
2022年1月より、改正電子帳簿保存法が施行されました。今回の法改正では、担当者の業務負担を大幅に軽減することを目的に、「電子取引」に関するデータ保存が義務化されました。
ただし、2021年12月10日に発表された与党の「令和4年度税制改正大綱」では、2023年12月末までに行われた電子取引については従来どおりプリントアウトでの保存を認めています。2年後の「電子取引」に関するデータ保存の義務化までに、小規模事業者や個人事業主の方がどのような準備をしておくべきか徹底解説します。
電子帳簿保存法の概要
電子帳簿保存法とは、帳簿(仕訳帳など)や取引書類(請求書、領収書など)の電子データによる保存を認めた法律です。各税法において帳簿や取引書類は、原則として7年~10年の保存が義務付けられていますが、電子帳簿保存法ではこれらを電子データで保存することができます。
▼電子帳簿保存法とは?(引用:国税庁「電子帳簿保存法が改正されました(令和3年12月改訂)」)
電子帳簿保存法の保存法上での区分は、①電子帳簿等保存、②スキャナ保存、③電子取引の3種類に分けられます。
保存区分 | 概要 |
① 電子帳簿等保存 | 電子的に作成した帳簿・書類をデータのまま保存 |
② スキャナ保存 | 紙で受領・作成した書類を画像データで保存 |
③ 電子取引 | 電子的に授受した取引情報をデータで保存 |
①電子帳簿等保存は、「電子的に作成した帳簿・書類をデータのまま保存」することです。具体的には、自分が会計ソフト等で電子的に作成した帳簿や国税関係書類(決算関係書類、取引関係書類)をデータのまま保存することです。
②スキャナ保存は、「紙で受領・作成した書類を画像データで保存」することです。具体的には、相手から受け取った取引関係書類(請求書や領収書)や、自分が作成した書類を相手に交付する書類の写しを、スキャン・読み取りしてデータで保存することです。スキャナ読み取り前の受領者によるサインは不要ですが、スキャナ保存時に電子データへのタイムスタンプが必要です。最長約2か月と概ね7営業日以内とされています。
③電子取引は、「電子的に授受した取引情報をデータで保存」することです。紙でやりとりしていた場合にはその紙を保存しなければならない内容をデータでやりとりした場合には「電子取引」に該当します。具体的には、下記のような場合です。
- 電子メールにより請求書や領収書などのデータを受領した場合。
- インターネットのホームページから請求書や領収書などのPDFファイルをダウンロードした場合。
- クラウドサービスを利用し、電子請求書や電子領収書を受領した場合。
- クレジットカードの利用明細のクラウドサービスにより、請求書や領収書などを受領した場合。
- EDIシステムの利用した場合。
- ペーパレスFAXで請求書や領収書などのPDFファイルを受領した場合。
2023年12月末までに行われた分はいままでどおり出力した紙で保存しても問題ありませんが、今後はオリジナルの電子データの状態で保存しておく必要があります。
▼電子帳簿保存の概要(引用:国税庁「はじめませんか、帳簿書類の電子化!(令和3年11月)」)
▼スキャナ保存の概要(引用:国税庁「はじめませんか、書類のスキャナ保存!(令和3年11月)」)
▼電子取引の概要(引用:国税庁「電子取引データの保存方法をご確認ください(令和3年12月改訂)」)
電子取引に関するデータの保存方法について
2022年1月から施行される改正電子帳簿保存法が大きな関心事となった理由のひとつは、「電子取引」に関するデータ保存の義務化が盛り込まれたからです。これについては、2023年12月末まで2年間に行われた電子取引については従来どおりプリントアウトして保存しておくことが認められています。これは、中小企業、とくに小規模企業・個人事業者の経理にとって、その準備期間が短く対応が難しいといった背景があったため認められたものです。
電子取引データを紙ではなく電子データで保存することは、「紙媒体資料の保存・保管コストの削減」「ペーパーレス化によるオペレーション改善」のメリットがあり、企業の生産性向上を図る上でも有益です。ただし、電子データで保存する際は要件が定められていますので注意が必要です。
▼電子保存を行うための要件(引用:国税庁「はじめませんか、帳簿書類の電子化!(令和3年11月)」)
保存時の要件は下記の通りです。
- システム概要に関する書類の備え付け
- 見読可能装置(データが確認できるディスプレイ・アプリ等)の備え付け
- 検索機能の確保
