ストックオプションを活用し優秀な人材を採用する方法とは?
スタートアップ経営の戦略の一つとして、ストックオプション(SO)の活用があります。ストックオプションとは、株式を予め定められた行使価格で会社からその株式を購入できる権利のことで「新株予約権」ともいいます。この記事では、ストックオプションとは何か、またスタートアップ・ベンチャーにおける活用方法について解説します。
ストックオプションとは
ストックオプションとは、株式会社取締役や従業員などが、自社株をあらかじめ定められた価格で取得できる権利のことを言います。将来的に上場などで、株価があらかじめ定められた価格よりも上昇すれば、その差分を利益として得ることができるものです。
スタートアップにとってのストックオプションの役割
スタートアップやベンチャーの取締役や従業員の業績連動のインセンティブ報酬というかたちで、ストックオプションを活用するケースが多くあります。
経営者がストックオプションを導入するメリットとしては『優秀な人材の確保』がメインです。
将来受け取れる株式の価値を高めようとする動機から、役員や従業員、また顧問などの社外協力者にも付与できるため、企業に携わる人材のモチベーションアップを狙うことができます。
特にスタートアップの場合、事業がまだ不安定であったり、収益基盤が整っていないこともあるため、人件費(=給料)を安易に上げたり、採用時にも同業他社よりも高い給与基準を打診することが難しいケースもあります。しかし、採用においてもストックオプションを報酬とすることで、給与が低くても将来的なIPOやM&Aの際の株価上昇への期待から入社動機となる可能性もあります。
ストックオプション導入時の注意点
ストックオプション制度は言うなれば、IPOやM&A(M&Aの際には、契約により権利行使できないケースもございます)を行い、株価が上昇することを前提にした制度です。そのため、事前に株式公開の計画や業績向上の見込みを、ストックオプション付与者に対して提示できることが必要になります。
また、発行できる株式数には限度があります。誰に対して、いくらの行使価額を設定して、何株付与するかといったことも慎重に決めなければ、不公平感を生み出し、むしろ逆効果となってしまう可能性もあります。一般的に投資家が許容しうるストックオプションの付与率は、株式比率ベースで10%(多くても15%)が一般的です。
また、実際のストックオプション(有償・無償)の発行や運用には株式に対する法律的な知識も必要です。発行に際しては、弁護士や税理士等の専門家にご相談ください。新株予約権の譲渡制限や権利行使の条件を付与するのが一般的で、取締役会もしくは株主総会での決議も必要です。そのため、その制度運用は綿密な計画が必要となります。
ストックオプションの種類とは
ストックオプションには、無償ストックオプションと有償ストックオプションがあります。
無償・税制非適格ストックオプション
無償とは会社から従業員などへ無償で付与されることを意味します。
そのため、税制上は”給与と同じ”扱いとなりストックオプションの行使時点の株の時価と行使価額の差額に対して給与課税(最大約55%の累進課税)が発生します。さらに売却時には譲渡課税(最大約20%)も発生します。
ストックオプションを株に変えただけで納税義務が発生してしまい、税金の支払いは基本的に現金のため支払いが厳しくなるという、受け取り側の問題があります。
※ 詳細は、税理士等にご確認をお願いします。
無償・税制適格ストックオプション
前述の問題点を受け、付与対象者や行使期間などに関する厳しい適格要件を満たすことで、権利行使時の給与課税を免れるという税制優遇措置を受けたものです。
税制適格ストックオプションは、特定の要件を満たすストックオプションのことを指します。これは、ストックオプションの行使時に発生する所得税を株式売却時まで繰り延べ、株式売却時に売却価格と権利行使価格との差額を譲渡益として課税する制度です。通常は、無償ストックオプションを行使すると、現金として株の売却益を得ていない時期に給与所得課税が発生しますが、税制適格ストックオプションを活用すると、ストックオプションの行使時の給与所得課税は行われず、株式売却時のみの譲渡益課税となります。
これは、ストックオプションの行使と売却が同時に行われ、現金利益を得ていない段階で給与所得として課税される通常のストックオプションとは異なる点です1。
税制適格ストックオプションは、社員に対する配慮として有効な手段とされています。これらのオプションは、社員がストックオプションを行使した際の税負担を軽減し、企業の成長に直接的に参加する機会を提供します。ただし、税制適格ストックオプションは、一定の条件を満たす必要があります2。
条件1:年間権利行使価格が1,200万円を超えてはいけない
条件2:監査役含む社外の方に割り当ててはいけない
条件3:付与決議から2年経過した日から10年経過した日までに行使しなくてはならない※
※ただし、令和5年度の税制改正により、設立から5年未満の未上場企業においては、権利行使期間は付与決議日後2年後を経過した日から15年を経過する日までとすることができます1。
