「スタートアップ育成5か年計画」の実現に向けた提言(「新しい資本主義実行計画2023」)
令和5年5月11日
新しい資本主義実行本部
スタートアップ政策に関する小委員会
1.総論
過去10年間以上に亘って人口減少・経済低成長が続き、社会課題が山積している日本では、社会全体に閉塞感が広がり、「明日への希望が持てない状況」と指摘されている。
新しい資本主義では、政府のみならず民間による公的役割にも着目し、官民協力によって旧来型の制度や慣習を抜本的に見直すことで、硬直的になっている日本社会を活性化していく。
まず実現すべきは、社会課題を成長のエンジンとし、円滑な労働移動と賃金上昇によって、この状況を打破していく。その担い手となるのがスタートアップである。
スタートアップは、新しい技術やアイデアにより社会課題をスピード感をもって解決していく存在であると同時に、市場に新たな刺激を与えることで市場の活性化や既存企業の生産性向上をもたらす。
昨今の世界の社会・経済情勢の急速な変化により、スタートアップを巡る環境は厳しさを増しており、スタートアップへの政策的対応の重要性は一段と増している。
新しい資本主義実行本部では昨年11月に「スタートアップ育成5か年計画に向けた提言」をまとめ、政府ではこれを受けて「スタートアップ育成5か年計画」が策定された。
同計画では、スタートアップへの投資額を「5年後の2027年度に10倍を超える規模(10兆円規模)」とする目標を掲げている。
その実現のためには、同計画の初期に、スタートアップ・エコシステムの育成に不可欠な要素の法律・税制等の制度面での対応が急務である。
中間提言にて指摘したストックオプション(SO)制度の他、金融・ファンド法制、研究開発ファンディング、在留資格、税制等は、スタートアップ・エコシステムを形成する基盤的制度であり、新しい資本主義におけるスタートアップの役割に即した早急な制度整備が求められる。
当委員会では、有識者へのヒアリングを通じて上記計画の具体化に向けた政策検討を進めてきた。本提言では、中間提言にて焦点を当てたSO環境整備に関する内容に加えて、エコシステムの形成に必要な幅広い課題を整理し、提言として取りまとめた。
スタートアップ政策は複数省庁の法令・税制に跨ることから、政府一丸となった取り組みが必須である。本提言の各項目を「新しい資本主義実行計画2023(仮称)」及び「経済財政運営と改革の基本方針2023」に盛り込むとともに、本提言の早期実現を求める。
なお、本提言は「5か年計画」のうち早期に対応すべき主要項目を深堀りして具体化したものであり、本提言に記載の無い項目が対応不要になったという趣旨ではない。
2.提言
(1)ストックオプション(SO)環境整備の早期実現
○ストックオプション(SO)プールの日本での実現に向けた会社法改正
- 株主総会から取締役会への委任内容について、新株予約権の権利行使の価額や権利行使期間等も含めることができるよう会社法を改正すること(会社法第239条第1項第1号関係)。
※上記改正内容は、募集新株予約権の発行数の上限に係る決議、すなわち既存株式の希薄化に繋がる内容を含むものでない。
- 新株予約権の発行に係る募集事項の決定の委任について、株主総会から取締役会への委任決議の有効期限が現行では「一年以内」となっているところ、この制約を撤廃すること(会社法第239条第3項関係)。
- 新株予約権の発行上限を決める際には株主総会の決議が必要となるが、実開催を行わずに決議があったものとみなすためには議決権を有する株主全員の書面等による意思表示が必要となっており、機動性に欠けるとの指摘がある。このため、例えば、議決権を有する株主のうち決議を行うのに足る株主の書面等による意思表示によって株主総会の決議があったものとみなすことができることとするなど、必要な検討を行うこと。※米国では、会社法(デラウェア州)上SOの内容を取締役会で決定できることを前提に、税法上の税制適格SO(Incentive Stock Option)の要件として株主総会によってSOの発行上限等のplan(SOプール)を承認することとされているが、最大で10年間はその承認が有効であり、またSOの権利行使価額を含めた幅広い事項を取締役会で決定することができるため、機動的にSO付与することができる。また、株主総会の書面決議については、株主の全員の同意書を要しないため、投資家との間の契約で設定されるSOプールと連動する形で機動的にSO発行の上限を設定することができる。
