アンバンドリング – 機能分解で実現するシンプルなUX –
今日は「アンバンドリング(unbundling)」というトピックに焦点を当て、その概要と実例、そしてアプリケーションのユーザーエクスペリエンス(UX)への影響について考察していきたいと思います。
アンバンドリングとは何か?
まずバンドリングとは、複数の商品やサービスを組み合わせて1つのパッケージとして提供する戦略です。
この言葉の語源は、”un-“(不)と”bundle”(束、束ねる)を合わせた言葉です。つまり、「束ねられたものを解く」という意味になります。
アンバンドリングという言葉自体は、もともとコンピューター業界で使われ始めた用語でした。従来はハードウェアとソフトウェアがセットで販売されていましたが(バンドル販売)、それらを分離して個別に販売するようになったことから、この言葉が生まれました。
その後、この概念は金融業界などでも広く用いられるようになり、従来は一括して提供されていたサービスや機能を分解して個別に提供することを指すようになりました。
要するに、アンバンドリングとは「一体化されていたものを分解すること」を意味する言葉なのです。この考え方を適用することで、ユーザーニーズに合わせた柔軟なサービス提供が可能になるというメリットがあります。
アンバンドリングとは、一体化されていた機能やサービスを分解し、個別の要素として提供するプロセスのことを指します。この概念は、主に二つの異なる文脈で用いられます。
- 投資リスクのアンバンドリング
従来、一つの金融商品に組み込まれていた様々な投資リスク(例えば、金利リスクや為替リスク)を分解し、それぞれ個別に取引可能にする手法です。デリバティブ取引がこの代表的な例となります。 - 金融機能のアンバンドリング
金融機関が一括して提供していた様々な金融機能(資金供給、信用リスクの負担、資産変換、情報生産、決済など)を分解し、個別の機能に特化した事業者が提供することです。証券化、投資ファンド、フィンテック、MiFID IIのリサーチ・アンバンドリングなどがこの例にあたります。
金融機能のアンバンドリングの具体例: 証券化
証券化は、金融機能を分解し、以下のように特定の役割を担う様々な主体に分散させるプロセスです。
- 資金供給機能 → オリジネーター
- 信用リスク負担機能 → 投資家
- 資産変換機能 → 特定目的会社(SPC)
- 情報生産機能 → 格付機関
このプロセスにより、金融制度の構造に革命的な変化をもたらし、新しい金融商品やサービスが創出されています。
フィンテック分野でのアンバンドリングからリバンドリングへ
フィンテック業界では、従来の銀行サービスのアンバンドリングが進んできました。しかし、最近ではリバンドリングの動きも見られます。
例えば、決済、融資、資産運用など、個別に提供されていたサービスを再び統合し、ワンストップの金融プラットフォームを構築する動きがあります。これにより、顧客にとってはより便利で包括的なサービスを受けられるようになります。
近年、「コンパウンドスタートアップ」という新しい概念が注目を集めています。これは、複数のプロダクトを同時に開発・提供することで、シナジー効果を生み出す戦略です。
一方、コンパウンドスタートアップは、複数のポイント・ソリューションを同時に開発し、相互運用可能な広範なプロダクト群を提供するビジネスモデルです。主な特徴は以下の3点です。
- 複数プロダクトの統合
コンパウンドスタートアップは、複数の関連するプロダクトを開発し、それらを統合したソリューションを提供します。これにより、顧客は包括的なサービスを一元的に利用できるようになります。 - データ中心のアプローチ
部署横断的な「データ」を中心に体験を再構築することで、より効率的で価値の高いサービスを実現します。データの一元管理と活用が、コンパウンドスタートアップの強みとなっています。 - シナジー効果
プロダクト間の連携により、単体のプロダクトよりも高い価値を生み出します。これは、顧客にとってより魅力的な提案となり、競争力の源泉となります。
アンバンドリングとコンパウンドスタートアップの関係性
これら2つの戦略は、一見すると相反するように見えますが、実は市場の変化に対する異なるアプローチを示しています。
- アンバンドリングが市場の細分化に対応する戦略であるのに対し、コンパウンドスタートアップは細分化されたニーズを再統合する戦略です。
