の経営陣や役員の選任や報酬に関する透明性や適正性を確保することも重要です。
2021年8月31日、Allbirds(オールバーズ)というアメリカのシューズ会社がナスダック市場へ新規上場申請(IPO)をしました。
ここで注目されているのが『SPO』という新しいフレームワークです。SPOは”Sustainable Public Equity Offering”の略で、未上場企業が上場する際、ESGに配慮した会社であることを証明するためのものとなります。持続可能なパブリックエクイティオファリングとして今後注目を集めそうです。このSPOについて、この記事では解説していきます。
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高まるESG企業のニーズ
ESGとは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の略で、ESGに取り組む企業には投資家からの支持が集まりやすく、収益性に加えて企業の持続的な成長のための重要な指標になっています。
SPO認定とは
SPO認定をされることが、サステナブルなIPO(=SPO)として認められることになります。SPOとしての資格を得るには、発行者の発行者基準への準拠を1つ以上の独立したサードパーティ(第三者機関)が定義されたESG基準を満たしていると評価する必要があります。サードパーティは、発行者が関連する発行者基準を満たしていることを確認する結果に基づいてレポートを発行し、パブリックエクイティの提供が完了する前に、そのレポートを公開します。
要するに上場前に、”ESG格付け機関”から評価を受けて情報を開示する必要があります。SPO認定は、上場のタイミングでサスティナビリティな企業であることのアピールに繋がるため投資資金を集めやすくなる手段となりえます。
SPO認定への考察
現在の仕組みから考えると、新規上場企業であること、また認定機関の厳しい基準を通過することなどからそこまでSPO認定企業は急速に増えないものと予測できます。
一方で、SPO認定されている企業は『本物のESG企業』として認識される可能性が高いです。
ESGの課題として、企業ごとに取り組みの度合いが異なるため一律の評価がしにくいため、何をもってESG企業と認識するのか投資家によって個人差がありました。
上場時にSPOと認定されるためには、ESGに関する19の基準に対して上場時のコミットと毎年の報告を行う必要があり、かつESG専任の役員が1名以上必要です。
日本では専任人材も少なく、海外の事例が増えたり、日本国内でSDGsの認識がもっと浸透して人材が育成されてくることが重要と感じます。
ESGに関する19の基準
BSR社で公開されている19の基準を紹介します。
ご覧いただくとかなり厳しめの審査内容であることがわかります。
基準1
発行者(上場予定会社)は、広く認識されているサードパーティのESGレビュアーから環境、社会、ガバナンス(ESG)の評価を受け、評価の概要とESGレビュアーの資格情報を開示。発行者のESGパフォーマンスは、ESGレビュアーのカバレッジユニバースの上位3分の1にある必要がある。発行者の自己評価は許可されない。
基準2
発行者は、主要な利害関係者(顧客、従業員、サプライヤー、株主、外部の利害関係者など)に関連するビジネスモデル、製品、およびサービスに、社会的および/または環境へのプラスの影響がどのように組み込まれているかを明確に示す。 SEC登録出願あるいは、Public Benefit Corporation、Benefit Corporation、またはSocial PurposeCorporationのステータスを通じてこの基準を満たすこともできる。
基準3
発行者はすでに報告しているか、主要なESG要因について毎年の報告をコミットする。企業は、投資家の聴衆にとって、財務的に重要な業界固有の持続可能性関連のリスクと機会に関する1つ以上の包括的な報告フレームワーク(例:持続可能性会計基準委員会、またはSASB)を使用したり、規制開示要件を満たすことに加えて、利害関係者の聴衆(例えば、グローバルレポーティングイニシアチブ、またはGRI)のための会社の活動および貢献、または統合された報告アプローチを追求する。このレポートには、SPO発行者の各基準に対する発行者のパフォーマンスへの明確かつ明示的な参照も含まれる。
基準4
発行者は、気候関連財務情報開示タスクフォースの推奨事項に従ってすでに報告しているか、IPOから24か月以内に報告し、気候関連リスクの将来を見据えた理解、管理、および開示を実証しなければならない。
基準5
①発行者はすでにスコープ1、2、および3の排出量を報告済である。
②発行者はすでにIPOでスコープ1と2の排出量を検証しており、IPOから6か月以内にスコープ3の排出量を検証するか、スコープ3の排出量を検証できない理由を説明する。
③発行者は、スコープ1、2、および3の排出量を毎年報告および検証にコミットする。
基準6
発行者は、IPOから1年以内に、次のような炭素排出削減目標を設定することを約束する必要がある。
