コーポレート・ベンチャー・キャピタルとは?
コーポレート・ベンチャー・キャピタル(以下、CVC)は事業会社が自己資金で形成したファンドによる、社外ベンチャーへの投資を指しています。英語の「Corporate Venture Capital」の頭文字を取って、CVCとも略称されます。投資リターンを目標にする一般のベンチャー・キャピタル(以下、VC)と比べ、事業会社の観点から、自社の既存事業とのシナジー*や新規事業に役立つ技術の獲得など経営戦略上の意義をより重視するのが特徴です。
*シナジー効果:相乗効果とも呼ばれ、ある要素が他の要素と合わさることによって単体で得られる以上の結果を上げることを指します。
事業会社がM&Aではなく、CVCを選択するのはなぜでしょうか。
M&Aの場合、ベンチャー企業の経営権を取得します。投資コストはかかるものの、経営に強い影響力を与えることができ、コスト回収に向けて多くの経営資源を投入することができます。一方、CVCは経営に対する影響力が弱いものの、投資コストを抑えることができます。コストを抑えたうえで、自社の既存事業とのシナジーや新規事業に役立つ技術の獲得を狙う場合、CVCの方が適している戦略といえます。
事業会社からみたCVCのメリット
1)新規事業立ち上げのコストとリスクの軽減
新規事業の立ち上げには設備購入、人材採用、技術やノウハウの入手などの初期準備が必要になり、かつ予想通りに参入が進むかどうかは未知です。自ら事業を立ち上げようとすると全額、M&Aでもかなりの資金を負担しなければなりません。CVCでは少ない資金で新しい事業分野に参入できるのがメリットです。
2)オープン・イノベーションによる新事業の創出
CVCはM&Aと異なり、経営権がベンチャー企業に残ります。ベンチャー企業の創業者が舵を取り、アジャイル*に事業を進めることができます。ベンチャー企業の革新的イノベーティブなアイデア・技術・知識と事業会社がもつの経営資源の融合により、革新的な商品開発や事業分野の創出が望まれます。
*アジャイル:「素早い」「機敏な」と直訳されます。分析・設計・実装・テストなどのプロセスを並列に行いながら、繰り返す進め方で、柔軟性が高いとされます。
ベンチャー企業からみたCVCのメリット
1)事業会社の経営資源の利用
ベンチャー企業はCVCを通じて、資金のみならず、事業会社の持つ豊富な顧客基盤、データ、遊休設備、そして既存事業で培ったノウハウを活用できます。これにより、スピーディーな技術開発や市場参入が可能になります。
2)自社のブランド力の向上
事業会社の投資を得られることは自社の成長性・将来性が相手に認められることを意味するため、規模の大きくブランド力の高い事業会社から投資を受けることによって、自社のブランド力も向上します。金融機関や他のVCからの融資が容易になり、取引先やエンド・ユーザーとのコンタクトにおいても有利になります。
3)競争優位性の確保
潜在的な競合企業を早期に見つけ、提携や買収することで、競争優位性を確立し市場シェアを拡げることができます。
4)社内活性化
CVCは社内のイノベーション文化を醸成し、社員の起業家精神を刺激します。これにより、組織の中で新しいアイデアが生まれやすい環境が構築されます。
5)新たな収益源の確保
投資先企業の成功に伴い、配当金や株式売却益として新たな収益を得ることが可能です。
6)市場動向の把握
ベンチャー企業への投資を通して、最新の市場動向や技術トレンドを把握し、自社の戦略に活かすことが可能です。
7)人材獲得
優秀な人材を抱えるベンチャー企業との関係構築を通じて、将来的な人材獲得につなげることができます。
CVCのデメリット(事業会社・ベンチャー企業双方)
CVCにはメリットだけでなく、デメリットも存在します。これらを理解した上で、CVCに取り組む必要があります。
投資リスク
投資が思うようにいかない場合、資金が回収できない恐れがあります。
経営の複雑化
複数の企業に関与することで、組織内の意思決定プロセスが複雑化する可能性があります。
利益相反
投資先との間で利益相反が生じる可能性があり、適切なガバナンスの導入が必要です。
時間とリソースの投入
CVC活動には、担当者の人件費やデューデリジェンス費用など、一定の時間とリソースの投入が必要です。
出口戦略の難しさ
投資の出口戦略を設計する際の困難があります。
CVCを成功させるためのポイント
明確な投資戦略
投資目的、投資対象、投資規模などを明確に定義した投資戦略を策定することが重要です。
専門人材の確保
CVC活動を推進するためには、投資や事業に関する専門知識を持つ人材の確保が不可欠です。
適切なガバナンス体制
投資先企業との適切な関係を構築し、利益相反を防止するためのガバナンス体制を整備する必要があります。
長期的な視点
ベンチャー企業の成長には時間がかかるため、長期的な視点で投資を行うことが重要です。
柔軟な対応
市場の変化に応じて、柔軟に戦略を変更することが可能な体制を持つことが重要です。
コーポレート・ベンチャー・キャピタルの事例
以下、代表的なCVCの事例をいくつか取り上げます。
株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ
NTTドコモによって2008年に設立された、国内最大級のコーポレートベンチャーファンドです。クラウド、AI、Fintechやメディアコンテンツなどドコモ/NTTグループ各社との協業が見込まれるICT領域を投資対象分野にし、10年以上にわたって、100社以上に投資を行いました。
日本、米国、ヨーロッパ、イスラエルを中心にグローバルに展開しています。投資のほかに、連携窓口として企業をつなげて事業シナジーを創出することや、スタートアップ支援イベントと伴走型支援などインキュベーション支援も行っています。
出典:https://www.nttdocomo-v.com/
Z Venture Capital株式会社
前身であるYJキャピタルは、2021年4月にLINE Venturesと合弁し、Z Venture Capital に商号変更しました。Z Venture Capital株式会社は株式会社ZOZO、PayPay株式会社、株式会社出前館やヤフー株式会社、LINE株式会社などの知名度の高い企業と同じくZホールディングス株式会社に所属しており、グループのブランド力、集客力とデータベースをもとに幅広い投資を行っています。
