社会課題の解決を成長エンジンに変える”インパクト投資” とは?
インパクト投資とは?
インパクト投資は、社会的・環境的な影響を意図的に生み出すことを目的とした投資手法で、近年ますます注目を集めています。この投資アプローチは、金融リターンを追求するだけでなく、持続可能な社会の実現に貢献することを目指しています。この記事では、インパクト投資の基本概念、具体的な事例、そして日本における取り組みについて詳しく解説します。
インパクト投資の基本概念
インパクト投資とは、社会的な課題や環境的な課題の解決とともに金融的なリターンを追求する投資のアプローチを指します。このタイプの投資は、財務的なリターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的または環境的なインパクト(ポジティブインパクト)を同時に生み出すことを目指しています。
インパクト投資は、社会的・環境的な課題を解決するために資本を活用することを目的としています。投資家は、投資先の企業やプロジェクトがどのような社会的・環境的なインパクトを生み出すのかを評価し、その成果を測定します。このアプローチは、従来の投資手法とは異なり、単なる利益追求にとどまらず、社会の持続可能性を高めることを重視しています。インパクト投資の特徴は以下の通りです。
- 意図的なインパクトの追求: 投資先が社会的・環境的な課題に対してどのような影響を与えるかを意識的に考慮します。
- インパクトの測定と管理: 投資の成果を定量的に評価し、持続的な改善を図ります。
- 多様なアセットクラス: 株式、債券、不動産、ベンチャーキャピタルなど、さまざまな資産クラスでインパクト投資が行われています。インパクト投資ファンドによるエクイティによる出資に加えて、例えばソーシャルインパクトボンド(SIB)などの活用も日本の金融機関で見られるようになりました。
ソーシャルインパクトボンド(SIB)
ソーシャルインパクトボンド(SIB)は、社会的課題の解決を目的とした革新的な資金調達手法で、2010年に英国で初めて導入されました。この仕組みは、民間資金を活用して公共サービスを提供し、成果に基づいて投資家に報酬を支払うという成果連動型の契約方式です。SIBは、政策の直接評価を行うものではありませんが、自治体などが民間事業者に事業を委託する際に、サービスの成果に基づいて報酬額を変動させるため、政府が第三者にインパクト評価を依頼する必要性が生じます。
インパクトスタートアップとは?
また、それらの投資対象となりうるスタートアップのことをインパクトスタートアップと呼びます。インパクトスタートアップ(英:Impact Startup)は、社会課題の解決を目指し、持続可能な成長を追求するスタートアップ企業のことを指します。
このような企業は、ビジネスモデルや技術革新を通じて、社会にポジティブな影響をもたらすことを目指しています。
インパクト投資家がインパクトスタートアップに投資する際には、社会課題の解決、持続可能性、イノベーション、技術応用、グローバル展開などの観点で評価されます。
(出典)「インパクト投資拡大に向けた提言書2019」
「リスク」と「リターン」という従来型の2軸に「インパクト」という新しい判断軸を持ち込み、3軸で考えるのがインパクト投資といえます。インパクト投資により、これまで資金調達が難しかった社会起業家やソーシャルスタートアップでも資金調達が可能になり、経済的メリットだけでないインパクトスタートアップの社会的価値(存在意義)を伝えられるようになると考えています。
またESG投資とインパクト投資は、共通する基盤をもちつつも異なる側面を有しています。ESG投資は、投資のリスクとリターンをバランスよく管理し、企業の持続可能な成長をサポートすることを重視します。一方で、インパクト投資は、投資を通じて特定の社会的・環境的な問題を解決することに焦点を当てています。
投資先が課題解決にどれだけ貢献するかを具体的に測定し、その達成を実現する道筋をつけるということもインパクト投資の特性の一つです。そして、一般的なESG(環境・社会・企業統治)投資よりも、課題解決をより重視するという特徴があります。
資本主義の再定義
経済情勢は、9.11、リーマンショック、そしてCOVID-19といった歴史的な出来事によって根本から変えられました。これらの出来事は不確実性の渦中で私たちに資本主義を再考し、アップデートするタイミングにきています。従来の資本主義の構造はその限界を迎え、個々の力が増強する今日の世界では、新しい形の資本主義が求められています。この変化の中で、資本主義の新しい波として「インパクト投資」がその答えとして期待されています。