○税制適格ストックオプション(SO)の制度見直し
- 税制適格SOの株式保管委託要件がM&A等の場面において制約になっている一方で、非公開会社では会社法の制約によって株式に譲渡制限が付されていること、また発行会社及びSO付与対象者によって税務処理が行われていることに着目し、非公開会社における税制適格SOにおける株式保管委託要件を撤廃すること(租税特別措置法第29条の2第1項第6号及びその他関連規定関係)。
※非公開会社の株式は譲渡制限が付されており、株式の発行や譲渡、新株予約権の行使による株式の交付等の、株式や新株予約権の異動は株主名簿や新株予約権者名簿によって管理されている。また発行会社による税務署への所要の調書提出や、株主による税務署への確定申告の手続きが行われている。
- 社外高度人材への税制適格SO付与のためには、一定の要件を満たすスタートアップに限定され、かつ中小企業等経営強化法による計画認定が必要となるが、この認定制度について調査を行った上で、認定に伴う手続き負担なしで税制適格SOの付与を可能とするよう検討を行うこと(租税特別措置法第29条の2関係)。
※社外高度人材には、一定の要件を満たす外部協力者(プログラマー、エンジニア、弁護士等)が該当。
- スタートアップの人材獲得力向上の観点から、税制適格SOの上限額の大幅引き上げ又は撤廃を検討すること。併せて、スタートアップフレンドリーな制度となるよう税制適格SOの手続きの簡素化や要件の更なる見直しを含めて利便性向上を図ること。
※税制適格SOの使い勝手が悪いこと等を背景として、信託型SO等の制度面・税制面で不安定な制度の活用が近年増加しており、税制適格SOの利便性向上は喫緊の課題。
○種類株式に応じた未上場会社の株価算定ルール(日本版409A)の策定
- 種類株式に応じたセーフハーバーとしての株価算定ルールが明示されておらず、税制適格ストックオプション(SO)の発行や役職員等へのインセンティブ目的での株式の付与等において不安定な税務実務となっていることから、米国IRC409Aの日本版(日本版409A)として、ガイドラインや国税庁通達等の形で同ルールや指針を策定すること。
※米国では、内国歳入庁(IRS)が未上場会社の普通株式の株価算定ルールとしてIRC409Aを策定。日本では、国税庁通達により非上場会社の一般的な株価算定方法が示されているものの、多くのスタートアップで導入されている種類株式の評価やそれらが導入されている場合の税制適格SOの要件該当性についての予見可能性のある算定ルールは明示されていない。
○非上場株式市場の制度見直し
- プライマリー市場の取引拡大に向けて、諸外国の事例を参照し、特定投資家私募制度の利用促進や必要に応じた見直し、少人数私募制度の在り方(人数制限や投資家の人数算定方法等)、スタートアップの性質にも配慮した有価証券届出書の在り方など、資金調達の在り方を検討すること。
- セカンダリー市場でのオンライン取引について、個人投資家の保護に配慮しつつ、私設取引システム(PTS)での資本金要件(現在は3億円)等の認可基準、開示義務、システム要件等を緩和するなど、オンラインプラットフォーマ―が参入しやすい環境を整備すること。
○株式投資型クラウドファンディングの拡充
- 株式発行者の年間資金調達上限について、米国等の諸外国の事例を参照し、開示等の必要な投資家保護策と併せ、例えば現行の1億円から5億円にする等の拡充を検討すること。また、投資家の投資上限について、現行の50万円から例えば100万円にする等、年収や資産に応じて投資上限の拡充を検討すること。
※米国の株式発行者の年間資金調達上限は500万ドル。
○有価証券届出書・会社登記等における個人情報の取り扱いの見直し
- 新規公開時に提出される有価証券届出書等においてSOの保有者の氏名・住所等が記載される。また、会社登記の際には登記簿に代表取締役の住所が記載されて公開情報となるが、インターネットによる情報へのアクセス性の高まりを踏まえ、これら個人情報の取扱いの在り方を見直すこと。
(2)スタートアップへの資金の流れの強化
