地域資源を活用し、地方創生のカギを握る”ローカルベンチャー”とは?
皆様は、「ローカルベンチャー」という言葉を耳にしたことはありますでしょうか?
人口減少や少子高齢化により地方創生が社会課題として重要視される今日、ローカルベンチャーの取り組みは、地方経済を活性化させるカギとして注目が集まっています。
本記事ではこれから起業を考えている方やすでに起業をされている方に向けて、ローカルベンチャーの定義や地域へのインパクト、また具体的な取り組み事例について解説していきます。ぜひご覧ください。
ローカルベンチャーとは?
ローカルベンチャーは、主に「地方の地域資源を活用し、新たな価値を提供する新規事業の立ち上げ」のことを指します。
このローカルベンチャーという概念は、岡山県西粟倉村(にしあわくらそん)における起業支援の取り組み「ローカルベンチャースクール」が発端となって世に広まりました。元々西粟倉村では、豊かな森林資源を活用した林業の6次産業化に取り組んでいました。その中で地域の木材を内装材や家具、おもちゃなどの商品にして販売する「西粟倉森の学校」が立ち上げられ、地方での新事業の成功例として林業関係者から注目を集めました。
その後、西粟倉村は地域課題である雇用問題の解決策として、林業以外でも幅広く事業を起こしていくことを目指しました。ローカルベンチャースクールはそのような取り組みの中で始まり、2015年の開始から50以上の新事業の立ち上げを行ってきました。人口1400人ほどの村ながら数々の新事業が誕生した西粟倉は、「奇跡の村」として大きく注目されました。
西粟倉村での成功をきっかけに、他の自治体でもローカルベンチャーを推進する動きが高まり、2016年にはローカルベンチャー協議会が発足し、現在は宮城県気仙沼市や宮崎県日南市など13の自治体が参画しています。
地方は、人件費や事務所家賃が都市部より安価であるため、ベンチャーに必要なトライアル&エラーを積み重ねやすいという特色があります。ローカルベンチャーは起業家や新規事業立ち上げを目指す企業にとって魅力的な機会となっています。つまりローカルベンチャーとは、起業の可能性を新たな方向に広げている取り組みであると言えます。
ローカルベンチャーは「地方創生のカギ」
地方創生のカギとして、ローカルベンチャーは地域経済の活性化や循環を促進し、持続可能な地方社会の建設に貢献することが期待されています。新たなビジネスを誕生させることによる経済成長だけでなく、起業を志す人々が地方に集まり、地域の人口動態に好影響を与えることもローカルベンチャーの重要な側面です。
ここでは、ローカルベンチャーがどのように持続可能な地方社会を推進しているのかについて詳しく解説していきます。
拡大するローカルベンチャー事業
ローカルベンチャー協議会によると、同協議会のローカルベンチャー推進事業において2016年度〜2020年度の5年間で274件の新規事業を創出、全体でローカルベンチャーの売上増57.7億円を達成したという結果が出ています。
さらに内訳を見ると、1000万円以上の売り上げ規模を持つ事業が大幅に増加していることが示されています。また、多くの事業が支援により売り上げ規模を拡大し、成長していることが分かります。
出典)ローカルベンチャー推進事業白書2020年度版
これらの実績は、ローカルベンチャー事業が日本各地の地方で拡大していることを示しています。このような新たなビジネスの継続的な誕生・拡大が、地域経済の持続的な成長を後押ししているのです。
ローカルベンチャーの事業例
西埜馬搬
北海道厚真町で2017年に開業した西埜馬搬は、馬が伐採した木材を運ぶ「馬搬」を行うことにより、環境に優しい循環型林業を実現しています。運搬した木材を薪として販売するのに加え、馬が畑を耕す「馬耕」を空知にあるぶどう畑で行っています。化石燃料を使わず、自然への負担の少ない馬搬や馬耕は、地域の山や森を守ることのできる持続可能なアプローチだと言われています。また、馬搬や馬耕についてのイベントや、馬と触れ合える機会を提供しており、西埜馬搬は地域の自然を守りつつ新たな価値を生み出すローカルベンチャーの一例と言えるでしょう。
株式会社いなびし
福島県猪苗代町で2022年に設立された株式会社いなびしは、猪苗代湖の水質改善と観光資源の創造に同時に取り組むアプローチで注目されています。猪苗代湖で増殖する「菱(ひし)」という水草は、水質汚濁の原因であり、大掛かりなボランティア活動を通して毎年取り除かれていました。いなびしはそんな菱に目をつけ、その種を使った「ひし茶」を製造・販売することで水質改善と名産品の創造に貢献しています。地域の課題解決に貢献しつつ、新たな観光資源を生み出すビジネスを展開しているいなびしも、ローカルベンチャーの素晴らしい例だと言えます。
地方社会へのインパクト
ローカルベンチャーがもたらす地方社会へのインパクトには、新規事業による経済効果だけでなく、事業主や従業員、その家族を含む事業関係者が地方に定住するようになるという点があります。
ローカルベンチャー協議会が実施したアンケート調査によると、ローカルベンチャーで働く人の5割が30代以下であり、全体の3割が移住者、また2割は子育て中であることが分かりました。