起業家の大義とインパクト投資
インパクト投資は単にお金を増やすこと以上の価値を提供します。起業家と投資家の間で共有される「大義」や「目標」は、非財務的な価値として認知され始めています。これは金銭的リターンを追求することよりも、社会的な課題を解決する喜びや充実感が増している現代において、非常に重要なパラダイムシフトです。
本来、投資が集まるのは短期間で利益を上げる可能性の高い企業であり、長時間かかるが社会的インパクトがある企業には投資が集まりにくい現状がありました。インパクト投資の普及には、中長期的に社会的インパクトを与えることを目指すスタートアップにも光が当たるという点で非常に注目されています。
新時代の投資:システムチェンジ投資とPlace-based Impact Investing
インパクト投資の中でも、システムチェンジ投資とPlace-based Impact Investingという新しい概念が登場しています。社会全体のシステムを変革することや、地域の課題解決を目的とした投資方法として、注目を集めています。
システムチェンジ投資は、従来の投資方法とは一線を画し、セクターや地域、テーマなどに焦点を当て、政策提言や消費者の関与なども組み合わせて、社会的・環境的な複雑性の高い課題解決を目指します。これは、単なる企業へのインパクト投資のみならず、より広範な視点で投資することを意味しています。
システムチェンジとは、気候変動や人権、サプライチェーンといった社会課題が、地域や組織、産業界、そして地球環境といった「システム」の中のさまざまな要素やステークホルダーの相互作用の結果として生まれた、構造的で複雑な課題を解決することを指します。
システムチェンジ投資は、社会課題の解決に向けたシステム思考をベースとしています。これは、人類社会と自然システムの変容を意図した広範なプログラムであり、多様な資本の戦略的提供を伴います。システム思考は、複雑な事象の全体像を捉え、それを構成する要素の相互作用を多面的に把握し、課題解決へのアプローチを探る手法です。
システムチェンジの具体例と投資の役割
システムチェンジ投資は、社会課題を生み出している根本的な原因にアプローチし、解決を目指す投資アプローチです。以下に具体的な事例を紹介します。
システムチェンジの要素
- バリューチェーン: 物流などのプロセスに焦点を当て、効率化や持続可能性を追求します。
- 因果関係: システム内の要素間の因果関係やフィードバックループを理解し、改善を図ります。
- ステークホルダーの関係性: システム内でのステークホルダーの関係や権力構造を分析し、協力関係を構築します。
- パラダイムと価値観: 現在のシステムの根底にある規範や価値観を見直し、変革を促します。
これらの要素を考慮することで、システムチェンジはより効果的に進められます。
システムチェンジの事例
- オゾン層の回復: 地球に降り注ぐ有害紫外線を防ぐためのオゾン層の回復は、国際的な協力と政策変更による成功例です。
- オランダの再生可能エネルギー移行: オランダでは、全国レベルで再生可能エネルギーへの移行を促進する政策が進められています。
- アメリカ・ワシントン州のフードロス削減: ワシントン州では、フードロス削減に向けた計画策定と実行が進行中です。
システムチェンジ投資の特徴
システムチェンジ投資は、従来のインパクト投資といくつかの点で異なります。
特徴 | インパクト投資 | システムチェンジ投資 |
---|---|---|
世界の捉え方 | 予測的、直線的、細分化 | 不確実、複雑、全体性 |
インパクト枠組み | 基準の改善 | システムの変革 |
インパクトの源泉 | 個々の会社/プロジェクト | 複数の資産/干渉間の複合的な効果 |
分析/取引の単位 | 単一の資産 | 戦略的なポートフォリオ |
インパクト基準 | 静的利益/削減 | システム・ダイナミクス、創発的システム特性 |
資金調達パラダイム | 単一のアセットクラス/商品/段階 | 幅広い資金調達の仕組み |
システムチェンジ投資は、単なる資金提供にとどまらず、非財務的な支援を通じてシステムチェンジを促進する役割も担っています。投資家は、システムをどのように定義し、どこまで変えるかを主体的に決定し、事業者との合意に基づいて進めることが求められます。
