スタートアップが成功するためには適切な資金調達と投資(資金の運用)が重要
スタートアップビジネスでは、他社よりもいかに早く多くの顧客を獲得できるかどうかが勝敗を分けます。ウーバーイーツや出前館などのフードデリバリー業界やPaypayなどQRコード決済などライバルが顧客獲得競争から脱落するまで、ひたすら投資競争が続くこともあります。
そうなると資金調達を実施し、赤字を続けていても最後に勝ち残った企業が大きなリターンを獲得する構図(Winner Takes All)となるケースもあります。
そうした中で、赤字を掘りながらも適切なタイミングで資金調達と投資を継続して行うことで、PMFを達成できるか、また利益をさらに伸ばしていけるかどうかが重要です。
スタートアップが知っておくべき投資リターンを適切に図る経営指標「ROIC(投下資本利益率)」とは?
そうした中でスタートアップが銀行やVCから調達したお金に対して、どれだけ効率的に利益をあげることができているかを測定するため、ROIC(読み方=ロイック)を活用します。ROICは投下資本に対して「どれだけ効率的に税引後営業利益を獲得しているか」を測る指標となります。ROIC(投下資本利益率)とは、Return on Invested Capitalの略称で、企業もしくは事業の「稼ぐ力」を評価する重要なKPI(経営指標)となります。
スタートアップ企業は、株主から預かった株主資本(自己資本)と銀行などから借り入れた他人資本を事業に投下して事業を行っています。株主資本に対する当期純利益の割合を示すのがROE(自己資本利益率)に対して、ROIC(投下資本利益率)は、他人資本である有利子負債も含む実質的な投下資本からどれだけ効率的に利益を稼いだかを計測します。
ROIC計算式
「ROE」と「ROA」と似た指標ですが、本業である営業利益に着目している点が、「当期純利益」に焦点を当てているROEとROAとは異なります。ある意味「雑音」を排除して、成長トレンドを見いだすために有効な指標であると言えます。
ROIC=税引き後営業利益 ÷ 投下資本 = 税引後営業利益 ÷(有利子負債+株主資本)
ROA
ROAは総資産利益率といい、「資産に対してどれだけ純利益が出たか」を調べることができる指標です。
ROA=当期純利益÷資産×100
ROE
ROEは自己資本利益率といい、「資本に対してどれだけの純利益が出たか」を調べることができる指標です。お金をどのように資金調達しているかは関係なく、「企業全体の資産を使ってどれだけ利益(リターン)を生み出せているか」という効率性を見ることができる指標となります。
ROE=当期純利益÷資本×100
ROA、ROE、ROICの違い
ROICでは「負債と株主が投資したお金を何倍にしたか」に着目しますが、ROEは「株主が投資したお金を何倍に増やしたか」、ROAでは「資産に対してどれだけ純利益が出たか」に注目しています。
ROICとは「売上高に対する利益」ではなく、「投資額に対する利益」を示すものとなっています。ROICは利益率と似て非なるものであり、ROIC向上には、利益率改善以外にも様々なアプローチがあります。
「ROIC(投下資本利益率)」の計算事例
ROICは、税引後営業利益を投下資本で割ることで求められる指標となります。事業活動のために投じた資金(投下資本)を使って、企業がどれだけ効率的に利益に結びつけているかを知ることができます。ROICの詳細を見る前に、アウトプットをインプットで割って求めることができる「利回り」を考えてみましょう。例えば500円で購入した株式が、1年後700円になったという場合、インプットは投資資金である500円です。生み出されたアウトプットは、700円と投資資金(500円)との差額200円となります。したがって、利回り=アウトプット/インプットで考えれば、利回りは71%(=500÷700)になるということができます。
「ROIC(投下資本利益率)」とWACCの関係性
WACC(ワック)とは、Weighted Average Cost of Capitalの略です。加重平均資本コストともいい、計算には借入にかかるコスト(負債コスト)と株式調達にかかるコスト(株主資本コスト)を利用します。それでは、WACCの計算式を見てみましょう。
(参照:GLOBIS知見録 資本コストの定義式: 意外なほど多くの経営者がそれを知らない)
負債には、法人税の節税効果があります。そのため法人税を考慮した場合の計算式となります。
株主資本コストを求める
また、E:株主資本コストを算出するために必要な考え方としてCAPMがあります。CAPMは、「Capital Asset Pricing Model」それぞれの頭文字のアルファベットをとったものです。
株主資本コスト=リスクフリーレート+β(ベータ)×マーケット・リスクプレミアム
リスクフリーレートとは、無リスクで運用可能な金融商品の利回りのことで、ここでは「日本国債(10年満期)の利回り」を利用することとします。
ROICツリーとは
ROICツリーはROICの特定要素を細かく分解し、ツリー状にしたものです。別名『バリュードライバー』と呼ばれ、投資家と言うよりは経営者が自社の経営改善のための分析するために作成されることが多いです。ROICは大きく「売上高営業利益率」と「投下資本回転率」の2つの要素から構成されており、ここを改善すればROICを高めることが可能です。一つの項目として売上高営業利益率を分解すると、「販管費」や「原価」に分けられ、販管費はさらに細分化すると、人件費、広告宣伝費などに分解でき、例えば企業が広告宣伝費を使いすぎていて経営を圧迫している、ということが判明すればこれがバリュードライバー(主要因)と特定できます。そしてコストカットすることで、販管費が改善しROICが高まることになります。原価であれば、外注費の見直しや材料費の見直しなど、改善項目によってツリーのつくり方が変わるため、企業ごとにROICツリーは違うものになることが多いです。
事例として、日本を代表する大手製造業、日立は2019年よりROIC経営を取り入れており、ホームページで公開されている『日立 統合報告書 2022(2022年3月期)』の47Pなどはわかりやすいです。
※日立製作所 IRサイト 「日立 統合報告書 2022(2022年3月期)」より引用
「ROIC(投下資本利益率)」のメリット・デメリット
ROICを指標として、企業分析する際のメリットとしては、ROAやROEと違い、分母が操作できない点がメリットです。また利益創出の効率性を正確に把握しやすいため、企業価値の上昇や会社の「稼ぐ力」の可視化に役立つなどがメリットです。
一方デメリットとしては使用できる業界や企業フェーズに限りがあります。例えば投下資本を使用せずに事業の拡大を目指すサービス業などは投下資本を使用しないためROICでの評価が適切ではありません。
「ROIC」のランキング
2022年調べにおける日本のROICの資本コストに対する超過(ROICスプレッド)ランキングは以下になっています。
まとめ
スタートアップは投資家やVCなどからの投資資本をもとに経営を行うことが多いのROICが意識されていることのメリットは(業種・業態にもよりますが)一定あるものと考えられます。ROIC経営はいきなりはじめようとしても、しっかりと経営者が知識を身に着け役員などに浸透をさせないと身につかないため、事前の情報収集を行うこと、またROICを高めるための戦略経営が重要となります。
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