企業の人事評価において「ノーレーティング」という考え方が注目を集めています。
この制度は、近年多くのアメリカの企業で導入されており、Microsoft、Adobeなど名だたる企業で成果が認められています。そうしたことから、最近は日本でも注目されている制度です。
今回は、第一弾として「ノーレイティング制度」のメリット、デメリットなどの概要についてご紹介していきます。(次回第二弾では、「ノーレイティング制度」の導入ポイント(導入方法や留意点など)についてご紹介いたします。)
ノーレイティング制度とは?
ノーレイティング制度とは、その名の通り従業員をランク、等級付けしない人事制度のことです。
一方、評価を行わないというわけではありません。
従来のように従業員を期末や年度末といった、決まった周期で社員を「S」「A」「B」「C」…とランク付けして評価するのではなく、リアルタイムの目標設定とフィードバックを繰り返していく中で、社員の能力や仕事に取り組む姿勢をその都度評価していく仕組みです。
▼従来の評価制度とノーレイティング制度との比較
出典:松丘啓司著『人事評価はもういらない 成果主義人事の限界』(ファーストプレス刊)を参考に作成
ノーレイティング制度が生まれた背景
2010年以降、テクノロジーの進化によりビジネススピードは加速し、仕事の進め方の変化、従業員同士でコラボレーションする機会の増大などの背景から、ノーレイティングという考え方がアメリカで生まれました。
従来のレイティング評価は、バブル経済崩壊後の1990年以降、業績の立て直しをするべく「成果主義」を基軸とした人事制度として、多くの日本企業に取り入れられ定着してきました。
一方、このレイティング評価にはいくつかの問題点がありました。大きくまとめると以下の4つが挙げられます。
レイティング評価の問題点
1)社員の個人特性を踏まえて適切な評価ができない
画一的な規定に従って評価対象者をランク付けする仕組みであるが故に、社員個人の特性や細かな要素に対する評価を、給与や役職へ反映しにくいという問題点があります。これからの時代において、固定観念に囚われずにユニークな発想を持つ個性的な人材、専門性が高く、いわゆる“尖った人材”の必要性が高まっています。社内全体で比較するような相対評価の場合、そういった優秀な人材は評価が低くなってしまうことも起こり得えてしまいます。
2)社員のモチベーションアップに繋がりにくい
社員の成長促進のために、従来のレイティング評価を導入するケースもある一方で、脳科学的にレイティングは社員の成長を阻害する可能性があることが指摘されています。人は失敗や間違いによって、評価を下げられると思うと萎縮してしまいます。そうなると当然、高いパフォーマンスは発揮できません。その結果として自発性・主体性が失われ、「指示された仕事をこなす」といった受け身の姿勢に終始してしまう可能性があります。また、レイティング評価の場合、大多数の人が中間的な評価に集中してしまいます。(例えば、5段階評価の場合、多くの社員は「B〜C評価」に固まってしまう等)そうした中間的な評価を下された場合、企業から自分への期待を実感するのが難しいために、大多数の従業員のモチベーションが上がりにくくなってしまいます。
3)適切なタイミングで評価ができない
加速する現代の情報化社会では、1年で社会情勢や業務への取り組み方が大きく変容します。年次評価では、その変化に追いつけず、半年前、1年前に設定した目標やそれを基にした等級自体が意味をなさなくなってしまうケースは頻繁に起こり得ます。さらに、仕事の成果が出るタイミングと、評価のタイミングにズレが生じてしまうことも多く、社員のモチベーション低下に繋がることも起こり得ます。
4)評価基準が曖昧になりやすい
レイティング評価では、「S」「A」「B」のように明確なランク付けを社員へ提示する一方で、ランク付けをするときの基準が曖昧になってしまうケースも多く存在します。特にも、営業職や管理職のように「契約件数、売上」など数字で基準が明確化しにくい、バックオフィス系職種やサポート職などの場合は、周囲との比較も難しく、評価に対して社員が納得できない場合があります。
ノーレイティング制度のメリット・デメリット
このように画一的な型にはめようとするレイティングの問題点が、時代の移り変わりとともに浮き彫りになってきた今、現代に合う新しい人事制度として「ノーレイティング」へ注目が高まっています。
ランク付けしないことにより、従業員の個性や多様性を認めた上で評価を行うことができ、本質的な評価の実現が期待されています。