①スコープ1、2、3をできるだけ早く、2040年までにカバーする正味ゼロ排出量を目指す
②1.5°Cの温度シナリオに合わせて調整され、暫定目標は2030年までに測定されます。
基準7
発行者は、最も重要な環境問題(水、廃棄物/循環、生物多様性、土地利用、化学物質の使用、エネルギーの使用、天然資源の使用など)、および該当する労働安全衛生の原則に対処するための全社的なポリシーまたはプログラムを持つ必要がある。従業員のために、発行者は進捗状況を毎年報告することを約束しなければならない。
基準8
発行者はTier1サプライヤーに、最も重要な環境問題(水、廃棄物/循環、生物多様性、土地利用、化学物質の使用、エネルギーの使用、天然資源の使用など)に対処するよう要求するように設計されたポリシーまたはプログラムを持つ必要がある。発行者は、進捗状況を毎年報告することを約束する。
基準9
発行者は、国際労働機関によって定義されたコア労働基準または現地の法的要件のいずれか高い方に基づいて、Tier1サプライチェーン労働基準を監視および実施するためのポリシーまたはプログラムを実施する。このようなポリシーとプログラムは、評価によってサポートおよび検証され、発行者は進捗状況を毎年報告することを約束する。
基準10
発行者は、従業員の多様性(たとえば、性別/人種/民族/出身国/性的指向/宗教/障害/年齢(法的にそのような従業員データの収集が許可されている場合))を達成および維持することを約束し、現在および毎年、集計を含む進捗状況を報告する。代表、目標、職種、報酬に関するデータに加えて、人員、リーダーシップ、取締役会メンバー向けの継続的なトレーニングの実施を約束する。
基準11
発行者は、地域の規制で定義されているように、中央値の賃金格差と平均の賃金格差に関する目標に向けた進捗状況を毎年報告することを約束する。
基準12
発行者は、IPOから1年以内に、ビジネスと人権に関する国連指導原則と一致する人権方針を確立することを約束する。
基準13
発行者は、信頼できるサードパーティの測定フレームワークを使用して、IPOから24か月以内に、すべての従業員の生活賃金要件を確立および実装することを約束する。
基準14
発行者は、1つ以上の取締役会委員会の憲章に正式に文書化されているように、戦略、リスク、報告など、ESG関連の問題を取締役会がどのように監督するかを明確に示す。
基準15
発行者は、取締役会の多様性(例、性別/人種/出身国/性的指向/宗教/障害/年齢、法的に許容される場合)を達成および維持し、進捗状況を毎年報告することを約束する。
発行者は、IPOから1年以内に、ESG指標のパフォーマンスに対する役員報酬を結び付けているか、結び付けることを約束しており、指標が重要なESG問題にどのように関連しているかを開示する。
発行者には、最高持続可能性責任者または同様の役割など、ESGに焦点を当てた専任のエグゼクティブが1人以上在籍する。
基準18
発行者は、IPOから6か月以内に、その政策提言、政治献金、および業界団体の関与をこれらの持続可能性基準に合わせることにコミットする。
基準19
発行者は、懸念事項を報告するための全社的な倫理方針と機密チャネルを保有する。
ESG指標を考慮した役員報酬制度の導入の背景
近年、企業の持続可能性や社会的責任に対する関心が高まる中、ESGの取り組みは企業価値の向上やリスク管理の観点からも重要視されています。この背景から、役員報酬制度にESG指標を取り入れることで、経営陣のESGへの取り組みを具体的に示す動きが増えてきました。
今後、ESG指標を考慮した役員報酬制度の導入は、企業の持続可能性を高めるための一つの手段として、さらに広がっていくと予想されます。特に、国際的な基準やガイドラインが整備される中で、日本の企業もこれに追随する形で、役員報酬制度の見直しを進めることが期待されます。
また、役員報酬制度にESG指標を取り入れることで、企業のステークホルダーとの関係性も強化されると考えられます。ステークホルダーからの信頼を得ることは、企業のブランド価値やリピュテーションの向上にも寄与するため、経営戦略の一部として位置づける企業が増えるでしょう。
まとめ
スタートアップ、ベンチャー企業においては、このESGを早い段階で意識して商品開発や運用を行っていくことが資金調達をスムーズにしながら、事業を持続的に成長させるポイントになるかと考えます。
日本においてはここまでESGは進んでいないものの、日本株の価値向上・適正な取引のために上場基準の見直しが行われます。健全な企業運営にもESGは重要な要素になるため、今後どのように盛り込まれていくのか見守っていきたいです。
ESG指標を考慮した役員報酬制度の導入は、企業の持続可能性や社会的責任を具体的に示すための重要なステップであり、今後の企業経営においてもその重要性は増していくと考えられます。企業各々がその意義を理解し、適切な制度設計を進めることが求められます。
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