システムチェンジ投資の具体例
- トリオドス銀行: 持続可能な社会を目指す金融機関として、システムチェンジ投資を実践しています。オランダに本拠を置くトリオドス銀行は、インパクト投資の先駆者として知られています。同銀行は、再生可能エネルギー、持続可能な農業、文化的プロジェクトなどに積極的に投資し、ウェルビーイングと生物多様性の回復を目指しています。トリオドス銀行の投資ポートフォリオは、社会的・環境的な価値を重視し、持続可能な未来の構築に貢献しています。
- Place-based impact investing: 地域に根ざしたインパクト投資の一環として、システムチェンジを促進する取り組みが行われています。地域特化のインパクト投資として、Place-Based Impact Investingでは、地域の特性を活かし、地元の経済やコミュニティの発展を促進することを目的としています。地域のニーズに応じた投資を行うことで、地域社会の持続可能性を高めることが期待されています。
一方、Place-based Impact Investingは、特定の地理的領域に焦点を当て、社会的・環境的なインパクトを生み出す投資方法です。特定地域の課題解決を目的としており、システムチェンジ投資の一種として位置づけられることがあります。具体的には、地域の企業への出資や住宅提供、インフラ投資など、多岐にわたるプロジェクトを実現することを目指しています。
システムチェンジ投資に対する日本政府の姿勢
日本政府もシステムチェンジ投資に関心を寄せています。
- 内閣官房新しい資本主義実現会議: 日本政府は、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」を策定し、持続可能な社会の実現を目指しています。この計画では、インパクト投資を含む持続可能な資本主義の推進が強調されています。
- 金融庁: 「インパクト投資に関する基本的指針」が発表され、インパクトコンソーシアムの設立が進められています。この指針は、インパクト投資の普及と発展を促進するための枠組みを提供し、投資家や企業がインパクト投資に取り組む際の指針となっています。
- 経済産業省: 「J-Startup Impact」を創設し、インパクトスタートアップへの支援を強化しています。選定された企業には、国内外のイベント出展支援や専門家相談窓口の活用が提供され、社会的インパクトを高めるための取り組みが進められています。
- 一般社団法人インパクトスタートアップ協会
一般社団法人インパクトスタートアップ協会は、インパクトエコノミーの発信や学びあいの場の構築、投資環境の整備、政府・行政との協創を進めています。未上場のスタートアップ企業が投資対象として重要な役割を担うことが期待されており、インパクト投資のエコシステムの構築が進められています。
これらの取り組みは、システムチェンジ投資が持つ可能性を広げ、持続可能な未来を築くための重要なステップとなっています。
◉ソーシャルインパクトボンド(SIB)
https://www.amita-oshiete.jp/qa/entry/015638.php
2010年に英国で初めて実施された。アメリカではPFS、オーストラリアではSBB、フランスではSICと呼ばれる。
政府の政策そのものを評価するわけではないですが、成果連動型民間委託契約方式を使用して、自治体等が民間事業者に事業委託する際にサービスの成果(アウトカム・アウトプット)に基づき報酬額を変動させるので、政府が第三者にインパクト評価を依頼する必要性が出てきます。民間の評価や知見を政府が吸収して、今後の政策のインパクト評価に必要になる生データを集めることもできます。
ESG投資とインパクト投資の違い
まず、ESG投資(Environmental, Social, and Governanceの略)とは、企業が環境、社会、ガバナンス(企業統治)の3つの側面において責任を果たすことを重視した投資アプローチです。これは、これらの側面が長期的な企業価値に影響を与えるという認識に基づいています。ESG投資の主な目的は、財務的リターンの追求と同時に、これらのESG要素のリスクを緩和することです。
一方で、インパクト投資は、社会的・環境的影響を積極的に追求し、その結果を計測し報告することを重視した投資スタイルです。インパクト投資の目的は、投資の社会的・環境的な「インパクト」を最大化し、同時に財務的リターンを追求することです。
