インパクトM&A:持続可能な成長を目指す新時代のM&A戦略
インパクトM&Aとは?
インパクトM&A(Impact M&A)とは、企業の事業活動を通じて社会や環境に対してポジティブな変化(インパクト)を生み出すことを目的とした合併・買収のことです。この取り組みは、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献することを目指しています。
SDGsの目標達成
持続可能な開発目標SDGsとは
持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)とは,2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された,2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。SDGsは発展途上国のみならず,先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり,日本としても積極的に取り組んでいます。
環境分野への貢献
- 再生可能エネルギー関連企業の買収を通じて「環境に優しいエネルギー」(SDG 7)を推進します。
教育分野への貢献
- 教育事業の買収により「質の高い教育」(SDG 4)へのアクセスを提供します。
経済・雇用分野への貢献
- 中小企業の買収による「経済成長と雇用創出」(SDG 8)を促進します。
貧困撲滅への貢献
- 貧困層向け金融サービス企業の買収で「貧困撲滅」(SDG 1)に寄与します。
インパクトエコシステムの形成
近年、インパクトM&Aを含む幅広いインパクト投資の取り組みが、企業、NPO、政府機関などさまざまなセクターを横断する「インパクトエコシステム」として捉えられるようになりました。株式会社とNPO法人が協力し、複雑なビジネスモデルを構築することで、より大きな社会的インパクトを生み出す試みが広がっています。
休眠預金を財源とした新たな資金調達の可能性
また休眠預金の活用により、インパクトエクイティが注目される中、インパクトスタートアップの成長可能性が高まっています。これは、未使用の資金が社会課題解決型のスタートアップ企業やプロジェクトに流れることで、新たな事業機会が生まれ、インパクトスタートアップにとって有利な環境が整うためです。インパクトエコシステムのこの部分は、持続可能な発展と社会的課題の解決を目指す新しい波となっています。
株式会社とNPO法人の協働
- 株式会社の収益の一部をNPO法人に還流し、NPOの活動を支援する仕組みを確立する必要がありますs。
- NPO法人が生み出す社会的インパクトは、協力する株式会社のブランド価値を高め、結果として収益向上にもつながるようなお互いが相互互換的かつ持続可能なビジネスモデルを構築しながら社会的インパクトを最大化する「Win-Winの関係」が生まれています。
インパクトM&Aの特徴
社会的インパクトの重視
- 財務的リターンだけでなく、社会的インパクトも重要な評価基準としています。これには、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成度合いが重要な指標として用いられています。
長期的視野
- インパクトM&Aは持続可能な経営判断が求められるため、短期的な財務リターンだけでなく、10年先、20年先の社会的インパクトまでを見据える必要があります。
ESGへの配慮
- 環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)、つまりESGへの配慮が不可欠です。例えば、ある大手小売企業のM&A案件では、買収対象企業の環境方針や人権尊重への取り組みなどESG基準が厳しくチェックされました。
インパクトM&Aにおいて、持続可能な開発目標(SDGs)の達成度合いを評価するための主な指標は以下のようなものが挙げられます。
- 国連の持続可能な開発目標(SDGs)そのもの
SDGsの17の目標とその下位の169のターゲットが、インパクト評価の基本的な枠組みとなります。例えば、SDG7「環境に優しいエネルギー」の達成に向けた再生可能エネルギー関連企業の買収であれば、その事業がSDG7のターゲットにどの程度貢献しているかを評価します。 - IRIS+(Impact Reporting and Investment Standards)
GIINが策定したインパクト測定の標準的な指標セットです。
SDGsに沿った様々な分野の定量的な指標が用意されており、投資対象に合わせて適切な指標を選択することができます。 - SDGインパクト基準
国連開発計画(UNDP)が開発した、SDGsに資する投資を特定するためのツールです。
投資がSDGsにどの程度貢献しているかを5段階で評価します。 - 企業の非財務情報開示
投資先企業が開示するESG(環境・社会・ガバナンス)に関する非財務情報も、インパクト評価の重要な情報源となります。
このように、SDGsそのものやSDGsに基づく様々な指標セットが活用されていますが、社会的インパクトの定量化は依然として課題とされており、より標準化された評価手法の確立が求められています。
インパクトM&Aの具体例
環境分野
- 大手エネルギー企業が、再生可能エネルギー関連のスタートアップを買収し、2030年までに自社の発電量に占める再生可能エネルギーの割合を50%に引き上げる目標を設定しています。
福祉分野
- 大手医療機器メーカーが、介護ロボットのスタートアップを買収し、高齢化社会に対応した製品ラインアップの強化を図っています。
インパクトM&Aの課題と解決策
社会的インパクトの定量化
