
サナエノミクス「地域未来戦略」が描く新地図
―地方発100億企業とスタートアップ・クラスターの衝撃
「地域を超えたビジネス展開を図る中堅企業を支援し、地方に大規模な投資を呼び込む」。
高市首相の所信表明演説で語られたこの構想が、「地域未来戦略」として具体的な形になりつつあります。今回明らかになった資料(資料4参考資料)には、従来の「バラマキ型」地方創生とは一線を画す、国と地域が一体となった「産業クラスター形成」の青写真が描かれています。
本記事では、この新戦略が地方経済、特に中堅企業やスタートアップにどのような変革をもたらすのかを解説します。
1. 「点」ではなく「面」で勝つ:戦略産業クラスターの形成
地域未来戦略の最大の目玉は、地域ごとに「戦略産業クラスター」を形成するという構想です。
これまでの地方創生は、個々の企業への補助金支援が中心でした。しかし今回の戦略では、知事が主導して地域の「地場産業の成長プラン」を策定し、国がそれをバックアップする体制をとります。
具体的には、半導体や蓄電池、バイオなど、国が指定する「GX戦略地域」に対し、インフラ整備や大胆な規制緩和(緑地規制や工業用水の見直し等)を集中的に実施します。
これにより、地方であっても世界と戦える産業拠点が生まれ、そこに関連企業が集積する「面」の強さが生まれます。
2. ターゲットは「100億企業」:中堅・中小のスケールアップ支援
もう一つの重要なキーワードが、「地域経済全体を底上げする100億企業の創出」です。
地域経済を牽引するのは、実は大企業よりも、地域に根ざした中堅企業です。今回の戦略では、こうした企業が行う大規模設備投資やビジネス展開を重点的に支援することが明記されました。
「地域波及効果の高い企業」への重点支援により、親企業が成長すれば、下請けの中小企業や地域の雇用も潤うという好循環(トリクルダウン)を、地方から起こそうという狙いです。
3. イノベーションの源泉:地方大学・高専発スタートアップ
クラスター形成に欠かせないのが、新しい技術の種(シーズ)です。
資料には、「地方大学発、高専発スタートアップの創出・成長支援」が明確に位置づけられました。
産総研などの国の研究機関と地方大学が連携する拠点を整備し、そこから生まれる研究成果を、地域の中堅企業が実証実験などで支え、スタートアップとして社会実装する。
大学(知)×中堅企業(実業)×スタートアップ(革新)という、地域完結型のイノベーション・エコシステムが構築されようとしています。
4. 人材の還流:大企業プロ人材を地方へ
ハード面だけでなく、ソフト面(人)の支援も強化されます。
注目すべきは「大企業人材の活用促進(レビキャリ等)」です。
都市部の大企業で経験を積んだプロフェッショナル人材が、地方の中堅企業やスタートアップに転籍・兼業しやすい仕組みを作ります。
「技術はあるが経営人材がいない」「販路開拓のノウハウがない」といった地方企業の課題を、人の流動化によって解決しようという現実的なアプローチです。
結論:地方の経営者が今やるべきこと
サナエノミクスの「地域未来戦略」は、待っていれば恩恵が受けられるものではありません。地域全体で戦略を描き、国にプレゼンして勝ち取る「競争型」の支援策と言えます。
自社の立ち位置の再定義:自社は地域の「戦略産業クラスター」のどこに位置づけられるか?
産官学連携の模索:地元の大学や高専、あるいは他企業と連携し、面での展開ができないか?
情報収集:都道府県が策定する「成長プラン」に、自社の事業をどう組み込めるか?
静岡のような製造業の厚みとスタートアップ支援の土壌がある地域にとって、これは千載一遇のチャンスです。地域の総力を結集し、次世代の産業地図を自らの手で描きに行きましょう。