両者の主な違いはその目的とアプローチにあります。ESG投資は主に企業のリスク管理と長期的な価値創出に焦点を当てています。それに対してインパクト投資は、社会や環境の問題解決に対する直接的な影響を強調されています。インパクト投資は特定の社会的または環境的な目標に対して意図的に投資を行い、その結果を定量的に評価します。
インパクト投資は、ESG投資と同様にサステナビリティ(持続可能性)やレスポンシビリティ(責任・責務)の実現を目指します。しかし、それらが「配慮」や「リスクの緩和」を主目的とするのに対し、インパクト投資は「投資がもたらす社会面・環境面での課題解決」をより強く意図しています。
企業価値の新しい基準
企業価値を高めるためには、インパクト投資の活用が不可欠です。真のインパクト投資を通じて、企業は未来の市場を形成し、財務インパクトも積極的に追求することが求められます。
このプロセスにおいては、「ストーリー」が重要となります。企業がどのようにインパクトを創出しているか、そのプロセスを共有することで、インパクトとリターンのトレードオフを排除し、新しい価値を創造する市場を築くことができます。
インパクト投資基本的指針について
(出典)「インパクト投資拡大に向けた提言書2019」
インパクト投資の評価基準やフレームワークにはいくつかの例があります。以下に具体的な評価基準やフレームワークについて説明します。
GIIN(Global Impact Investing Network)
GIINは、インパクト投資の推進を支援する国際的なネットワークであり、インパクト投資の評価に関するガイドラインやフレームワークを提供しています。GIINは、投資家が投資先の社会的および環境的なインパクトを評価するための基準を提供しています。
SDGs(Sustainable Development Goals)
SDGsは、国連が採択した持続可能な開発目標であり、2030年までに達成すべき具体的な目標です。インパクト投資では、SDGsを基準として利用することがあります。投資家は、投資先がSDGsの達成に貢献するかどうかを評価し、その評価を基に投資判断を行います。
IRIS(Impact Reporting and Investment Standards)
IRISは、インパクト投資のための共通言語となるメトリクス(指標)を提供するフレームワークです。IRISの目的は、インパクト投資のデータ収集と報告の標準化を促進することです。IRISメトリクスは、投資先の社会的および環境的なパフォーマンスを測定するために使用されます。
SASB(Sustainability Accounting Standards Board)
SASBは、企業の持続可能性に関連する情報開示の標準化を目指す非営利団体です。SASBの枠組みは、業界ごとに異なる重要な環境、社会、ガバナンスの問題を識別し、企業がこれらの問題に対してどのように報告すべきかを指定しています。インパクト投資家は、SASBの情報開示基準を使用して、企業の持続可能性パフォーマンスを評価します。
これらの評価基準やフレームワークは、インパクト投資の評価や比較を容易にし、投資家や企業がインパクト投資の成果を測定し、報告するためのガイドラインとなっています。
金融庁は2023年5月29日に、社会や環境課題の解決と収益性の両面を目指すインパクト投資について、必要な要件などを定めた基本的指針案をまとめました。これはインパクト投資が増えてきている背景にあり、投資家による適切な評価や運用を促すためのものです。
また、インパクト投資は急速に拡大しており、前年比4倍増の1兆3200億円の投資残高となっています。これは、投資による利益だけでなく、貧困や環境問題などの社会的課題の解決にも寄与するため、多くの人々から注目されています。
この背景には、投資による利益だけでなく、貧困や環境問題などの社会的課題の解決にも寄与するという考え方が広まっていることがあります。これは、資本を通じて社会的な価値を生み出すという新たな投資のあり方に対する注目を反映しています。
インパクト投資の具体的な例としては、再生可能エネルギーへの投資、教育や医療サービスのアクセス改善に取り組む企業への投資などがあります。また、この投資戦略は、投資先企業の社会的影響を評価するための新たなツールやフレームワークの開発も促しています。
インパクト投資の要件とは?
