
スタートアップ界隈では、「KPIは?」「マイルストーンは?」「トラクション出てる?」という言葉が当たり前のように飛び交います。でも、いざ自分の事業に当てはめようとすると、
- KPIはダッシュボードに数字が並んでいるだけ
- マイルストーンは資料に書いてみたけど、現場では意識されていない
- トラクションは「とりあえずユーザー数をアピール」しているだけ
という状態になりがちです。
本来、KPI・マイルストーン・トラクションは、それぞれ単独で存在するものではなく、ひとつの成長ストーリーを構成する3つの要素です。この3つをバラバラに運用するのではなく、関連づけて設計できているかどうかが、「伸びるスタートアップ」とそうでないチームの分かれ目になります。
1. KPIは「いまの自分たちの状態」を教えてくれるコンパス
まず最初に押さえたいのはKPIです。
KPI(Key Performance Indicator)は、事業が前に進んでいるかどうかを判断するための“コンパス”です。今どこに立っていて、どちらの方向に向かっているのかを数字で教えてくれます。
スタートアップにとってKPIは、単なる“数字管理”ではなく、
- ビジネスモデルの仮説が合っているかを検証する
- プロダクトが市場に受け入れられているか(PMF)を判断する
- どの施策にリソースを割くべきか決める
ための、意思決定の土台になります。
たとえば、こんなKPIが典型的です。
BtoCサービスなら- 日次アクティブユーザー数(DAU)
- 継続率(7日・30日リテンション)
- 課金率やARPU
- 月次経常売上(MRR)
- 有料契約社数
- 解約率(チャーン)
- トライアルから有料への転換率
大事なのは、「測れる数字」ではなく、事業の成長ドライバーになっている数字をKPIにすることです。何もかも数字化しても、意思決定に活かせなければ意味がありません。
2. マイルストーンは「いつまでに、KPIをどこまで持っていくか」を示す通過点
KPIが「いまの状態」を教えてくれるのに対して、マイルストーンは「未来のある時点での理想の状態」です。ロードマップ上のチェックポイントと言ってもいいでしょう。
ありがちな勘違いとして、
「展示会に出る」「アプリをリリースする」といった“イベント”をマイルストーンにしてしまうケースがあります。しかし、本来のマイルストーンは、
いつまでに、どのKPIを、どの水準まで持っていくか
という“状態目標”として定義するのが理想です。
たとえば、BtoB SaaSで1年後にMRR100万円を目指す場合、
- 3か月後:トライアル導入企業10社、有料3社
- 6か月後:有料10社、MRR30万円、解約率5%以下
- 12か月後:有料30社、MRR100万円、解約率3%以下
といった具合に、KPIを軸にしたマイルストーンを設定します。
するとチームは、「今のKPIから逆算して、今期何をやるべきか」を考えやすくなります。
3. トラクションは「これまで歩いてきた道」の証拠
では、トラクションとは何でしょうか。
トラクション(traction)は、市場からの“手応え”を示す実績のことです。投資家やパートナーが「このスタートアップはいけるかも」と判断する材料になります。
具体的には、次のような数字がトラクションとして語られます。
- ユーザー数・会員数・導入社数の推移
- 売上・MRR・ARRの成長
- 継続率・解約率・リピート率
- 有料プランへのアップグレード数
- 顧客からの紹介件数やNPS
ここで大事なのは、トラクションは“見栄えのいい数字の寄せ集め”ではないということです。
トラクションとは本来、
設定したKPIにそってマイルストーンを積み上げた結果としての「実績」
であるべきです。
だからこそ、投資家から「トラクションある?」と聞かれたとき、本当はこういう会話が望ましいのです。
- 「◯ヶ月でユーザー数が◯倍になった」
- 「有料転換率を◯→◯%に改善できた」
- 「解約率が◯%まで下がり、LTVが伸びている」
つまり、KPIとマイルストーンとの一貫性を持った数字であることが重要です。
4. 3つはどうつながる?「成長ストーリー」としてのKPI・マイルストーン・トラクション
改めて3つの関係を整理すると、こうなります。
- KPI:いまの現在地と向かう方向を示す
- マイルストーン:未来のある時点での到達イメージ
- トラクション:その間を実際にどう歩いてきたかの証拠