出典)「ローカルベンチャーで働く人年齢構成」(ローカルベンチャー協議会作成)
よって、ローカルベンチャー事業は地方での若手人材の確保・呼び込みに貢献することが示唆されています。また、子育て中の若手人材の定住にともなう子ども世代の人口増加も期待できます。
このように、ローカルベンチャーは新規事業に挑戦する人材が地方に流入、または地元で誕生することを促しており、地域の人口増加・持続的な発展の大きな推進力となっています。
「中間支援組織」とローカルベンチャー
ローカルベンチャー事業と自治体の連携において、「中間支援組織」と呼ばれるスタートアップの支援を行う民間企業の存在がキーマンとして重要視されています。ローカルベンチャー協議会は、行政のスタートアップ支援のノウハウ不足を補う「専門性を持った民間の人材の力」として、中間支援組織は同事業において不可欠な存在であるとしています。
人事異動の頻度が高い行政機関は、ノウハウや関係性を持続的に蓄積するのが難しく、ローカルベンチャー事業を継続的に支援できる民間組織の力が必要になります。また、「平等性」を原則とする行政の性質上の課題を、民間企業として柔軟な対応が可能な中間支援組織が補うことでクリアすることが期待されています。
以上のように、民間の中間支援組織は、自治体と協働してローカルベンチャー事業を推進することで同事業の円滑な成長のキーとしての役割を果たしています。
多様なローカルベンチャーの取り組み
地方の地元資源を活用して起業・新規事業の立ち上げを行うというローカルベンチャーのアイデアは、現在日本中に広がっています。
静岡県牧之原市で行われている「まきチャレ」では、同市の産業資源と観光資源を活用して、自らの事業を地域と共に発展させるビジネスプランを全世界のスタートアップ企業から募集しています。
まきチャレについての記事はこちら!
昨年開催されたまきチャレ2023では、国内のみではなく、インドやアメリカ、韓国やスペインなど海外からもエントリーされ、前年度を大きく上回る133件のビジネスプランがエントリーされました。牧之原市では、今年もまきチャレ2024を開催しており、弊社代表の髙地も昨年に引き続き審査員を務めます。
世界中のスタートアップ企業・起業家を地元に呼び込み、地域資源を活用した新たな事業の展開を推進するまきチャレは、ローカルベンチャーの新しい試みと言えるでしょう。
牧之原市HP:https://www.city.makinohara.shizuoka.jp/soshiki/39/49747.html
国のローカルベンチャー支援制度
総務省は、ローカルスタートアップ支援制度として、「地域資源を活用した地域課題の解決に資する地域密着型事業の起業・新規事業」を支援する地方公共団体に対して補助金制度を設けています。
ローカルスタートアップ支援制度についての詳しい記事はこちら!
具体的には、ローカル10,000プロジェクトという事業交付金制度を展開し、民間事業者、国、地方が連携して、持続的に富を生み出せる環境(地域経済循環)づくりに取り組んでいます。
出典)「ローカル10,000プロジェクトについて」(総務省作成)
総務省HP:https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/localstartup.html
このように、ローカルベンチャー事業を支援する取り組み・制度は、国や地方自治体・民間レベルで整備されてきています。地方創生に貢献し、日本が直面する社会課題を解決するものとして、ローカルベンチャーには大きな期待が寄せられているのです。
まとめ
最後までご覧いただき、ありがとうございました。今回の記事では、ローカルベンチャーの定義や地域への影響、取り組みの事例について解説しました。EXPACTでは、特にスタートアップ企業への補助金活用や資金調達を強みとしており、実績・経験も多数ございます。資金調達成功に向けて、パートナーを探している、また詳しく話を聞いてみたいという方はこちらからお問い合わせください。
【ローカルベンチャーと合わせて知っておきたい知識】
【参考文献】
人口1400人の奇跡の村、なぜ西粟倉村は“田舎の最先端”を目指し続けるのか
ローカルベンチャー推進事業白書2020年版, ローカルベンチャー協議会, URL: https://initiative.localventures.jp/news/2789/
ローカルベンチャーで働く人の年齢構成, ローカルベンチャー協議会, URL: https://initiative.localventures.jp/news/3298/
大賞発表!「まきチャレ2023(第2回牧之原市チャレンジビジネスコンテスト)」
ローカル10,000プロジェクトについて, 総務省, URL: https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/localstartup.html
西埜馬搬公式HP
https://nishinobahan.com/horse_plow/
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