具体的なインパクト投資の評価基準やフレームワーク(例:GIIN、SDGsなど)の中で、日本においてもインパクト投資の指針が求められています。
インパクト投資とは、社会的・環境的な問題の解決を目指すとともに、経済的なリターンを求める投資であり、その中に新規性、意図性、追加性、そして特定・測定・管理の要素が含まれることが期待されています。以下にそれぞれの要素について解説します。
新規性
インパクト投資は、新規性を重視します。これは、投資対象となる企業やプロジェクトが、社会的な課題や問題を解決する新たなアイデアやアプローチに焦点を当てることを意味します。これにより、市場に革新的な変化をもたらす可能性があります。
意図性
インパクト投資には、社会的または環境的な影響を意図的に生み出すことが期待されています。投資家は、投資対象が社会的な問題の解決に寄与するだけでなく、経済的なリターンをもたらすことも期待しています。
追加性
追加性とは、投資によって生じる社会的・環境的な影響が、投資がなければ生じなかった影響がどれほどあるのかを検証します。つまり、インパクト投資は、その投資によって具体的な変化がどれだけもたらせるかについても事前に検証する必要があります。
特定・測定・管理
インパクト投資の成功を確認するためには、投資による社会的・環境的な影響を特定、測定、そして管理することが必要です。客観性のある指標(KPI)などを用いて社会的インパクトの効果や収益性を定量的、または定性的に測定するなど適切にインパクトマネジメントを行う必要があります。これには、具体的な目標の設定、その達成度の測定、そして必要に応じて投資戦略(EXIT戦略)の調整などが含まれます。
このような要件を満たすために、インパクト投資の指針に従った情報開示が重要です。情報開示によって投資家の判断を助けるだけでなく、未上場企業などのスタートアップが資金調達しやすくなる効果も期待されています。
なお、インパクト投資の要件に対して罰則規定は存在しませんが、金融庁が監督当局として旗を振ることで、金融機関や投資家、企業に理解を促し、資金供給や情報開示の充実につなげる狙いがあります。
この要件を補足する観点として、インパクト投資はしばしば持続可能な開発目標(SDGs)と関連付けられます。SDGsは、世界の経済的、社会的、環境的な課題を解決するための共通の枠組みを提供しており、インパクト投資はこれらの目標達成に向けた重要な手段となっています。
(参照)https://www.un.org/sustainabledevelopment/
インパクト投資市場の成長について
インパクト投資のグローバルな市場規模は急速に拡大しています。
(出典)「インパクト投資拡大に向けた提言書2019」
GIINは、2021年のインパクト投資市場が1兆1640億ドルに達したと推定しています。これは、2011年の95億ドルからの大幅な増加を示しています1。
日本におけるインパクト投資市場も成長しており、2021年度末の日本のインパクト投資残高は前年度比4.4倍の5兆8,480億円に増加しました。これは主に、都市銀行や一部の大手アセットオーナーが取り扱うインパクト投資額の増加(3.7倍)と大手の保険会社や銀行の新規参入による取組機関総数の増加(1.5倍)によるものです2。
UNの調査では、40カ国での調査対象者の90%以上がSDGsを支持していることが示されています。これらの人々は、企業と投資の変化を推進する消費者、従業員、投資家です。UNは、これらのSDGターゲットを2030年までに達成するためには、年間5兆ドルから7兆ドルの投資が必要と推定しています。これは現在の1.2兆ドルのインパクト投資市場の何倍もの規模であり、2030年までにその規模が増大すると予想されています1。
特に日本では近年大きな成長を遂げています。2021年度末の時点で日本国内のインパクト投資残高は前年度比4倍の5.8兆円に増加しました。ただし、日本はインパクト投資ファンドが少なく、欧米に比べて理解が進んでいないとの指摘もあります。
