
はじめに
医療、介護、フィンテック、モビリティなど、規制産業に挑もうとするスタートアップが最初にぶつかる”壁”それは現在の日本の制度。
スタートアップにとって、最も大きな障壁のひとつが「制度」──つまり法律や行政ルールです。どれだけ革新的な技術があっても、現行制度の枠外であれば、サービスとして提供することすら許されない。
しかし、こうした“制度の壁”に風穴を開ける仕組みとして注目されているのが、レギュラトリー・サンドボックス(Regulatory Sandbox)です。
レギュラトリー・サンドボックスとは何か?
レギュラトリー・サンドボックスとは、スタートアップや企業が新たなサービスや技術を、規制を一部緩和した環境下で試験運用できる制度のことです。【規制のサンドボックス制度】
制度の目的は以下の通りです。・革新的なサービスが現実世界で安全に試せる機会を提供
・制度の柔軟性を担保し、将来的な規制改革につなげる
・官民の対話を可視化・制度化することで、透明性のある共創を促進
日本では2018年に「新技術等実証制度(いわゆる規制のサンドボックス制度)」が導入され、内閣府を中心に、経済産業省、厚労省、国交省などの所管官庁と連携して運用されています。
なぜスタートアップにとって重要なのか?
スタートアップが規制産業で新サービスを展開しようとすると、次のような課題に直面します。・法律や制度が古く、想定されていないテクノロジーを扱えない
例:オンライン診療、AIによる診断支援、ドローン配送、ブロックチェーンを活用した保険契約
・実験をしたくても、“制度違反”になるため何もできない
例:遠隔での服薬指導を行いたくても薬機法や薬剤師法に抵触してしまう
・行政との対話がブラックボックスで、どう申請すればいいかわからない
こうした環境下において、「実験の余地」を制度側が認めてくれるサンドボックス制度は、まさに“制度の中にある自由”です。これにより、スタートアップは次のようなことが可能になります。
・現場でのデータ取得と仮説検証ができる
・行政との制度対話を通じて、将来の制度改正につながる
・投資家やパートナーに対して「制度上の可能性がある」と示せる
これらの利点を有効活用して、最大限の企業価値を生み出すことができます。
海外の流れと位置づけ
レギュラトリー・サンドボックスの発祥はイギリスです。2016年に英国FCA(金融行動監視機構)がフィンテック分野で導入し、以降シンガポール、アメリカ、エストニアなど各国に広がりました。
・フィンテックや保険テック(InsurTech)分野で先行
・気候テックやヘルステックにも広がりつつある
・規制と産業振興のバランスを取る政策として高く評価
日本でも「制度を固定化するだけでなく、柔軟にアップデートする姿勢」が求められており、この制度はその象徴的な取り組みと位置づけられます。
実証プロセスの流れ
日本のサンドボックス制度では、以下のステップで実証が進みます。
- 事前相談・ヒアリング(内閣府や所管省庁との対話)
- 実証計画の申請
- 公表と第三者評価(審査)
- 最大2年間の実証実施
- 結果報告と制度検討へのフィードバック
このプロセスを通じて、事業者は「制度の外で闇雲に進むのではなく、制度の中で堂々と実験ができる」ことになります。
国内における代表的な実証事例
Medley・MICIN:オンライン診療の初診解禁へ
・コロナ禍を契機に、「対面原則」の一部が緩和。
・限定地域・医療機関での実証が制度緩和の起点となった。
CureApp:治療用アプリ(DTx)の臨床検証
・禁煙治療アプリが「医療機器」として承認。
・サンドボックス的な制度対話を経て、保険収載へ。
株式会社Smart119:救急搬送支援の情報共有プラットフォーム
・消防・病院・搬送ルートをリアルタイムで連携。
・消防法・個人情報保護制度との接点で実証実施。
活用の難しさと注意点
とはいえ、サンドボックスには課題もあります。
・申請負担が大きく、フォーマルなドキュメントが必要
・実証が認められても、制度改正に直結するとは限らない
・行政側にもリスク回避的な文化が根強く、進行が遅いことも
したがって、「PoCのための制度」ではなく、「制度対話の第一歩」と捉える姿勢が求められます。
まとめ_”制度と共に未来を作る”_
日本の制度は、慎重です。だからこそ「守られている」という安心感もあります。
しかし同時に、その慎重さが変化を妨げていることもまた事実。
レギュラトリー・サンドボックスは、「制度と対立する」のではなく、「制度とともに未来を設計する」という、新たな姿勢を象徴する制度です。
変えるべきなのは、ルールではありません。
“変わってもいいはずだ”と、誰もが思っていながら動かせなかったものに手をつける仕組みこそが、今必要なのです。
参考資料:
・https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/sandbox/
・https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/sandbox.html
・https://note.com/ubie/n/n9056e10cdd60
最後までご覧いただき、ありがとうございました。今回の記事では、基本的なEXIT戦略の知識や流れなどをご紹介いたしました。
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