○個人からのVCへの投資促進
- 英国、フランス等の諸外国の事例も参照し、投資家保護に留意しつつ、個人からVCファンドへの投資を促進するスキーム(日本版VCT)の具体化について検討を行う。スタートアップの成長を支援しつつ、個人投資家の資産所得増を実現する施策として、資産所得倍増プランを推進すること。
※英国のVCT(Venture Capital Trust)では、一定の要件の下、個人から上場VCファンドに投資した際に、税優遇措置(投資時の税控除、運用益の非課税、法人税の非課税)が与えられており、年間約1兆円の個人資金がVCTに投資されている。VCTからアーリーステージの未上場企業への長期投資という性質を踏まえ、流動性(VCTからの買戻し制度)や情報開示(四半期)にも配慮している。
- 具体には、英国及びフランス事例では投資時の税控除が大きな成功要因の一つとなっていることも踏まえ、エンジェル税制の検討など、優遇税制の投資対象にVCファンドを含めることも含め、個人からVCへの投資時の税控除の導入について、必要な措置を講じること。その際、信託からの投資についてもエンジェル税制の対象とすること。
- また、英国事例では、長期投資という性格に合わせて、流動性確保の観点から投資口の自己取得が可能となっていることも踏まえ、我が国においてもVCにおける投資口の自己取得が可能となるよう、不正防止等の措置を併せて、投資信託法の内閣府令等を改正すること。さらに、我が国の資産運用業の抜本改革の視点も踏まえ、長期投資の適した投資信託商品がより増えるよう、諸外国の事例も参照して、投資信託の枠組みを見直すこと。
- さらに、英国事例では、四半期毎の情報開示が求められているという実情も踏まえ、投資家の投資判断に重要な情報が適時に開示されることを前提に、我が国の上場VCファンドにおいても週次・月次の情報開示ではなく、四半期開示とするよう東証ルールの見直しを検討すること。
○機関投資家からのVC投資促進
- 国内外の機関投資家からの投資拡大に向けて、VCファンドのパフォーマンスの国際基準である公正価値評価(時価評価)の導入や監査等の実施を促進すること。具体的には、LPSにおける公正価値評価の促進に向けて2023年夏ころまでにLPS会計規則を改正して公正価値評価を位置づけるとともに、公認会計士協会における金融商品会計及び監査に係る実務指針の改訂や、必要に応じて金融商品会計基準の規定の見直し等が期待される。
- 諸外国の事例を参照しつつ、deep-techの専門性を有する独立性VCの資金規模を拡大する観点から、税優遇など、事業会社からVCファンドへの投資促進策について検討すること。
※経産省では、2014~2019年度まで企業のベンチャー投資促進税制(認定ベンチャーファンドを通じてベンチャー企業へ出資した企業は、出資額の一定割合を損失準備金に積み立て、損金算入可能)を実施。
- 成長に時間を要するスタートアップを念頭に、新たな事業分野の開拓を幅広く支援する観点から、銀行グループが出資可能なベンチャービジネス会社の範囲を拡充するための要件緩和を進めること。
○官民ファンド等の機能強化
- 官民ファンドから国内外VCへのLP投資の強化に当たり、各機関からの投資額を毎年集計・公表すること。その際、「5年10倍」のVC投資額の実現のための十分なリスクマネーの供給という観点に留意すること。
- 国内外VCへのLP出資に当たっては、国内外VCとのネットワークを有するゲートキーパーを積極的に活用すること。
- 2024年目途で法案提出を行い、運用期限を2050年まで延長すること(現在の期限は2034年)。また、ダイレクトセカンダリーや上場済みスタートアップへの成長資金供給も含めた400億円のオポチュニティファンドを速やかに立ち上げる。
- グロース段階のdeep-techスタートアップの事業拡大を加速させ、エコシステムの形成を促すため、NEDOによる量産化や事業開発の支援等を含めて、deep-techスタートアップに対する支援事業を拡充すること。
○ベンチャーデット(スタートアップへの融資)の活用促進