投資家は社会的・環境的可能エネルギーと関連するインパクト産業への投資について世界的に需要が高まっています。これらのSDGsの開発目標を支えるための投資が予定される金額は、現在の1.2兆ドルのインパクト投資市場の何倍もの規模であり、2030年までにはその規模が増大すると予想されています。
さらに、ESG市場と比較すると、インパクト投資はまだまだ小規模ですが、2020年におけるGSIAの推定によれば、ESG市場は$35兆であり、これは全世界のAUMの36%を占めています。しかし、2020年代にわたって、この相対的な比率はインパクト投資に向かって変化していくと考えられています。
主要なインパクト投資ファンドとその戦略
SIIF
SIIF(Sustainable and Impact Investment Fund、一般財団法人 社会変革推進財団)は、インパクト投資を行う主要なファンドの一つです。
SIIFは、持続可能性とインパクトの両面に焦点を当てた投資を行うことを目的としています。SIIFの戦略は、以下のような特徴を持っています。
ポートフォリオの多様化
SIIFは、異なる業種や地域、資産クラスにわたる多様なポートフォリオを構築しています。
これにより、潜在的なインパクトの領域を広げ、リスク分散が可能となります。
インパクトの評価と測定
SIIFは、厳格な評価基準を使用して投資先のインパクトを評価し、測定します。
インパクト評価には、定量的および定性的な指標を使用し、投資先が所望の社会的および環境的な結果を達成しているかどうかを判断します。
持続可能性の重視
SIIFは、環境、社会、ガバナンス(ESG)の要素を重視し、持続可能なビジネスモデルを持つ企業に投資します。
投資先の企業がESGのベストプラクティスを遵守し、社会的および環境的な課題に対して積極的なアプローチを取っていることを重視します。
パートナーシップとエンゲージメント
SIIFは、投資先の企業とのパートナーシップを重視し、エンゲージメントを通じて企業の持続可能性パフォーマンスを向上させることを目指します。
SIIFは、企業との対話や影響力を活用して、持続可能性の実現に向けた変革を促進します。
SIIFは、金融リソースを持続可能性と社会的な目標に向けて活用することで、ポジティブなインパクトを創出することを目指しています。
その戦略は、インパクト投資の一環として、経済的なリターンと社会的なインパクトを両立させることを重視しています
JIC
JIC(Japan Impact Investment Council)ファンドは、日本国内で活動する主要なインパクト投資ファンドの一つです。
JICファンドは、社会的および環境的な課題に対処するために資金を提供することを目的としています。
インパクトテーマに基づく投資
JICファンドは、教育、健康、環境、エネルギーなど、様々な社会的課題に焦点を当てた投資を行っています。
これらのテーマに基づいて、社会的なインパクトを持つ企業やプロジェクトに投資を行うことを重視しています。
インパクトの評価と測定
JICファンドは、投資先の社会的および環境的なインパクトを評価し、測定するための評価基準を使用します。
インパクトの評価には、定量的および定性的な指標を活用し、投資先が所望の社会的な成果を達成しているかどうかを判断します。
持続可能性の重視
JICファンドは、投資先の持続可能性に注目しています。
投資先の企業が環境、社会、ガバナンス(ESG)の面で優れたパフォーマンスを示していることを重視し、持続可能なビジネスモデルを持つ企業に投資を行います。
パートナーシップと連携
JICファンドは、投資先の企業や団体とのパートナーシップを重視しています。
投資先との連携により、社会的なインパクトを追求するための戦略的な取り組みを進めることができます。
また、投資先に対してコンサルティングやネットワーキングのサポートを提供することもあります。
JICファンドは、社会的な課題に対処し、持続可能な社会の実現に貢献することを目指しています。
その戦略は、インパクト投資の一環として、経済的なリターンと社会的なインパクトの両立を追求することを重視しています
ESGウォッシュの問題