グループシナジー創出を重視し、FinTech、コマース、AIなど幅広い分野に投資しています。特に、PayPayとの連携を視野に入れた投資が目立ちます。
起業家に向けて、Zホールディングスグループの事業責任者と業務提携に向けた個別議論の場を創出するとともに、起業家をサポートするために組織運営、マーケティング・広告運用、リスク管理などにおける自社のノウハウを共有しています。それ以外に、プロダクト導入支援と海外支援も展開しています。
楽天ベンチャーズ
楽天ベンチャーズは2013年にシンガポールを拠点に、東南アジアにおける1千万米ドル規模のファンドから始め、世界中で60社以上のスタートアップに投資を行いました。「楽天エコシステム(経済圏)」の知見と経験を活かし、投資リターンの最大化を目標に革新的なスタートアップへの投資と支援を推進しています。
コマース・コミュニケーション・マーケティング・金融・モビリティ・ヘルスケアなど自社業務と関連する事業分野を中心に投資を行い、楽天エコシステムにおけるデータを投資実行と投資先の支援に活用しています。
近年は、東南アジアだけでなく、欧米やイスラエルなどグローバル展開も加速しています。
出典:https://capital.rakuten.com/jp/
Legend Capital(中国名:君联资本)
2001年に設立された、レノボを含むLegendグループ傘下の中国大手投資ファンドです。約23億USDのファンドを運用しており、 インターネット・モバイル・コンテンツ分野および消費財分野に強みを持っています。
近年は、AI、ビッグデータ、ヘルステックなど、成長著しい分野への投資を強化しています。中国市場での豊富な経験とネットワークを活かし、投資先企業の成長を支援しています。
390社以上への投資と62社の上場実績を持っています。2017年にはLP業界から中国ベンチャーキャピタル1位に選ばれました。
出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000093.000025680.html
http://www.legendcapital.com.cn/en/
JXTGエナジー(ENEOSホールディングス)
エネルギー業界大手のJXTGグループのCVC。再生可能エネルギー、モビリティ、デジタル化などの分野に注力。2019年設立。国内外のスタートアップへの投資を行っている。
エネルギー業界の変革期において、再生可能エネルギー、モビリティ、デジタル化などの分野に積極的に投資。オープンイノベーションを通じて、新たな事業機会の創出を目指しています。
三井物産ネクストフロンティアパートナーズ
三井物産グループのCVC。IT、ヘルスケア、モビリティなど幅広い分野をターゲットに投資。2019年に設立され、国内外で30社以上に投資実績。
幅広い事業ポートフォリオを持つ三井物産グループのCVCとして、IT、ヘルスケア、モビリティなど多様な分野に投資。グローバルネットワークを活かし、投資先企業の海外展開も支援しています。
日立ベンチャーズ
日立製作所のCVCで、1998年に設立された国内最古級のCVC。IT、エネルギー、モビリティなど日立グループの事業領域に関連する分野に投資。国内外で200社以上の投資実績がある。
長年のCVC運営経験を活かし、IT、エネルギー、モビリティなど、日立グループの事業領域に関連する分野に投資。スタートアップとの協業を通じて、イノベーション創出を加速させています。
CVCを取り巻く最近のトレンド
- CVC投資額の増加
世界的にCVC投資額は増加傾向にあり、日本でも大企業によるCVC設立が加速しています。 - 専門人材の獲得競争
CVCの成功には、投資や事業に関する専門知識を持つ人材が不可欠であり、優秀な人材の獲得競争が激化しています。 - ESG投資の重視
環境問題や社会課題への意識の高まりを受け、CVCにおいてもESG投資が重視されるようになっています。 - デジタルヘルス分野への投資の活発化
新型コロナウイルスの影響もあり、デジタルヘルス分野への投資が世界的に活発化しています。
CVC投資戦略研究会とは?
CFスタートアップパートナーズは、CVC投資戦略研究会を運営しています。この研究会は、国内外のCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の投資事例やEXITケースを集め、独自の調査研究を行っています。特に、CVCの投資戦略に関する最新情報を提供することを主な目的としています。
研究会の主な活動には、マンスリーレポートの配信、セミナーの開催、CVC担当者を対象とした研修の提供が含まれます。これにより、会員は最先端の知識を取得できます。さらに、スタートアップの「マンスリーピッチ」イベントを通じて、スタートアップとCVCとの新たなコラボレーションを支援します。
CVC投資戦略研究会の目的は、CVC投資に関する情報を提供することでNo.1、オンリーワンの存在になることです。これにより、CVC投資を実施するすべての企業が参加し、豊富なスタートアップ情報を活用する場を提供します。
CVC投資戦略研究会は、企業に質の高い情報を提供し、スタートアップとCVCのつながりを促進することで、スタートアップの成長を支援しています。これにより、CVC担当者にとってもスタートアップにとっても、重要なパートナーシップを築くための効果的なプラットフォームを提供しています。
まとめ
今回の記事では、コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)について解説しました。
CVCは、大企業にとって新たな事業機会の創出やイノベーションの加速、スタートアップ企業にとっては資金調達や事業成長の機会となる重要な存在です。今後もCVCの動向に注目していく必要があります。
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