【解説】東証上場基準の見直しとは?スケジュールと変更内容
市場第一部・市場第二部・マザーズ・JASDAQ(スタンダード及びグロース)の5つの市場区分に関して、2022年4月4日付で、 スタンダード 市場・プライム市場・グロース市場の3つの市場区分に見直しが行われることになりました。
どのような変化があるのでしょうか。
東証発表の資料を基に徹底解説していきます。
https://www.jpx.co.jp/corporate/news/news-releases/0060/nlsgeu000004ke6p-att/J_kouhyou.pdf
現行の企業分類が2022年1月に公表
2022年1月11日、4月4日に発足する3つの新市場について、全上場企業の所属先が公表されました。実質最上位の「プライム」には1841社が上場します。現行の東証1部の84%が残留する形となります。スタンダードには1477社、グロースには459社が上場します。市場ごとの上場社数の比率は、プライムが49%、スタンダードが39%、グロースが12%となります。プライムの上場基準を満たしていない企業のうち、296社が経過措置を適用しています。
市場区分見直しの概要
東京証券取引所は、上場会社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上を支え、国内外の多様な投資家から高い支持を得られる魅力的な現物市場を提供することを目的として、 2022年4月4日に、現在の市場区分を「スタンダード市場・プライム市場・グロース市場」の3つの市場区分に見直すことを予定しています。資料には「国内外の多様な投資家から高い支持を得られる魅力的な現物市場を提供することを目的として、3つの市場区分に見直す」と記載されており、一部上場企業の約33%(734社)は時価総額が250億円を下回っているなど『東証に上場していることの価値』を見直す意味合いが強いものと考えられます。
新市場区分における上場基準の考え方
①新市場区分では、各市場区分のコンセプトに応じ、時価総額(流動性)やコーポレート・ ガバナンスなどに係る定量的・定性的な基準が設けられます。
②各市場区分の新規上場基準と上場維持基準は、原則として共通化することとし、上場会社は、 上場後においても継続して、新規上場基準(の水準)を維持することが必要となります。
③また、各市場区分は、それぞれ独立しているものとし、現在の一部指定基準・指定替え基準・市場変更基準のような「市場区分間の移行」に関する基準は設けられません。
そのため、上場会社が、市場区分の変更を希望する場合には、変更先の市場区分における新規上場基準と同様の基準を改めて満たすことが必要になります。
現行の市場区分 | 新市場区分 |
市場第一部 | プライム市場 |
市場第二部、JASDAQスタンダード | スタンダード市場 |
マザーズ、JASDAQグロース | グロース市場 |
新市場区分①プライム市場
現在の東証一部にあたる市場です。公開された市場における投資対象として一定 の時価総額(流動性)を持ち、上場企業とし ての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持 続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコ ミットする企業向けの市場となります。
新市場区分②スタンダード市場
現在の東証第二部、JASDAQスタンダードにあたる市場です。多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資家との建設的な対話
を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場です。
新市場区分③グロース市場
現在のマザーズ、JASDAQグロースにあたる市場です。高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場です。ここでは時価総額よりも、事業の可能性や将来性を加味された企業が多くなるかと予想できます。例えば、宇宙ビジネスやブロックチェーン技術を使ったビジネスなど。スタートアップでの上場の場合もこちらの市場となる可能性が高そうです。
3つの市場それぞれに上場基準のルールを設けられており、各市場はそれぞれの基準を見たなければ上場ができない設定になります。加えて、これまではマザーズから東証2部に、その後1部へ昇格といったことがありましたが、ここの基準も明確に変わっていきそうです。
現在では、直接上場する際に時価総額が250億円必要なのに対して、二部やマザーズからの一部上場は40億円だけで良かったのですが、これで一部上場(変更後はプライム市場)のハードルはより高くなるでしょう。