- 日本政策金融公庫の融資事業について、本年2月に貸付限度額の拡充措置を行ったところ。さらに、米国等の諸外国では、レイターステージの企業にてベンチャーデットがより多く活用されているという諸外国の事例も参照し、日本政策金融公庫などの融資事業の貸付対象や貸付限度額等を見直し、レイターステージのスタートアップが活用可能な融資事業を拡大すること。
- スタートアップ等が、不動産等の有形資産担保や経営者保証等がなくとも、事業全体を担保に金融機関から成長資金を調達できる事業(成長)担保制度を早期に実現すること。
○グローバル標準のファンド法制への改正
- LPS法(投資事業有限責任組合契約に関する法律)について、海外投資上限を撤廃すること。
- 2024年度の法改正を視野に、web3分野の暗号資産などトークンの投資対象への追加などを図る改正を行うこと。
- LPSの事業範囲拡大に伴い、投資家や債権者に対する情報開示をより徹底する観点から、2024年度の法改正を視野に財務諸表等の記載事項について法令に位置付けることを検討すること。また、モデル契約を改定すること。
○外国人投資家に対する税制度の利便性向上
- 令和3年度の税制改正の内容を踏まえつつ、海外LPから国内GPへの投資を促す上での利便性向上に向けた税制の在り方等について検討を行うこと。
○東証グロース市場の在り方の検討
- 東京証券取引所による市場改革を着実に進め、上場会社の企業価値向上に取り組む環境整備を行う中で、成長性に関する指標の導入を含めた上場維持基準の在り方等、グロース市場の制度整備について検討を行う。併せて、上場廃止要件を厳格化すること。
- 創薬ベンチャーが上場後も継続的に資金調達を行い、企業価値を伸ばしていくことが出来る環境を整備するため、東証の「新規上場ガイドブック」に「想定される事例」として記載されているため、現状ではIPOのための実質的な要件となっている臨床試験フェーズや創薬パイプラインに関する大手製薬企業とのアライアンスについての運用を、当該事例の書き換え等によって合理化すること。
○大企業との連携による事業化支援(オープンイノベーション)の強化
- スタートアップの成長に資する既存企業とスタートアップのオープンイノベーションを引き続き促進するため、オープンイノベーション促進税制の適用期間延長などを検討する。
○M&Aの成果に関する情報開示の在り方の検討
- スタートアップへの投資のエグジットにおいてM&Aが少ない現状を踏まえ、「のれん」の償却額を調整した利益(Adjusted EBITDAベース)を決算短信において開示するなど、投資家がM&Aの成果をより理解できる方策を検討すること。
(3)大学・高専を核としたエコシステム形成
○「研究開発型スタートアップへのファンディングの在り方」の策定
- 大学・高専発スタートアップを含め、研究開発型スタートアップへのファンディングの在り方を示す基本方針が存在しないことから、シード期(VC等から投資を受ける前の段階)のスタートアップでの研究開発費が不足により「死の谷」を超えることができず、また資金配分機関においても多くの論点(補助率、申請様式、経理処理等)が指摘されている。こうした状況を踏まえ、下記の項目を含む形で「研究開発型スタートアップへのファンディングの在り方」を、本年夏を目途に策定するとともに、各資金配分機関の今年度及び来年度事業から導入すること。
※大学・研究機関等の研究成果を基にして立ち上げたスタートアップ(株主会社)へのファンディングを創設・強化すべきという趣旨。
①シードステージのスタートアップへの研究開発支援の強化
「死の谷」を超えるため、シード期(VC等から投資を受ける前の段階)のスタートアップ(株式会社)への研究開発費の必要性(資金調達やライセンシングに向けたプロトタイプ作成のため)を認識するとともに、その支援を強化すること。
②支援を行う資金配分機関の拡大
基礎研究段階のファンディングを行っているFA(JST、AMED等)が技術的な知見を有していることから、当該FAはシードステージの研究開発型スタートアップへの支援も行うこと(JSPS以外を想定)。また、その他の研究開発法人(JAXA等)についても、シードステージのスタートアップへの研究開発費の供給を強化すること。
③実施方法
スタートアップと資金配分機関の両者の負担軽減の観点から、ステージゲート方式の導入の有無等を含め、各資金配分機関が得意とする形(大学への補助金と同様の申請様式とする等)を許容するとともに、諸手続(各種様式、経理処理、日誌等)を簡略化すること。