これを少しストーリー風に並べると、
- まず「こういうトラクションを1年後に示したい」というイメージ(ゴール)を持つ
- そこから逆算して、「ではどのKPIを追うべきか?」を決める
- KPIを時間軸で分解し、「3か月後・6か月後のマイルストーン」を設定する
- 走りながらKPIをチェックし、マイルストーンの達成/未達を振り返る
- 達成してきた軌跡が、投資家や社内外に示せる「トラクション」になる
という流れになります。
5. よくあるつまずきと、その回避方法
3つの概念はシンプルですが、運用する中でつまずきポイントも多いです。代表的なものをいくつか挙げます。
5-1. KPIが多すぎて誰も覚えていない
ダッシュボードには10種類以上のグラフが並んでいるのに、
結局「何を見ればいいのか」が曖昧になっているパターンです。
- とりあえず「取れる数字は全部取る」
- 会議のたびに見るグラフが変わる
- 現場メンバーが「どのKPIを上げるべきか」わからない
対策としては、「本当に重要なKPIは3つ以内に絞る」くらいの割り切りが有効です。
5-2. マイルストーンが“イベント”になっている
「◯月に展示会出展」「◯月に新機能リリース」をゴールにしてしまうと、「で、それをやるとKPIはどう変わるの?」という本質的な問いが抜け落ちます。
- 打ち上げ的な達成感はあるが、事業の数字は変わらない
- イベントのための準備で疲弊するが、学びが残りにくい
マイルストーンは、“KPIがどう変わっているか”という状態で書くようにすると、施策と成果を結びつけやすくなります。
5-3. トラクションだけ盛って、中身が伴っていない
スタートアップのピッチ資料で、「会員◯万人突破!」というスライドはよく見ますが、その裏で
- アクティブユーザーは少ない
- 継続率が低く、すぐ離脱されている
- 売上にはほとんどつながっていない
というケースも珍しくありません。
トラクションを語るときは、「ユーザー数」だけでなく、アクティブ率・継続率・売上など、KPIと紐づく複数指標で語ると説得力が増します。
6. 今すぐ見直せる3つの問い
最後に、あなたのプロジェクトやスタートアップで、すぐに使えるチェック用の問いをまとめます。
□いま追っているKPIは何か? それは本当に事業の成長ドライバーか?
□そのKPIを、3〜12か月後にどこまで持っていきたいのか?(=マイルストーン)
□過去数ヶ月〜1年の数字の推移を、「トラクション」として一貫したストーリーで語れるか?
この3つがつながっていれば、
KPI・マイルストーン・トラクションは、単なる横文字ではなく、
あなたのスタートアップの“成長ストーリーを設計するためのツール”として機能し始めます。
7.最後に
スタートアップにとって、KPI・マイルストーン・トラクションは、単なる“横文字の指標”ではなく、事業の成長ストーリーを設計するための3つの軸です。KPIは「いまどこにいるか」を示すコンパス、マイルストーンは「いつまでにどこに到達するか」という通過点、トラクションはその積み重ねとして外部に示せる実績だと言えます。
この3つがバラバラに運用されていると、ダッシュボードには数字が並んでいるのに意思決定にはつながらない、ロードマップはあるのに現場は動かない、「トラクションあります」と言っても投資家に刺さらない──という状態に陥りがちです。逆に、
- 重要なKPIを絞って定める
- KPIを時間軸に落とし込んだマイルストーンを描く
- それらの積み上げをトラクションとして語る
という一貫した流れができれば、プロダクトの改善も、資金調達も、採用も、すべてが同じストーリーの上で進めやすくなります。
自分たちのスタートアップに今足りていないのは、「数字そのもの」なのか、それとも「数字をつなげるストーリー」なのか。この記事をきっかけに、KPI・マイルストーン・トラクションの関係を一度整理し、チーム全体で共有された“成長の設計図”を描き直してみてはいかがでしょうか。
参考資料
・事業成長を測るためのトラクションの具体例と主要指標 | 株式会社一創
・マイルストーンとは!?今さら聞けない初心者がしっておくべきポイントをわかりやすく解説
EXPACTでは、特にスタートアップ企業への補助金活用や資金調達を強みとしており、実績・経験も多数ございます。資金調達成功に向けて、パートナーを探している、また詳しく話を聞いてみたいという方は下記からお問い合わせください。