新規上場申請について
新市場区分への新規上場申請は、新規上場日が2022年4月4日以降となることが見込まれる場合に受理されます。(それまでの間は、現行の市場区分に係る新規上場申請)
新規上場申請者は、新規上場を希望する市場区分を指定して新規上場申請を行います。
スケジュールは以下の通りで、スタンダード市場とプライム市場は、本則市場への新規上場申請書類を踏襲し、約3ヶ月の標準審査機関が必要になります。
グロース市場についてはマザーズへの新規上場申請書類を踏襲し、約2ヶ月の標準審査機関を見込みます。
スタンダード市場の新規上場基準
まずはスタンダード市場の新規上場基準を見ていきましょう。
<形式基準>
項 目 | 基 準 | |
流動性 | 株主数 | 400人以上 |
流通株式数 | 2,000単位以上 | |
流通株式時価総額 | 10億円以上 | |
時価総額 | ー | |
ガバナンス | 流通株式比率 | 25%以上 |
経営成績 | 収益基盤 | 最近1年間の利益 1億円以上 |
財政状態 | 純資産:正 | |
公募 | ー | |
事業継続年数、虚偽記載又は不適正意見等、上場会社監査事務所による監査、株式事務代行機関の設置、単元株式数、株券の種類、株式の譲渡制限、指定振替機関における取扱い | (現行の本則市場の形式基準と同様) | |
合併等の実施の見込み |
<上場審査>
項 目 | 観 点 |
1.企業の継続性及び収益性 | • 継続的に事業を営み、かつ、安定的な収益基盤を有していること |
2.企業経営の健全性 | • 事業を公正かつ忠実に遂行していること |
3.企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性 | • コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が適切に整備され、機能していること(※) |
4.企業内容等の開示の適正性 | • 企業内容等の開示を適正に行うことができる状況にあること |
5.その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項 |
(※)コーポレートガバナンス・コードの対象:全原則
プライム市場の新規上場基準
次にプライム市場の新規上場基準です
<形式基準>
項 目 | 観 点 |
1.企業の継続性及び収益性 | • 継続的に事業を営み、安定的かつ優れた収益基盤を有していること |
2.企業経営の健全性 | • 事業を公正かつ忠実に遂行していること |
3.企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性 | • コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が適切に整備され、機能していること(※) |
4.企業内容等の開示の適正性 | • 企業内容等の開示を適正に行うことができる状況にあること |
5.その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項 |
<上場審査>
項 目 | 基 準 | |
流動性 | 株主数 | 800人以上 |
流通株式数 | 2万単位以上 | |
流通株式時価総額 | 100億円以上 | |
時価総額 | 250億円以上 | |
ガバナンス | 流通株式比率 | 35%以上 |
経営成績 | 収益基盤 ※A又はBを満たすこと | A. 最近2年間の利益合計25億円以上 |
B. 売上高100億円かつ時価総額1,000億円以上 | ||
財政状態 | 純資産:50億円以上 | |
公募 | ー | |
事業継続年数、 虚偽記載又は不適正意見等、 上場会社監査事務所による監査、株式事務代行機関の設置、単元株式数、株券の種類、株式の譲渡制限、指定振替機関における取扱い | (現行の本則市場の形式基準と同様) |
※2021年7月現在
グロース市場の新規上場基準
そしてグロース市場の新規上場基準です
<形式基準>
項 目 | 観 点 |
1.企業内容、リスク情報等の開示の適切性 | • 企業内容、リスク情報等の開示を適切に行うことができる状況にあること(※1) |
2.企業経営の健全性 | • 事業を公正かつ忠実に遂行していること |
3.企業のコーポ レート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性 | • コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が、企業の規模や成熟度等に応じて整備され、適切に機能していること (※2) |