④補助率・財源
大学・国研等への研究開発ファンディングと同様に補助率100%の支援とするとともに、既存事業に影響が出ないよう補正予算を活用すること。
⑤データ収集・評価分析
国からシードステージのスタートアップへの研究開発ファンディングの実績を含め、支援のインパクトを把握するため、政策評価・分析に必要なデータ収集を中長期的に行うこと。
- 日本のSBIR制度については米国SBIR制度の趣旨を正しく捉え、「SBIR=公共調達」という認識を改めるとともに、上記「在り方」も踏まえ、資金配分機関とスタートアップの両者にとっての負荷が少ない形で、シード期のスタートアップに研究費が行き届くよう必要に応じて制度を見直すこと。
※米国では、1億ドル以上のR&Dファンディングを行う全機関に対して、一定割合(3.2%)をシード期のスタートアップに支出することを義務付けている。実施機関のうち、DoDを除いて大部分の割合を占める機関(NSF、NIH、DoE等)ではSBIRと公共調達は連動していない。
○グローバル・スタートアップ・キャンパスの創設
- 「5か年計画」に記載の内容に加えて、同キャンパス構想によって日本全体のスタートアップ・エコシステムの抜本強化を図るという観点から、日本全国の大学・研究機関との有機的な連携を図るとともに、特に既にグローバルマインドを備えている沖縄科学技術大学院大学(OIST)についてはスタートアップ創出・育成に向けて共同研究や人材交流等を推進すること。
○ スタートアップ・エコシステム拠点都市での取組強化
- スタートアップ・エコシステムのグローバル展開を支援しているJETROの活動が強化され、継続的に各拠点都市で展開されるよう、JETROの関連予算・体制を抜本拡充すること。その際、継続的・恒常的な支援が行われるよう、措置を検討すること。
○高等専門学校の規模拡大・起業家教育の強化
- 各高専にて起業家教育を導入するとともに、高専と大学・高専間の連携も図り、グローバル展開のため、スタートアップ・エコシステム拠点都市との連携も促進すること。
- 高度な実践的技術力を有する人材とスタートアップの育成の双方の観点から、工業高校から高専への転換を促進すること。その際、転換に掛かる国からの支援についても検討すること。
- 高専生の技術力・課題解決能力の向上に大きなインパクトを有するロボットコンテストやディープラーニングコンテスト(D-con)等のコンテスト開催を奨励するとともに、メディアとも連携して情報発信を強化すること。
○知財活用の促進
- 大学評価や国からのファンディング制度において、評価項目から「特許件数」は削除した上で、「ライセンス収入」を評価項目に取り入れること。
- 知財支援が必要となるスタートアップに対して、VCを介して知財支援が行き渡るようにするため、VCへの知財専門家の派遣規模を拡大する。
- スタートアップによるイノベーションの創出を促進するため、特許審査の段階での審査官側からのプッシュ型支援を早期に実施すること。
- 大学から生み出された知財が適切な形でスタートアップにライセンスされるよう、「大学知財ガバナンスガイドライン(2023年3月、内閣府・文科省・経産省)」の周知徹底を図ること。
○分野の特徴に応じた支援強化・環境整備
<バイオ>
- 創薬ベンチャー創出の強化に向けて、日本の研究者とグローバル製薬企業等との人材流動性を高めることを含め、日本と諸外国のエコシステムの接続を強化すること。
- 医療機器の開発や脳神経系疾患等の研究開発等のバイオ系スタートアップについて、研究成果がグローバル展開されるよう、国からの支援強化を含め、産学官によるサポート体制を構築すること。
<クライメイトテック>
- 世界的に関心が高まっているクライメイトテック分野について、政府の検討体制を明確にするとともに、新しい資本主義実行計画や骨太方針の中でクライメイトテックを明記すること。
- アンモニア等の物質を取り扱う際の隔離距離など、導入から長い年数が経っても同じ基準となっている規制については、技術進化と実ニーズ等を踏まえ、規制緩和の可能性について検討すること。