ESGウォッシュとは、企業や投資家が環境・社会・企業統治(ESG)の観点で良いイメージを与えるために、実際の取り組みや成果に基づかない情報や表現を利用する行為を指します。つまり、ESGに関連する取り組みや成果を装っているが、実際には取り組みが不十分であったり、成果が見られない場合に用いられる手法です。ESGウォッシュの具体的な手法としては、以下のようなものがあります:
- 環境や社会への影響を軽減する取り組みを宣言するが、実際には具体的な行動や成果を示さない。
- ESGに関連する指標や評価を利用して高評価を受けるように見せかけるが、その評価が実態に基づいていない。
- ESGに関連するデータや報告書を作成し、公表するが、その内容が正確でなかったり、重要な情報が欠落している。
- ESG投資を行っていると宣伝するが、実際にはESGの観点を考慮していない投資先を選んでいる。
最近のスキャンダルを受けて、ESGに対する規制が強化されています。つまり、ESG投資を提供する企業は、自社のESG活動の有効性を証明するか、ESGの名乗りを止める必要があります。これにより、より多くの企業が本物のインパクト投資に取り組むことが期待されています。[1]
ESGウォッシュの問題は、投資家や消費者が本当にESGに貢献している企業や投資先を見極めることが困難になり、信頼性の欠如や市場の混乱を引き起こす可能性があります。これを解決するために、実際の影響を評価するインパクト投資が注目されています。[2]
日本では、ESG投資の主導的な役割は民間が果たしてきましたが、ESGウォッシュが世界的な問題となっています。この問題に対処するため、金融庁は官民で情報を共有する協議会を設立する予定です。この協議会には、生命保険会社や銀行などの機関投資家、地域の社会課題解決に取り組む企業が参加することが期待されています。また、政府系金融機関の知識や技術の共有も進められ、地域の課題解決に向けた取り組みが進んでいます。[4]
まとめ
現代社会では企業の環境や社会への配慮が重要視され、これがESG投資とインパクト投資の注目を集める要因となっています。ESG投資は企業の環境への影響、社会への貢献、適切な組織運営を評価の基準とし、これらを重視する企業が評価されます。一方、インパクト投資は社会や環境への積極的な影響を追求し、その結果を具体的に測定・報告する必要があります。
これらの投資アプローチを採用することで、企業の評判や投資が増加する可能性があります。実際、多くのビジネスリーダーはESGを考慮せずに投資決定が行われることはないと考えています。インパクト投資は資本主義の新しい形として位置づけられ、企業価値を高める新しい基準と見なされています。これにより、企業は社会や環境への影響を共有し、新しい価値を創造する市場を築くことができます。これらの投資アプローチは、企業や投資家にとって重要なツールとなり、長期的な価値創出を支援します。
インパクト投資は資本主義の新しい波として注目され、企業価値を高める新しい基準として位置づけられています。その背景には、起業家と投資家が共有する新しい価値観や目標があります。日本の企業も、この新しい動きを積極的に取り入れ、長期的な価値創出を目指すべきでしょう。
EXPACTもインパクトスタートアップの成長を支援し、社会貢献の一助となることを目指しています。
また我々もインパクト投資ファンドの立ち上げに向けて、準備を進めていきたいと思います。
【参考文献】
インパクト投資に対する金融庁の方針に関する報道発表資料, 金融庁, URL: https://www.fsa.go.jp/news/31/ginkou/20210924-1.html
インパクト投資での新規上場活性化を目指して, 日本経済新聞, URL: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA230XQ0R20C22A5000000/
インパクト投資の拡大を目指して, 金融庁, URL: https://www.fsa.go.jp/news/32/ginkou/20220218-1.html
インパクト投資勉強会 (第2 回:システムチェンジ投資・日本政府の姿勢)
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