4.事業計画の合理性 | • 相応に合理的な事業計画を策定しており、当該事業計画を遂行するために必要な事業基盤を整備していること又は整備する合理的な見込みのあること |
5.その他公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項 |
<上場審査>
項 目 | 基 準 | |
流動性 | 株主数 | 150人以上 |
流通株式数 | 1,000単位以上 | |
流通株式時価総額 | 5億円以上 | |
時価総額 | ー | |
ガバナンス | 流通株式比率 | 25%以上 |
経営成績 | 収益基盤 | ー |
財政状態 | ー | |
公募 | 500単位以上 | |
事業継続年数、 虚偽記載又は不適正意見等、 上場会社監査事務所による監査、株式事務代行機関の設置、単元株式数、株券の種類、株式の譲渡制限、指定振替機関における取扱い | (現行のマザーズの形式基準と同様) | |
合併等の実施の見込み | ー |
※2021年7月現在
東証上場基準の見直し後の上場廃止基準(上場維持基準)について
新市場区分においては、各市場区分において「上場維持基準」が設けられます。
上場維持基準に抵触し、改善期間内に改善が行われなかった場合に上場廃止となります。
スタンダード市場の上場維持基準
項目 | 基準 | 算出方法等 | 改善期間 | |
流動性 | 株主数 | 400人以上 | l 事業年度末日において、1単位以上所有する株主の数を算出 | 1年 |
流通株式数 | 2,000単位以上 | l 事業年度末日における数を算出 | ||
流通株式時価総額 | 10億円以上 | l 流通株式数に、事業年度末日以前3か月間の当取引所の売買立会における日々の最終価格の平均値を乗じて算出 | ||
売買高 | 月平均売買高10単位以上 | l 毎年6月末日又は12月末日以前6か月間における当取引所の売買立会での売買高を月次平均にした値 | 6か月 | |
ガバナンス | 流通株式比率 | 25%以上 | l 事業年度末日における流通株式数を上場株式数で除して算出 | 原則1年(※2) |
財政状態 | 純資産 (※1) | 正であること | l 事業年度末日における純資産の額 | 原則1年(※3) |
(※1)現行制度における債務超過に係る上場廃止基準に代えて設けるものです。
(※2)第三者による事業再生の結果、基準に抵触することとなった場合における例外を設けます。
(※3)時価総額が1,000億円以上の場合、 法的整理又は私的整理等により基準に適合することを計画している場合における例外を設けます。
プライム市場の上場維持基準
項目 | 基準 | 算出方法等 | 改善期間 | |
流動性 | 株主数 | 800人以上 | l 事業年度末日において、1単位以上所有する株主の数を算出 | 1年 |
流通株式数 | 2万単位以上 | l 事業年度末日における数を算出 | ||
流通株式時価総額 | 100億円以上 | l 流通株式数に、事業年度末日以前3か月間の当取引所の売買立会における日々の最終価格の平均値を乗じて算出 | ||
売買代金 | 1日平均売買代金 0.2億円以上 | l 毎年12月末日以前1年間における当取引所の売買立会での金額を日次平均にした値 | ||
ガバナンス | 流通株式比率 | 35%以上 | l 事業年度末日における流通株式数を上場株式数で除して算出 | 原則1年(※2) |
財政状態 | 純資産 (※1) | 正であること | l 事業年度末日における純資産の額 | 原則1年(※3) |
(※1)現行制度における債務超過に係る上場廃止基準に代えて設けるものです。
(※2)第三者による事業再生の結果、基準に抵触することとなった場合における例外を設けます。
(※3)時価総額が1,000億円以上の場合、 法的整理又は私的整理等により基準に適合することを計画している場合における例外を設けます。
グロース市場の上場維持基準
項目 | 基準 | 算出方法等 | 改善期間 | |
流動性 | 株主数 | 150人以上 | l 事業年度末日において、1単位以上所有する株主の数を算出 | 1年 |
流通株式数 | 1,000単位以上 | l 事業年度末日における数を算出 | ||
流通株式時価総額 | 5億円以上 | l 流通株式数に、事業年度末日以前3か月間の当取引所の売買立会における日々の最終価格の平均値を乗じて算出 | ||
売買高 | 月平均売買高10単位以上 | l 毎年6月末日又は12月末日以前6か月間における当取引所の売買立会での売買高を月次平均にした値 | 6か月 | |
ガバナンス | 流通株式比率 | 25%以上 | l 事業年度末日における流通株式数を上場株式数で除して算出 | 原則1年(※2) |