- データの真実性を担保する措置
「❶システム概要に関する書類(データ作成ソフトのマニュアル等)の備え付け」と、「❷見読可能装置の備え付け」は、税務職員のみならずその企業自身が電子データを確認するのに欠かせませんから、当然のことです。対応のポイントとなるのは、「❸検索機能の確保」と「❹データの真実性を担保する措置」になります。
「❸検索機能の確保」は、「取引年月日」「取引先」「取引金額」の3項目で検索できる状態にしておく必要があります。①専用ソフトで機能を備える方法、②保存するファイル名を「20220201_(株)expact_110000」のようにしてフォルダの検索機能が使えるようにしておく方法、③Excel等で索引簿を作成し、ファイルと関係づけて検索できるようにしておく方法でも可能です。
「❹データの真実性を担保する措置」については、下記A~Dのいずれかを行うことが求められます。
A)タイムスタンプが付されたデータを受け取る
B)データに速やかにタイムスタンプを押す
C)データの訂正・削除が記録される又は禁止されたシステムでデータを受け取って保存する
D)不当な訂正削除の防止に関する事務処理規程を整備・運用する
Aは取引先、Bは自社にタイムスタンプが付与できるシステム導入が必要です。Cについても、システム導入が必要なほか、データの保存だけではなくやりとりもそのシステム内で行う必要があります。Dについては、自社で電子データの取り扱いについての規程を、国税庁が公表しているサンプル等を活用して定めておく方法です。
なお、電子取引データの保存システムとして販売されているものの中には、データのやりとりはそのシステム外で(メール等で)行われる場合も少なくないことから、真実性の担保はDの事務処理規程で図っていることが多いようです。
保存要件 | 概要 | 対応方法例 |
❸検索機能の確保 | ・「取引年月日」
・「取引先」 ・「取引金額」 で検索できるようにする |
検索機能に対応した専用ソフトを使用する
保存するファイル名を「20220201_(株)expact_110000」のようにしてフォルダの検索機能が使えるようにしておく Excel等で索引簿を作成し、ファイルと関係づけて検索できるようにしておく |
❹真実性の担保 | 保存した電子データの真実性を担保できるようにする。 | A.タイムスタンプが付与された書類の受け取り
B.データに速やかにタイムスタンプを付与する C.データの訂正・削除が記録されるまたは禁止されたシステムでデータを受け取って保存する D.不当な訂正削除の防止に関する事務処理規程を整備・運用 |
小規模企業・個人事業者が行うべき対応策
ここからは、小規模企業・個人事業者が行うべき対応策について解説します。
電子帳簿等保存・スキャナ保存については、保存義務者の選択により紙で保存するかデータで保存するかを決められるため、すぐに対応する必要はありません。
一方、電子取引データ保存は、2024年1月から義務化されるので、対応していく必要があります。書類の数が多くなく、書類を扱う担当者が決まって、運用方法が徹底できる場合は、以下の方法が適しているのではないでしょうか。
「❸検索機能の確保」については、電子データのファイル名に日付・取引先・金額を付与するか、日付・取引先・金額と電子データを結びつける索引簿を作成します。
「❹真実性の担保」については、新システムを導入するにはコストがかかりますので、「不当な訂正削除の防止に関する事務処理規程」を整備・運用する方法が最も簡単です。事務処理規程のひな型については、国税庁のホームページからダウンロードすることができます。これを参考にしながら、自社のやり方(ファイル名の付与または索引簿の作成等)にあわせて規程を作成しておきます。
国税庁「電子帳簿保存法関係/参考資料(各種規程等のサンプル)」
また、電子帳簿保存法に対応したfreeeやMoneyForwardといった会計ソフト・クラウドサービスを導入するのも一つの方法です。また、銀行やクレジットカードのデータと連携しながら記帳・保存するシステムもあります。これらのサービスを導入することにより、経理業務の効率化も実現できます。
まとめ
2022年1月から予定されていた電子取引に関するデータ保存義務化は、2023年12月末までに行われた分は紙保存が認められています。しかし、2024年1月から対応する必要があるので、今の内から気を付けましょう。また、2023年10月からは「インボイス制度」も開始されるので、ぜひこちらの記事もチェックしておいてください。