- 次世代半導体のユーザーサイトの取り組み強化に向けて、次世代半導体のユースケース創出に取り組むスタートアップの開発費などの支援を行うこと。
○国際標準の教育カリキュラムの導入促進
- 有能な外国人材が集まるエコシステム拠点において、その子弟に対する質の高い教育機会が十分に提供されるよう、国際バカロレアなど世界標準の教育カリキュラムの導入を推進すること。
○海外における起業家等育成プログラムの確実な実施
- 世界トップレベルのスタートアップ、VC、アクセラレータ等での研修事業にて、2023年度~2027年度の5年間で1,000人の派遣を確実に実施するための予算・体制を確保すること。
○起業家人材の育成事業の拡充
- グローバルに活躍する起業家人材育成のための未踏事業やディープテック分野での人材育成(NEDO、産総研等)を拡充するとともに、地方を中心にした若手人材育成の取り組みにも拡大すること。加えて、同様の取り組みをAMED、JAS、JAXA、農研機構等の法人にも展開すること。
○ スタートアップを担う人材や支援する人材の拡充(人材の流動性の向上)
- 事業会社等に存在する優れた技術・人材の流動化によるイノベ-ションを後押しするため、VC等と協調して外部の経営資源活用による事業化に取り組む事業会社等やカーブアウトする者に対する研究開発活動を強力に支援すること。
○スタートアップの労働環境整備
- スタートアップの人材獲得力向上のため、金銭的インセンティブのみならず、スタートアップに特化した健康保険組合の立ち上げ等、スタートアップが抱える特有の課題に対応した労働環境を整備すること。
○米国との連携による起業家育成プログラムの実施
- 米国側が研究者・大学院生等に対して実施する起業家育成プログラムに、日本から研究者・大学院生等が参加し、研究成果の事業化能力を抜本強化する枠組みの創設を検討すること。
(4)グローバル資本・人材の呼び込み
○スタートアップビザの拡充、投資家ビザ・デジタルノマドビザの新設
- 英国等の諸外国の事例を参照し、国家戦略特区の枠組みも活用しつつ、資産額やスタートアップへの投資実績等を基に、一定額を日本国内に投資すること等を要件として、投資家(エンジェル投資家を含む)向けビザを創設すること。
※英国の投資家ビザは、英国内株式に20万ポンドを投資すること等が要件。なお、ロシアからの移民過多等の事情により、現在は発行停止中。
- 英国等の諸外国の事例を参照し、国からの認定を受けたVC、インキュベータ 、アクセラレータ等の民間組織も、自治体に代わって、起業準備者へのスタートアップビザ発給の確認手続きを行える枠組みを創設すること。その際、ビザ取得者の活動確認を前提としつつ、事業者への負担を考慮し、諸外国同様に簡素・迅速な手続きとすること。
- スタートアップビザ・投資家ビザ取得者等への銀行個人口座開設や不動産取得の簡素化・迅速化が図られるよう、外国人への生活環境整備を強化すること。
- スタートアップビザの滞在期間を延長し、国家戦略特区域外外国人創業活動促進事業等を活用することで、最長2年滞在できるようにすること。併せて、同制度の全国展開について検討すること。
- 諸外国の事例を参照し、デジタルノマド(デジタル技術を活用し場所に縛られず遊牧民のように旅をしながら仕事をする人)の呼び込みに向け、ビザ創設を検討すること。
※世界の49の国・地域がデジタルノマドビザを発行している(2022年11月現在)
○大阪・関西万博の機会を生かしたエコシステム強化
- スタートアップ・エコシステムの各拠点での活動がグローバルに展開されるよう、2025年の大阪・関西万博の機会を活用し、万博がテーマとしている「いのち輝く未来社会のデザイン」に関連したものとして、ゼロカーボン、ヘルスケア等をテーマとした国際カンファレンスやビジネスコンテストの開催に加えて、起業家教育やグローバルアクセラレーションプログラム等、エコシステムの発展に必要な各要素の強化を図ること。
○ASEAN諸国等との連携強化
- ASEANの社会課題解決のための企業間の協業・連携支援について、企業フェーズに沿った一気通関の支援を実施すること。
- 日ASEANで活躍する次世代リーダー候補で構成するヤングビジネスリーダーズサミット・Z世代ビジネスサミットの開催を通じて、日ASEANの起業家ネットワークを構築する。
