M&Aの種類とは?~M&Aの手法(スキーム)を分かりやすく解説~
突然ですが、皆さんは「吸収合併」や「事業譲渡」といった言葉を耳にしたことはありますか?
これらは、複数あるM&Aスキームにおける名称の一部を表しています。M&Aとは、「Mergers&Acquisitions」の略で、直訳すると「合併と買収」という意味です。スキームとは、M&Aの当事者である買い手側が売り手側に、会社や事業の合併や売買等を行う際の手法とその一連の流れのことを指します。
近年の大型M&A事例としては、日立製作所が米IT企業のグローバルロジックを約1兆400億円で買収した案件や、パナソニックによるサプライチェーン・ソフトウエア企業の米ブルーヨンダーの子会社化などが挙げられます。ちなみに、両者では「株式取得」という手法が採られました。
参考:M&A Online
M&Aのスキームは多種多様であり、その分類方法にも複数のパターンが存在しています。
この記事ではその一例を紹介し、各分類項目について解説します。
M&A手法の全体像
M&A手法の全体像は、下記の図のとおりです。
資本提携
資本提携とは、一方の企業が他方の企業の株式を取得したり、相互に相手方の企業の株式を持ち合ったりすることで、独立性を保ちつつも関係性の強化を図ることです。
経営の振るわない企業にとっては、資本提携による資本金の増加が、企業の信用力の強化にもつながり、金融機関から融資が受けやすくなる可能性があります。
合併
合併とは、複数の会社を1つの法人格に統合させる手法です。
合併には「新設合併」と「吸収合併」があります。
新設合併
新設合併では、合併する当事者の会社がすべて消滅し、新たに会社を設立します。
再度の上場申請や新規株券の発行など、煩雑な手続きが多いことから実際には滅多に行われません。
吸収合併
吸収合併では、当事会社のうち1社のみが存続会社として残り、もう一方の当事会社は消滅します。
そして、合併により消滅する会社のすべての権利義務を、合併後存続する会社に承継させます。
買収
買収とは、ある企業が他企業における発行済株式の過半数以上や事業部門を買い取ることです。
買収には「株式取得」、「事業譲渡」、「会社分割」があります。
株式取得
株式取得とは、買い手企業が売り手企業の株式を取得する方法です。株式取得は、他のM&A手法よりも手続きなどが行いやすいことや、売り手側は取引の対価として現金を手に入れられることから、特に中小企業を中心として選択されることの多いスキームです。
株式取得には「株式譲渡」、「株式移転」、「株式交換」、「第三者割当増資」があります。
株式譲渡
株式譲渡とは、発行済み株式を譲渡して経営権を移動させる手法のことです。
株式譲渡は、株式取得の手法の中でも手続きなどが比較的容易であるため、M&Aの実行時に選ばれやすい手法であると言えます。
株式譲渡には「株式公開買付」、「市場内取引」、「相対取引」があります。
株式公開買付
株式公開買付とは、買い手企業が売り手企業の発行済株式を価格や買付期間、買付予定株数などを公表して、証券取引所を介さずに既存の株主から買付を行うことです。
株式公開買付は英語で「TOB」と呼ばれ、これは「Take Over Bid(テークオーバー・ビッド)」の略を指します。
TOBは、買い手企業が持つ売り手企業の株比率に応じて、対象企業の経営権を取得したり、子会社化したりすることを目的に実施されます。
また、「MBO」において非上場化を行う場合に、その手段としてTOBが利用されることがあります。
MBOとは、「Management Buyout(マネジメント・バイアウト)」を略した言葉です。
日本語では「経営陣買収」などと訳されます。
企業の経営陣が意思決定の迅速化や後継者への経営権移譲などを目的として、既存の株主から自社株式を取得し、オーナー経営者となる行為です。
市場内取引
市場内取引とは、上場企業株式を証券市場で買い付ける方法です。
市場内において会社の株式を買い進める手続き自体は簡単ですが、短期間で株式を買い集める場合、株価が急上昇し買収金額が高くなる可能性があります。
相対取引
相対取引とは、証券市場などを介さずに株主から直接株式を買い取る方法です。
英語では「Over The Counter(オーバー・ザ・カウンター)」と表記され、略して「OTC」と呼ぶ場合もあります。
非上場企業の株式においては、市場での売買がなされていないことから、相対取引で株式の譲渡が行われます。
株式移転
株式移転とは、既存の株式会社が複数あるいは単独で新しく完全親会社を設立し、各々の保有する株式をその親会社へすべて移転して、親会社の完全子会社となることにより、親会社が発行する株式の割り当てを受ける方法です。
企業再編や異なる企業同士の経営統合などにおいて利用されるスキームになります。
株式交換
株式交換とは、完全子会社となる売り手側の発行済株式のすべてを完全親会社となる買い手側に取得させる方法です。
買い手企業の親会社の株式を使用する三角株式交換という手法や、現金などを取引の対価とする場合もあります。
株式交換では、買い手側は買収の対価として新株発行を行うことで、買収の資金を別途用意する必要がないというメリットがあります。
第三者割当増資