- 社会的インパクトを定量的に測定し評価することは非常に難しい課題です。この問題に対処するため、国際的な非営利団体が社会的インパクト測定の標準化に取り組んでいます。
短期的財務リターンとのバランス
- 長期的な社会的インパクトと短期的な財務リターンをどのようにバランスさせるかが課題です。インパクト投資の専門家は「長期的な視点に立ち、短期の業績にとらわれすぎないことが重要」と指摘しています。
成功の鍵
戦略的な計画の立案
- M&A実施前から、社会的インパクトの創出とビジネス面での成果の両立に向けた戦略を立てることが不可欠です。上場会社がM&Aを実施する場合、それによって減損リスクと天秤にかけて、株価にどれくらいのインパクトをもたらすのかを試算します。
ステークホルダーとのコミュニケーション
- 従業員、投資家、地域住民、取引先企業、NPO、政府機関など多様なステークホルダーとの対話を通じて理解と協力を深めることが重要です。
過去の成功事例から学ぶ
- 効果的なマネジメント手法やリスク管理の方策などを過去の事例から学び、自社のM&Aに活かします。
多様なExitプランが求められる
インパクト投資においては、多様なExitの選択肢が求められる理由として、以下の点が挙げられます。
- 投資の目的の多様性
インパクト投資の目的は、財務的リターンだけでなく、社会的・環境的インパクトの創出にもあります。このため、Exitの選択肢も単に財務的な観点だけでなく、インパクトの持続可能性や拡大可能性なども考慮する必要があります。 - 投資先の多様性
インパクト投資の対象は、ソーシャルベンチャーから上場企業まで多岐にわたります。投資先の事業段階やニーズに合わせて、適切なExitの選択肢を用意しておく必要があります。 - インパクトの最大化
単にキャピタルゲインを得るだけでなく、投資先の事業を通じてインパクトを最大化することがインパクト投資の目的です。そのため、事業の継続性や拡大可能性を考慮したExitが求められます。 - インパクト測定の難しさ
社会的インパクトを定量的に測定することは難しく、Exitのタイミングを判断する際の課題となっています。このため、多様なExitオプションを検討する必要があります。 - 資金の循環
インパクト投資では、回収した資金を新たな投資に回すことで、持続可能な資金の循環を生み出すことが重視されます。そのためにも、適切なExitの選択肢を確保しておく必要があります。
このように、インパクト投資においては、財務的リターンだけでなく、社会的インパクトの持続性や拡大可能性を考慮する必要があるため、多様なExitの選択肢が求められているのです。
インパクト加重会計とは
インパクト加重会計(Impact-Weighted Accounts)とは、企業の財務情報に社会的・環境的インパクトを組み込んだ新しい会計手法のことを指します。従来の会計基準では、企業の財務パフォーマンスのみが反映されていましたが、インパクト加重会計ではポジティブ・ネガティブの両面における社会・環境へのインパクトを金額換算し、財務情報に組み入れます。具体的には、以下のようなプロセスで行われます。
- インパクトの特定
企業活動から生じる社会・環境へのポジティブ・ネガティブのインパクトを特定します(例:雇用創出、CO2排出など)。 - インパクトの測定
特定したインパクトを定量的に測定します(例:新規雇用者数、CO2排出量など)。 - 金額換算
測定したインパクトを金額換算します(例:1人の雇用=○○ドル、1トンのCO2排出=△△ドル)。 - 財務情報への組み入れ
換算した金額を、従来の財務情報(損益計算書、貸借対照表など)に組み入れます。
インパクト加重会計により、企業の財務情報に社会・環境インパクトが反映されるため、投資家はより包括的な企業評価が可能になります。また、企業自身も社会・環境インパクトを内部化し、経営判断に活用できるようになります。ただし、インパクトの金額換算の難しさや、会計基準の標準化の課題など、実務面での課題も残されています。しかし、サステナビリティ経営の重要性が高まる中で、インパクト加重会計への注目は今後さらに高まっていくと考えられています。
まとめ
インパクトM&Aは、企業と社会の持続可能な発展を同時に実現する新しい合併・買収のアプローチとして注目を集めています。この取り組みは、適切な戦略と実行力、そして関係者間の協力体制があれば、大きな成果を上げられる可能性を秘めています。加えて、持続可能な開発目標(SDGs)の達成にも大きく貢献することが期待されています。
具体的には、再生可能エネルギー分野、教育分野、雇用創出、貧困撲滅など、様々な分野でインパクトM&Aが実施され、社会課題の解決に向けた動きが広がっています。近年では、インパクトM&Aを含む幅広いインパクト投資が、企業、NPO、政府機関などさまざまなセクターを横断する「インパクトエコシステム」として捉えられるようになり、株式会社とNPO法人の協働による新たなビジネスモデルの構築が試みられています。
このように、インパクトM&Aは企業と社会の持続可能な発展を同時に実現する新しいアプローチとして、大きな注目を集めています。しかしながら、以下のような課題も存在します。
- 社会的インパクトを定量的に測定・評価する手法の確立
- 長期的な社会的インパクトと短期的な財務リターンのバランス
このような課題に対処するため、国際機関や専門家らが社会的インパクト測定の標準化に取り組むなど、様々な試みが行われています。インパクトM&Aには一定の課題が残されていますが、適切な戦略と実行力、そして関係者間の協力体制があれば、企業と社会の持続可能な発展を同時に実現する大きな可能性を秘めているといえるでしょう。
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