「スタートアップ企業の経営戦略」LTVを徹底解説。なぜ顧客生涯価値を意識しなければならないのか?
SaaS企業が増える中で、LTVという言葉がよく聞かれるようになってきました。LTVとは、Life Time Value(ライフタイムバリュー)の略で、「顧客生涯価値」と訳されます。SaaSとは、Software as a Serviceの略でSaaSとはクラウドやブラウザを介して必要な時に、必要なだけソフトウェアを利用でき、購入などのイニシャルコストを抑えることが可能なプロダクト・サービスのことです。SaaSの課金形態はサブスクリプションという言葉と同義です。
一方で売切ではないため、利用に応じて長期的に資金を回収するビジネスモデルです。アップデートも容易で、ソフトウェア販売に向いたビジネスモデルといえます。
そのため、上場企業やスタートアップでも事業モデルを転換し、SaaS企業へ変化する企業が増えています。そうしたSaaS企業のビジネスモデルを理解する上で、LTVの考え方が非常に重要となっています。
一人、あるいは一社の顧客が、特定の企業やブランドと取り引きを始めてから終わりまでの期間(顧客ライフサイクル)内にもたらされるトータルの利益を算出したものとなります。いま、このLTVが上場企業からスタートアップまで、広く重要視されるようになっています。
この記事ではLTVとは何か、なぜ必要なのかなどを解説します。
LTVとはなにか?
LTV(Life Time Value)とは、顧客から生涯にわたって得られる利益をいいます。
例えば、5,000円の商品をある顧客Aが1回だけ利用し、その後利用することが一度もなければ顧客Aは5,000円の売上をもたらして終わり。一方で顧客Bは1ヶ月に1回、3年間利用した場合は、5,000円×12ヶ月×3年=180,000円の売上をもたらす顧客、となります。顧客AとBがいた際に、どちらの方がLTVが高くなるかというとBとなります。いま、市場の飽和・成熟やそもそもの日本の人口減などの理由からスタートアップにおいてもLTVが重要視されるようになってきています。
これまでになかった全く新しい成長市場(例えばNFTやメタバース)であれば、新規顧客の増加で売上を伸ばすことができますが、日本においては既に商品が飽和している成熟市場であるものも多く、新規需要を獲得することが難しく、かつ継続的な利用を促すことが求められるようになってきています。
一方で、例えば地方創生の戦略として「日本酒」を製造販売するスタートアップがあった時には、日本酒市場はすでにかなり成熟していると言えます。他社製品にファンも存在する中で、いかに長く自社製品を利用してもらうか=LTVを高めるか、は至上命題とも言えスタートアップを含む企業にとって重要なポイントなりそうです。
LTVの計算方法
【平均顧客単価×収益率×購買頻度×継続期間】となります。例えば、平均顧客単価30万円、収益率30%、購買頻度は月1回(年12回)、継続期間5年の場合、LTV=30万円×0.3×12×5=540万円となります。注意点としてこの計算式は新規顧客獲得コストや顧客フォローの費用など必要経費を含んでいません。
新規顧客獲得コストと既存顧客維持コストを加味すると、下記の計算になります。
LTV=平均顧客単価×収益率×購買頻度×継続期間-(新規顧客獲得コスト+既存顧客維持コスト)例えば平均顧客単価、収益率、購買頻度、継続期間が先ほどと同じで、新規顧客獲得コストが200万円、既存顧客維持コストが100万円の場合、LTV=540万円-(200万円+100万円)=240万円と計算できます。
LTVが重要である理由とは
新規顧客獲得の難しさから、いかに既存顧客(リピーター)が確保できるかが注目されているところにあります。商品・サービスによって異なるものの新規顧客獲得のコストは既存顧客維持のおおよそ5倍程度かかるといわれており、既存顧客を維持、または拡大することは企業にとって重要なテーマです。またどのようなサービスでも新規顧客数(ターゲット母数)には限界がどこかで必ず来ますので、新規開拓にコスト投下することと並行して、リピーターとの関係性を良好に保ち、継続的なサービス利用を促した方が経営の効率も良いと考えられるようになりました。
特に日本市場においては成熟している産業も数多くあり、インターネットの発展により「機能面」はすぐに拡散され真似される(類似品が出てくる)環境となりました。そのような中で、常に新しい製品を生み出し、新しい顧客を獲得し続けていくことだけに注力するのではなく、「顧客がいかに長く契約を継続してくれるか」にコスト投下していく傾向が強まっていると言えます。
動画配信サービスなどで代表される”サブスクリプションモデル”の浸透もそういった背景があり、サブスクリプションモデルを確立するには、常に製品やサービスの質を高める、サポートやセキュリティなどCS(カスタマーサクセス)体制を敷き、機能をアップデートするなど『顧客の体感価値を常に高める』ことが求められます。
LTVを最大化する方法とは
LTVの要素は計算式にあるように、
①平均顧客単価
②収益率
③購買頻度
④継続期間
⑤新規顧客獲得コスト
⑥既存顧客維持コスト
6つの要素から構成されます。
つまり、これらのどれかの要素を改善することによりLTVが高められると言えます。
①平均顧客単価
シンプルな手法は商品の値上げです。
1,000円の商品を1,200円にするだけで20%も単価がUPします。
しかし、ただ値上げしただけでは顧客が離れていく可能性も十分に考えられるので、「値上げした価格を顧客が払うという納得感(価値提供)」が必要です。
②収益率
こちらは収益率の%を変えることになるので、シンプルにはコスト削減、または複数の商品パッケージ(アップセル、クロスセル)の作成などが考えられます。
③購買頻度
月に1回の顧客が月2回の購入になれば単純に倍の収益になります。
商品サービスによって異なりますが、どうすれば利用頻度を高められるかが重要です。利用頻度を高められる商材であれば、いかにその頻度を高められるか考えるのも重要です。わかりやすい事例で、とある消費財のサービスの場合は「1回のクリーム利用量をたっぷり使ってもよい(そのメリットもしっかりと提示する)」ことで、利用頻度が高くなる事例もありました。
④継続期間
特に毎月発生するSaaS型ビジネスの場合などはここに当てはまります。1ヶ月で利用が終わる顧客よりも1年、3年、10年を利用してくれる顧客が増えることでLTVが高くなります。そのためのサービス価値を常に高めること(顧客満足度の向上)が求められます。
⑤新規顧客獲得コスト
例えばこれまで500円の顧客単価(CPA)を400円にできれば100円のコストダウンになり、LTVが高まるというものです。
新規顧客獲得はスタートアップの場合、いかに費用を抑えながら広くひろめるがカギとなるため、LTVも意識しながらコストを考えられると良いと感じます。
⑥既存顧客維持コスト
例えばSaaSであれば、サーバー代やセキュリティ費用は必ず発生します。外注コストを下げたり、逆に質を高めて価格転嫁するなどでコストを調整することが求められます。
まとめ
EXPACTでは、特にスタートアップ企業への補助金活用や資金調達を強みとしており、実績・経験も多数ございます。資金調達成功に向けて、パートナーを探している、また詳しく話を聞いてみたいという方はこちらからお問い合わせください。