第三者割当増資とは、売り手企業が新たに株式を発行し、買い手企業に引き受けてもらう手法のことです。
公開会社の場合、取締役会決議にて第三者割当株式の発行が可能なため、手続きは比較的容易ですが、既存株主が保有する株式が残ることから、議決権を100%獲得することはできません。
事業譲渡
事業譲渡とは、会社のある事業の一部または全部を第三者に売却する方法です。
売り手側にとって譲り渡したい事業だけを譲渡する「一部譲渡」と全ての事業を譲渡する「全部譲渡」があります。
事業譲渡では特定の事業だけを譲渡できるため、売り手側は会社の経営を存続することが可能です。
買い手側は、必要な資産及び負債のみ買収可能なため、簿外の債務を引き継ぐ危険性を回避できる利点があります。また純資産と譲渡価格の差額をのれんとして計上することから、のれん償却分の節税が行えます。
会社分割
会社分割とは、会社の事業の一部もしくはすべてを別の会社に継承することを指します。
会社分割には「新設分割」と「吸収分割」があります。
さらに、引き継ぐ権利義務の対価として承継会社が交付する財産を、分割会社が受け取る場合を「分社型分割」、分割会社の株主が受け取る場合を「分割型分割」と言います。
新設分割
新設分割とは、会社がある事業に関して有する権利義務の全部もしくは一部を分割によって新たに設立する法人に承継させる手法です。
事業の一部を切り出して子会社を設立したり、複数の企業から関連性の高い事業を取り出して一社に統合したりする際に活用されます。
吸収分割
吸収分割とは、会社がある事業に関して有する権利義務の全部もしくは一部を分割し、既存の他の法人に承継させることを指します。
特定の事業を他の会社に直接承継する場合に選択される手法です。
合弁会社設立
合弁会社の設立とは、複数の企業がお互いに出資をし、新たな会社を立ち上げて事業を行うことを指します。
また上記の過程を、ジョイント・ベンチャー(JV, joint venture)と呼ぶこともあります。
合弁会社は複数の会社が共同で出資を行い会社を設立することになるため、単独で出資をするよりも金額を抑えることが可能です。
資本参加
資本参加とは、他の会社の株式の取得や保有により、関係性の強化を図る手法です。
資本参加は協調関係にある取引企業に対し、株式取得により資金援助を実施することを指します。
相手企業の経営権自体を直接左右する持株数ではありませんが、相手企業の経営に対して一定の影響力を及ぼすことが可能になります。
業務提携
業務提携とは、資本の移動を伴わずに、企業が共同で事業を行うことを指します。
複数の企業が各々の経営資源を出しあって協力体制を築くことで、競争力の向上や事業の拡大を図ります。
業務提携には「販売提携」、「生産提携」、「技術提携」があります。
販売提携
販売提携とは、他社の有する販売資源(チャネルやヒューマンリソースなど)を活用して自社の製品を販売する方法です。
販売提携には「販売店契約」、「代理店契約」、「フランチャイズ契約」があります。
販売店契約
販売店契約とは、販売店が自己の名前と責任で、仕入れた商品を指定された範囲内で再販売し、在庫リスクを負担する契約のことです。
代理店契約
代理店契約とは、代理店がメーカーの代理として、商品の販売を行う契約のことです。
フランチャイズ契約
フランチャイズ契約とは、特定の商品やサービスの提供において独占的権利を有する親企業が、加盟店に対して、一定地域内での独占的な販売権を与える契約のことです。
生産提携
生産提携とは、製造設備を有している他社に、自社製品の製造の一部を委託し、製造能力を補完することを言います。
製品の製造過程において、利用されることの多い手法です。
生産提携には「ODM契約」、「OEM契約」があります。
ODM契約
ODM契約とは、受託者が開発および設計から生産まで行った製品を、委託者が自らのブランドで販売する形態を言います。先進国の大手企業が委託者となり、特定分野について高い技術力を持つ開発途上国の企業が受託者となるのがODM契約によく見られるパターンです。
OEM契約
OEM契約とは、委託者が提供する設計および生産方式や技術指導に基づいて、受託者が委託者の製品を生産する形態のことを言います。
技術提携
技術提携とは、他社の有する技術資源を自社の開発や製造に活用するための業務提携のことを指します。
技術提携には「ライセンス契約」、「共同技術開発契約」があります。
ライセンス契約
知的財産権の保有者が、その保有者から許諾を受けた人に対して、契約の条件下で自由に使用することを認める契約のことです。技術は持っているものの商品の開発力や販売力に乏しい企業が、収益を確保するために行われることが多い契約です。
共同技術開発契約
複数の当事者が、特定の技術や製品の研究開発を分業し、協力体制を築くために締結される契約のことです。
まとめ
いかがだったでしょうか?
M&Aには様々な手法が存在していますが、何よりもはじめにどのようなことを実現するためにM&Aを検討するのかを明確化することが大切です。
それを踏まえたうえで、自社や相手企業の置かれている状況などをしっかりと把握しながら、リスクを最小限におさえながらメリットを最大限に享受できるM&Aの最適な手法を選択しましょう。