
1.DESの基本構造:債務を「資本」に変える再建スキーム
デット・エクイティ・スワップ(Debt Equity Swap、以下DES)とは、企業の債務(Debt)を株式(Equity)に転換(Swap)することで財務体質を立て直す手法です。これにより企業の負債を圧縮し、純資産を増加させることでバランスシートを健全化し、再生や成長のための基盤を整えることが可能になります。DESは主に金融機関や親会社などの債権者が、自ら保有する債権を現物出資する形で企業の株式を取得することで実施されます。
一般企業に加え、成長過程にあるスタートアップ企業もこの手法を活用することで、資本基盤を強化し、新規事業投資、事業拡大などの成長戦略を推進することが可能になります。
2.DESの2つの形態:真正DESと疑似DES
DESには、主に次の2つのタイプがあります。
| 種類 | 内容 | 特徴 |
| 現物出資型(真正DES) | 債権そのものを現物出資として株式化 | 債務の帳簿を直接株式に置き換えるため、迅速なスキーム設計が可能 |
| 現金払込型(疑似DES) | 一度現金で出資し、その資金で債務を弁済 | 会計処理が明確になりやすいが、手続きは複雑化する傾向 |
いずれの手法も結果的には、負債削減+資本金増加=財務改善を実現することが狙いです。
3.DESの主なメリット:再生と信用力の回復
- 債務超過の解消
借入金の一部を株式化することで、債務超過を解消し、自己資本比率を改善します。
- 利息負担の軽減
返済義務がなくなるため、キャッシュフローの圧迫を緩和できます。
- 企業信用の向上
資本金の増加により、取引先や金融機関からの信用が高まり、追加融資や取引拡大が容易に。
- ガバナンスの強化
債権者が株主となることで、経営への監視機能や透明性が向上する副次的効果もあります。
4.デメリット・リスク:希薄化と制度上の制約
- 既存株主の持株比率の希薄化
新株発行により既存株主の影響力が低下する可能性があります。
- 株式の種類と権利の調整
議決権制限株や優先株などを発行することで、経営権のバランスを取る必要があります。
- 会計・税務上の複雑性
債権の帳簿価額と株式の評価額の差異によって損益認識が発生する場合があり、慎重な処理が求められます。
- 銀行法上の議決権規制への配慮
金融機関が株式を取得する場合、5%ルールなどの制約に留意する必要があります。
5.法務・会計の実務ポイント
新会社法の施行後、現物出資型DESにおいても検査役の調査は不要となり、手続きの簡素化が進んでいます。
一方で、会計上は「金融商品会計基準」や「債権消滅時の評価差額」の取扱いなど、適切な時価評価と損益処理が重要です。特に銀行などの債権者側では、株式取得後の評価や減損リスク管理も課題となります。
6.活用シーン:企業再生・事業再構築の現場で
DESは、主に以下のような状況で活用されます。
- 経営破綻・再生中の企業に対する金融支援スキームの一環として
- グループ再編時における親子会社間の債務整理
- M&Aにおけるバランスシート再構築の前処理
- 投資ファンドやスポンサーによる再建スキームの一部として
また、「DDS(デット・デット・スワップ)」という、債務を別の債務に転換する手法もあり、DESとの使い分けが重要です。
7.戦略的視点:再建から「成長資本」へ
DESは単なる再生スキームではなく、企業の信頼回復と成長への転換点として位置づけられます。たとえば、債権者が経営に参画することで、新たな経営資源の導入や事業シナジーを生み出すケースも多く、再建フェーズから、「財務の健全化」→「戦略的パートナーシップ」→「新規成長投資」へと舵を切る際の重要な一手となります。
デット・エクイティ・スワップ(DES)とは、債務を未来への資本に変える企業再生の起点である。
財務体質を強化するだけでなく、経営の再設計、パートナーとの関係再構築を促す手法として、DESは企業のリストラクチャリング戦略において今後さらに重要性が高まるかもしれません。