時価総額 | 40億円以上 ※上場から 10年経過後 | l 事業年度の末日以前3か月間の平均値により算出 l 上場後経過年数の算定は、移行日前に経過していた年数を引き継ぎ | 1年 | |
財政状態 | 純資産 (※1) | 正であること | l 事業年度末日における純資産の額 | 原則1年(※3) |
(※1)現行制度における債務超過に係る上場廃止基準に代えて設けるものです。
(※2)第三者による事業再生の結果、基準に抵触することとなった場合における例外を設けます。
(※3)時価総額が1,000億円以上の場合、 法的整理又は私的整理等により基準に適合することを計画している場合における例外を設けます。また、グロース市場への上場後3年間において基準に抵触した場合には、上場4年経過後最初に到来する事業年度末日までの期間を改善期間とします。
また、全市場区分に共通する上場廃止基準を現行制度を踏襲して定められます。
l 以下の項目について、現行制度を踏襲した基準を設けます。
基準 | ||
銀行取引の停止 | 株式の譲渡制限 | |
破産手続、再生手続又は更生手続(※1) | 完全子会社化 | |
事業活動の停止 | 指定振替機関における取扱い | |
不適当な合併等(※2) | 株主の権利の不当な制限 | |
支配株主との取引の健全性の毀損 | 全部取得 | |
有価証券報告書又は四半期報告書の提出遅延 | 株式等売渡請求による取得 | |
虚偽記載又は不適正意見等 | 株式併合 | |
特設注意市場銘柄等 | 反社会的勢力の関与 | |
上場契約違反等 | その他(公益又は投資者保護) | |
株式事務代行機関への委託 |
(※1)債務免除に関する合意が行われた場合を、破産手続等に準ずる状態になったものとして取り扱う規定を廃止します
(※2)上場審査基準に準じた基準による審査の申請を行う場合は、新規上場申請時と同様に「上場適格性調査に関する報告書」の提出を求めることとします(現行制度で提出を求める「確認書」の見直し)
流通株式の定義見直しについて
企業側も株主(投資家)側もこちらが注目のポイントではないでしょうか。今回の市場再編では、株の売買のしやすさを高め、ガバナンス改善の観点から、流通株式比率と流通株式時価総額の基準が明確に定められています。以下の形で流通株式の定義見直しも同時に実施されることとなりました。
上場株式のうち、「国内の普通銀行、保険会社及び事業法人等」の所有する株式については、 上場株式数の10%未満を所有する場合であっても、流通株式から除かれます。
今までは企業間の持ち合い株や政策保有株式が10%未満であれば流通株式としてカウントされていましたが、今回の市場区分見直しでは非流通株式となってしまいます。持ち合いや政策保有については、資産有効活用の妨げや、「モノいわぬ株主」の存在があることでの企業統治の甘さに繋がることが指摘されており、2018年6月の企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)の改定で保有圧縮を求めたことを機にカゴメや資生堂などが政策保有分などの株式を売却しています。流通株式関連で大きく変化する市場再編ですが、当分は現行の指定替え基準・上場廃止基準と同水準の経過措置が取られます。経過措置の期間については『当分』としか発表されておらず、続報に注目です。選択先の新市場区分の上場維持基準に適合していない場合は,申請時に「上場維持基準の適合に向けた計画書」の提出を行い、移行後には計画書に基づく進捗状況を開示する必要があります。
コーポレートガバナンスコードについて
金融庁と東京証券取引所が2021年春に改定する企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)の概要は、東証の市場再編で現在の第1部を引き継ぐ新市場に上場する企業には社外取締役を取締役の3分の1以上とするよう求める方針で。より厳しい基準でガバナンスの透明性向上を促されており、企業にとっては時価総額の維持、向上に向けIR活動なども積極的に求められることとなるでしょう。
まとめ
今回の東証上場基準の見直しは日本の株式市場にとってポジティブな変化となりそうです。一方でスタートアップなどでマザーズ→東証2部→東証1部とステップアップする計画を立てていた企業にとっては、大きくスケジュールを見直す必要が出てきたのではないでしょうか。今回の市場再編のキーワードはやはり『ガバナンス』かと感じます。ガバナンス改善によって企業価値向上に向けた取り組みが発展していけば、投資家にとって投資したくなる企業になっていくことが期待されるだけではなく、それは企業にとっても好循環になる取り組みだと思います。
今後の動向にも注目していきたいです。