- G7でも議論されているASEAN等の諸外国との協力について、スタートアップ・新規事業を活用し、現地企業と連携して海外事業展開を行うスタートアップを支援すること。
○スタートアップ・VC分野の日米人材交流プログラムの創設
- グローバルに通用する専門性・ネットワークを有する日米双方の人材の育成を抜本強化するため、大学院生等の若者が先端技術の創出を牽引するスタートアップ・VCで長期間・有給で勤務(インターン)する、日米双方向の人材交流プログラムの創設を検討すること。
(5)インパクトスタートアップ(社会的起業)のエコシステム整備
○インパクトスタートアップに関する教育プログラム開発、若手人材の海外派遣
- 社会的起業家を育成する教育拠点づくりや、社会的起業家を志す若手人材の海外派遣を支援すること。その際、国内の大学における教育課程の開発や社会起業家の卵のネットワークづくり等を予算面でも支援すること。
○新たな法人形態の検討
- 米国等の諸外国の事例を参照し、営利企業(株式会社など)と非営利企業(NPOなど)の中間的な存在の新法人制度について、検討を進めること。
○インパクトスタートアップの認証制度
- 国際認証を踏まえたインパクトスタートアップの日本版の認証の枠組みとして、スタートアップ支援育成プログラムJ-Startupのインパクトスタートアップ版を早期に発足させること。
- 上記の認証制度にて認定された企業に関しては、公共調達における優遇措置を導入すること。
- 地方自治体においてはソーシャルインパクトボンドも活用しながらインパクトスタートアップの公共調達への参加を奨励・促進すること。
○推奨企業リストの作成、地方自治体とのマッチング
- インパクトスタートアップの情報や自治体との取組の好事例をカタログ化し、それが共有される仕組みを作ること。また、自治体がインパクトスタートアップのサービスを導入する際に求める情報や手続きなどのフォーマットを一元化すること。
○投資に対する支援措置
- 社会的効果の実現は長期の時間軸で捉える必要があるため、政府内で検討中のインパクト測定の指標では、長期間のファンド組成やセカンダリーマーケット制度の整備も視野に議論を行うことこと。
- インパクト投資ファンド等から投資を受けることを目的に、インパクトスタートアップが「インパクト測定」や「インパクト・マネジメント」を実施する際に、必要な費用(外部コンサルタント費用など)の補助制度を作ること。
- 非上場株式も組み入れた投資信託の枠組みなど、個人投資家とインパクトスタートアップを繋ぐビークルを設けること。
○ふるさと納税・企業版ふるさと納税の活用
- インパクトスタートアップの育成支援として、ふるさと納税・企業版ふるさと納税の枠組みの利用を活性化させること。また、好事例の情報収集・発信を強化すること。
○休眠預金の活用
- 本年予定されている休眠預金の制度創設5年後見直しに係る法改正を通じ、活用事業による、創業期などのインパクトスタートアップに対する出資を可能にし、推進すること。
○国・自治体による成果連動型事業の拡大
- 社会課題の解決に向けた成果連動型民間委託契約等の活用促進のため、民間からの資金調達を行うソーシャルインパクトボンド等の活用を進めること。
○インパクト投資の普及に向けた基本的指針の取りまとめ
- インパクト投資に関する関係者の理解を深め、普及を促進する観点から、基本的指針を取りまとめること。
○公益法人を通じた寄付性の高い資金の流れの拡大
- 富裕層からインパクトスタートアップへの寄付性の高い資金の流れを拡大するため、公益法人によるインパクトスタートアップへの「出資」や「助成」を推進すること。そのために、公益法人が事業を迅速・柔軟に変更できるよう、変更認定手続を見直すとともに、公益信託の活用を推進させるため、税制優遇を受けられる受託者の要件を緩和し、インパクトスタートアップも参入可能とすること。
○ワンストップ窓口の設置
- インパクトスタートアップが利用できる各種施策をワンストップで把握できる窓口を設置するとともに、支援体制を強化すること。
スタートアップ人材育成で日米連携しエコシステムをスタートアップ小委員会が岸田総理に提言
https://www.jimin.jp/news/policy/205815.html