上記要件があり1つでも守られなかった時点で「税制非適格」となり最大55%の累進課税が課せられます。
※ 詳細は、税理士等にご確認をお願いします。
無償・1円ストックオプション(株式報酬型ストックオプション)
行使価格を1円に設定した、無償税制非適格ストックオプションの活用型で株式報酬型ストックオプションとも言います。文字通り1円で取得できるので、権利行使時の株価とほぼ同等のキャピタルゲインを得ることができます。
退職金として使われるケースが多く、その場合退職金課税(約25%)であるため、権利行使時に金銭負担が少ないところがメリットです。
※ 詳細は、税理士等にご確認をお願いします。
有償ストックオプション
付与される際にお金がかかるのが有償ストックオプションです。
会社が発行したストックオプションを役員・従業員が発行価額で購入します。そして、ストックオプションの保有者となった役員・従業員が行使価額を支払い、権利行使することで株式を取得することができるものです。
有価証券として取り扱われるため、無償税制非適格に比べて課税回数が少ないなどのメリットがあります。
※ 詳細は、税理士等にご確認をお願いします。
有償・信託型ストックオプション
発行したストックオプションを信託に預け、信託満了まで保管。ストックオプションに交換できるポイントを役員・従業員に付与していき、信託満了時にポイント数に応じてストックオプションが割り振られる、という比較的新しいスキームです。従来のストックオプションに比べ、一回の発行で済み、割当先を後から決定でき、希薄化を防げるなどのメリットがあります。従来は、税制適格ストックオプションであるとされていましたが、国税庁の解釈により税制非適格となるため、発行のメリットがほぼなくなったと言えるでしょう。
※ 上場事例も少ないため、実績のあるコンサルティング会社や税理士、弁護士等に必ずご相談ください。
税制改正や解釈の変更について
税制適格ストックオプションは、従業員が会社から株式を特定の価格で購入する権利を持つという形の報酬制度で、日本の税法において特定の条件を満たすことで税制上の優遇措置を受けられるものです。その主な特徴として、権利行使時の取得株式の時価と権利行使価格との差額に対する給与所得課税が株式売却時まで繰り延べられ、株式売却時に売却価格と権利行使価格との差額を譲渡益課税とする制度があります。つまり、ストックオプションを行使した際の給与所得課税は行われず、株式売却時のみの譲渡益課税となります1。
税制適格ストックオプションの要件については、2022年(令和4年)まで「付与決議日後2年を経過した日から10年を経過する日まで」の権利行使が必要でしたが、2023年(令和5年)の税制改正により、設立から5年未満の未上場企業については、権利行使期間が「付与決議日後2年を経過した日から15年を経過する日まで」に延長されました1。
国税庁による「税制適格ストックオプションに係る付与契約時の株価算定ルール」でセーフハーバー(案)として提示された計算方式のひとつである「純資産価額方式」を用いた株価を算定するためのツールがあります。そもそも、セーフハーバーとは、法令違反を問われることがないという効果を明確化したものです。
セーフハーバールールにより算出された株価を下限として行使価額を設定した税制適格ストックオプションについては、税務当局から行使価額を理由に税制適格性が否認されるおそれがなくなります。
純資産価額方式は、類似業種比準方式や配当還元方式と並んで、財産評価基本通達において挙げられている評価方法の一つです。「純資産価額方式」は、企業の純資産を株式数で割った価格を算出する方法で、株価を算定するためのツールとしても利用されます。純資産とは、企業の資産から負債を差し引いたもので、企業の純資産は以下のように計算されます。
純資産(時価) = 資産 – 負債
ただし、法人税法上の「時価」の考え方に基づいて、資産や負債の評価には時価を用いる必要があります。
加えて純資産価額方式により「(時価)純資産から、優先株式の優先分配部分を引いた額÷株式数」を権利行使価額とできること。マイノリティである多くの役職員は、配当還元方式で「税務上の1株当たり資本金等の額÷2」を権利行使価額とできることなどが明確化されました。
以上より国税庁の通達改正案により「セーフハーバー」が設定され、多くの未上場スタートアップで 税制適格ストックオプションの1株あたりの権利行使価額を大幅に引き下げることが可能になりました。
スタートアップこそストックオプションを有効活用したい
資金力に不安のあるスタートアップ企業でも、ストックオプションのインセンティブが役員や従業員、また社外関係者の士気を高めるきっかけになり、優秀な人材を獲得するチャンスが生まれます。税制適格要件を充たすなど、必要な準備を行えば税負担も低減することができるので、自社の成長性を高める方法の1つとして、ストックオプションの導入を検討してみるのも手段です。
ストックオプションの活用を考える際には是非お気軽にお問い合わせください。