- イノベーションの方向性も異なります。アンバンドリングが既存の大規模ソリューションを分解するのに対し、コンパウンドスタートアップは新たな統合的アプローチを取ります。
- ビジネスモデルの進化という観点では、アンバンドリングがSaaS市場の初期段階で見られた戦略であるのに対し、コンパウンドスタートアップはその次の段階として登場しました。
バーティカルSaaSの進化
特定の業界に特化したバーティカルSaaSも、バンドリングとアンバンドリングの概念を取り入れて進化しています。
例えば、飲食業向けのSaaS企業Toastは、注文管理システムを中心に、決済、在庫管理、顧客管理など、飲食店に必要な様々な機能をバンドルして提供しています。これにより、単一のソリューションでは難しかった包括的なサービス提供を実現しています。
アンバンドリングがアプリのUXに与える影響
アンバンドリングの原理をアプリケーション設計に応用することで、UXが大きく改善されるという事実は非常に興味深いです。
- アプリの軽量化: 不要な機能を取り除き、必要最小限の機能に特化することで、アプリのデータ容量を削減し、起動や切り替えを高速化できます。
- シンプルなUI: 機能が単純化されると、UIもシンプルになり、直感的な操作が可能になります。
- カスタマイズ性の向上: ユーザーは必要な機能だけを選んで組み合わせることができ、個人の好みに合わせたUXを実現できます。
- 機能の専門特化: 個別の機能に特化したアプリは、その領域で高度なUXを提供できます。
- 継続的な改善: 機能ごとにアプリが分かれているため、個別にアップデートや改善が行いやすく、UXを継続的に向上させることができます。
アンバンドリングが競争力にどのように影響するか?
アンバンドリングが金融商品やサービスの競争力に与える影響は以下のようなものがあります。
- 新たな競争者の参入
アンバンドリングにより、従来金融機関が一括して提供していた機能が分解されると、その個別機能に特化した新規事業者が参入しやすくなります。例えば、決済、送金、資産運用など個別の金融機能を提供するFinTechベンチャーが増えています。これにより、既存金融機関は新規参入者との競争に直面することになります。 - 価格競争の激化
個別機能に特化した事業者は、その機能を低コストで提供できるため、価格競争力が高くなります。一方、従来型の金融機関は包括的なサービスを提供するため、コスト高となりがちです。このため、アンバンドリングされた個別サービスでは価格競争が激しくなる可能性があります。 - 差別化の必要性
個別機能が分解されると、その機能自体では差別化が難しくなります。そのため、金融機関は単に個別機能を提供するだけでなく、付加価値サービスを組み合わせる必要が出てきます。例えば、金融と非金融サービスを組み合わせること(リバンドリング)で、新たな価値を提供る必要があります。 - 顧客接点の維持
アンバンドリングが進むと、金融機関は顧客との接点を失うリスクがあります。顧客は個別の金融機能を別の事業者から調達できるようになるためです。そのため、金融機関は包括的なサービスを提供し続けることで、顧客との関係を維持する必要があります。
まとめ
アンバンドリングはもともと金融分野で用いられてきた概念ですが、その原理はITの世界においても大きな価値を持ちます。軽量でシンプル、かつ高度にカスタマイズ可能なアプリを通じて、より良いユーザーエクスペリエンスの実現を目指しています。
バンドリング、アンバンドリング、リバンドリングの戦略は、スタートアップ企業が市場で競争力を維持し、成長を加速させるための重要なツールとなっています。特にSaaS業界では、これらの戦略を巧みに活用することで、顧客ニーズに合わせた柔軟なサービス提供が可能になっています。
アンバンドリングとコンパウンドスタートアップは、SaaS業界の進化を反映する2つの重要な戦略です。市場の変化に応じて、企業はこれらの戦略を適切に選択し、顧客に最適な価値を提供することが求められています。
今後も、技術の進化や市場環境の変化に応じて、これらの戦略はさらに洗練されていくことでしょう。スタートアップ企業は、自社の強みを活かしつつ、これらの戦略を適切に組み合わせることで、持続的な成長を実現できる可能性があります。
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