その一方で、ノーレイティングにはさまざまな課題も挙げられています。ここで「ノーレイティング制度」のメリット・デメリットを整理してみましょう。
ノーレイティング制度のメリット
1)リアルタイム評価によって、評価への納得度が高まる
ノーレイティングでは半期や年次での目標設定・評価を廃し、1on1の面談を通じてその都度で目標や進捗状況を確認し、評価・フィードバックを行ないます。そのため、従来のレイティング評価のように評価結果と実際のパフォーマンスに乖離が生じることはなく、評価自体の公平性・納得性が高まります。また、評価側にとっても絶対評価方式の場合、誰かを下げたりする必要もないため、納得した評価がしやすいということもいえます。
2)社員のモチベーションが上がりやすい
ノーレイティングの場合、目標に対しどのように取り組んでいるのかをリアルタイムで、その都度フィードバックを繰り返していくため、PDCAを回しやすくなります。社員自身も「今自分がすべきことは何か」を整理して、常に試行錯誤を繰り返すことができるため、従来よりもスピード感を持って個人の成長を促すことが可能です。またリアルタイムに評価を行うことで、従業員の納得感が高まるため、社員のモチベーションが向上し、そうすることで生産性の向上も期待が持てます。
3)環境の変化に対応しやすくなる
従来のレイティングでは、企業や社員を取り巻く環境の変化に対し、柔軟に対応することができませんでした。一方、ノーレイティングでは頻繁に上司と部下の1on1での対話が行われるため、環境の変化に対応しながら、リアルタイムに部下を評価することが可能です。また時短勤務、在宅勤務など、働き方が多様化するなかで、ノーレイティングであれば一人ひとりの状況に合わせた目標設定と評価が行えます。個人の目標設定やライフスタイルに寄り添えるため、社員からの不平不満が生まれにくくなり円滑に業務が進行できるようになります。
一方で、ノーレイティング制度にはさまざまなデメリットや課題も付きまといます。
ノーレイティング制度のデメリット
1)管理職のマネジメント力が問われる
従来のレイティングであれば、予め統一された評価項目・基準に応じて相対的なランク付けを行うため、比較的容易に評価できました。一方、ノーレイティングでは明確な評価項目・基準が設定されていないために、評価プロセスの判断は上司に委ねられます。上司のマネジメント能力が不足していると、下された評価に不満を抱かれてしまう可能性もあるため、管理職にはこれまで以上に高いマネジメント能力が求められます。
2)管理職の負担が増える
従来のレイティング評価の場合、期末・年度末といった決まった定期のタイミングのみ評価を実施していましたが、ノーレイティングでは頻繁に部下と1on1で対話する必要があるため、業務量としてもその分増えてしまいます。特にも、プレイングマネージャーの方の場合、多忙な業務のなかで面談時間を確保していくことは現実的に難しいケースもあるでしょう。
3)混乱をもたらしてしまう可能性がある
ノーレイティングは上司と部下の1on1での対話の度に、状況にあわせて目標設定をしていくため目標が変化していきます。そのため、社員にも状況に合わせて柔軟に変化していくことが求められ、場合によっては混乱してしまい目標を見失いかけてしまう可能性もあり得ます。これを防ぐために、組織全体でのミッションは固定し、万が一変化が生じる際には都度周知していくこと、そして個人の役割に応じて面談頻度を調整していくことが大事になっていくでしょう。
導入を成功させるためには?
ノーレイティングは、従来のレイティングと全く異なる新たしい人事評価制度です。
上手に活用ができれば、社員のモチベーションを高める効果が期待できる一方で、企業の体制によっては直ぐに導入することは難しいケースもあるでしょう。
そのため、ノーレイティング制度におけるメリット・デメリットを理解し、現状の課題がノーレイティング制度を導入することで解決ができるものなのかどうかを、検討していくことから始めてみるのが良いかもしれません。
次回の第二弾では「ノーレイティング制度の導入ポイント(導入方法や留意点など)」についてご紹介いたします。
ノーレイティング制度の良い部分を上手に取り入れて、社員がイキイキと働ける環境を整えていくために、ぜひお役立てください。
より自社に適切な導入方法、運用方法を検討していきたいという方はお気軽にご相談ください。
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